2023年2月10日 弁理士試験 代々木塾 特許法74条
(特許権の移転の特例)第七十四条
1 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、
当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、
経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。
当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。
〔解説〕
74条は、平成23年改正により新たに創設されたものである。
平成23年改正当時においては、複数の企業や大学等が共同して技術開発や製品開発をすることが一般化しているため、他人の発明であることを承知のうえで特許出願をして特許権を取得するケースのほか、研究成果である発明の扱いについてあらかじめ合意をせずに共同開発を始めてしまった等の結果として、特許を受ける権利の帰属が不明確なまま、一方が全て自己の発明であるとして特許出願をして特許権を取得してしまう等のケースが生じやすい状況にあるといえる。そして、このような状況において、冒認等は、企業・大学において少なからず発生しており、訴訟に至るケースも存在する。
一方、冒認が生じた場合に、真の権利者が新規性の喪失の例外の規定(30条)を利用して新たな特許出願をしようとしても、出願公開等から6月(現在は1年)以内という期間制限があるため、冒認に気付いた時には特許を受けることができなくなっている場合がある。
また、真の権利者が冒認出願等に基づく特許権の移転を望んだとしても、その冒認出願等を自らが特許出願をしていなかった場合には、特許権の移転登録手続の請求が認められない可能性が高い(裁判例)。
このように、近年冒認等が生じやすい状況にあるにもかかわらず、平成23年改正前においては、真の権利者が自らの発明に係る特許権を取得する手段が十分とはいえず、産業界等からも、冒認等に関する真の権利者の救済手段として、真の権利者による特許権の移転を認めることが望まれていた。
また、ドイツ、英国、フランス等の諸外国では、真の権利者が自ら出願をしていなかった場合でも、特許権の移転の請求を認める制度が存在しており、日本国において同様の制度が存在しないことは、諸外国の制度との調和の観点から望ましいとはいえない。
そこで、平成23年改正において、真の権利者の救済、諸外国との調和、産業界等のニーズという観点から、真の権利者が特許出願をしたかどうかを問わず、特許権の設定の登録後に、特許権の移転の請求を認めることとした(74条)。
・1項(特許権の移転の請求)
(1)特許が38条(共同出願)違反の過誤登録である場合、特許が123条1項6号(冒認)に該当する場合には、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者(真の権利者)は、特許権者に対して特許権の移転を請求することができる。
(2)「その特許権者に対し」と規定したのは、冒認者又は共同出願違反者(冒認者等)が特許権を第三者に譲渡していた場合には、当該特許権を取得した者に対して、真の権利者が特許権の移転を請求することができることとする趣旨である。
(3)74条1項の特許権の移転の請求権は、特許を受ける権利に基づくものであるから、真の権利者が特許権の移転を請求することができる特許権の範囲は、当該特許権に係る発明に関して、自らの有する特許を受ける権利の持分に応じた範囲である。
したがって、経済産業省令では、特許権の移転の請求と特許を受ける権利の持分との関係について規定している(特施規40条の2)。
経済産業省令(特許法施行規則40条の2)
(特許権の移転の特例)第四十条の二
特許法第七十四条第一項の規定による特許権の移転の請求は、自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとする。
(4)当事者間で解決することができないときは、特許を受ける権利を有する者は、裁判所に訴えを提起して特許権の移転の請求権を行使することができる。特許権の侵害に基づく差止請求権(100条1項)を行使すためには裁判所に訴えを提起しなければならないのと同様である。
・2項(特許権の移転の効果)
(1)74条2項は、特許権の移転の請求権を行使した場合の効果について規定している。
(2)冒認者等は、本来特許権を取得することについて何らの権利も有していないこと、冒認又は共同出願違反を理由に特許が無効にされた場合には、特許権は初めから存在していなかった(冒認者等は特許権を取得していなかった)ものとみなされる(125条)こと、真の権利者は、本来ならば当該特許権を取得し得た者であり、当該特許権に係る発明が公開されたことにより産業の発達に寄与したともいえることを踏まえ、特許権の移転の請求権の行使により、特許権の移転の登録がされた場合には、当該特許権は、初めから冒認者等ではなくて、真の権利者に帰属していたものとみなすこととした。
補償金請求権についても特許権と同様に扱うこととした。
(3)特許権の移転の効果は、通常の移転であれば、将来効であるが、74条1項の請求に基づく特許権の移転の効果は、遡及効である旨を規定している。
・3項(特許権が共有に係る場合)
(1)74条3項は、73条1項の規定との関係について規定している。
(2)73条1項の規定により、例えば、甲と乙が共同で発明した後、甲に無断で乙と丙が特許出願をして特許権を取得した場合において、甲の丙に対する特許権の持分の移転の請求が、乙の同意がない限り認められないと解されるおそれがある。しかし、当該特許権は、甲と乙の共有になることが適切であるから、丙から甲への移転が73条1項の規定により妨げられることがないよう、74条1項の請求に基づいて特許権の持分の移転をする場合には、73条1項の規定が適用されないことを確認的に規定することとした。
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(特許権の移転の特例)第七十四条
