Photo by Chishima, J.
(シジュウカラガンの群れ 2015年11月 北海道十勝川下流域)
(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月10日放送)
多くの鳥が数を減らす中、奇跡とも言える復活を遂げつつあるのが、先週ご紹介したハクガンと、本日のシジュウカラガンです。黒い顔と白い頬が、庭や公園でも身近な小鳥のシジュウカラとよく似ていることからその名がある小型のガン類で、江戸時代には仙台付近でガンを狩ると10羽中、7、8羽を占めたというくらい普通の水鳥でした。
ところが、明治以降の乱獲にくわえ、繁殖地の千島列島を手に入れた日本が積極的に展開したキツネの放牧が減少に拍車をかけます。毛皮をとるため無人島に放たれたキツネは、本来天敵がいなくて無防備だったシジュウカラガンの巣を襲い、親鳥やヒナ、卵まで食べ尽くしました。そのため、戦後は数羽が渡来するまでに減ってしまいました。
絶滅を回避すべく、仙台市八木山動物園や日本雁を保護する会が飼育下で生まれた鳥を野外に放し始めたのが1980年代でしたが、越冬地である日本からの放鳥はなかなか功を奏しませんでした。ところがソ連崩壊後の1990年代、カムチャツカに繁殖施設が作られ、旧繁殖地の千島列島での放鳥が日露の共同プロジェクトとして始動すると、状況が一変します。
日本への飛来数は着実に増え、2014/15年の冬にはついに1000羽を超えました。1つの種が存続するのに最低限必要な個体数が1000とされますので、復活へのハードルを一つ、クリアしたことになります。主に宮城県で冬を越す彼らが秋と春に羽を休めるのが浦幌町をはじめとした十勝川下流域です。
シジュウカラガンやハクガンが復活の道を歩んでいることは、ともすれば悲観的になりがちな生物多様性の喪失に希望の光を与えてくれますが、経済性だけを優先した人間による自然界の利用や搾取が2種のガン類を絶滅の淵に追いやり、その復活に莫大な時間や手間、資金を要したことは忘れてはならない教訓です。
(2015年11月9日 千嶋 淳)
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