鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

飛んでいるカイツブリ類を見分ける

2011-05-13 12:25:14 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
Photo
All Photos & Illustration by Chishima,J.
海上を飛ぶ5羽のアカエリカイツブリ 2011年5月 北海道十勝郡浦幌町)


日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより174号」(2011年4月発行)より転載 一部を加筆、修正、写真を追加)


 カイツブリ類は、とりわけ非繁殖期に海岸や船上から観察する時には、移動や渡りのため飛んでいる姿もよく見かけます。水面に浮いていてもハジロとミミのように識別に手を焼くカイツブリ類を、飛翔で見分けるなんて至難の業と思われるかもしれません。しかし、着目点を明確にすることによって水面より簡単に識別できる場合もあるのです。そんな方法を簡単に紹介します。
 海上を飛んでいるカイツブリ類を的確に識別するには、まずそれをカイツブリ類と認識することが必要です。実はこの過程をクリアしてしまえば、正解にかなり近付いたも同然です。カイツブリをのぞく4種は、次列風切をはじめ翼の上面に白色の部分が必ずあります。ここが他の海鳥との、またカイツブリ類内での識別に大きく役立ちます。グループを絞る段階で紛らわしいのは、ウミアイサやビロードキンクロ、ホオジロガモ等、翼上面に白色部のある海ガモ類です。これら海ガモ類は、特にウミアイサではシルエットも一見似ていますが、翼の拍動が速く、まさにカモ類のものです。また、冬羽のカイツブリは体下面が白色ですが、海ガモ類ではそうでないものが少なくありません。ただし、夏羽やそれへの換羽中のカイツブリ類は注意する必要があります。逆光や薄暮時には白色が目立たないので、こちらも注意が必要でしょう。そのような光条件下では、アカエリやカンムリのような大型種は、アビ類と誤認する可能性があります。翼の拍動の速さはアビ類とカイツブリ類では違いますから、普段から見慣れておくと良いでしょう。また、同条件下でハジロ、ミミの中型種は、中型ウミスズメ類と混同する恐れがあります。こちらも翼の拍動や大きさ、全体的なシルエットの違いを日頃から意識しておくことで違いがわかります。鳥の識別というと羽の色や模様等、細かい点を仔細に観察するイメージがあるかもしれませんが、こと海鳥では大きさや飛び方といった、その種が醸し出す雰囲気のようなもの(英語でjizzといいます)が重要な場合が多々あります。ただ、観察条件が悪く、翼上面等決定的な識別点が確認できない時には、あえて種やグループを特定しないことも、カイツブリ類に限らず大事です。
 次に種ごとの特徴をみてゆきましょう。

①カイツブリ
 科中では最小で翼開長は40~45cmと、ウミスズメ(40~43cm)とほぼ同サイズです。翼は短くて先端は丸みを帯び、拍動は大変速く、一生懸命な感じです。内側次列風切の先端が点状に白くなっていますが、よほどの至近距離でない限りわかりません。そのため、カイツブリ科では唯一、白色部のない翼上面に見えます。この点や大きさ、翼の拍動等から他のカイツブリ類と見誤ることはまずないと思います。むしろ、遠くを飛んでいて嘴や顔がよく見えない状態では、小~中型のウミスズメ類と混同する恐れがあるかもしれません。もっとも私は、海上を飛翔する本種をこれまでに観察したことはありません。北海道では夏鳥として渡来するものもいるので、海上も飛んでいるのは間違いないはずですが、どうやら夜渡っているらしいのです。川や沼では危険を感じた時も基本は潜って逃げますが、時折助走後に飛び立って短距離を飛ぶことがあります(写真も帯広川)。その際も独特の体型や飛び方で、他の水鳥と混同する可能性は低いでしょう。


カイツブリ(冬羽)の飛び立ち
2010年11月 北海道帯広市
川や湖沼で逃避のため低空を短距離飛ぶこと以外で、本種の飛翔を見る機会は非常に稀。
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②ハジロカイツブリ
 本種もカイツブリ同様、主に夜間に渡っていると思われ、海上を飛んでいる姿を見る機会は極端に少ないです。そのため、飛び方や見え方については言及できません。56~60cmと、コガモ(53~59cm)とほぼ同じ翼開長です。翼上面の後縁は、次列風切から初列風切の内側にかけて幅広い白色部があり、次列風切のみ白いミミカイツブリよりこの部分は広く見えます。この部分以外の翼上面に白色部はなく、基部の前縁に縦方向(体軸と平行)に白色部のあるミミカイツブリとは異なっています。ヨーロッパの図鑑によると、飛び方だけで本種とミミカイツブリを見分けるのは困難だが、本種は体の後半部がより重そうな印象を与えるとのことです。


