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2023年1月31日 弁理士試験 代々木塾 特許法44条1項

2023-01-31 04:05:08 | Weblog
2023年1月31日 弁理士試験 代々木塾 特許法44条1項

(特許出願の分割)第四十四条
1 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。

〔解説〕
 44条は、特許出願の分割について規定している。
 特許出願の分割に関しては、パリ条約においても「審査によつて特許出願が二以上の発明を包含することが明らかとなつたときは、特許出願人は、その特許出願を二以上の出願に分割することができる……」(パリ条約4条G(1)(2)と規定しているが、44条はこの条約の規定と同趣旨の規定である。

 特許権の付与を求める者は、特許出願をしなければならない(36条)。
 しかし、特許出願が発明の単一性の要件(37条)を満たさない場合がある。また、発明の単一性の要件を満たす場合でも、明細書にのみ記載された発明が存在する場合がある。このような発明であっても、出願公開されるので、発明公開の代償として特許権を付与する特許制度の趣旨(1条)からは保護する必要がある。
 そこで、このような発明について、出願時の遡及効を伴う新たな特許出願とすることにより特許権を取得することができる特許出願の分割を認めることとした(44条1項)。

・44条1項(分割の要件)

(1)44条1項は、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることができる旨を規定している。
 2以上の発明を包含するもののうちには、37条(発明の単一性の要件)の規定に違反して拒絶になるべきもののみでなく、37条の規定に違反しないものも含まれる。
 「特許出願の一部を」と規定しているので、もとの特許出願の全ての発明について新たな特許出願をすることはできない。

(2)分割の主体的要件(方式的要件)

(a)特許出願を分割して新たな特許出願をすることができる者は、「特許出願人」である(44条1項柱書)。
 すなわち、特許出願の分割時に、分割に係る新たな特許出願の出願人が、もとの特許出願の出願人と同一であることが必要である。

(b)もとの特許出願が共同出願(38条)の場合は、分割に係る新たな特許出願の出願人は、共同出願人の全員と一致していることが必要である(44条1項柱書)。

(c)分割の主体的要件に違反するときは、分割に係る新たな特許出願は、18条の2により、特許庁長官により却下される(方式審査便覧15.20)。
 分割の主体的要件は、方式的要件であるため、審査官が判断することはない。すなわち、分割の主体的要件に違反するときは、38条(共同出願)違反の拒絶理由に該当することはない。

(3)分割の時期的要件(方式的要件)
 分割に係る新たな特許出願をすることができる時期は、44条1項1号~3号に該当する場合に限定される。

(a)44条1項1号は、特許出願の明細書等について補正をすることができる時期であれば、分割に係る新たな特許出願をすることができる旨を規定している。
 特許出願の分割は、明細書等の補正と同様の手続であると解されるからである。

(b)44条1項2号は、特許査定の謄本の送達日から30日以内であれば、分割に係る新たな特許出願をすることができる旨を規定している。
 平成18年改正により、実効的な権利取得の支援及び手続の無駄の解消の観点から、新たに規定したものである。

・実効的な権利の取得の支援
 実効的な権利を取得するため、出願人は、審査が終了するまでの間、すなわち、特許査定の謄本が送達されるまでの間に、特許請求の範囲に保護を受けようとする発明を網羅的に記載しておく必要がある。
 平成18年改正前においては、拒絶理由通知後の所定の期間内に、明細書等の補正又は出願の分割を認めているため、特許請求の範囲にある程度の権利化の見通しをもって記載した発明について、審査官からの拒絶理由通知及び付随する先行技術調査の結果を踏まえて点検し、補正による発明の絞り込みや、明細書等に記載された発明を分割して権利化を図ることが可能となっている。
 しかし、どの範囲まで広く権利化することができるか、例えば、上位概念化することができるか、必須とすべき構成をいかに少なくすることができるか等について見通しを立てることは必ずしも容易でないため、特許査定時の特許請求の範囲が十分実効的なものでない場合があった。
 そこで、特許出願の明細書等に含まれている発明をより手厚く保護する観点から、平成18年改正により、特許査定後の一定期間、出願の分割を可能とすることとした。

・手続の無駄の解消
 平成18年改正前においては、拒絶理由が通知されることなく特許査定がなされた場合には、審査官の判断結果を踏まえて出願を分割する機会が得られない。そのため、出願人は、故意に拒絶理由を含む発明を特許請求の範囲に記載したり、念のため事前に出願を分割するといった手段をとる場合があるが、特許査定後に出願の分割を可能とすれば、このような手続の無駄が解消されると考えられる。

(ア)ただし、前置審査(162条)における特許査定、差戻し審査(160条)における特許査定は、44条1項2号の特許査定から除かれる。
 前置審査(162条)における特許査定、差戻し審査(160条)における特許査定がされるときは、過去に拒絶査定の謄本の送達を受けているので、その際、出願人には特許出願の分割をすることができる機会が付与されており、再審査の結果、特許査定がされた場合に、再度の分割の機会を付与する必要はないと考えられるからである。

(イ)特許査定の謄本の送達を受けた特許出願人が第1年から第3年までの各年分の特許料を納付した結果、特許権の設定の登録がされた後は、特許出願が特許庁に係属しなくなるため、特許査定の謄本の送達日から30日以内であっても、特許出願の分割をすることができない。
 特許出願の分割の要件として、分割時にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要とされるからである。

(ウ)44条1項2号の分割をするときは、分割と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をすることができない(特施規30条不適用)。
 特許出願について特許査定がされた後は、所定の期間内に所定の特許料を納付すれば、特許権の設定の登録がされるので(66条2項)、特許請求の範囲に記載された発明を分割して新たな特許出願をし、さらに出願審査の請求をし、審査のやり直しを求めるということは、想定することができない。
 すなわち、44条1項2号の分割は、もとの特許出願の明細書又は図面にのみ記載された発明について分割する場合を想定したものである。そうすると、44条1項2号により、分割に係る新たな特許出願をするときは、もとの特許出願の特許請求の範囲には影響を与えないので、もとの特許出願の特許請求の範囲について補正をする必要がないといえる。そこで、44条1項2号の分割には、特許法施行規則30条は適用しないこととした。

(c)44条1項3号は、最初の拒絶査定謄本の送達があった日から3月以内であれば、特許出願の分割をすることができる旨を規定している。
 平成18年改正により、実効的な権利取得の支援及び手続の無駄の解消の観点から、新たに規定したものである。

・実効的な権利の取得の支援
 実効的な権利を取得するため、出願人は、審査が終了するまでの間、すなわち、特許査定の謄本が送達されるまでの間に、特許請求の範囲に保護を受けようとする発明を網羅的に記載しておく必要がある。
 平成18年改正前においては、拒絶理由通知後の所定の期間内に、明細書等の補正又は出願の分割を認めているため、特許請求の範囲にある程度の権利化の見通しをもって記載した発明について、審査官からの拒絶理由通知及び付随する先行技術調査結果を踏まえて点検し、補正による発明の絞り込みや、明細書等に記載された別発明を分割して権利化を図ることが可能となっている。
 しかし、どの範囲まで広く権利化できるか、例えば、上位概念化することができるか、必須とすべき構成をいかに少なくすることができるか等について見通しを立てることは必ずしも容易でないため、特許請求の範囲に発明を的確に表現できずに拒絶査定となってしまう場合があった。
 そこで、特許出願の明細書等に含まれている発明をより手厚く保護する観点から、平成18年改正により、拒絶査定後の一定期間、出願の分割を可能とすることとした。

・手続の無駄の解消
 平成18年改正前においては、拒絶査定後に出願を分割する機会を得るためには、拒絶査定不服審判(121条1項)を請求することが必要であった。
 拒絶査定後の出願の分割を可能とすれば、出願の分割の機会を得るためだけの無駄な拒絶査定不服審判の請求が不要となるため、出願人のコストが低減され、特許庁にとっても負担が軽減されることとなる。

(ア)44条1項3号により、拒絶査定不服審判を請求することなく、特許出願の分割をすることができる。

(イ)44条1項3号の分割をするときは、分割と同時にもとの特許出願の明細書等については、補正をすることはできない(特施規30条不適用)。
 明細書等について補正をする必要があるときは、拒絶査定不服審判(121条1項)を請求し、その請求と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をすることができるので(17条の2第1項4号)、この場合は、44条1項1号の規定により、分割に係る新たな特許出願をすることができる。
 44条1項3号の分割は、もとの特許出願については拒絶査定不服審判(121条1項)を請求することなく特許権の取得を断念する場合の分割であるため、分割と同時にもとの特許出願の明細書等について補正をする必要がない。そこで、44条1項3号の分割には、特許法施行規則30条は適用しないこととした。

