2023年1月31日 弁理士試験 代々木塾 特許法44条1項
(特許出願の分割)第四十四条
1 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
〔解説〕
44条は、特許出願の分割について規定している。
特許出願の分割に関しては、パリ条約においても「審査によつて特許出願が二以上の発明を包含することが明らかとなつたときは、特許出願人は、その特許出願を二以上の出願に分割することができる……」(パリ条約4条G(1)(2)と規定しているが、44条はこの条約の規定と同趣旨の規定である。
特許権の付与を求める者は、特許出願をしなければならない(36条)。
しかし、特許出願が発明の単一性の要件(37条)を満たさない場合がある。また、発明の単一性の要件を満たす場合でも、明細書にのみ記載された発明が存在する場合がある。このような発明であっても、出願公開されるので、発明公開の代償として特許権を付与する特許制度の趣旨(1条)からは保護する必要がある。
そこで、このような発明について、出願時の遡及効を伴う新たな特許出願とすることにより特許権を取得することができる特許出願の分割を認めることとした(44条1項)。
・44条1項(分割の要件)
(1)44条1項は、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることができる旨を規定している。
2以上の発明を包含するもののうちには、37条(発明の単一性の要件)の規定に違反して拒絶になるべきもののみでなく、37条の規定に違反しないものも含まれる。
「特許出願の一部を」と規定しているので、もとの特許出願の全ての発明について新たな特許出願をすることはできない。
(2)分割の主体的要件(方式的要件)
(a)特許出願を分割して新たな特許出願をすることができる者は、「特許出願人」である(44条1項柱書)。
すなわち、特許出願の分割時に、分割に係る新たな特許出願の出願人が、もとの特許出願の出願人と同一であることが必要である。
(b)もとの特許出願が共同出願(38条)の場合は、分割に係る新たな特許出願の出願人は、共同出願人の全員と一致していることが必要である(44条1項柱書)。
(c)分割の主体的要件に違反するときは、分割に係る新たな特許出願は、18条の2により、特許庁長官により却下される(方式審査便覧15.20)。
分割の主体的要件は、方式的要件であるため、審査官が判断することはない。すなわち、分割の主体的要件に違反するときは、38条(共同出願)違反の拒絶理由に該当することはない。
(3)分割の時期的要件(方式的要件)
分割に係る新たな特許出願をすることができる時期は、44条1項1号~3号に該当する場合に限定される。
(a)44条1項1号は、特許出願の明細書等について補正をすることができる時期であれば、分割に係る新たな特許出願をすることができる旨を規定している。
特許出願の分割は、明細書等の補正と同様の手続であると解されるからである。
(b)44条1項2号は、特許査定の謄本の送達日から30日以内であれば、分割に係る新たな特許出願をすることができる旨を規定している。
平成18年改正により、実効的な権利取得の支援及び手続の無駄の解消の観点から、新たに規定したものである。
・実効的な権利の取得の支援
実効的な権利を取得するため、出願人は、審査が終了するまでの間、すなわち、特許査定の謄本が送達されるまでの間に、特許請求の範囲に保護を受けようとする発明を網羅的に記載しておく必要がある。
平成18年改正前においては、拒絶理由通知後の所定の期間内に、明細書等の補正又は出願の分割を認めているため、特許請求の範囲にある程度の権利化の見通しをもって記載した発明について、審査官からの拒絶理由通知及び付随する先行技術調査の結果を踏まえて点検し、補正による発明の絞り込みや、明細書等に記載された発明を分割して権利化を図ることが可能となっている。
しかし、どの範囲まで広く権利化することができるか、例えば、上位概念化することができるか、必須とすべき構成をいかに少なくすることができるか等について見通しを立てることは必ずしも容易でないため、特許査定時の特許請求の範囲が十分実効的なものでない場合があった。
そこで、特許出願の明細書等に含まれている発明をより手厚く保護する観点から、平成18年改正により、特許査定後の一定期間、出願の分割を可能とすることとした。
・手続の無駄の解消
平成18年改正前においては、拒絶理由が通知されることなく特許査定がなされた場合には、審査官の判断結果を踏まえて出願を分割する機会が得られない。そのため、出願人は、故意に拒絶理由を含む発明を特許請求の範囲に記載したり、念のため事前に出願を分割するといった手段をとる場合があるが、特許査定後に出願の分割を可能とすれば、このような手続の無駄が解消されると考えられる。
(ア)ただし、前置審査(162条)における特許査定、差戻し審査(160条)における特許査定は、44条1項2号の特許査定から除かれる。
前置審査(162条)における特許査定、差戻し審査(160条)における特許査定がされるときは、過去に拒絶査定の謄本の送達を受けているので、その際、出願人には特許出願の分割をすることができる機会が付与されており、再審査の結果、特許査定がされた場合に、再度の分割の機会を付与する必要はないと考えられるからである。
