1978年頃だったと記憶しているが、今はなき東京は大田区の田園コロシアムでチック・コリアとハービー・ハンコックのピアノ・デュオコンサートを聴いた。多少悪ノリするほど二人はデュオを楽しんでいたのが印象的であった。もう一つ印象深かかったのが二人の個性の違いである。ハービーの方はブルージーな世界にルーツを置くような即興演奏であったのに対して、チックの方はブルース色は一切感じさせず、モダンで知的なフレージングが繰り出される即興演奏であり、対照的な色合いを見せていたのだった。
ちなみに下記はドイツ公演の模様である。↓
Herbie Hancock & Chick Corea - Frankfurt, Germany, 1978-02-18
そのチック・コリアが旅立った。正に「巨星墜つ」である。2021年2月9日に癌が原因で逝去されたとのこと。珍しいタイプの癌だったそうだ。
チック・コリアは真にクリエイティブな演奏家・作曲家と言えよう。手掛けた音楽のカテゴリーは非常に幅が広く、ビ・バップ、モダン・ジャズ、フリー・ジャズ、スイング等のオールド・スタイルのジャズ、フュージョン、ロック、ラテン、スペイン音楽、そしてクラシック、等々。1985年あたりにキース・ジャレットと一緒にモーツァルトを演奏していたのも思い出される。これも日本での演奏だった。とにかく音楽に対してオープンマインドで変なこだわりはなく、真摯に良いものを追求してきたのだった。生涯かけて一つのスタイルで音楽し続けるのも一つの生き方ではあるが、チックの場合は関心を持った音楽は全て豊かな実りとして提示する事ができたのではないだろうか。それらの全てが音楽的に普遍的価値を持つものばかりであるところが真に偉大なのである。
ここにいくつかの演奏がある。↓ 聴き比べてみていただきたい。全てチック・コリアの演奏である。
Chick Corea - Return To Forever - Vulcan Worlds
Return To Forever - Medieval Overture 1976
Chick Corea Trio - Matrix
Circle [Chick Corea] – Circle 2: Gathering
Chick Corea – Love Castle
Keith Jarrett & Chick Corea - Play MORZART #12
彼の幅の広い音楽性(の一端)を実感できると思うが、この5つだけでは全く不十分だ。
チック・コリアの名が一般に広く知られるようになったのはハービー・ハンコックに代わってマイルス・デイビスのバンドに参加してからではないだろうか。1960年代後半から1970年代前半にかけてはマイルスのバンドにはその後に名匠として名を馳せたピアニストが数人在籍している。前出のハービーもそうだし、チック・コリア、キース・ジャレット、ジョー・ザヴィヌルなどである。凄い時代だった。(*1)
マイルス・バンド時代のチック・コリアの演奏がこちら↓である。
Miles Davis - Live In Rome 1969 Wayne Shorter Chick Corea Etc
Miles Davis - Paris (1969)
こちらも外せない、1992年のブルーノート東京でのライブである。ヴィニー・カリウタのドラムがバンド全体を鼓舞して熱気溢れる演奏になった。1曲目の「ハンプティ・ダンプティ」が特に秀逸である。
Chick Corea Akoustic Band - Live From The Blue Note Tokyo 1992
ピアニストとしての評価もさることながら、作曲家としても偉大な仕事を残している。非常にメロディアスで美しい曲が多い。さながらモーツァルトのようにアイデアが次から次へと湧いてくる(降ってくる?)のであろう、聴いていて癒やされる感覚と美しい音楽を聴いた充実感を与えてくれる…そのような普遍妥当性のある曲を多く紡ぎ出した作曲家でもあった。
例えば下記の3曲などは非常に有名であり、もはやスタンダード・ナンバーと言って過言ではないだろう。
Chick Corea - Spain
Chick Corea And Return To Forever / 500 Miles High
Chick Corea - La Fiesta - with Stan Getz
名曲「スペイン」は後にチック・コリア自身が大きく編曲してアコースティック・トリオで演奏している。テーマ部ラストの仕掛け部分など(オリジナル比で)非常に斬新で難しい形に編曲されており、当時非常に喫驚したものだ。そして何より美しい。チック・コリアのスパニッシュに馳せる思いはとても深く愛情に満ちており、それが音に音楽に如実に反映されているのだ。
Chick Corea - Akoustik Band - Spain
日本人の素晴らしいジャズピアニストである上原ひろみがチック・コリアに見いだされた話は有名である。16歳の上原ひろみが浜松の音楽スタジオで演奏していた時に偶然チック・コリアが来て彼女の演奏を少し聴いてその才能を見抜いたのだ。チックは自分のコンサートに彼女を招いてステージで一緒に演奏したのだった。本物は本物を見抜くのである。
チック・コリアの訃報を報じたFacebookにはチック自身のメッセージも紹介されている。その内容は下記の通り。
「僕の旅において音楽の火を明るく燃やし続ける助けをしてくれた人々みんなに感謝したい。演奏、作曲、パフォーマンスなどを多少なりとも齧っている人はそれを続けて欲しいというのが僕の願いだ。自分のためだけでなく、僕ら全員のためになる。この世界がもっとアーティストを必要としているだけでなく、それはとても楽しいことだから」
究極的に美しい音楽を紡ぎ出し、モダンで知的かつスリリングなインプロヴィゼイションでリスナーに音楽の楽しさを与えてくれたチック・コリア。また、その大きく深い人間性は多くの人を魅了し惹きつけた。真に巨匠と言える音楽家であった。音楽界はとても大きな存在を失ったのだ。彼に深く感謝すると共に「どうか安らかに」という祈りを捧げたい。
Rest In Peace Mr.Chick Corea.