(d)分割の時期的要件に違反している場合は、分割に係る新たな特許出願は、18条の2により、特許庁長官により却下される(方式審査便覧15.20)。
 分割の時期的要件は、方式的要件であるため、審査官が判断することはない。

(4)分割の客体的要件(実体的要件)

 分割の客体的要件は、実体的要件であるため、審査官が判断主体となる。

(a)もとの特許出願が2以上の発明を包含することが必要である(44条1項柱書)。
 もとの特許出願に含まれる発明が1つであるときは、分割をすることはできない。分割は発明単位で行うものである。

(b)特許出願の一部を分割することが必要である(44条1項柱書)。
 全部を分割することはできない。
 特許実用新案審査基準によれば、分割直前のもとの出願の明細書等からみて全部でないことが必要である。
 もとの特許出願が外国語書面出願である場合は、分割直前の外国語書面出願の明細書等を意味する。したがって、外国語書面出願を分割するためには、外国語書面の翻訳文が提出されていることが必要である。

(c)分割に係る新たな特許出願の明細書等に新規事項を追加しないことが必要である(44条2項本文)。
 分割に係る新たな特許出願の明細書等に新規事項の追加を認めた場合にも、出願時の遡及効(44条2項本文)を認めるのは、先願主義(39条)に反するからである。

(ア)もとの特許出願の明細書等について補正をすることができるときの分割の場合(1号の分割)
 特許実用新案審査基準によれば、もとの特許出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であれば、分割をすることができる。
 分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載されているかどうかは問わない。
 分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載されていない事項であっても、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載されている事項は、補正により明細書に追加することができるので、補正をすることなく、分割が認められる。
 外国語書面出願の場合(36条の2)には、外国語書面に記載した事項の範囲内で分割をすることができる。すなわち、外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲に限定されない。誤訳訂正書による補正によれば、外国語書面に記載した事項の範囲内で補正をすることができるからである。
 国際特許出願の場合(184条の3)には、日本語特許出願及び外国語特許出願のいずれも、国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内で分割をすることができる。国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内で補正をすることができるからである。

(イ)もとの特許出願の明細書等について補正をすることができないときの分割の場合(2号又は3号の分割)
 特許実用新案審査基準によれば、通常の特許出願の場合には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、もとの特許出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
 したがって、出願当初の明細書等に記載された事項であっても、補正により削除した事項は、分割をすることができない。補正により追加することができないからである。
 外国語書面出願の場合(36条の2)には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、外国語書面に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。
 国際特許出願の場合(184条の3)には、分割直前のもとの特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であって、かつ、国際出願日における明細書等に記載した事項の範囲内で、分割をすることができる。

・特許実用新案審査基準 第VI部 第1章 第1節 特許出願の分割の要件
2.2 特許出願の分割の実体的要件
 特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要がある。
 また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると、以下の(要件2)も満たされる必要がある。
(要件1)原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと(3.1参照)。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.2参照)。 
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.3参照)。 
 ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件2)が満たされれば、(要件3)も満たされることとする。これは、原出願の分割直前の明細書等に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書等に記載されていた事項については、補正をすれば、原出願の明細書等に記載した上で、特許出願の分割をすることができるからである。

(d)「一又は二以上」の新たな特許出願
 分割出願は、包含されている発明の数に対応して、1つでも2つ以上でも、することができる。
 もとの特許出願Aに発明イと発明ロと発明ハが記載されているときは、特許出願Aを分割して発明ロについて新たな特許出願Bをし、さらに特許出願Aを分割して発明ハについて新たな特許出願Cをすることができる。

(e)もとの特許出願が分割に係る新たな特許出願である場合
 特許出願A(親出願)を分割して新たな特許出願B(子出願)をし、さらに子出願Bを分割して新たな特許出願C(孫出願)をした場合において、子出願B及び孫出願Cがそれぞれ分割の要件を満たしていれば、子出願B及び孫出願Cの出願時はそれぞれ親出願Aの出願時に遡及する(44条2項本文)。


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2023年1月30日 弁理士試験 代々木塾 講座案内

2023-01-30 09:18:16 | Weblog
2023年1月30日 弁理士試験 代々木塾 講座案内

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https://www.yoyogijuku.jp/


2023短答直前答練・4法 通信のみ 全4回
2023年3月31日~4月21日 全4回 毎週金曜日配信
毎週金曜日の夕方に問題と解答用紙(PDFファイル)の保存先のURLをメールで送信いたします。
出題範囲は、特許法、実用新案法、意匠法、商標法です。
毎回30問の問題について解答していただきます。
条文の確認ができるように条文に基づいた問題を中心とします。
ライブ解説は、ありません。
通信 割引料金(2023年1月30日(月)午後3時までにお振込みを完了した方)
 11,000円(税込み)
通信 通常料金
 13,200円(税込み)


2023論文直前答練 通信のみ 全9回
2023年3月31日~2023年5月26日 全9回 毎週金曜日配信
毎週金曜日の夕方に問題と解答用紙(PDFファイル)の保存先のURLをメールで送信いたします。
毎回、1科目の論文の答案を作成します。
特実法→意匠法→商標法の順番で3回繰り返します。
全9回です。
無人でライブ解説を行います。
通信 割引料金(2023年1月30日(月)午後3時までにお振込みを完了した方)
 31,900円(税込み)
通信 通常料金
 39,600円(税込み)
解答解説のみのお申込みも受け付けます。
価格は、通常料金の半額の19,800円(税込み)です。


2023短答直前模試(通信のみ)全2回
第1回の配信 2023年4月28日(金)夕方
第2回の配信 2023年5月5日(金)夕方
各回、合計60問の問題を3時間30分で解答する模擬試験です。
早割料金(2023年1月30日(月)午後3時までにお振込を完了した方)
通信 9,900円(税込み)
通常料金
通信 13,200円(税込み)


2023論文直前模試(通信のみ)全3回
第1回の配信 2023年6月2日(金)夕方
第2回の配信 2023年6月9日(金)夕方
第3回の配信 2023年6月16日(金)夕方
各回、必須3科目(特実法、意匠法、商標法)の解答を作成する模擬試験です。
早割料金(2023年1月30日(月)午後3時までにお振込を完了した方)
通信 30,800円(税込み)
通常料金
通信 39,600円(税込み)
解答解説(テキスト)のみの販売もいたします。
価格 19,800円(税込み)



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2023年1月30日 弁理士試験 代々木塾 特許法43条の2第1項

2023-01-30 07:36:27 | Weblog
2023年1月30日 弁理士試験 代々木塾 特許法43条の2第1項

(パリ条約の例による優先権主張)第四十三条の二
1 パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとしたにもかかわらず、同条C(1)に規定する優先期間(以下この項において「優先期間」という。)内に優先権の主張を伴う特許出願をすることができなかつた者は、経済産業省令で定める期間内に経済産業省令で定めるところによりその特許出願をしたときは、優先期間の経過後であつても、同条の規定の例により、その特許出願について優先権を主張することができる。ただし、故意に、優先期間内にその特許出願をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。

〔解説〕
 43条の2は、平成26年改正において、41条1項1号の改正と同様の趣旨により、特許法条約(PLT)に準拠して、優先期間徒過の救済について規定したものである。
 その後、令和3年改正により、救済の条件が「正当な理由」から「故意ではない」に緩和された。

・1項(救済)

(1)令和3年改正前

(a)42条の2第1項は、パリ条約4条D(1)の規定によるパリ条約の優先権の主張について、その主張を伴う特許出願を優先期間内にすることができなかったことについて正当な理由があり、かつ、優先期間の経過後一定期間内に当該特許出願をした場合の救済措置を規定している。

(b)42条の2第1項による救済を受けることができる期間は、41条1項1号と同様に「経済産業省令に定める期間」とすることとした。
 経済産業省令(特施規27条の4の2第2項)で定める期間は、優先期間の経過後2月である。

 経済産業省令(特許法施行規則)第二十七条の四の二
2 特許法第四十三条の二第一項(同法第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)の経済産業省令で定める期間は、パリ条約第四条C(1)に規定する優先期間の経過後二月とする。

