鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

オシドリ天国

2006-06-25 02:00:07 | カモ類
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All photos by Chishima,J.
オシドリ・オスの小群 2006年6月 北海道)

 6月の北海道と云えば、5月と並んで一年でもっとも爽やかな季節のはずである。澄んだ青空の下、どこまでも続く緑を纏った大地を一条の心地よい風が吹き抜けてゆく、そんな季節のはずである。ところが、今年は6月を迎えてからというもの、太陽がほとんど顔を出さず、曇りや雨の日が続いている。まるで内地の梅雨だ。こんな時に本州の人から「北海道は梅雨がなくていいですね」などと言われると、実に恨めしい気分になるものである。それでも、今日の午後は広がり始めた青空の、雲の隙間から地上を射た強い日差しが、緑の一段と色濃くなったことを教えてくれた。カラ類やノビタキの巣立ち雛も日増しに増えてきた。北国の短い盛夏は、目と鼻の先にあるらしい。
 話は変わって、今週出かけていた場所はオシドリの非常に多い場所である。北海道ではオシドリは、極東という世界的な分布域の狭さも相まってか、道レッドデータブックで希少種に指定されてはいるものの、普通に繁殖するカモ類であり数も少なくない。ただし、主要な生息環境は山地の湖沼や河川であり、今回の場所は完全に平野部の湖とその周辺である点が特筆に値する。くわえて、非繁殖期以外は分散している印象のある本種が、他のカモ類なみの密度でいることもこの場所の特徴といえる。


つがい(オシドリ
2006年6月 北海道
湖畔林の地面で雌雄が植物質のものを採餌していた。
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 数が多いので、それだけいろいろな状況で見られることになる。樹林に囲まれた小さな河川や水辺など、従来のイメージ通りの場所で出会うこともあれば、農耕地内の開けた水路や畑、水田など凡そ本種のイメージからはかけ離れた場所で見ることも少なくない。人造物や人工構造物などの上にいることもよくある。


水田にて(オシドリ
2006年6月 北海道
田植え後の瑞々しい水田にやってきたつがい。
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ボートの上で一休み(オシドリ
2006年6月 北海道
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護岸の客(オシドリアオサギ
2006年6月 北海道
ヨシの着生を促すブロック上で休息していた。
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 今回は孵化には少々早いのか雛連れを見ることはなく、雄の小群かそれに少数の雌の加わったもの、もしくは雌雄のペアが多かった。面白いのは雄の羽衣の多様性であった。それが顕著に現れるのは三列風切の1枚である銀杏羽で、綺麗に残っているもの、残ってはいるが褪色してみすぼらしいもの、完全に喪失しているものなどその状態は様々であった。こういったものは、繁殖の状況や栄養状態などに大きく左右されるのであろう。


6月のオス(オシドリ
2006年6月 北海道
下の2月の写真と見比べると、いかに色褪せているかわかるだろう。
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2月のオス(オシドリ
2006年2月 東京都渋谷区
繁殖を控えた、一年でもっとも美しい時期。
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オシドリのメス
2006年6月 北海道
一見地味だが、上品な配色だと思う。
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 7月に入ればそこかしこで親子が見られるようになり、農地内の水路なども自由に往来する。8月末から9月には、巣立った幼鳥も含む数十羽の群れで行動するのが観察されるが、10月までにはほぼ渡去する。
 この場所が平地にも関わらず、これほどまでの密度でオシドリが繁殖しているのは、おそらく本種の巣となる樹洞が豊富に存在するためだろう。周辺の丘陵地や低山は、かなりの面積がカラマツやトドマツの植林に替わっているが、湖畔やそれに隣接する斜面には自然林が多く残されている。ミズナラやヤチダモを主体とする明るい林で、大木も多ければ朽木も多い。そうした林が樹洞営巣性鳥類にとっての楽園であろうことは、ゴジュウカラやニュウナイスズメの多さ、また平地林にも関わらずオオアカゲラが繁殖していることからも想像できる。
 開拓の途上で失われてもおかしくなかったこのような林が今日まで残されてきて、そこに暮らす鳥たちと出会うことができた偶然に乾杯。そして、オシドリのような種にとっては、豊かな森と水域の両方があってこそ生きてゆけるのだと改めて強く思う。


ゴジュウカラ
2006年4月 北海道河西郡中札内村

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ニュウナイスズメ(オス)
2006年5月 北海道中川郡池田町
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「オシドリの湖」
2006年6月 北海道
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(2006年6月24日   千嶋 淳)


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