田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

シオサイツルギアブ覚書

2011-01-04 | ハエ目(双翅目)

シオサイツルギアブ雌 Acrosathe sp. 2009.7.10 津市豊津海岸

伊勢湾に面した三重県の砂浜海岸には,日本産ツルギアブ科(9属14種類)の内,これまでわずか2種類(ナギサツルギアブとヨシコツルギアブ)のAcrosathe属が記録されているだけであった。

2010年11月に双翅目談話会から発行された『はなあぶ』№30-1に,「日本産Acrosathe属(ツルギアブ科)の新知見」が大石久志・篠木善重・別府隆守により発表された。
そこには,「本州四国の太平洋沿岸で,これまで日本から記録のない種シオサイツルギアブ[新称,恐らく未記載種]Acrosathe sp.が発見されたので,今だ未解明の点も多いがここで報告する。」とあり,日本産Acrosathe属は5種類となった。三重県内ではハマツルギアブとシオサイツルギアブの2種類が同じ海岸で同じ日に見つかっているという。この2種類が記録されて,三重県産のAcrosathe属は4種類となった。ハマツルギアブについては山口県に次ぐ2番目の産地となった。シオサイツルギアブは高知,三重,愛知の3県で記録されている。

新称のシオサイツルギアブは第一著者である大石氏が名付けたものである。三重県の人間は「シオサイ」と聞くと,三島由紀夫の小説『潮騒』とその舞台となった神島を思い浮かべる。昨秋,私は神島へ渡り,淡い期待を持ってシオサイツルギアブを探したが,残念ながら見つけられなかった。砂浜が無いから,見つかりようが無い。

上の写真はシオサイツルギアブの♀がヤブガラシに訪花しているところである。このときには吸蜜している証拠写真は撮れなかったが,昨年証拠写真に収めた。ツルギアブの訪花性についてはこれまで知られていなかったが,おそらくツルギアブの多くの種で,成虫の活動を維持するために糖の摂取が行われている可能性がある。(大石ほか,2010)

口器の解剖図も示されていて,「ムシヒキアブの様に他の節足動物の体液を吸うようなことは不可能であると推測される。しかし構造は全体として特別退化的ではなく、下咽頭には依然として唾液腺が開口していることや、上咽頭にも特徴的な構造が認められ、かつこの両者が密接して管状の構造をなしている点に加えて、訪花の観察例も見出され、捕食性ではないが少なくともこの属の口器は吸汁に適応していることがわかる。」という。

シオサイツルギアブの外見的な特徴については,「1)前額の毛束が4本以上であることと,2)胸背楯板の毛が黒色の立毛と横臥する白色毛から構成されることにおいて特徴づけられる。しかし,この時点で,既にハマツルギアブと区別することが困難である。(中略)さらにこの種は前額の形質に個体変異が著しく、この場合はタシマツルギアブとも区別できなくなる。したがって♂では、これ以外の種とはかろうじて区別可能であるが、♀ではナギサツルギアブを加えて、決定的な判別が不可能で、それは今後の検討課題となる。
 しかし♂外部生殖器に関しては、他種との差異は明瞭である。」としている。

また,大石ほか(2010)によると,永冨ほか(2000)ではツルギアブを一律に年1化と規定しているものの,三井(2001によりショウジツルギアブが成虫になるのには2年を要するという可能性を指摘している点に触れ,「他の1化性と言われてきた種についても検証が必要である。」としている。
シオサイツルギアブが年1化性がどうかについては言及していないが,私はシオサイツルギアブを見つけた同じ海岸で,秋期にもツルギアブを見つけており,これらがどの種に該当するのか未だ同定できていないが,近いうちに明らかにしていきたいと思っている。

聞くところによると,関東の海岸でも,これまでの検索表では同定できないでいるツルギアブが見つかっているようである。

徐々に,いろんなことが判ってくる。

参考文献
大石久志・篠木善重・別府隆守,2010.日本産Acrosathe属(ツルギアブ科)の新知見.はなあぶ (30-1):31-46.
柿沼進, 2009. 山口県・島根県の海浜性ツルギアブ分布記録.はなあぶ(27):54-55.
三井由偉, 2001. ショウジツルギアブの幼虫の生活史について.New Entomol.,50(1,2):1-4.
永冨昭・大石久志, 2000. 日本産ツルギアブの同定.はなあぶ(9):1-32.
新家勝, 2000. 武庫川でナギサツルギアブを採集.はなあぶ(9):64.
大石久志, 2008. 豊田市(愛知県)の双翅目(第1報). はなあぶ(27):42.
佐藤直美, 2007. 新潟市におけるヨシコツルギアブの記録. はなあぶ(23):79-80.

ツルギアブ科Acrosathe sp.の訪花
砂浜のツルギアブ
ナギサツルギアブ覚書


シオサイツルギアブ♀ Acrosathe sp. 2010.6.4 津市白塚海岸


シオサイツルギアブ♂ Acrosathe sp. 2010.6.4 津市町屋海岸


シオサイツルギアブ♀ Acrosathe sp. 2010.6.5 津市豊津海岸


シオサイツルギアブ生息地の一つ 津市の白塚海岸 2010.9.29




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