(2)令和3年改正後

(a)令和3年改正により、優先期間内に優先権の主張を伴う特許出願をしなかったことが故意ではないと認められる場合であって、かつ、経済産業省令で定める期間内に経済産業省令で定めるところにより特許出願をしたときは、優先期間の経過後であっても優先権を主張することができることとした。
 令和3年改正により、救済条件を「正当な理由」から「故意ではない」に緩和することとしたものである。
 現在(2023年1月30日)、経済産業省令は公布されていない。2023年3月末までには公布される予定である。

(b)令和3年改正の趣旨(令和3年改正法解説書)
(2)改正の必要性
 日本国においては、特許庁の処分が後に行政争訟の対象となることも念頭に、「正当な理由」について慎重に解し、運用を進めてきた。
 この結果、近年、国内外の出願人等から、日本国の権利等の回復のための判断基準及び立証負担は、欧米諸国に比して厳格に過ぎるとの指摘を受けている。実態として、PLTに加入する諸外国における権利の回復申請に対する認容率は、故意でない基準を採用する国においては90%以上となっており、また、相当な注意基準を採用する国においても60%以上となっているが、日本国の認容率は突出して低い(10~20%程度)。また、手続面でも証拠書類の提出を必須としている点で厳しい運用となっている。
 特許等の権利化は国境を越えて行われることが多く、同様の手続の瑕疵に起因する期間徒過により喪失した権利等が他国では回復される一方、日本国では回復されない場合には、結果として日本国内では十分な救済が得られない事態になる。
2.改正の概要
(1)「故意でない基準」への転換
 PLTにおける権利等の回復のための要件を「相当な注意基準」から「故意でない基準」に転換し、特許法等において、手続期間を徒過した場合に救済を認める要件について、「(手続をすることができなかったことについて)正当な理由がある」から「(手続をしなかったことが)故意によるものでない」に改めることとした。

(3)PCT規則においては、優先権の回復の規定があるが、国際特許出願についても43条の2第1項が適用される(184条の3第2項)。

 PCT規則49の3.2 指定官庁による優先権の回復
(a)国際出願が先の出願に基づく優先権の主張を伴い、国際出願日が当該優先期間の満了の日の後であるが、当該満了の日から二箇月の期間内である場合には、指定官庁は、(b)の規定に基づく出願人の請求によつて、当該指定官庁が適用する基準(「回復のための基準」)が満たされていること、すなわち、優先期間内に国際出願が提出されなかつたことが、次のいずれかの場合によると認めたときには、優先権を回復する。
(ⅰ)状況により必要とされる相当な注意を払つたにもかかわらず生じた場合
(ⅱ)故意ではない場合
 各指定官庁は、これらの基準のうち少なくとも一つを採用し、また基準の両方を採用することができる。


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2023年1月29日 弁理士試験 代々木塾 特許法41条3項

2023-01-29 20:24:49 | Weblog
2023年1月29日 弁理士試験 代々木塾 特許法41条3項

(特許出願等に基づく優先権主張)第四十一条
3 第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面
(外国語書面出願にあつては、外国語書面)
に記載された発明のうち、
 当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面
(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)
に記載された発明
(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)
については、
 当該特許出願について特許掲載公報の発行又は出願公開がされた時に当該先の出願について出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものとみなして、第二十九条の二本文又は同法第三条の二本文の規定を適用する。

【解説】

・3項(先の出願が特29条の2又は実3条の2の引用例となる場合)

(1)41条3項は、国内優先権の主張の基礎となった先の出願は、出願公開されずに、その出願の日から経済産業省令で定める期間(1年4月)を経過した時に取り下げられたものとみなされる(42条1項)ことから、国内優先権の主張を伴う特許出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明のうち先の出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明については、国内優先権の主張を伴う特許出願について出願公開等がされた時に、当該先の出願が出願公開されたものとみなして、特許法29条の2又は実用新案法3条の2に規定する他の特許出願又は他の実用新案登録出願として先願の地位を与えようとするものである。

(2)41条3項によれば、後の出願が29条の2の他の出願となるのではなくて、先の出願が29条の2の他の出願となる点に注意しなければならない。
 41条2項の適用は、特許請求の範囲に記載された発明に限定されるので、国内優先権の主張を伴う後の出願が29条の2の先願に該当する場合は、29条の2の規定の趣旨にかんがみて、41条2項は適用されないと解される。特許請求の範囲に記載された発明に限定するのは、明細書又は図面に記載された発明にも後願排除効を認める29条の2の規定の趣旨と整合しないからである。
 具体例をあげて説明すると、甲の先の特許出願Aの日後、甲の後の特許出願Bの日前に、同一発明について乙が特許出願Cをしたときは、乙の特許出願Cの審査においては、甲の後の特許出願Bを引用して29条の2により拒絶されることはない。
 この場合は、41条3項により、後の特許出願Bについて出願公開がされたときに先の特許出願Aについて出願公開がされたものとみなして、先の特許出願Aを引用して、乙の特許出願Cは、29条の2により拒絶されることとなる。
 すなわち、41条2項では、後の特許出願の日前にされた他の特許出願に対しては、後の特許出願を引用して29条の2により拒絶することができないので、41条3項の規定を設けることとしたのである。

(3)外国語書面出願の場合は、後の外国語書面出願の外国語書面に記載された発明であって、かつ、先の外国語書面出願の外国語書面に記載された発明が、41条3項において読み替えて適用する29条の2による後願排除効を有する。

(4)先の出願が優先権の主張を伴う場合(41条3項かっこ書)において、より先の出願にも記載された発明については、国内優先権の主張の効果は認められない。すなわち、41条3項において読み替えて適用する29条の2による後願排除効は認められない。

(5)「先の出願について出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものとみなして」
 先の出願は、通常は、その日から経済産業省令で定める期間(1年4月)を経過した時にみなし取下げとなって(42条1項)、出願公開(64条1項)がされないので、直接29条の2の他の出願となることはない。しかし、出願公開は、29条の2の引用例となるために必要な要件である。そこで、後の出願が出願公開等されたときに、先の出願について出願公開等がされたものとみなすこととした。
 実用新案登録出願については、実用新案掲載公報の発行(実14条3項)が要件となる。実用新案法においては、出願公開制度が存在しないからである。


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2023年1月28日 弁理士試験 代々木塾 特許法38条の2

2023-01-28 00:30:22 | Weblog
2023年1月28日 弁理士試験 代々木塾 特許法38条の2

(特許出願の日の認定)第三十八条の二
1 特許庁長官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特許出願に係る願書を提出した日を特許出願の日として認定しなければならない。
一 特許を受けようとする旨の表示が明確でないと認められるとき。
二 特許出願人の氏名若しくは名称の記載がなく、又はその記載が特許出願人を特定できる程度に明確でないと認められるとき。
三 明細書(外国語書面出願にあつては、明細書に記載すべきものとされる事項を第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語で記載した書面。以下この条において同じ。)が添付されていないとき(次条第一項に規定する方法により特許出願をするときを除く。)。
2 特許庁長官は、特許出願が前項各号のいずれかに該当するときは、特許を受けようとする者に対し、特許出願について補完をすることができる旨を通知しなければならない。
3 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、その補完をすることができる。
4 前項の規定により補完をするには、経済産業省令で定めるところにより、手続の補完に係る書面(以下「手続補完書」という。)を提出しなければならない。ただし、同項の規定により明細書について補完をする場合には、手続補完書の提出と同時に明細書を提出しなければならない。
5 第三項の規定により明細書について補完をする場合には、手続補完書の提出と同時に第三十六条第二項の必要な図面(外国語書面出願にあつては、必要な図面でこれに含まれる説明を第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語で記載したもの。以下この条において同じ。)を提出することができる。
6 第二項の規定による通知を受けた者が第三項に規定する期間内にその補完をしたときは、その特許出願は、手続補完書を提出した時にしたものとみなす。この場合において、特許庁長官は、手続補完書を提出した日を特許出願の日として認定するものとする。
7 第四項ただし書の規定により提出された明細書は願書に添付して提出したものと、第五項の規定により提出された図面は願書に添付して提出したものとみなす。
8 特許庁長官は、第二項の規定による通知を受けた者が第三項に規定する期間内にその補完をしないときは、その特許出願を却下することができる。
9 特許を受けようとする者が第二項の規定による通知を受ける前に、その通知を受けた場合に執るべき手続を執つたときは、経済産業省令で定める場合を除き、当該手続は、その通知を受けたことにより執つた手続とみなす。

