Altered Notes

Something New.

ウェイン・ショーター逝去

2023-03-03 12:00:00 | 人物
2023年3月2日(米国時間)、ウェイン・ショーターが逝去した。
ジャズ界の、そして全ての音楽界に於いて偉大な人物であった。

ウェインを短い言葉で表すなら、「非凡」「天才」だろうか。真の天才、その一つの形がウェインという音楽家だった。

ジャズと言えば即興演奏(アドリブ)だが、ウェインはいつも「真のアドリブ」演奏を追求してきた。常にその一瞬、その瞬間にしか成立しない唯一の音を紡ぐことの出来る稀に見るミュージシャンだったのである。常にアドリブ・スピリッツをもって即興を追求した人だった。(*1)

その才能は演奏だけでなく作曲のセンスにも現れており、彼が創作する曲は「聴いたことがないタイプの旋律や和音であるにも関わらず、聴けばすっと心の中に入ってくるような作品」であり、まさしくオリジナリティーに溢れるものであった。類型的な曲は一つもない。正に非凡なセンスの輝きを見せていたのである。

筆者の個人的な思い出としては、1970年代後半~1980年代前半にウェザーリポートとV.S.O.P.クインテットで来日したときの演奏が忘れられない。生で聴いたウェインのアドリブ、そこで感じられた即興精神(アドリブ・スピリッツ)は凄まじいものだった。鮮烈な印象が残っている。

彼の最初の来日は1961年のアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの一員として、だったが、その時の演奏を聴いた日本現代音楽界の重鎮である武満徹氏がウェインの音楽性を絶賛していた事でもウェインの非凡さが判るだろう。後年、1987年に武満徹氏がプロデュースした音楽祭である TOKYO MUSIC JOY にウェインが単独で参加してバッハのインヴェンションなどを演奏(共演:R.ストルツマン(cl))したのも武満氏からの評価が高かったからに他ならないのである。

あの気難しいマイルス・デイビスと真の絆で結ばれ、マイルスから全幅の信頼を得ていたウェインは、一時期、マイルス・クインテットの音楽監督でもあった。ギタリストのカルロス・サンタナは「ウェイン・ショーターは音楽界のピカソだ」と断言していた。

振り返れば、ウェインが在籍したグループであるジャズ・メッセンジャーズ、マイルスのクインテット、ウェザー・リポート、V.S.O.Pクインテットと、いつもジャズ界を代表する先進的なグループである。そして、その中でウェインは前人未到な新しさと普遍性が同居する新鮮な音楽の創作に携わってきたのである。

高い音楽性だけではなく、人間性も素晴らしかった。ウェインが演奏するステージ脇には若いミュージシャンたちが集まって、その演奏をじっと聴いていたのだし、ステージが終わればウェインを囲んで、彼が語る言葉に意識を向けていたのである。真にクリエイティブなミュージシャンたちは皆ウェインから音楽や人生を学びたい姿勢を持っていたのだ。

これは遺作になるのだろうか…近年はエスペランサ・スポルディングとの共同作業でオペラ作品を作曲したウェイン。そのオペラ「Iphigenia」はアメリカでは舞台で披露されたようだが、日本でも見て聴いてみたいと願っている。

また、ウェインの作品群はシカゴ交響楽団、デトロイト交響楽団、リヨン交響楽団、ポーランド国立放送交響楽団、プラハ・フィルハーモニー、ロイヤル・コンセルトヘボウ等のオーケストラでも演奏されており、ロサンゼルス・フィルハーモニー、ナショナル交響楽団などからの委嘱も受けていたそうだ。そして、音楽賞といえば有名なグラミー賞も13回受賞している。2018年にはケネディセンター栄誉賞など多くの栄誉と賞賛を受けている。


改めてウェイン・ショーターに甚深の謝意を表したい。ウェインは全てに於いて真に「良い」と言える音楽家であった。


衷心よりウェイン・ショーター氏のご冥福をお祈り申し上げます。
合掌



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当ブログの参考記事:

『ウェイン・ショーター(Wayne Shorter) に思う』

『ウェイン・ショーターとウェザー・リポート』

『ウェイン・ショーター「ネイティブ・ダンサー」』

『クラリネットを演奏するウェイン・ショーター』



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<2023年3月4日:追記>
ウェイン・ショーターの逝去はアメリカの三大ネットワークでも報道された。

『Legendary jazz saxophonist Wayne Shorter dies at age 89』

日本のマスメディアではネット記事で少々報道されただけで、TVのニュースでは筆者が知る限りでは報道されていない。




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(*1)
ジャズ演奏家にも色々あって、ウェインのように真の即興精神を持つプレイヤーとは別に”既に知っている事しか演奏できない”人も居る。種々のフレーズや和音を引き出しの中に持ち、それを順繰りに引き出して演奏するプレイヤーはある程度整った形に演奏できて素人リスナーを”脅かして感激させる”ことはできるのだが、それは本物の即興ではなく、聴く人が聴けば判ってしまうのである。

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<2024年1月30日:追記>
日本のマスコミでウェイン・ショーター逝去とその偉大な功績をきちんと報じたメディアは皆無と言って過言ではない。アメリカでは、ウェインの逝去後に彼の偉大な音楽的功績を称えて数々のトリビュート・コンサートが開催され、遺作となったオペラは上演され、彼の足跡をたどるドキュメンタリー映画の制作までが行われて公開されている。アメリカには音楽文化があり、それに貢献した人を評価して称えるほど音楽文化が根付いている。一方で、日本ではウェインの逝去後にウェインの「ウ」の字も報じられない。日本の音楽マスコミ・芸能マスコミの無知・無教養と一般人の音楽文化の低さ(無さ)を示すものと言えるだろう。
ジャズ・サックス界の巨匠であるソニー・ロリンズは「ウェイン・ショーターの偉大な功績を人々は理解していない」とも言っている。前述したようなアメリカですらそうなのだから、ましてや日本においておや…であろう。









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