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古い曲が気になる

笑福の焼きそば

2012-10-17 | 日記・エッセイ・コラム

 

 帯広の中心街に用があったので、例のごとく、西の町から徒歩でむかった。駅前まで1時間と少しかな。歩いているときが一番、思考の深度が深くなって、いい具合なのだ。つまり、歩行には、目的地に到達するという本来的機能もあるのだが、思索という副産物もまた、捨てがたい。

 そうして考えごとをしながら歩いていると、突然、目の前に、軽自動車が車道から歩道に乗りあげた。そして、なんと、わたしの進路をふさぐように駐車するじゃないか。

 なんて運転をしやがるんだ、「危ないじゃないか! 歩道をふさいで駐車しちゃだめだよ!」と、わたしは怒鳴った。

 

 すると、あろうことか、運転していたアンチャン(30すぎなのだろうが、わたしにはアンチャン)が、窓を開けて、「勝手だろ!」と叫んだのだ。

 

 勝手? 帯広のドライバーは、おもしろいことをいうね。この町には、道路交通法というものが通用しないわけ。勝手? 勝手? 勝手ね。

 

 わたしは、流浪の貧乏生活のなかで、長いあいだ、首都圏で道路工事とビル建設現場の警備員をやっていた。いわば交通誘導のプロだ。明治神宮前の、表参道のあの人混みの中で、コンクリートミキサー車を毎日数十台、人の流れと車の流れをとめて誘導するという、とんでもない激務を1年以上やったこともある。(わずか8,500円の日当で・・・・・・交通費は自腹だ! クソ)。

 神奈川や埼玉や千葉の現場にもよく行ったが、東京都心から離れるほど、ドライバーのモラルのレベルは落ちる(シュミットの文化伝播論のようだが)。わかりやすい顕著な例は、赤信号になっても通過する台数かな。それと、その地域の民度が、よくわかるのは、路上駐車の遵法性かな。

 

 東京23区は、歩道にスクーターも駐めれない。すぐに駐車違反の切符が張られる。わたしが住んでいた千葉県市川市も、隣の浦安市も、バイクを歩道にとめていると、すぐに警官か、交通巡視員が、お金の請求伝票を張っていく。

 歩道に乗りあげて駐車している車を注意すると、「勝手だろ!」と逆ギレするのは、帯広くらいじゃないかな、日本じゅうでは。普通は、「ごめんなさい」とか、「悪い、悪い」とか、「いますぐ、移動します」とか、謝るものだが・・・・・・

 そんなわけで、その逆ギレ”勝手だろ”アンチャンが、車からでてくるものだと期待したのだが、わたしと目が合ったとたん、視線をそらして、車を移動させた。

 

 わたしの、1ミリ丸刈り、顔じゅう傷あとだらけの、凶悪な面と、目をあわすと、『ジジイ、なにを言ってやがる』という元気が失せたのだろな。

 

 わたしは、この町に帰ってきて、よくわからない“勝手だろ”の、不快なことが多いので、もう、なるべく、外に出ない、人にかかわらないようにしている。きょうは、柏林台の交差点で、おばさんの軽自動車にはねられそうになった。この町では、真っ昼間の横断歩道も、青信号で渡るのさえ命がけだ。

 

 すこしまえのこと。コンビニで、ガラスケースを開けてミネラルウォーターを取ろうとすると、横から手がのびてきてジュースか何かのボトルをつかんだ。あろうことか、あとから入ってきた女が、わたしの後ろから手をのばしてきたんだ。信じられるかい。ガキの客じゃない、二十代半ばの女だ。

 普通、コンビニで、飲料水を買うとき、先の客が商品を選ぶのを待って、ガラスのドアが閉まって、そして、自分の番となるだろ。日本の常識だ。ところが、帯広は違う。不思議の町だ。

 2ヶ月も散髪してないような頭の、汚い制服の、ヤマダ電機の店員は、初対面のお客のわたしにタメ口で話す。信じられない、こういう野蛮な非常識に、毎日のように耐える。嫌な町だ。

 

 それでも、懐かしい店をみつけ、昔と変わらない、美味いものに出会える喜びがある。きょうは、笑福の、あんかけ焼きそばに感動した。

 

 夕方、5時すこし前、シャッターは開いていたが、まだ全部じゃない。「開店まえのようですが、いいですか?」というと、「どうぞ」というじゃないか。

 「あんかけ焼きそば、と、餃子を一人前、持ち帰りで」

 「餃子、おひとつは、折りで?」

 「いいや、餃子は、二人前にしようかな、します。2つを持ち帰りで」

 

 

 あんかけ焼きそばは、期待したとおりの味で感動した。この店は、むかし、帯劇という映画館の隣にあって、子供のとき、映画好きの父親に、映画をみたあとよく連れていってもらった。昭和30年代の半ば頃かな。以来、北海道で音楽の商売をしていたころも、帯広では、飲んだくれてたあと、この店の焼きそばをシメにしたものだ。

 

 はじめて、餃子を食べたのも、焼きそばを食べたのも、この、笑福だ。あの、先代のおかみさんが亡くなって、今年、17回忌だ、という。