〔解説〕
・38条の2の規定の趣旨
 38条の2は、特許法条約(PLT)に整合した制度とすべく、平成27年改正により新設された規定であり、特許出願に係る願書を提出した日を特許出願の日として認定する旨を規定している。
 PLT5条(出願日)(1)では、特許出願手続に際して、出願の根幹にかかわるきわめて重要な3つの要件(①出願を意図する旨の明示的又は黙示的な表示があること、②出願人を特定することができる表示又は当該官庁が出願人に連絡することを可能とする表示があること、及び③明細書であると外見上認められる部分があること)が満たされていない場合には、官庁が出願人に対して、その要件を満たすよう通知して要件を満たすための機会及び意見を述べるための機会を与える旨を規定している。
 日本国においては、この規定に倣い、前記3つの要件のいずれにも該当しない場合には、特許出願に係る願書を提出した日を特許出願の日として認定する旨の規定(38条の2)を設けることとした。

・1項(出願日認定要件)
(1)特許出願が38条の2第1項1号~3号に該当しないときは、特許庁長官は、願書を提出した日を特許出願の日として認定しなければならない。

(2)願書に明細書(又は外国語書面のうち明細書に相当する部分)が添付されていないときは、38条の2第1項3号に該当し、願書を提出した日が特許出願の日として認定されない。

(3)38条の2第1項3号かっこ書
 ただし、先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願をしたときは(38条の3第1項)、外国語書面出願等を除き、願書に明細書が添付されていなくても、38条の2第1項1号及び2号に該当しないときは、特許庁長官は、願書を提出した日を特許出願の日として認定しなければならない(38条の2第1項3号かっこ書)。

・2項(補完通知)
(1)38条の2第2項は、特許出願が38条の2第1項各号のいずれかに該当する場合について規定している。
 特許出願が38条の2第1項各号のいずれかに該当する場合には、PLT5条(3)の規定に倣い、特許庁長官が出願人に対して補完をすることができる旨を通知しなければならないこととした。

(2)2項の「通知」は、商標法5条の2第2項のような補完命令ではない。

(3)18条の2第1項ただし書
 18条の2第1項は「特許庁長官は、不適法な手続であつて、その補正をすることができないものについては、その手続を却下するものとする。ただし、第三十八条の二第一項各号に該当する場合は、この限りでない。」と規定している。
 特許出願の願書に明細書が添付されていないときは、38条の2第2項により補完をすることができる旨の通知をしなければならないので、18条の2第1項の却下の対象から除外している。

・3項(手続の補完)
(1)38条の2第2項により補完をすることができる旨の通知を受けたときは、出願人は、経済産業省令で定める期間内に手続の補完をすることができる。

(2)経済産業省令(特施規27条の7)は「特許法第三十八条の二第三項の経済産業省令で定める期間は、同条第二項の規定による通知の日から二月とする。」と規定している。

・4項(手続補完書)
(1)38条の2第4項は、38条の2第3項の規定により補完をする場合の提出書類について規定している。

(2)手続の補完をするときは、手続補完書を提出しなければならない。
 手続補完書と手続補正書の区別を明確にするためである。
 手続補正書は、特許出願の日が認定された後に、手続の補正をするために提出する書類である。
 手続補完書は、特許出願の日が認定される前に、特許出願の日の認定要件を満たすようにするために提出する書類である。

(3)明細書の補完をするときは、手続補完書の提出と同時に明細書を提出しなければならない。

・5項(必要な図面の提出)
 38条の2第4項の規定により明細書の補完をするときは、明細書の補完の実効性確保の観点から、手続補完書と同時に必要な図面も提出することができる。

・6項(手続補完書提出の効果)
(1)38条の2第6項は、38条の2第2項の規定による通知に対応して出願人が手続の補完をした場合の効果について規定している。
 PLT5条(4)(a)では、出願当初に38条の2第1項に規定する要件のいずれかが充足されていなかった場合には、後に全てが満たされた日を出願日とする旨を規定している。
 このPLTの規定に倣い、38条の2第2項の規定による通知に対応して出願人が手続の補完をしたときは、その特許出願は当該補完に係る手続補完書を提出した時にしたものとみなされることとし、特許庁長官は、手続補完書を提出した日を特許出願の日として認定することとした。

(2)特許出願の日が、特許出願の願書を提出した日に遡及するわけではない。

・7項(明細書等の提出の効果)
 38条の2第7項は、38条の2第3項の規定により補完された明細書及び38条の2第5項の規定により提出された図面の取扱いについて、36条2項の規定により願書に添付して提出したものとして取り扱う旨を規定している。

・8項(手続補完書不提出の効果)
(1)38条の2第8項は、出願人が38条の2第2項の規定による通知に対して所定の期間内にその補完をしなかった場合について規定している。
 PLT5条(4)(b)では、38条の2第1項に規定する要件が所定の期間内に満たされなかった場合には、出願がされなかったものとみなすことができる旨を規定している。
 このPLTの規定に従い、当該補完をしなかった場合については、特許庁長官は、その特許出願を却下することができることとした。

(2)特許出願が却下されると、出願人は、特許を受けることができない。

・9項(補完通知前に手続補完書を提出した場合)
(1)38条の2第9項は、PLT5条(4)において、官庁による通知がなされていない場合における手続補完が想定されていることに倣い、出願人が、38条の2第2項の規定による通知がなされていない場合に自発的にする補完手続について規定している。

(2)自発的な補完手続をすることが認められない場合については、経済産業省令で定めることとした。
 経済産業省令(特施規27条の9)は「特許法第三十八条の二第九項の経済産業省令で定める場合は、同条第二項の規定による通知を受けた場合に執るべき手続を特許出願として提出された書類が特許庁に到達した日から二月を経過した後に執つた場合とする。」と規定している。


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2023年1月27日 弁理士試験 代々木塾 特許法36条の2

2023-01-27 02:59:51 | Weblog
2023年1月27日 弁理士試験 代々木塾 特許法36条の2

 特許法第三十六条の二
1 特許を受けようとする者は、前条第二項の明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書に代えて、同条第三項から第六項までの規定により明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)並びに同条第七項の規定により要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)を願書に添付することができる。
2 前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は、その特許出願の日
(第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、同項に規定する先の出願の日、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、最初の出願若しくはパリ条約(略)第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の日、第四十一条第一項、第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあつては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日。第六十四条第一項において同じ。)
から一年四月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。
 ただし、当該外国語書面出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願である場合にあつては、本文の期間の経過後であつても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から二月以内に限り、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出することができる。
3 特許庁長官は、前項本文に規定する期間(同項ただし書の規定により外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出することができるときは、同項ただし書に規定する期間。以下この条において同じ。)内に同項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかつたときは、外国語書面出願の出願人に対し、その旨を通知しなければならない。
4 前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
5 前項に規定する期間内に外国語書面(図面を除く。)の第二項に規定する翻訳文の提出がなかつたときは、その特許出願は、同項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたものとみなす。
6 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、第二項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。ただし、故意に、第四項に規定する期間内に前項に規定する翻訳文を提出しなかつたと認められる場合は、この限りでない。
7 第四項又は前項の規定により提出された翻訳文は、第二項本文に規定する期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
8 第二項に規定する外国語書面の翻訳文は前条第二項の規定により願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面と、第二項に規定する外国語要約書面の翻訳文は同条第二項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす。

〔解説〕
・36条の2の規定の趣旨
 平成6年改正前の特許法においては、特許出願にあたっては願書を提出するとともに、願書には明細書、必要な図面及び要約書を添付しなければならず(36条2項)、これらの書類は全て日本語により作成しなければならないとされていた。
 このため、平成6年改正前は、外国人が日本国に特許出願を行う場合は、通常、外国語により行った第1国出願に基づきパリ条約の優先権を主張し、願書に日本語に翻訳した明細書等を添付することにより行っていた。
 しかし、平成6年改正前の特許法においては、①パリ条約の優先権を主張することができる1年の期間が経過する直前に特許出願をせざるを得ない場合には、短期間に翻訳文を作成する必要が生じることに加え、②願書に最初に添付した明細書又は図面(すなわち外国語を日本語に翻訳した出願当初の明細書又は図面)に記載されていない事項を出願後に補正により追加することは認められないため、外国語を日本語に翻訳する過程で誤訳があった場合には、外国語による記載内容をもとにしてその誤訳を訂正することができないなど、発明の適切な保護を図ることができない場合があった。
 このような問題点を解決するため、平成6年改正において、36条の2を新設し、外国語書面出願について規定することとした。

