Altered Notes

Something New.

マスコミが気が付かないプーチンの失言

2022-05-13 04:10:00 | 国際
5月9日はロシアの戦勝記念日であり、プーチン大統領の演説があった。事前の予想ではそこで「戦争宣言」をするのではないか、とも言われていたが実際にはそれはなかった。演説内容は概ね今までの行動を正当化するだけであり、平易に言えばショボいものであった。今回はこのプーチン演説について数量政策学者の高橋洋一氏の解説を基調に記してゆく。

さて、今回の演説に於いてプーチン大統領は一つ大きなミスを犯していたのである。それも非常に大きなミスである。

それは何か?

ロシアがウクライナを攻撃した話をプーチン大統領は
「先制的に攻撃した」
と言ってしまったのだ。
実はプーチン大統領の立場ではこれを言ってはいけなかったのである。

なぜか?

国際法というものがあり、国際法の中では「先制攻撃は違反」となっているのだ。認められているのは先制攻撃を受けた後の「自衛権の行使」であり、これがロジックなのである。但し、相手国が「先制攻撃に着手していた」場合はそれを「先制攻撃」とみなして攻撃することはできる…ことになっている。

国際法で「先制攻撃は違反」となっているにも関わらず、プーチン大統領は「先制的に攻撃した」と述べた。その理由としてウクライナは側に「色々な軍事顧問が来ていた」だとか「武器が来ていた」などと宣うのだが、この程度では「先制攻撃の着手」にはならないのである。

「先制攻撃の着手」とは具体的にどのようなことか?

「先制攻撃の着手」とみなせるのは、例えば「戦闘機が今にも発進する」とか「大砲に弾が込められた」などのアクションがあった場合だけである。平易に言えば「ピストルの引き金に手をかけた」状態になれば、それは「先制攻撃の着手」とみなすことが可能だ。もちろんウクライナはロシアに先制攻撃する気などさらさら無い。ロシアに依る侵略に注意し警戒していただけである。

ここを考慮すると、今後プーチン大統領は極めて分が悪い事になる。今回の演説では総合的にしょぼい内容だったが、それに加えて余計なことまで喋ってしまった、というのが本当のところなのだ。

プーチン大統領としては「12月に色々な提案をしたが思惑通りにいかなかった」のであり、逆に「NATO(北大西洋条約機構)がロシアに攻め入る一歩手前だった」と苦しい言い訳をしていた。そもそもNATOがロシアに攻め込む理由など無いのだが、百歩譲って「攻め込む一歩手前の状態」だったとすれば、それは誰が証明するべきなのだろうか?

「挙証責任がある人」「自衛権行使した人」である。つまりロシア自身、ということだ。

だが、これをロシアが立証するのは非常に困難であろう。ウクライナに軍事顧問が居ることや武器が供与されているのは「先制攻撃の着手ではない」からである。上述の「ロシアに依る先制攻撃が可能な条件は満たしていない」のだ。

そして、プーチン大統領自ら「ロシアが先制攻撃した」と明言してしまったことで、国際的な立場をこれ以上ないほど悪くしてしまったのだが、恐らく演説をするにあたって、ロシアの状況が非常に苦しくて高らかに謳い上げる文言が見当たらなかったのであのような言い方になってしまったのではないか、という推測ができるのである。


日本人の一般的な常識で考えると、プーチン大統領が言う「攻められるかもしれないのでこっちから攻めました」は納得出来る話かもしれない。しかし国際法では明確に違反であり駄目なのである。先述のように相手が「ピストルの引き金に手をかけた」状態にまでいってないと成立しない条件なのだ。

また、マスコミ等でプーチン大統領の演説で「戦争宣言」が為される、と予想していた人々が根拠にしていたのは、イギリスの政府機関がそうした予想を出していたからである。TVのコメンテーターなどは基本的に皆同じで、海外のどこかの諜報機関が出す種々の情報を根拠にしているのであり、それだけなのだ。
さらに、イギリスの政府機関がそのような情報を出したのも一種の情報戦の一環で出したのか、それとも本当にそのような兆候があったのかは不明である。

最終的にロシア・プーチン大統領は「戦争宣言」をしなかったが、これは裏を返すと「ロシアはNATOと戦いたくない」という意志の表れでもある。ロシアの兵器はNATOの最新兵器には敵わないのが実情だ。

そうなると、ロシアに残された道は「核兵器(戦術核)」を使用するか、「プーチン大統領が病気等の理由で退いて戦争自体がフェードアウトしてゆく」か、そのどちらかとなるだろう。プーチン大統領が精神的な問題を抱えているとすれば、あるいは核の使用もあり得るかもしれない。ここが非常に憂慮されるところである。