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(*1)
少し時代は遡るがビル・エヴァンスもそうである。
ちなみに下記はドイツ公演の模様である。↓
Herbie Hancock & Chick Corea - Frankfurt, Germany, 1978-02-18
そのチック・コリアが旅立った。正に「巨星墜つ」である。2021年2月9日に癌が原因で逝去されたとのこと。珍しいタイプの癌だったそうだ。
チック・コリアは真にクリエイティブな演奏家・作曲家と言えよう。手掛けた音楽のカテゴリーは非常に幅が広く、ビ・バップ、モダン・ジャズ、フリー・ジャズ、スイング等のオールド・スタイルのジャズ、フュージョン、ロック、ラテン、スペイン音楽、そしてクラシック、等々。1985年あたりにキース・ジャレットと一緒にモーツァルトを演奏していたのも思い出される。これも日本での演奏だった。とにかく音楽に対してオープンマインドで変なこだわりはなく、真摯に良いものを追求してきたのだった。生涯かけて一つのスタイルで音楽し続けるのも一つの生き方ではあるが、チックの場合は関心を持った音楽は全て豊かな実りとして提示する事ができたのではないだろうか。それらの全てが音楽的に普遍的価値を持つものばかりであるところが真に偉大なのである。
ここにいくつかの演奏がある。↓ 聴き比べてみていただきたい。全てチック・コリアの演奏である。
Chick Corea - Return To Forever - Vulcan Worlds
Return To Forever - Medieval Overture 1976
Chick Corea Trio - Matrix
Circle [Chick Corea] – Circle 2: Gathering
Chick Corea – Love Castle
Keith Jarrett & Chick Corea - Play MORZART #12
彼の幅の広い音楽性(の一端)を実感できると思うが、この5つだけでは全く不十分だ。
チック・コリアの名が一般に広く知られるようになったのはハービー・ハンコックに代わってマイルス・デイビスのバンドに参加してからではないだろうか。1960年代後半から1970年代前半にかけてはマイルスのバンドにはその後に名匠として名を馳せたピアニストが数人在籍している。前出のハービーもそうだし、チック・コリア、キース・ジャレット、ジョー・ザヴィヌルなどである。凄い時代だった。(*1)
マイルス・バンド時代のチック・コリアの演奏がこちら↓である。
Miles Davis - Live In Rome 1969 Wayne Shorter Chick Corea Etc
Miles Davis - Paris (1969)
こちらも外せない、1992年のブルーノート東京でのライブである。ヴィニー・カリウタのドラムがバンド全体を鼓舞して熱気溢れる演奏になった。1曲目の「ハンプティ・ダンプティ」が特に秀逸である。
Chick Corea Akoustic Band - Live From The Blue Note Tokyo 1992
ピアニストとしての評価もさることながら、作曲家としても偉大な仕事を残している。非常にメロディアスで美しい曲が多い。さながらモーツァルトのようにアイデアが次から次へと湧いてくる(降ってくる?)のであろう、聴いていて癒やされる感覚と美しい音楽を聴いた充実感を与えてくれる…そのような普遍妥当性のある曲を多く紡ぎ出した作曲家でもあった。
例えば下記の3曲などは非常に有名であり、もはやスタンダード・ナンバーと言って過言ではないだろう。
Chick Corea - Spain
Chick Corea And Return To Forever / 500 Miles High
Chick Corea - La Fiesta - with Stan Getz
名曲「スペイン」は後にチック・コリア自身が大きく編曲してアコースティック・トリオで演奏している。テーマ部ラストの仕掛け部分など(オリジナル比で)非常に斬新で難しい形に編曲されており、当時非常に喫驚したものだ。そして何より美しい。チック・コリアのスパニッシュに馳せる思いはとても深く愛情に満ちており、それが音に音楽に如実に反映されているのだ。
Chick Corea - Akoustik Band - Spain
日本人の素晴らしいジャズピアニストである上原ひろみがチック・コリアに見いだされた話は有名である。16歳の上原ひろみが浜松の音楽スタジオで演奏していた時に偶然チック・コリアが来て彼女の演奏を少し聴いてその才能を見抜いたのだ。チックは自分のコンサートに彼女を招いてステージで一緒に演奏したのだった。本物は本物を見抜くのである。
チック・コリアの訃報を報じたFacebookにはチック自身のメッセージも紹介されている。その内容は下記の通り。
「僕の旅において音楽の火を明るく燃やし続ける助けをしてくれた人々みんなに感謝したい。演奏、作曲、パフォーマンスなどを多少なりとも齧っている人はそれを続けて欲しいというのが僕の願いだ。自分のためだけでなく、僕ら全員のためになる。この世界がもっとアーティストを必要としているだけでなく、それはとても楽しいことだから」
究極的に美しい音楽を紡ぎ出し、モダンで知的かつスリリングなインプロヴィゼイションでリスナーに音楽の楽しさを与えてくれたチック・コリア。また、その大きく深い人間性は多くの人を魅了し惹きつけた。真に巨匠と言える音楽家であった。音楽界はとても大きな存在を失ったのだ。彼に深く感謝すると共に「どうか安らかに」という祈りを捧げたい。
Rest In Peace Mr.Chick Corea.
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(*1)
少し時代は遡るがビル・エヴァンスもそうである。