・1項(外国語書面出願の場合は願書に外国語書面と外国語要約書面を添付)
(1)36条の2第1項は、外国語書面出願の提出書類について規定している。
 願書には日本語で作成した明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない(36条2項)が、36条の2第1項では、これに代えて日本語による願書に、①明細書に記載すべき事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面、②必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの及び③要約書に記載すべき事項をその外国語で記載した書面を添付して提出することができる旨を規定している。

(2)外国語書面出願の「願書」は、日本語で作成しなければならない。
 外国語書面出願の「願書」が外国語で作成されている場合は、18条の2の却下の対象となる(方式審査便覧15.20)。

(3)外国語書面及び外国語要約書面は、経済産業省令で定める外国語で作成しなければならない。
 経済産業省令(特施規25条の4)は「特許法第三十六条の二第一項の経済産業省令で定める外国語は、英語その他の外国語とする。」と規定している。
 平成27年改正により、英語以外の全ての外国語が含まれることとなった。

・2項本文(外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出)
(1)36条の2第2項は、36条の2第1項の規定により願書に添付した外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出義務について規定している。
 日本国においては、特許権は日本語により発生させる必要があることから、特許協力条約に基づく外国語特許出願については翻訳文の提出を求めていた。外国語書面出願においても同様であるため、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出しなければならないこととした。

(2)平成18年改正
 36条の2第2項に規定する翻訳文の提出期間は、平成18年改正前は出願の日から2月以内とされていたが、日本国に外国語書面出願により第1国出願をする出願人の翻訳文作成負担の軽減を図るため、平成18年改正により、優先日から1年2月以内に延長された。
 「1年2月」としたのは、①分類付与や公報発行準備等の出願公開前に必要な作業に4月程度を要していたこと、②外国語書面出願の翻訳文提出期間が1年より短いと、外国語書面出願(先の出願)に基づいて国内優先権を主張して新たな外国語書面出願(後の出願)を行う場合であって、翻訳文提出期間の経過後に後の出願を行う場合、先の出願と後の出願の両者について翻訳文を作成する必要がある(翻訳文を提出しておかないと、先の出願がみなし取下げとなってしまう)ことを考慮したためである。

(3)平成26年改正における17条の3の改正に伴い、「特許出願の日」及び「パリ条約」の略称が、36条の2第2項に規定された。

(4)平成27年改正
 平成27年改正において、17条の4の規定により、所定の期間内(経済産業省令において優先日から1年4月又は出願日から4月のいずれか遅い日までと規定)に限り、優先権の主張の補正をすることができることとなった。
 そのため、外国語書面出願の翻訳文提出期間の起算日である優先日は、優先日から1年4月を経過するまでは確定しないこと、及び分類付与や公報発行準備等の出願公開前に必要な作業のために少なくとも2月程度を要することを踏まえれば、出願公開の対象となる外国語書面出願に係る翻訳文は遅くとも優先日から1年4月を経過するまでに特許庁長官に提出されている必要があることを考慮し、平成27年改正により、36条の2第2項に規定する翻訳文の提出期間については、「1年2月」を「1年4月」とすることとした。

(5)外国語書面の翻訳文の提出期間は、原則として、特許出願の日から1年4月以内である。

(6)「特許出願の日」とは、原則として願書を提出した日をいうが(38条の2第1項)、出願日遡及の要件を満たすときは、優先権の主張を伴う出願は最先の日(36条の2第2項かっこ書)、分割出願はもとの出願の日(44条2項本文)、変更出願はもとの出願の日(46条6項、44条2項)、46条の2の特許出願は実用新案登録出願の日(46条の2第2項本文)をいう。

(7)特許実用新案審査基準によれば、外国語書面の翻訳文を提出する前は、外国語書面出願を分割(44条1項)することができない。
 44条1項のもとの特許出願に2以上の発明が包含されていることの要件は、分割直前の明細書等を基準とするので、外国語書面の翻訳文が提出されていなければ、この要件を判断することができないからである。

(7)特許実用新案審査基準によれば、外国語書面の翻訳文を提出する前であっても、外国語書面出願を実用新案登録出願に変更することができる(実10条1項)。
 外国語書面出願を実用新案登録出願に変更する場合、外国語書面に記載した事項の範囲内で変更することができるので、変更の要件を判断する際に、外国語書面の翻訳文は不要であるからである。

(8)外国語書面に図面の中の説明がない場合でも、翻訳文として図面の全体を提出することが必要である。外国語特許出願(184条の4第1項)とは異なり、図面(図面の中の説明に限る。)という限定がないからである。

・2項ただし書(分割出願等の翻訳文の提出期間の特例
(1)36条の2第2項ただし書は、特許出願の分割若しくは出願の変更に係る外国語書面出願、又は実用新案登録に基づく外国語書面出願を行った場合について規定している。

(2)分割に係る新たな特許出願(44条1項)、変更に係る特許出願(46条1項、2項)、実用新案登録に基づく特許出願(46条の2第1項)を外国語書面出願(36条の2)でした場合において、外国語書面等の翻訳文の提出期限は、原則として、もとの出願の日から1年4月以内である(36条の2第2項本文)。
 しかし、分割に係る新たな特許出願をもとの特許出願の日から1年4月を経過した後にしたときは、外国語書面等の翻訳文の提出期間がすでに経過していて、翻訳文を提出することができないという不都合が生ずる。
 そこで、分割に係る新たな特許出願等を外国語書面出願でした場合には、分割等の日から2月以内に限り、外国語書面等の翻訳文を提出することができることとした(36条の2第2項ただし書)。

(a)外国語書面出願が分割出願である場合において、分割の日がもとの特許出願の日から1年4月を経過した後であるときは、分割の日から2月以内に外国語書面等の翻訳文を提出することができる。

(b)外国語書面出願が変更出願である場合において、変更の日がもとの出願の日から1年4月を経過した後であるときは、変更の日から2月以内に外国語書面等の翻訳文を提出することができる

(c)外国語書面出願が46条の2の特許出願である場合において、特許出願が実用新案登録出願の日から1年4月を経過した後に行われたときは、遡及しない出願の日から2月(46条の2第2項ただし書)以内に外国語書面等の翻訳文を提出することができる。
 実用新案登録に基づく特許出願の日という場合には、遡及する日なのか、遡及しない日なのか、明確ではない。そこで、46条の2第2項ただし書において、遡及しない日から2月以内であることを明確にしている。

・3項(翻訳文不提出の通知)
 36条の2第3項は、PLT(特許法条約)に整合した制度とすべく、平成27年改正により新設された規定であり、所定の期間内に36条の2第2項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文の提出がなかった旨の通知について規定している。
 PLT6条(7)では、特許出願に関する所定の要件が満たされていなかった場合に、官庁が出願人に対しその旨を通知し、その要件を満たすための機会及び意見を述べるための機会を与える旨が規定されている。
 日本国においては、この規定に倣い、外国語書面出願の出願人が36条の2第2項に規定する期間内に日本語による翻訳文を提出しなかった場合には、特許庁長官は、出願人に対してその旨を通知しなければならないこととし、36条の2第4項において、当該通知を受けた者は、一定期間内に限り当該翻訳文を提出することができることとした。

・4項(3項の通知を受けた場合の翻訳文の提出)
(1)36条の2第3項の通知を受けた出願人は、経済産業省令で定める期間内に外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出することができる。

(2)経済産業省令(特施規25条の7第4項)
 特許法第三十六条の二第四項の経済産業省令で定める期間は、同条第三項の規定による通知の日から二月とする。

・5項(外国語書面の翻訳文不提出の効果)
(1)36条の2第5項は、翻訳文の提出がない場合の取扱いについて規定している。
 外国語書面出願の日から1年4月以内に外国語書面のうち明細書及び特許請求の範囲に相当する書面の翻訳文の提出がなかった場合は、特許協力条約に基づく外国語特許出願について明細書及び請求の範囲の翻訳文が提出されなかった場合の取扱い(184条の4第3項)と同様に、外国語書面出願は取り下げられたものとみなすこととした。

