9月11日 (金)
定年退職後伊豆高原に住んで25年、私は高齢者にとってここほど暮らしやすいところはないと思っている。
退職前には東京をはじめとし福岡、仙台のほか、いくつかの地方都市に住んだことがあり、仕事の関係では南は沖縄から北海道まで出かける機会があったが、退職後に是非とも住みたいと思ったところには特になかったように思う。
当地を永住の地に選択したのも、あれこれ居住条件を考えた上で選択したわけではなく、まったく偶然のしからしめるところ、ちょっとした縁からなんとなく暮らしやすそうなところという程度のものだったのだが……。
私は所謂「オメデタ人間」であることを自認しており、なにごともいい方に解釈したがる現状肯定的な性格だから、それがただちに伊豆高原の客観的評価につながるとは言えないだろうが、これまで長年伊豆高原に住んできた経験を通していうなら、ここほど高齢者が住むのに適している土地はそうざらにはないだろうと思う。
ここでの毎日の生活は平凡ではあるが、高齢者の生活としてはおおいに満足できるものだと思っている。
海あり、島あり、山ありの展望に恵まれ、家をとりまく四囲は緑に溢れ、鳥や虫の鳴き声を聞くほかは騒音のない静けさ、夏は涼しく冬は暖かいという高齢者にとってはもってこいの穏やかな気温、それに家に引き込む温泉まである。
(もっとも、最近の地球規模の気候変動によってか快適な気温は以前ほどではなくなってきつつあるようで、雨や風の勢いも以前より激しさを増してきているのは残念。)
また、近年になって日本各地を襲うようになった激甚災害に見舞われることなく、たまに訪れる台風で多少の被害がなくはないが深刻な事態になったことはこれまで経験したことはない。伊豆半島は地震頻発地域だが、当地は溶岩台地の上にあり地下数十メートルの強固な岩盤に守られているので、少々の地震があっても感じる震度は極めて小さく不安を感じることなど全くなかった。
自然的環境は全く申し分ない。しかし人為的環境の方の方については問題がないわけではない。
ここに住みついた今から25年前は確かに不便であった。生活の便宜を提供するスーパーやお店の数は少なく、当地の難点は急坂の多いことで、歩いていくのは大変、自転車も使えないので自家用車に頼るしかなかった。
バス・私鉄など公共交通機関はあるにはあるが、時間などの制約もあって使い辛く、「高齢者が当地に住む上での条件は足腰が丈夫であることと車の運転ができること」とも言われるように今も車は欠かせない。
しかし、開発が進んだ現在にあっては近くに生活の便宜を提供する医療機関やスーパー・量販店などがどんどんできており、そうした面では格段に便利になってきている。
当地の開発当初「無医村」などと揶揄されたと言うが、高齢者の生活に欠かすことができないとされる医療機関は近くにいくつかあり、入院可の大規模な病院はないもの医療体制で特に問題視されるようなことはない。
(私達夫婦はこれまで高齢者としては比較的元気に過ごしてきたので医療機関との縁は薄かった。少なくとも現状では……。)
かつて前期高齢者だったころは、簡単にアクセスできるところに図書館・劇場・コンサートホール・デパートなど文化的施設があることを望んだものだったが、後期高齢者ともなると、もうその必要性はほとんど感じなくなっている。
元職場の同僚や後輩が退職後、地方に移住して地域の人間関係に苦労するといった話をよく聞くが、少なくとも私の限られた範囲での人間関係についていえば、ここで知り合った人たちはいずれもいい人・優れた人ばかりである。これは他の土地からの転入者だけでなく、日頃生活する上でお世話になる地元の業者や職人さん達、お店の人もそうで、おおむね人あたりがよく感じがよろしい。穏やかさでしられる静岡県人、あるいは伊豆半島人に共通する性格のゆえか。いずれにせよ、住む上で必要とされる人間関係はとてもいい土地柄である。
人にはそれぞれ好む事、望むことには違いがあり、高齢者が暮らしやすい土地を一概に選び出すことはできないが、私の独断と偏見でいわせてもらえば、伊豆高原ほど定年退職後に暮らしやすいところはほかにないのではと思っている。
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そんな思いのところ、一昨日だったか日経ニュースで「高齢者が暮らしやすい国として日本が世界で8位」という数行の短い記事が目に付いた。
「高齢者の暮らしやすい土地」というのにおおいに関心をそそられ、早速インターネットを使ってこの記事のもとになった情報を調べてみた。
この記事の情報源は、世界の高齢者の生活環境を調査している国際団体「ヘルプエイジ・インターナショナル(本部ロンドン)」が世界の96ヶ国について高齢者の「所得保障」、「健康ステータス」、「能力」、「有効化社会・環境」を数値化し分析して2015年版として暮らしやすさをランキングしたものにあった。
そのランキング表は次のようなもの。
世界のトップはスイス。8位の日本より上位を占める国はドイツとカナダを除けば人口の少ない小国である。
獲得ポイント(満点100)を掲げると、スイスのポイントは90.1、ドイツは84.6、カナダは84.0、そして日本は80.8、アメリカ79.3である。
ちなみに最下位となるアフガニスタンがなんと僅か3.6、次いでマラウイ4.1、モザンビーク4.5.が続く。
隣国である韓国は低い。60位で44.0(韓国の自殺率は世界トップクラス、特に高齢者の自殺率がとても高い。)、中国は48.7。
このランキングは「所得保障」「健康ステイタス」「能力・性能」「有効化社会・環境」の各領域におけるポイントを総計したもの。
それぞれの領域は次のものを数量化している。
「所得保障」はその国の年金、高齢者貧困率、福祉措置、一人あたりのGNIを
「健康ステイタス」は60歳時の平均余命、60歳時の健康寿命、相対的な精神的・心理的健康を
「能力・性能」は高齢者の雇用、学歴を
「有効化社会・環境」は、社会的なつながり、物理的な安全、市民的自由、公共交通機関へのアクセスを
それぞれ数値化して比較している。
日本の各領域での順位は次のとおり。
順位はいずれも高いが、特筆すべきは日本の「健康ステイタス」が世界のトップに位置していること。
同団体は「日本は世界の中で最も健康的な国」だと評価している。
我々日本の高齢者はこのように世界で有数の「暮らしやすい国]に住ませてもらっていることを改めて知り、なかでも自分なりに日本で最も暮らしやすい土地にいることに感謝した次第。
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なお、ついでながらごく最近になって知った世界の「健康寿命」のランキングと日本の各県別の健康寿命上位県・下位県も掲げておく。