(イ)特許査定の謄本の送達を受けた特許出願人が第1年から第3年までの各年分の特許料を納付した結果、特許権の設定の登録がされた後は、特許出願が特許庁に係属しなくなるため、特許査定の謄本の送達日から30日以内であっても、特許出願の分割をすることができない。
特許出願の分割の要件として、分割時にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要とされるからである。
(ウ)44条1項2号の分割をするときは、分割と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をすることができない(特施規30条不適用)。
特許出願について特許査定がされた後は、所定の期間内に所定の特許料を納付すれば、特許権の設定の登録がされるので(66条2項)、特許請求の範囲に記載された発明を分割して新たな特許出願をし、さらに出願審査の請求をし、審査のやり直しを求めるということは、想定することができない。
すなわち、44条1項2号の分割は、もとの特許出願の明細書又は図面にのみ記載された発明について分割する場合を想定したものである。そうすると、44条1項2号により、分割に係る新たな特許出願をするときは、もとの特許出願の特許請求の範囲には影響を与えないので、もとの特許出願の特許請求の範囲について補正をする必要がないといえる。そこで、44条1項2号の分割には、特許法施行規則30条は適用しないこととした。
(c)44条1項3号は、最初の拒絶査定謄本の送達があった日から3月以内であれば、特許出願の分割をすることができる旨を規定している。
平成18年改正により、実効的な権利取得の支援及び手続の無駄の解消の観点から、新たに規定したものである。
・実効的な権利の取得の支援
実効的な権利を取得するため、出願人は、審査が終了するまでの間、すなわち、特許査定の謄本が送達されるまでの間に、特許請求の範囲に保護を受けようとする発明を網羅的に記載しておく必要がある。
平成18年改正前においては、拒絶理由通知後の所定の期間内に、明細書等の補正又は出願の分割を認めているため、特許請求の範囲にある程度の権利化の見通しをもって記載した発明について、審査官からの拒絶理由通知及び付随する先行技術調査結果を踏まえて点検し、補正による発明の絞り込みや、明細書等に記載された別発明を分割して権利化を図ることが可能となっている。
しかし、どの範囲まで広く権利化できるか、例えば、上位概念化することができるか、必須とすべき構成をいかに少なくすることができるか等について見通しを立てることは必ずしも容易でないため、特許請求の範囲に発明を的確に表現できずに拒絶査定となってしまう場合があった。
そこで、特許出願の明細書等に含まれている発明をより手厚く保護する観点から、平成18年改正により、拒絶査定後の一定期間、出願の分割を可能とすることとした。
・手続の無駄の解消
平成18年改正前においては、拒絶査定後に出願を分割する機会を得るためには、拒絶査定不服審判(121条1項)を請求することが必要であった。
拒絶査定後の出願の分割を可能とすれば、出願の分割の機会を得るためだけの無駄な拒絶査定不服審判の請求が不要となるため、出願人のコストが低減され、特許庁にとっても負担が軽減されることとなる。
(ア)44条1項3号により、拒絶査定不服審判を請求することなく、特許出願の分割をすることができる。
(イ)44条1項3号の分割をするときは、分割と同時にもとの特許出願の明細書等については、補正をすることはできない(特施規30条不適用)。
明細書等について補正をする必要があるときは、拒絶査定不服審判(121条1項)を請求し、その請求と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をすることができるので(17条の2第1項4号)、この場合は、44条1項1号の規定により、分割に係る新たな特許出願をすることができる。
44条1項3号の分割は、もとの特許出願については拒絶査定不服審判(121条1項)を請求することなく特許権の取得を断念する場合の分割であるため、分割と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をする必要がない。そこで、44条1項3号の分割には、特許法施行規則30条は適用しないこととした。
(d)分割の時期的要件に違反している場合は、分割に係る新たな特許出願は、18条の2により、特許庁長官により却下される(方式審査便覧15.20)。
分割の時期的要件は、方式的要件であるため、審査官が判断することはない。
(4)分割の客体的要件(実体的要件)
分割の客体的要件は、実体的要件であるため、審査官が判断主体となる。
(a)もとの特許出願が2以上の発明を包含することが必要である(44条1項柱書)。
もとの特許出願に含まれる発明が1つであるときは、分割をすることはできない。分割は発明単位で行うものである。
(b)特許出願の一部を分割することが必要である(44条1項柱書)。
全部を分割することはできない。
特許実用新案審査基準によれば、分割直前のもとの出願の明細書等からみて全部でないことが必要である。
もとの特許出願が外国語書面出願である場合は、分割直前の外国語書面出願の明細書等を意味する。したがって、外国語書面出願を分割するためには、外国語書面の翻訳文が提出されていることが必要である。
(c)分割に係る新たな特許出願の明細書等に新規事項を追加しないことが必要である(44条2項本文)。