(2)平成27年改正において、外国語書面出願が取り下げられたものとみなされる時期を明確化した。

(3)36条の2第4項の経済産業省令で定める期間内に外国語書面(図面を除く)の翻訳文が提出されなかったときは、外国語書面出願の日から1年4月の期間の経過の時に取り下げられたものとみなされる。

(4)外国語書面のうち図面の翻訳文を提出しないことを理由としては、取り下げられたものとみなされることはない。特許出願において図面は必要的書面ではないからである(36条2項)。
 図面の翻訳文が提出されなかった場合は、願書には図面は添付されなかったものとみなされる(36条の2第8項反対解釈)。

(5)外国語要約書面の翻訳文が提出されなかった場合は、技術情報としての利用に供することができるよう出願人に補正を命じれば足りるため(17条3項2号)、外国語書面出願のみなし取下げとはしないこととした。

・6項(翻訳文提出の救済措置)
(1)36条の2第6項は、36条の2第5項によって外国語書面出願が取り下げられたとみなされた後も、一定の要件のもと、外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出を認める旨を規定している。

(2)平成23年改正
 36条の2第6項の救済手続は、PLT(特許法条約)に整合した制度とすべく、平成23年改正において新たに導入したものである。
 PLT12条(権利の回復)は、手続期間を徒過した場合の救済を認める要件として、期間徒過につき「DueCare(いわゆる『相当な注意』)を払っていた」又は、「Unintentional(いわゆる『故意ではない』)であった」のいずれかを選択することを認めている。
 諸外国の立法例においては、「DueCare」を選択した場合は比較的低額な手数料と組み合わせ、他方「Unintentional」を選択した場合は比較的高額な手数料と組み合わせている。
 日本国においては、既存の救済手続がこれまで手数料を徴収していないことから、平成23年改正による救済手続についても手数料は徴収しないこととし、それを前提に第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として、「DueCare」を採用することとした。
 そして、具体的な条文の文言は、行政事件訴訟法14条1項等の規定に倣い、「その責めに帰することができない理由」に比して緩やかな要件である「翻訳文を提出することができなかつたことについて『正当な理由』があるとき」とした。
 また、救済手続を認める期間については、PLT規則13規則(2)が、少なくとも「理由がなくなつた日から二月以内で手続期間経過後一年以内」と規定していること、また特許協力条約に基づく規則49.6においても同様の期間が採用されていることから、この期間が、時期的要件に関し実質的な救済を図るに足る水準でありユーザーニーズを満足するものとして国際的コンセンサスを得ていると考えられるため、これに従うこととした。

(3)平成27年改正
 36条の2第6項の救済期間は、平成27年改正において、5条3項(期間経過後の期間の延長請求)と同じ理由により、経済産業省令で定める期間として定めることとした。

(4)令和3年改正
 日本国においては、特許庁の処分が後に行政争訟の対象となることも念頭に、「正当な理由」について慎重に解し、運用を進めてきた。
 この結果、近年、国内外の出願人等から、日本国の権利等の回復のための判断基準及び立証負担は、欧米諸国に比して厳格に過ぎるとの指摘を受けている。実態として、PLTに加入する諸外国における権利の回復申請に対する認容率は、故意でない基準を採用する国においては90%以上となっており、また、相当な注意基準を採用する国においても60%以上となっているが、日本国の認容率は突出して低い(10~20%程度)。また、手続面でも証拠書類の提出を必須としている点で厳しい運用となっている。
 特許等の権利化は国境を越えて行われることが多く、同様の手続の瑕疵に起因する期間徒過により喪失した権利等が他国では回復される一方、日本国では回復されない場合には、結果として日本国内では十分な救済が得られない事態になる。
 そこで、令和3年改正において、PLTにおける権利等の回復のための要件を「相当な注意基準」から「故意でない基準」に転換し、手続期間を徒過した場合に救済を認める要件について、「(手続をすることができなかったことについて)正当な理由がある」から「(手続をしなかったことが)故意によるものでない」に改めることとした。

(5)36条の2第5項の規定により取り下げられたものとみなされた外国語書面出願の出願人は、36条の2第4項に規定する期間内に36条の2第5項に規定する翻訳文を提出しなかったことが「故意」ではないときは、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。

・7項(翻訳文提出の救済措置)
(1)36条の2第7項は、36条の2第4項又は6項の救済手続によって提出された翻訳文の取扱いについて規定している。
 救済手続による外国語書面の翻訳文の提出があった外国語書面出願が、本来の提出期間内に翻訳文が提出された外国語書面出願と同様に特許庁に係属していることを明確にするため、36条の2第7項において、当該翻訳文は、36条の2第2項本文に規定する期間が満了する時に提出されたものとみなす旨を規定した。
 翻訳文の提出時期を「第二項本文に規定する期間が満了する時」とするのは、本来の提出期間内に翻訳文が提出された場合との衡平から、救済手続による翻訳文は当該期間内で最も遅い時期に提出されたものとするためである。

(2)36条の2第4項又は6項の規定により提出された翻訳文は、36条の2第2項本文に規定する期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなされる。

(3)これにより翻訳文が所定の期間内に提出されたことになり、36条の2第5項のみなし取下げが撤回される。

・8項(翻訳文の効力)
(1)36条の2第8項は、36条の2第2項の規定により提出された翻訳文の特許法上の位置付けについて規定している。
 特許法においては、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」が審査の対象となるとともに、これらに基づき特許権、補償金請求権が発生する。外国語書面出願の場合は、特許協力条約に基づく外国語特許出願と同様(184条の6)、外国語書面の翻訳文を願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面とみなし、外国語要約書面の翻訳文を願書に添付して提出した要約書とみなすことにより、翻訳文が審査及び特許権等の対象となることを明確にした。
 36条の2第8項の規定により、外国語書面出願の審査は、特許法上の明細書等とみなされた翻訳文に基礎をおいてすればよいこととなるが、このような取扱いとしたのは、特許権等の範囲が外国語書面で確定されるとすると、第三者は常に外国語書面にあたることが必要となり第三者の監視負担がきわめて大きいこと、審査の対象を外国語書面とすると、たとえ翻訳文が提出されたとしても拒絶理由の有無等は外国語書面に基づいて審査しなければならず、迅速な審査に支障をきたすこと等を考慮したためである。

(2)外国語書面の翻訳文は、願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲、図面とみなす。

(3)外国語要約書面の翻訳文は、願書に添付して提出した要約書とみなす。

(4)図面の翻訳文が含まれていないときは、図面とみなされるものが存在しないため、外国語書面出願の願書に添付した図面はなかったものとみなされる。
 ただし、外国語書面に図面が含まれていなかったものとみなされることはないので、誤訳訂正書により図面を追加する補正をすることができる。


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2023年1月26日 弁理士試験 代々木塾 特許法36条

2023-01-26 04:00:50 | Weblog
2023年1月26日 弁理士試験 代々木塾 特許法36条

(特許出願)第三十六条
1 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。
7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。

〔解説〕
・1項(願書の記載事項)
(1)36条1項2号は「発明者の氏名及び住所又は居所」と規定しているため、「発明者の名称」は含まれない。したがって、発明者は自然人のみであると解される。
 なお、PCTの国際出願では、法人が発明者となり得る締約国を考慮して、国際出願の願書には「発明者の氏名又は名称」を記載することとしている。
 したがって、国際特許出願の発明者が法人であるときは、日本国は、これを認める義務が生ずる(26条)。

(2)「発明の名称」は、願書の必要的記載事項から除外されている。
 平成10年改正において、願書と明細書の結合を表すべく願書と明細書の双方に記載を求めていた「発明の名称」について、ペーパーレスを前提とした業務処理において、こうした機能は不要である等の趣旨により、改正前2号に規定していた「発明の名称」を削除した。これにより、願書においては「発明の名称」の記載を求めず、特許情報等の利用においては明細書中に記載の「発明の名称」を利用することとした。

(3)「提出の年月日」は、願書の必要的記載事項から除外されている。
 平成8年改正前の2号に規定していた「提出の年月日」は、願書を作成する際に出願人がその提出の年月日を確定できないこと及び出願の年月日を認定するのは特許庁であること等の趣旨により削除した。
 ただし、出願日は、なるべく記載することとされている(特施規様式26備考30)。出願人においても、特許庁においても、出願日が記載されている方が便宜であるからである。

(4)法人の代表者の氏名等は、代理人がいる場合は、記載する必要がない(特施規様式26備考20)。
 平成8年改正前は、代理人の有無にかかわらず、常に記載することを義務付けていた「(出願人が)法人にあつては代表者の氏名」を、平成8年改正により、代理人がいる場合には不要とする趣旨で削除した。