ハジロカイツブリ(冬羽)の飛翔(イラスト)
写真ストックの中に本種の飛翔は無く、下手なイラストで御容赦願いたい。
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③ミミカイツブリ
 翼開長59~63cmでウトウ(63cm)とほぼ同大、ハジロカイツブリより僅かに大きいものの、野外では違いはわからないと思います。翼の拍動は速く、カモ類やウミスズメ類を彷彿とさせます。翼上面の白色部は、次列風切(ハジロでは初列内側まで及ぶ)と基部の前縁側にあります。後者は縦(体軸と平行)方向の細い白色部で、横(翼先端側)方向に著しく延びない点がアカエリやカンムリと異なります。冬羽では白黒のコントラストが強いので、後方など首が見えない角度からだとウミスズメ類等と混同する可能性があります。また、横から見ると首が長く、アカエリカイツブリを小さくしたようなシルエットをしているので、大きさや飛び方を総合して判断することが大切です。本種は飛翔中にしばしば頭を持ち上げて周囲を見渡し、時には足も高く上げて「胴体着陸」でもするようなコミカルな姿勢を示すそうです。まだ見たことありませんが、いつか出会ってみたいものです。


ミミカイツブリ(冬羽)の飛翔
2011年2月 北海道十勝郡浦幌町
警戒心が強いのか、海上に出ても遠くを飛ぶ姿しか見られない。ハジロカイツブリより白黒のコントラストがはっきりしているのも本種の特徴。
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ミミカイツブリの飛翔
2010年4月 北海道十勝郡浦幌町
顔から首にかけて黒みが強く、ハジロ的に見えるが翼上面のパターンはミミのものである。首の一部に白色部も見られることから、冬羽から夏羽への移行中か。
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④アカエリカイツブリ
 翼開長77~85cmで、ウミアイサ(69~82cm)、カワアイサ(78~94cm)とオーバーラップしています。ただし、翼の拍動がゆっくりで直線的なため、より大きく見えます。翼上面の白色部は、次列風切と基部付近の前縁にあります。後者は翼の先端側にもせり出して中央辺りまで及んでいる点が、ミミカイツブリと異なります。飛翔時に頭と首のラインがまっすぐに見える(ただし、垂れ下がらせることもできる)点がカンムリカイツブリとは異なり、体に対して頭と首が安定しているのがミミカイツブリ(しばしば頭部を動かす)と異なるそうですが、これら2種の飛翔観察経験が乏しい私にはよくわかりません。本種は、道東近海では飛んでいる姿を見る機会が最も多いカイツブリ類(ミミカイツブリは、数の割に飛翔を見ない)ですから、本種の大きさや飛び方、翼のパターン等を「ものさし」として身に付けておくと良いでしょう。


アカエリカイツブリ(夏羽)の飛翔
2010年4月 北海道厚岸郡浜中町
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アカエリカイツブリ(冬羽)の飛び立ち
2011年2月 北海道十勝郡浦幌町
翼上面のパターンにくわえて、黒色部多く、体下面もくすんで見えるのがカンムリの冬羽とは異なる。
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アカエリカイツブリ(夏羽)3羽の飛翔
2011年5月 北海道十勝郡浦幌町
先頭と後尾は首を下げて、真ん中の個体は首を上げて飛んでおり、シルエットは異なる印象を受ける。
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⑤カンムリカイツブリ
 翼開長85~90cmですから、カワアイサの大型個体と同じくらいでしょうか。ただし首が細長いため、より大型に見えます。飛び方は直線的で、浅く速い拍動を持ちます。首から先が長いため、体の前半部が長く見え、また高く飛翔する時はアビのように首から頭部を垂れ下げます。翼上面の白色部は次列風切と基部から雨覆にかけてあり、後者は縦(体軸と平行)方向にも横(体軸と垂直)方向にも大きく広がり、5種の中で白色部は最も広くなっています。この広い白色部と、冬羽では顔や体下面も白いので、全体的に非常に白っぽく見えます。


カンムリカイツブリ(冬羽)の飛翔
2006年3月 青森県八戸市
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 風、波の影響を受ける海岸や船上で、飛んでいる鳥の翼のパターンをしっかり見るのは、最初は難しいかもしれません。その時にはカメラが有用です。最近の一眼レフはオートフォーカス精度も優れていますから、シャッタースピードを上げてブレないよう気を付けながら撮影しておけば、後日判定できるかもしれません。本稿のミミカイツブリ写真は相当遠くを飛んでいたのを撮影し、著しくトリミングしたものです。画質は酷いものですが、翼上面のパターンはしっかり写り込んでいました。ただ、大きさや飛び方といったものは現場でしか体得できないので、こちらもおろそかにしないようにしましょう。
 翼のパターンに関する知識は、思わぬところで役に立つことがあります。その一例が漂着物の観察や調査です。海岸には海鳥の死体もよく漂着しますが、腐敗や他の鳥による捕食等によって羽毛が残っているのが翼だけ、あるいは翼しかないということもよくあります。そんな時に翼のパターンに関する知識が物を言います。これは海ガモ類やウミスズメ類についても当てはまります。


(2011年4月13日   千嶋 淳)



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