分割に係る新たな特許出願の明細書等に新規事項の追加を認めた場合にも、出願時の遡及効(44条2項本文)を認めるのは、先願主義(39条)に反するからである。
(ア)もとの特許出願の明細書等について補正をすることができるときの分割の場合(1号の分割)
特許実用新案審査基準によれば、もとの特許出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であれば、分割をすることができる。
分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載されているかどうかは問わない。
分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載されていない事項であっても、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載されている事項は、補正により明細書に追加することができるので、補正をすることなく、分割が認められる。
外国語書面出願の場合(36条の2)には、外国語書面に記載した事項の範囲内で分割をすることができる。すなわち、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲に限定されない。誤訳訂正書による補正によれば、外国語書面に記載した事項の範囲内で補正をすることができるからである。
国際特許出願の場合(184条の3)には、日本語特許出願及び外国語特許出願のいずれも、国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内で分割をすることができる。国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内で補正をすることができるからである。
(イ)もとの特許出願の明細書等について補正をすることができないときの分割の場合(2号又は3号の分割)
特許実用新案審査基準によれば、通常の特許出願の場合には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
したがって、出願当初の明細書等に記載された事項であっても、補正により削除した事項は、分割をすることができない。補正により追加することができないからである。
外国語書面出願の場合(36条の2)には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、外国語書面に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
国際特許出願の場合(184条の3)には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、国際出願日における明細書等に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
・特許実用新案審査基準 第VI部 第1章 第1節 特許出願の分割の要件
2.2 特許出願の分割の実体的要件
特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要がある。
また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると、以下の(要件2)も満たされる必要がある。
(要件1)原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと(3.1参照)。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.2参照)。
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.3参照)。
ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件2)が満たされれば、(要件3)も満たされることとする。これは、原出願の分割直前の明細書等に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書等に記載されていた事項については、補正をすれば、原出願の明細書等に記載した上で、特許出願の分割をすることができるからである。
(d)「一又は二以上」の新たな特許出願
分割出願は、包含されている発明の数に対応して、1つでも2つ以上でも、することができる。
もとの特許出願Aに発明イと発明ロと発明ハが記載されているときは、特許出願Aを分割して発明ロについて新たな特許出願Bをし、さらに特許出願Aを分割して発明ハについて新たな特許出願Cをすることができる。
(e)もとの特許出願が分割に係る新たな特許出願である場合
特許出願A(親出願)を分割して新たな特許出願B(子出願)をし、さらに子出願Bを分割して新たな特許出願C(孫出願)をした場合において、子出願B及び孫出願Cがそれぞれ分割の要件を満たしていれば、子出願B及び孫出願Cの出願時はそれぞれ親出願Aの出願時に遡及する(44条2項本文)。
代々木塾の講座案内
代々木塾HP https://www.yoyogijuku.jp/
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2023論文答練会 1月~3月
2023短答直前答練 4月
2023論文直前答練 4月~5月