・2項(添付書面)
(1)図面は、必要である場合に添付する。
 化学関連の発明のように、図面が必要でないときは、図面は添付しなくてもよい。

(2)願書に明細書が添付されていない場合は、補完することができる旨の通知がされる(38条の2第1項3号、2項)。18条の2の却下の対象から除外されている。
 ただし、先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願(38条の3)をするときは、願書に明細書が添付されていなくてもよい。

(3)願書に要約書が添付されていない場合には、補正命令の対象となる(17条3項2号)。
 要約書は、平成2年改正により、願書に添付して提出することが義務付けられたもので、特許協力条約をはじめとして欧米主要国においてすでに採用されているものと同様のものであり、その目的は、明細書等の内容の迅速かつ的確な把握を可能とする点にある。
 なお、要約書は、もっぱら技術情報として用いることをその目的とするものであり、その記載は、特許発明の技術的範囲を定めるに当たって考慮されない(70条3項)。

・3項(明細書の記載事項)
 明細書には、「発明の名称」を記載しなければならない。
 「発明の名称」は、願書の必要的記載事項から除外されたが(36条1項)、明細書の必要的記載事項とされている。

・4項(発明の詳細な説明の記載要件を規定)
 36条4項は、発明の詳細な説明の記載要領を規定している。
 特許制度は発明を公開した者にその代償として一定期間一定の条件で独占権を付与するものであるが(1条)、発明の詳細な説明の記載が明確になされていないときは、発明の公開の意義も失われ、ひいては特許制度の目的も失われてくることになる。その意味で36条4項はきわめて重要な規定である。

・36条4項1号(委任省令要件、開示要件)
 経済産業省令(特施規24条の2)は「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載しなければならない。」と規定している。
 明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。

 平成6年改正において、「容易にその実施をすることができる程度に」と規定されていたのを「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に」と改めているが、これは制度の国際的調和の観点から法文上の整合性を担保したものであり、実体上の改正を企図したものではない。

・36条4項2号(先行技術文献名の記載)
(1)36条4項2号は、平成14年改正により新設されたものであり、出願人の有する先行技術文献情報を有効活用するため、改正前は努力規定となっていた先行技術文献情報の開示を義務化することにより、信義誠実の原則のもと、出願人による積極的な情報開示を促すものである。
 36条4項2号に基づいて、先行技術文献情報が開示されれば、審査官及び第三者にとって従来技術の客観的な理解が容易となり、その結果、その情報に基づいた本願発明の把握及び先行技術調査が容易となる。
 開示がない場合には、審査官から通知(48条の7)をして開示を促し、それでもなお開示しない場合には拒絶理由(49条5号)とされている。
 すぐに拒絶理由としないのは、開示義務違反を常に審査対象とすると審査の遅延等を招く可能性があるためである。
 また、開示義務違反を理由とした特許無効審判の請求が多発する可能性があることを考慮して、特許の無効理由から除外されている(123条1項4号)。
 なお、「文献公知発明に関する情報」とは、その発明そのものを内容とする情報を意味し、その情報の「所在」とは、頒布された刊行物に記載された発明にあってはその情報が記載された刊行物の名称を、また電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあってはその情報を特定するURL等を、それぞれ意味する。

(2)文献公知発明とは、29条1項3号の発明(1号と2号は除外)をいう。
 29条1項1号及び2号を除外したのは、発明が29条1項1号又は2号に該当するかどうかの判断が容易でないからである。

(3)出願人のみならず、発明者が知っている場合も含まれる。
 出願人が法人の場合は、その法人が過去にした出願、論文発表等も知っていることに該当する。

(4)特許出願の時に知っていることが必要である。
 出願審査の請求時に知っている文献情報の開示を義務づけることは、日本国の特許庁よりも先に行われた外国特許庁での審査において引用された文献をも開示する義務が生じ、出願人の負担が過大となるからである。

(5)情報の所在とは、刊行物の名称、URL等をいう。情報の内容ではない。

・5項(特許請求の範囲の位置づけを規定)
(1)36条5項は、きわめて重要な意義を有する。発明の詳細な説明の記載が発明の公開という点から重要な意義を有するものであるのに対し、特許請求の範囲の記載は、権利範囲がこれによって定まる(70条1項)という点において重要な意義を有する。
 36条5項の記載が正確でないときは、その権利の制約を受ける公衆が不利益を受けるのみならず、権利者自身も無用の争いに対処しなければならず、不利不便をまぬかれない。
 36条5項の記載が正確であるためには、特許請求の範囲の外延が明瞭に示されているのみでは足らず、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えた部分について記載するものであってはならない。かりに発明の詳細な説明に記載しない部分について特許請求の範囲に記載することができるとすると、公開しない発明について権利を請求することになる。逆に、発明の詳細な説明に記載した発明の一部についてのみ特許請求の範囲に記載し、他の一部の発明については記載されていないときは、必ずしも36条5項違反になるとは限らない。このような場合は、明細書にのみ記載した発明については、公開をしたにもかかわらず、特許を請求しなかったということになる。

(2)36条5項前段は、特許請求の範囲に記載すべき事項について規定している。
 改正前の36条5項は、昭和62年改正により、「請求項」を「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項」と定義し、欧米の a claimに相当する概念として日本国の法律に請求項という概念を導入するとともに、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載するとすることにより、1の請求項から必ず発明が把握されるように記載しなければならないことを担保した規定である。
 しかし、この「発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載するとの規定では、特許請求の範囲の記載が制約され、発明をより適切に記載できない場合が生ずることもあった。
 そこで、平成6年改正において、36条5項の規定を改正し、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」を記載する旨を規定することによって、発明の構成にかかわらず、技術の多様性に柔軟に対応した特許請求の範囲の記載を可能とすることとした。
 36条5項前段の規定により、特許請求の範囲は、①特許出願人が自らの判断で特許を受けることによって保護を求めようとする発明を記載するものであり、②特許請求の範囲に記載した事項は、特許出願人自らが「発明を特定するために必要と認める事項のすべて」と判断した事項であることが明確となった。

 なお、36条5項は、特許出願人が特許請求の範囲の記載にあたって何を記載すべきかを規定することによって、特許請求の範囲の位置付けを明らかにしたものであるから、その位置付けからみて、特許出願人の意思にかかわらず、審査官が特許を受けようとする発明を認定し、その発明を特定するために必要と認められる事項の全てが記載されているかどうかを判断することは適当でない。
 そこで、49条4号の規定から36条5項を削除し、「発明を特定するために必要と認められる事項のすべて」が記載されているかどうかは、拒絶(49条)、特許異議の申立て(113条)又は特許無効の理由(123条)から除外することとした。

(3)36条5項後段は、昭和62年改正において全面的に改正された改正前の36条6項を平成6年改正において移動したものであり、「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」と規定することにより、同一の発明について複数の請求項を記載することができることを確認的に規定したものである。
 したがって、昭和62年改正により、発明の詳細な説明に段階的に開示した発明のうちから出願人が任意に選び出した発明について、それらの発明が相互に同一であるか否かを問わず、特許請求の範囲に記載することができることとなった。

(4)「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載」とは、1つの発明であっても複数の表現形式で記載することができることを意味する。

(5)特許請求の範囲に複数の異なる発明が記載されている場合には、37条の発明の単一性の要件を満たすことが必要である。

・6項(特許請求の範囲の記載要件)

・36条6項1号
 36条6項1号は、昭和62年改正前の36条4項「発明の詳細な説明に記載した発明の…」に対応する規定であり、特許請求の範囲の記載に際し、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定している。
 発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することができるとすると、公開しない発明について特許を請求することができることとなり、これを防止する規定である点で、昭和62年改正前の規定と同様である。

・36条6項2号
(1)36条6項2号は、平成6年改正において新設された規定である。
 特許請求の範囲の記載は、特許権の範囲がこれによって確定される(70条1項)という点において重要な意義を有するものであるから、その記載は正確でなければならず、1の請求項から必ず発明が把握されることが必要である。
 平成6年改正前は、こうした機能は、「発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載させることにより担保していたが、平成6年改正においては、36条5項前段に加え36条6項に2号の規定を設けることにより引き続き担保し、あわせて制度の国際的調和を図ることとした。
 36条6項2号は、このような特許請求の範囲の機能を担保するうえで重要となる規定であり、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定したものである。
 36条6項2号の規定により、特許権の範囲を確定する際の前提となる特許請求の範囲の記載の明確性が担保されることになる。