1 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、
当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、
経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。
当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3 共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。
〔解説〕
74条は、平成23年改正により新たに創設されたものである。
平成23年改正当時においては、複数の企業や大学等が共同して技術開発や製品開発をすることが一般化しているため、他人の発明であることを承知のうえで特許出願をして特許権を取得するケースのほか、研究成果である発明の扱いについてあらかじめ合意をせずに共同開発を始めてしまった等の結果として、特許を受ける権利の帰属が不明確なまま、一方が全て自己の発明であるとして特許出願をして特許権を取得してしまう等のケースが生じやすい状況にあるといえる。そして、このような状況において、冒認等は、企業・大学において少なからず発生しており、訴訟に至るケースも存在する。
一方、冒認が生じた場合に、真の権利者が新規性の喪失の例外の規定(30条)を利用して新たな特許出願をしようとしても、出願公開等から6月(現在は1年)以内という期間制限があるため、冒認に気付いた時には特許を受けることができなくなっている場合がある。
また、真の権利者が冒認出願等に基づく特許権の移転を望んだとしても、その冒認出願等を自らが特許出願をしていなかった場合には、特許権の移転登録手続の請求が認められない可能性が高い(裁判例)。
このように、近年冒認等が生じやすい状況にあるにもかかわらず、平成23年改正前においては、真の権利者が自らの発明に係る特許権を取得する手段が十分とはいえず、産業界等からも、冒認等に関する真の権利者の救済手段として、真の権利者による特許権の移転を認めることが望まれていた。
また、ドイツ、英国、フランス等の諸外国では、真の権利者が自ら出願をしていなかった場合でも、特許権の移転の請求を認める制度が存在しており、日本国において同様の制度が存在しないことは、諸外国の制度との調和の観点から望ましいとはいえない。
そこで、平成23年改正において、真の権利者の救済、諸外国との調和、産業界等のニーズという観点から、真の権利者が特許出願をしたかどうかを問わず、特許権の設定の登録後に、特許権の移転の請求を認めることとした(74条)。
・1項(特許権の移転の請求)
(1)特許が38条(共同出願)違反の過誤登録である場合、特許が123条1項6号(冒認)に該当する場合には、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者(真の権利者)は、特許権者に対して特許権の移転を請求することができる。
(2)「その特許権者に対し」と規定したのは、冒認者又は共同出願違反者(冒認者等)が特許権を第三者に譲渡していた場合には、当該特許権を取得した者に対して、真の権利者が特許権の移転を請求することができることとする趣旨である。
(3)74条1項の特許権の移転の請求権は、特許を受ける権利に基づくものであるから、真の権利者が特許権の移転を請求することができる特許権の範囲は、当該特許権に係る発明に関して、自らの有する特許を受ける権利の持分に応じた範囲である。
したがって、経済産業省令では、特許権の移転の請求と特許を受ける権利の持分との関係について規定している(特施規40条の2)。
経済産業省令(特許法施行規則40条の2)
(特許権の移転の特例)第四十条の二
特許法第七十四条第一項の規定による特許権の移転の請求は、自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとする。
(4)当事者間で解決することができないときは、特許を受ける権利を有する者は、裁判所に訴えを提起して特許権の移転の請求権を行使することができる。特許権の侵害に基づく差止請求権(100条1項)を行使すためには裁判所に訴えを提起しなければならないのと同様である。
・2項(特許権の移転の効果)
(1)74条2項は、特許権の移転の請求権を行使した場合の効果について規定している。
(2)冒認者等は、本来特許権を取得することについて何らの権利も有していないこと、冒認又は共同出願違反を理由に特許が無効にされた場合には、特許権は初めから存在していなかった(冒認者等は特許権を取得していなかった)ものとみなされる(125条)こと、真の権利者は、本来ならば当該特許権を取得し得た者であり、当該特許権に係る発明が公開されたことにより産業の発達に寄与したともいえることを踏まえ、特許権の移転の請求権の行使により、特許権の移転の登録がされた場合には、当該特許権は、初めから冒認者等ではなくて、真の権利者に帰属していたものとみなすこととした。
補償金請求権についても特許権と同様に扱うこととした。
(3)特許権の移転の効果は、通常の移転であれば、将来効であるが、74条1項の請求に基づく特許権の移転の効果は、遡及効である旨を規定している。
・3項(特許権が共有に係る場合)
(1)74条3項は、73条1項の規定との関係について規定している。
(2)73条1項の規定により、例えば、甲と乙が共同で発明した後、甲に無断で乙と丙が特許出願をして特許権を取得した場合において、甲の丙に対する特許権の持分の移転の請求が、乙の同意がない限り認められないと解されるおそれがある。しかし、当該特許権は、甲と乙の共有になることが適切であるから、丙から甲への移転が73条1項の規定により妨げられることがないよう、74条1項の請求に基づいて特許権の持分の移転をする場合には、73条1項の規定が適用されないことを確認的に規定することとした。
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