2023短答直前模試 4月~5月
2023論文直前模試 6月
2024論文短答基礎講座 5月~12月
2024論文基礎講座 5月~12月
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(特許出願の分割)第四十四条
1 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
〔解説〕
44条は、特許出願の分割について規定している。
特許出願の分割に関しては、パリ条約においても「審査によつて特許出願が二以上の発明を包含することが明らかとなつたときは、特許出願人は、その特許出願を二以上の出願に分割することができる……」(パリ条約4条G(1)(2)と規定しているが、44条はこの条約の規定と同趣旨の規定である。
特許権の付与を求める者は、特許出願をしなければならない(36条)。
しかし、特許出願が発明の単一性の要件(37条)を満たさない場合がある。また、発明の単一性の要件を満たす場合でも、明細書にのみ記載された発明が存在する場合がある。このような発明であっても、出願公開されるので、発明公開の代償として特許権を付与する特許制度の趣旨(1条)からは保護する必要がある。
そこで、このような発明について、出願時の遡及効を伴う新たな特許出願とすることにより特許権を取得することができる特許出願の分割を認めることとした(44条1項)。
・44条1項(分割の要件)
(1)44条1項は、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることができる旨を規定している。
2以上の発明を包含するもののうちには、37条(発明の単一性の要件)の規定に違反して拒絶になるべきもののみでなく、37条の規定に違反しないものも含まれる。
「特許出願の一部を」と規定しているので、もとの特許出願の全ての発明について新たな特許出願をすることはできない。
(2)分割の主体的要件(方式的要件)
(a)特許出願を分割して新たな特許出願をすることができる者は、「特許出願人」である(44条1項柱書)。
すなわち、特許出願の分割時に、分割に係る新たな特許出願の出願人が、もとの特許出願の出願人と同一であることが必要である。
(b)もとの特許出願が共同出願(38条)の場合は、分割に係る新たな特許出願の出願人は、共同出願人の全員と一致していることが必要である(44条1項柱書)。
(c)分割の主体的要件に違反するときは、分割に係る新たな特許出願は、18条の2により、特許庁長官により却下される(方式審査便覧15.20)。
分割の主体的要件は、方式的要件であるため、審査官が判断することはない。すなわち、分割の主体的要件に違反するときは、38条(共同出願)違反の拒絶理由に該当することはない。
(3)分割の時期的要件(方式的要件)
分割に係る新たな特許出願をすることができる時期は、44条1項1号~3号に該当する場合に限定される。
(a)44条1項1号は、特許出願の明細書等について補正をすることができる時期であれば、分割に係る新たな特許出願をすることができる旨を規定している。
特許出願の分割は、明細書等の補正と同様の手続であると解されるからである。
(b)44条1項2号は、特許査定の謄本の送達日から30日以内であれば、分割に係る新たな特許出願をすることができる旨を規定している。
平成18年改正により、実効的な権利取得の支援及び手続の無駄の解消の観点から、新たに規定したものである。
・実効的な権利の取得の支援
実効的な権利を取得するため、出願人は、審査が終了するまでの間、すなわち、特許査定の謄本が送達されるまでの間に、特許請求の範囲に保護を受けようとする発明を網羅的に記載しておく必要がある。
平成18年改正前においては、拒絶理由通知後の所定の期間内に、明細書等の補正又は出願の分割を認めているため、特許請求の範囲にある程度の権利化の見通しをもって記載した発明について、審査官からの拒絶理由通知及び付随する先行技術調査の結果を踏まえて点検し、補正による発明の絞り込みや、明細書等に記載された発明を分割して権利化を図ることが可能となっている。
しかし、どの範囲まで広く権利化することができるか、例えば、上位概念化することができるか、必須とすべき構成をいかに少なくすることができるか等について見通しを立てることは必ずしも容易でないため、特許査定時の特許請求の範囲が十分実効的なものでない場合があった。
そこで、特許出願の明細書等に含まれている発明をより手厚く保護する観点から、平成18年改正により、特許査定後の一定期間、出願の分割を可能とすることとした。
・手続の無駄の解消
平成18年改正前においては、拒絶理由が通知されることなく特許査定がなされた場合には、審査官の判断結果を踏まえて出願を分割する機会が得られない。そのため、出願人は、故意に拒絶理由を含む発明を特許請求の範囲に記載したり、念のため事前に出願を分割するといった手段をとる場合があるが、特許査定後に出願の分割を可能とすれば、このような手続の無駄が解消されると考えられる。
(ア)ただし、前置審査(162条)における特許査定、差戻し審査(160条)における特許査定は、44条1項2号の特許査定から除かれる。
前置審査(162条)における特許査定、差戻し審査(160条)における特許査定がされるときは、過去に拒絶査定の謄本の送達を受けているので、その際、出願人には特許出願の分割をすることができる機会が付与されており、再審査の結果、特許査定がされた場合に、再度の分割の機会を付与する必要はないと考えられるからである。
