All Photos by Chishima,J.
(ノビタキのオス 2009年6月 北海道河西郡更別村)
(2011年4月4日釧路新聞掲載 「道東の鳥たち25 ノビタキ」より転載 写真を追加)
3月を過ぎると夏鳥が帰って来ます。中旬のアオサギ、下旬のヒバリに続き、4月にはモズ、ベニマシコ…と北の大地は日々賑やかさを増します。そして枯草色の風景の中にノビタキの「ヒーヒョロリー」という清涼なさえずりを聞くと、本格的な春と巡る季節の確かさを実感します。十勝の平野部では例年4月10日過ぎ、釧路や根室では数日から1週間程度遅れます。
ベニマシコ(オス)
2011年5月 北海道中川郡幕別町
スズメより少し小さな全長13cmのノビタキは、夏鳥として本州中部以北に渡来します。本州では高原の鳥ですが、北海道では海岸近くや平地にも普通で、原野や河川敷だけでなく、農耕地や住宅地内の空き地、森林の伐採跡、スキー場等開けた環境に幅広く生息します。数も多く、道東ではヒバリと並んで最も身近な草原の鳥です。
オスの夏羽は頭から背、翼にかけての黒、腹の白、胸の橙褐色が美しいコントラストを作ります。メスは全体的に茶色っぽく、翼の白斑が目立ちます。夏には雌雄でこれほど違った体色も、秋の羽の抜け変わり(換羽(かんう))でオスもメスと似た茶色っぽい冬羽へ変わります。翌春、オスは再び鮮やかな夏羽になりますが、この際換羽はしません。冬羽への換羽直後に、例えば頭の羽毛一枚一枚をよく見ると中央より根元は黒く、そこよりも先端側が茶色くなっています。月日が経つ内にこの茶色い部分が擦り減って失われ(磨耗(まもう))、黒い部分が現れて来るのです(白い部分も同様)。つまり、前年秋に換羽した時点で、翌春以降の夏羽を内側に纏っているわけです。換羽によらず羽色が変化する仕組みには、磨耗、羽毛内の色素の崩壊、羽毛表面への着色がありますが、ノビタキは磨耗により羽色が激変する好例です。
冬羽から夏羽へ移行中のノビタキ・オス
2008年5月 北海道十勝郡浦幌町
ノビタキ(メス)
2006年5月 北海道河西郡芽室町
渡って来てすぐに、オスは灌木の枝先や杭の上等目立つ場所でさえずってなわばりを作り、飛びながらもよくさえずります。早いものでは4月下旬から、草の根元や石の下等地上の窪みに巣を作り、2~7卵を産みます。緑濃くなる6月中旬にはヒナが巣立ち始め、無事ヒナを巣立たせたつがいの多くは、8月まで続く2回目の繁殖に入ります。シマアオジ等多くの草原性鳥類が減少する中、ノビタキはその兆しが見られない数少ない種です。農耕地や住宅地を含む多様な環境に適応できること、早い時期から複数回の繁殖を行うこと等が有利に働いているのかもしれませんが、よくわかっていません。
捕食者のタカ類やキツネ以外の天敵はカッコウです。他種の巣に卵を産んで子を育てさせる「托卵(たくらん)」で有名なカッコウの、道東での主要な托卵相手がノビタキです。托卵されると先に孵化したカッコウが卵を捨ててしまい、ノビタキはヒナを育てられません。カッコウの成鳥が子育て中の巣を襲い、6羽のヒナを殺してしまった例が報告されています。そこまでするのは稀かもしれませんが、カッコウを激しく威嚇するノビタキは5,6月によく観察されるので、日常的に托卵されているのでしょう。
カッコウ(幼鳥)
2006年9月 北海道帯広市
原野が色褪せる10月中旬までには南へ渡り、東南アジアや中国南部で越冬すると言われますが、日本のノビタキの具体的な越冬地は不明です。ノビタキのような身近な種に関しても、わかっていないことが鳥の世界には多くあります。
ノビタキ(第1回冬羽)
2007年9月 北海道中川郡幕別町
(2011年3月30日 千嶋 淳)
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