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19.7.17 単純方法の発明の特許権の効力

2007-07-17 10:48:49 | Weblog
平成19年7月17日(火)

【特許法2条3項】
 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
1号 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
2号 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
3号 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

【コメント】

1.物の発明については、1号のみが適用される。
  単純方法の発明については、2号のみが適用される。
  物を生産する方法の発明については、2号と3号が適用される。

2.最高裁判決平成11年7月16日・平成10年(オ)第604号
【判決のポイント】
 本件発明は、単純方法の発明であって、物を生産する方法の発明ではないから、第三者が本件発明を実施した場合に物が生産されるとしても、その物を生産する行為及び生産した物を販売する行為については、本件発明に係る特許権の効力は及ばない。
【判決の内容】
一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1 被上告人は、発明の名称を「生理活性物質測定法」とする特許権(特許番号第一七二五七四七号。以下「本件特許権」という。)を有している。
2 本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第1項の記載は、「動物血漿、血液凝固第ⅩⅡ因子活性化剤、電解質、被検物質、から成る溶液を混合反応させ、次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第ⅩⅡ因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、生成したカリクレインを定量することを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。」である(以下、右記載の発明を「本件発明」という。)。
3 上告人は、原判決別紙目録(一)記載の抽出液(以下「上告人抽出液」という。)及びこれを有効成分とする同目録(二)記載の製剤(商品名「ローズモルゲン注」。以下「上告人製剤」という。上告人抽出液及び上告人製剤を併せて、以下「上告人医薬品」という。)につき薬事法に基づく製造承認を受け、上告人医薬品を製造販売している。また、上告人製剤については健康保険法に基づく薬価基準への収載が行われている。
4 上告人は、上告人医薬品を製造するに際し、品質規格の検定のために、カリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験として、原判決別紙目録(三)記載の方法(以下「本件方法」という。)を使用している。

二 被上告人は、本訴において、上告人が本件方法を使用して上告人医薬品を製造した上販売することは本件特許権の侵害に当たると主張して、(1)上告人抽出液の製造の差止め、上告人製剤の製造販売の差止め及びこれらの宣伝広告の差止め、(2)上告人医薬品の廃棄、(3)上告人製剤について健康保険法に基づき収載された薬価基準申請の取下げ、(4)上告人医薬品について薬事法に基づき取得した製造承認の申請の取下げ及び右製造承認によって得ている地位の第三者への承継、譲渡の禁止を求めている。
 原審は、(一)本件方法は、本件発明の技術的範囲に属する、(二)本件発明は、概念的には方法の発明であるが、本件方法が上告人医薬品の製造工程に組み込まれ他の製造作業と不即不離の関係で用いられていることからすれば、実質的に物を生産する方法の発明と同視することができ、本件特許権は、本件発明を用いて製造された物の販売についても侵害としてその停止を求め得る効力を有すると判断した。その上で、被上告人の請求(1)のうち、本件方法を用いた上告人抽出液の製造の差止め、本件方法を用いた上告人製剤の製造販売及び宣伝広告の差止め、(2)上告人医薬品の廃棄、(3)上告人製剤について健康保険法に基づく薬価基準収載申請の取下げを求める限度で被上告人の請求を認容し、その余の請求を棄却した。