(イ)特許査定の謄本の送達を受けた特許出願人が第1年から第3年までの各年分の特許料を納付した結果、特許権の設定の登録がされた後は、特許出願が特許庁に係属しなくなるため、特許査定の謄本の送達日から30日以内であっても、特許出願の分割をすることができない。
特許出願の分割の要件として、分割時にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要とされるからである。
(ウ)44条1項2号の分割をするときは、分割と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をすることができない(特施規30条不適用)。
特許出願について特許査定がされた後は、所定の期間内に所定の特許料を納付すれば、特許権の設定の登録がされるので(66条2項)、特許請求の範囲に記載された発明を分割して新たな特許出願をし、さらに出願審査の請求をし、審査のやり直しを求めるということは、想定することができない。
すなわち、44条1項2号の分割は、もとの特許出願の明細書又は図面にのみ記載された発明について分割する場合を想定したものである。そうすると、44条1項2号により、分割に係る新たな特許出願をするときは、もとの特許出願の特許請求の範囲には影響を与えないので、もとの特許出願の特許請求の範囲について補正をする必要がないといえる。そこで、44条1項2号の分割には、特許法施行規則30条は適用しないこととした。
(c)44条1項3号は、最初の拒絶査定謄本の送達があった日から3月以内であれば、特許出願の分割をすることができる旨を規定している。
平成18年改正により、実効的な権利取得の支援及び手続の無駄の解消の観点から、新たに規定したものである。
・実効的な権利の取得の支援
実効的な権利を取得するため、出願人は、審査が終了するまでの間、すなわち、特許査定の謄本が送達されるまでの間に、特許請求の範囲に保護を受けようとする発明を網羅的に記載しておく必要がある。
平成18年改正前においては、拒絶理由通知後の所定の期間内に、明細書等の補正又は出願の分割を認めているため、特許請求の範囲にある程度の権利化の見通しをもって記載した発明について、審査官からの拒絶理由通知及び付随する先行技術調査結果を踏まえて点検し、補正による発明の絞り込みや、明細書等に記載された別発明を分割して権利化を図ることが可能となっている。
しかし、どの範囲まで広く権利化できるか、例えば、上位概念化することができるか、必須とすべき構成をいかに少なくすることができるか等について見通しを立てることは必ずしも容易でないため、特許請求の範囲に発明を的確に表現できずに拒絶査定となってしまう場合があった。
そこで、特許出願の明細書等に含まれている発明をより手厚く保護する観点から、平成18年改正により、拒絶査定後の一定期間、出願の分割を可能とすることとした。
・手続の無駄の解消
平成18年改正前においては、拒絶査定後に出願を分割する機会を得るためには、拒絶査定不服審判(121条1項)を請求することが必要であった。
拒絶査定後の出願の分割を可能とすれば、出願の分割の機会を得るためだけの無駄な拒絶査定不服審判の請求が不要となるため、出願人のコストが低減され、特許庁にとっても負担が軽減されることとなる。
(ア)44条1項3号により、拒絶査定不服審判を請求することなく、特許出願の分割をすることができる。
(イ)44条1項3号の分割をするときは、分割と同時にもとの特許出願の明細書等については、補正をすることはできない(特施規30条不適用)。
明細書等について補正をする必要があるときは、拒絶査定不服審判(121条1項)を請求し、その請求と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をすることができるので(17条の2第1項4号)、この場合は、44条1項1号の規定により、分割に係る新たな特許出願をすることができる。
44条1項3号の分割は、もとの特許出願については拒絶査定不服審判(121条1項)を請求することなく特許権の取得を断念する場合の分割であるため、分割と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をする必要がない。そこで、44条1項3号の分割には、特許法施行規則30条は適用しないこととした。
(d)分割の時期的要件に違反している場合は、分割に係る新たな特許出願は、18条の2により、特許庁長官により却下される(方式審査便覧15.20)。
分割の時期的要件は、方式的要件であるため、審査官が判断することはない。
(4)分割の客体的要件(実体的要件)
分割の客体的要件は、実体的要件であるため、審査官が判断主体となる。
(a)もとの特許出願が2以上の発明を包含することが必要である(44条1項柱書)。
もとの特許出願に含まれる発明が1つであるときは、分割をすることはできない。分割は発明単位で行うものである。
(b)特許出願の一部を分割することが必要である(44条1項柱書)。
全部を分割することはできない。
特許実用新案審査基準によれば、分割直前のもとの出願の明細書等からみて全部でないことが必要である。
もとの特許出願が外国語書面出願である場合は、分割直前の外国語書面出願の明細書等を意味する。したがって、外国語書面出願を分割するためには、外国語書面の翻訳文が提出されていることが必要である。
