鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然95 フッキソウ

2016-12-05 10:09:05 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
フッキソウ 2015年11月 北海道十勝郡浦幌町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月23 日放送)


 まだ昼前というのに、谷間を低くから射る陽光が黄金色に染める一面のススキの穂は、まるで夕方のようです。山あいのわずかな平地に残る草原は、数十年前まで炭鉱とそこで働く人たちの生活が確かにここにあった名残り。不思議な感傷にとらわれながら山奥へ車を走らせていると、枯れ葉を敷き詰めた林の地上に緑色の絨毯のような一角がありました。高さ20cm程度の植物ですが、厚みのある葉は陽の光に照らされて、11月には似つかわしくない艶のある深い緑色をしています。フッキソウの群落です。

 フッキソウは一年を通じて緑色の葉を茂らせることから、繁栄のシンボルとして漢字で「富む」、「貴い」、「草」と書き、吉事、良き門出などの花言葉を持ちます。ところが、多くの図鑑にフッキソウは「ツゲ科の常緑小低木」と説明されています。地を這うような、「草」そのものの外見でありながら「木」とはこれいかに?草と木の区別は厳密なものではないのですが、一般に草は冬に地上部が枯れ、多年草でも地下茎として過ごします。また、木には樹皮の内側に形成層と呼ばれる組織があり、この部分が成長することで年輪になります。フッキソウは実を付けたまま地上で冬を越し、根に近い部分は木質化して年輪らしきものも認められることから「木」になるのです。

 熟すと白くて光沢のある果実にはアルカロイド系の毒が含まれるとされ、食用にはしませんが、アイヌは茎や葉を、婦人科系の病気の薬として煎じて飲みました。また、葉を煎じて便秘や胃痛の薬としたり、風邪の時にキハダの皮と一緒に鍋で煮立て、その湯気を吸い込んだりしたそうです。

 春先、雪の中からいち早く姿を現し、林床を緑に彩ったフッキソウは4月から5月に白っぽい花を咲かせますが、花びらを持たないそれは、エゾエンゴサク、キバナノアマナなどスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる鮮やかな春植物が咲き競う中ではあまり目立ちません。


(2015年11月22日   千嶋 淳)

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