三 しかし、原審の判断のうち右(二)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 特許権者は、自己の特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の差止めを請求することができるところ(特許法一〇〇条一項)、特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するから(同法六八条本文)、第三者が業として特許発明を実施することは、特許権の侵害に当たる。そして、特許発明の実施とは、方法の発明にあっては、その方法を使用する行為をいうから(同法二条三項二号)、特許権者は、業として特許発明の方法を使用する者に対し、その方法を使用する行為の差止めを請求することができる。これに対し、物を生産する方法の発明にあっては、特許発明の実施とは、その方法を使用する行為の外、その方法により生産した物を使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為をいうから(同項三号)、特許権者は、業としてこれらの行為を行う者に対し、これらの行為の差止めを請求することができる。
2 方法の発明と物を生産する方法の発明とは、明文上判然と区別され、与えられる特許権の効力も明確に異なっているのであるから、方法の発明と物を生産する方法の発明とを同視することはできないし、方法の発明に関する特許権に物を生産する方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして、当該発明がいずれの発明に該当するかは、まず、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(同法七〇条一項参照)。
 これを本件について見るに、本件明細書の特許請求の範囲第1項には、カリクレイン生成阻害能の測定法が記載されているのであるから、本件発明が物を生産する方法の発明ではなく、方法の発明であることは明らかである。本件方法が上告人医薬品の製造工程に組み込まれているとしても、本件発明を物を生産する方法の発明ということはできないし、本件特許権に物を生産する方法の発明と同様の効力を認める根拠も見いだし難い。
3 本件方法は本件発明の技術的範囲に属するのであるから、上告人が上告人医薬品の製造工程において本件方法を使用することは、本件特許権を侵害する行為に当たる。したがって、被上告人は、上告人に対し、特許法一〇〇条一項により、本件方法の使用の差止めを請求することができる。しかし、本件発明は物を生産する方法の発明ではないから、上告人が、上告人医薬品の製造工程において、本件方法を使用して品質規格の検定のための確認試験をしているとしても、その製造及びその後の販売を、本件特許権を侵害する行為に当たるということはできない。したがって、被上告人が、上告人に対し、上告人医薬品の製造等の差止めを求める前記(1)の請求はすべて認容することができないものである(なお、本件訴訟の経過に徴すれば、右(1)の請求を、本件方法の使用の差止めを求める趣旨を含むものと解することもできない。)。
4 特許法一〇〇条二項が、特許権者が差止請求権を行使するに際し請求することができる侵害の予防に必要な行為として、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあっては、侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄と侵害の行為に供した設備の除却を例示しているところからすれば、同項にいう「侵害の予防に必要な行為」とは、特許発明の内容、現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様及び特許権者が行使する差止請求権の具体的内容等に照らし、差止請求権の行使を実効あらしめるものであって、かつ、それが差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要するものと解するのが相当である。
 これを本件について見るに、上告人医薬品が、侵害の行為に供した設備に当たらないことはもとより、侵害の行為を組成した物に当たるということもできない。また、本件発明が方法の発明であり、侵害の行為が本件方法の使用行為であって、侵害差止請求としては本件方法の使用の差止めを請求することができるにとどまることに照らし、上告人医薬品の廃棄及び上告人製剤についての薬価基準収載申請の取下げは、差止請求権の実現のために必要な範囲を超えることは明らかである。したがって、被上告人の上告人に対する前記(2)及び(3)の請求も認容することができないものである。

四 そうすると、以上と異なる見解に立って、被上告人の前記(1)の請求の一部及び同(2)(3)の請求を認容した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、被上告人の本件請求はすべて理由がないとした第一審判決は、結論において正当であるから、右部分に対する被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

【問題】
 甲は、靴Xの製造装置Yに係る発明イについて特許権を有している。
 乙は、製造装置Yを使用して靴Xを製造し販売している。
 この場合、甲は、乙に対して、靴Xの製造及び販売の停止を請求することができるか。
 ただし、乙には、甲の特許権に対して、抗弁事由はないものとする。
【解答】
 甲の特許発明イは、靴Xの製造装置Yに係るものであり、物を生産する方法の発明ではないから、製造装置Yを使用しているとしても、靴Xの製造については、差止請求をすることはできない。
 すなわち、靴Xは、甲の特許発明イに係る靴Xの製造装置Yの技術的範囲に属するものとはいえない。靴Xは、製造装置Yの発明特定事項のすべてを充足しているとはいえないからである。
 そうすると、特許発明イの技術的範囲に属しない靴Xに対しては、甲の特許権の効力が及ばず、靴Xの製造を差し止めることはできない。
 なお、甲は、乙に対して、製造装置Yの使用については、特許法2条3項1号に基づいて、差止請求をすることができる。差止請求が認められたときは、その後は、乙は、製造装置Yの使用ができないため、その結果として、靴Xの製造はすることができない。
 前記のとおり、甲の特許権の効力は、靴Xには及ばないため、乙が靴Xを販売する行為については、甲は差止請求をすることができない。したがって、製造装置Yの使用が差し止められたとしても、すでに製造した靴Xについては、乙は、自由に販売することができる。
 以上のように、差止請求の対象(イ号製品)を製造装置Yにすると差止請求は可能であるが、差止請求の対象(イ号製品)を靴Xとすると差止請求は認められない。
 靴Xの製造と販売を差し止める場合には、差止請求の対象(イ号製品)を靴Xとしなければならないが、この場合は、前記のとおり、甲の特許権の効力は、靴Xには及ばない。
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