(c)分割に係る新たな特許出願の明細書等に新規事項を追加しないことが必要である(44条2項本文)。
分割に係る新たな特許出願の明細書等に新規事項の追加を認めた場合にも、出願時の遡及効(44条2項本文)を認めるのは、先願主義(39条)に反するからである。
(ア)もとの特許出願の明細書等について補正をすることができるときの分割の場合(1号の分割)
特許実用新案審査基準によれば、もとの特許出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であれば、分割をすることができる。
分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載されているかどうかは問わない。
分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載されていない事項であっても、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載されている事項は、補正により明細書に追加することができるので、補正をすることなく、分割が認められる。
外国語書面出願の場合(36条の2)には、外国語書面に記載した事項の範囲内で分割をすることができる。すなわち、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲に限定されない。誤訳訂正書による補正によれば、外国語書面に記載した事項の範囲内で補正をすることができるからである。
国際特許出願の場合(184条の3)には、日本語特許出願及び外国語特許出願のいずれも、国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内で分割をすることができる。国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内で補正をすることができるからである。
(イ)もとの特許出願の明細書等について補正をすることができないときの分割の場合(2号又は3号の分割)
特許実用新案審査基準によれば、通常の特許出願の場合には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
したがって、出願当初の明細書等に記載された事項であっても、補正により削除した事項は、分割をすることができない。補正により追加することができないからである。
外国語書面出願の場合(36条の2)には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、外国語書面に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
国際特許出願の場合(184条の3)には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、国際出願日における明細書等に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
・特許実用新案審査基準 第VI部 第1章 第1節 特許出願の分割の要件
2.2 特許出願の分割の実体的要件
特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要がある。
また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると、以下の(要件2)も満たされる必要がある。
(要件1)原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと(3.1参照)。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.2参照)。
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.3参照)。
ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件2)が満たされれば、(要件3)も満たされることとする。これは、原出願の分割直前の明細書等に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書等に記載されていた事項については、補正をすれば、原出願の明細書等に記載した上で、特許出願の分割をすることができるからである。
(d)「一又は二以上」の新たな特許出願
分割出願は、包含されている発明の数に対応して、1つでも2つ以上でも、することができる。
もとの特許出願Aに発明イと発明ロと発明ハが記載されているときは、特許出願Aを分割して発明ロについて新たな特許出願Bをし、さらに特許出願Aを分割して発明ハについて新たな特許出願Cをすることができる。
(e)もとの特許出願が分割に係る新たな特許出願である場合
特許出願A(親出願)を分割して新たな特許出願B(子出願)をし、さらに子出願Bを分割して新たな特許出願C(孫出願)をした場合において、子出願B及び孫出願Cがそれぞれ分割の要件を満たしていれば、子出願B及び孫出願Cの出願時はそれぞれ親出願Aの出願時に遡及する(44条2項本文)。
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