(2)最高裁平成27年6月5日判決(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
 この最高裁判決は、36条6項2号に関し、次のとおり判示している。
 「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解する。」
 この最高裁判決によれば、物の発明であっても、例外的に、特許請求の範囲に製造方法を記載することができる場合があると解される。

・36条6項3号
 36条6項3号は、平成6年改正において新設された規定である。
 特許請求の範囲の記載は、特許権の範囲がこれによって確定される(70条1項)という点において重要な意義を有するものであるから、その記載は正確でなければならず、1の請求項から必ず発明が把握されることが必要である。
 平成6年改正前は、このような機能は、「発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載させることにより担保していたが、平成6年改正においては、36条5項前段に加え36条6項に3号の規定を設けることにより引き続き担保し、あわせて制度の国際的調和を図ることとした。
 36条6項3号は、請求項ごとの記載が簡潔でなければならない旨を規定したものである。特許請求の範囲の記載は、70条1項に規定されているように権利解釈にあたっての基礎となるものであるから、第三者にとって理解しやすいように簡潔な記載とすることが適当である。
 そこで、制度の国際的調和の観点をも踏まえ、請求項ごとの記載に必要以上に重複した記載があるなど冗長であるときは、36条6項3号に基づき49条4号の拒絶理由の対象とすることとした。

・36条6項4号
(1)36条6項4号は、昭和62年改正前の36条5項「特許請求の範囲の記載は、通商産業省令で定めるところにより、しなければならない。」に対応する規定であり、昭和62年改正前と同様、特許法施行規則24条の3に特許請求の範囲の記載に関する技術的な規定を設けている。

(2)経済産業省令(特施規24条の3)
 特許法第三十六条第六項第四号の経済産業省令で定めるところによる特許請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
一 請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載しなければならない。
二 請求項に付す番号は、記載する順序により連続番号としなければならない。
三 請求項の記載における他の請求項の記載の引用は、その請求項に付した番号によりしなければならない。
四 他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、引用する請求項より前に記載してはならない。
五 他の二以上の請求項の記載を択一的に引用して請求項を記載するときは、引用する請求項は、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用してはならない。

・令和4年改正の趣旨
 近年、中国を始めとして世界の特許出願が大きく増加し、それに伴って発明の新規性や進歩性の要件を判断する際に検討すべき文献数・言語などの種類も急激に増大しており、審査処理負担が増大している。
 このような中、いわゆる「マルチマルチクレーム」(多数項引用形式請求項を引用する多数項引用形式請求項)は、1の請求項で表現される発明を把握するにあたって、その請求項が引用する各請求項の記載を組み合わせて把握する必要があり、発明の把握に負担を生じさせている。特に、マルチマルチクレームが繰り返された場合、その組合せの数は、指数関数的に増えることとなる。ほとんどの出願(出願全体の約99%)において、出願時の特許請求の範囲に記載される請求項の数は30以下であり、1,000を超えることはきわめて少ないにもかかわらず、マルチマルチクレームの存在により、引用形式を採らずに複数の発明を各請求項に別々に記載した場合の請求項の数(実質的な請求項の数)が1,000以上になる出願が出願全体の約5%に達していることは、審査処理の負担や第三者の監視負担を生じさせる要因となっている。
 また、マルチマルチクレームは、日米欧中韓の主要庁のうち米国・中国・韓国において認められていない。グローバルな権利取得が促進される中、出願人は、各国の制度に応じた形式で請求項を記載する必要があるところ、各国対応の負担が増大しており、各国で制度が異なると、第三者には、各国で異なる記載の請求項を監視する負担が生じることから、マルチマルチクレームの制限は、国際調和の観点からも必要とされている。
 そこで、令和4年改正において、特許法施行規則24の3第5号を新設し、マルチマルチクレームを制限することとした。

・具体例1(特許実用新案審査基準)
【請求項1】特定構造のボールベアリング。
【請求項2】内輪がステンレス鋼である請求項1記載のボールベアリング。
【請求項3】外輪がステンレス鋼である請求項1又は2記載のボールベアリング。
【請求項4】外輪の外側に環状緩衝体を設けた請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のボールベアリング。
【請求項5】前記環状緩衝体はゴムである請求項4記載のボールベアリング。
(説明)
 択一的な多数項引用形式請求項である請求項4は、他の択一的な多数項引用形式請求項である請求項3を引用しているため、特許法施行規則24条の3第5号違反となる。
 請求項5は、5号違反とはならないものの、5号に違反する請求項4を引用する請求項であるので、審査官は、請求項4及び請求項5については、36条6項4号及び特許法施行規則24条の3第5号以外の要件についての審査対象としない。

・具体例2(特許実用新案審査基準)
【請求項1】特定構造のボールベアリング。
【請求項2】内輪がステンレス鋼である請求項1記載のボールベアリング。
【請求項3】外輪がステンレス鋼である請求項1又は2記載のボールベアリング。
【請求項4】請求項1~3のいずれか1項に記載のボールベアリングを製造する方法。
(説明)
 請求項3に係る発明と請求項4に係る発明は発明のカテゴリーが異なるものの、択一的な多数項引用形式請求項である請求項4は、他の択一的な多数項引用形式請求項である請求項3を引用しているため、特許法施行規則24条の3第5号違反となる。審査官は、請求項4については、36条6項4号及び特許法施行規則24条の3第5号以外の要件についての審査対象としない。

・具体例3(特許実用新案審査基準)
【請求項1】特定構造のボールベアリング。
【請求項2】外輪の外側に環状緩衝体を設けた請求項1記載のボールベアリング。
【請求項3】内輪がステンレス鋼である請求項1又は2記載のボールベアリング。
【請求項4】前記ステンレス鋼はフェライト系ステンレス鋼である請求項3記載のボールベアリング。
【請求項5】前記ステンレス鋼はマルテンサイト系ステンレス鋼である請求項3記載のボールベアリング。
【請求項6】外輪がステンレス鋼である請求項4又は5記載のボールベアリング。
(説明)
 択一的な多数項引用形式請求項である請求項6は、他の択一的な多数項引用形式請求項である請求項3を間接的に引用しているため、特許法施行規則24条の3第5号違反となる。審査官は、請求項6については、36条6項4号及び特許法施行規則24条の3第5号以外の要件についての審査対象としない。

・具体例4(特許実用新案審査基準)
【請求項1】特定構造のネジ山を有するボルト。
【請求項2】アルミニウム合金からなる請求項1記載のボルト。
【請求項3】さらにフランジ部を有する請求項1又は2記載のボルト。
【請求項4】特定構造のネジ溝を有するナット。
【請求項5】アルミニウム合金からなる請求項4記載のナット。
【請求項6】さらにフランジ部を有する請求項4又は5記載のナット。
【請求項7】請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のボルト、及び、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のナットからなる締結装置。
(説明)
 択一的な多数項引用形式請求項である請求項7は、他の択一的な多数項引用形式請求項である請求項3及び6を引用しているため、特許法施行規則24条の3第5号違反となる。審査官は、請求項7については、36条6項4号及び特許法施行規則24条の3第5号以外の要件についての審査対象としない。
 なお、請求項7が、請求項3及び6のみを引用する場合は、請求項7は択一的な多数項引用形式請求項に該当しないため特許法施行規則24条の3第5号違反とならない。

・7項(要約書の記載事項)
(1)36条7項は、平成2年改正により追加された規定であり、要約書に記載すべき事項について規定したものである。
 要約書には、明細書又は図面に記載した発明の概要及び経済産業省令で定める事項を記載しなければならないが、これを受けて、特許法施行規則25条の2において、出願公開等の際に、明細書又は図面に記載した発明の概要と共に特許公報に掲載することが最も適当な図に付されている番号を規定している。

(2)経済産業省令(特施規25条の2)
 特許法第三十六条第七項に規定する経済産業省令で定める事項は、出願公開又は同法第六十六条第三項に規定する特許公報への掲載の際に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要と共に特許公報に掲載することが最も適当な図に付されている番号とする。


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2023年1月25日 弁理士試験 代々木塾 特許法34条

2023-01-25 04:04:26 | Weblog
2023年1月25日 弁理士試験 代々木塾 特許法34条

 特許法第三十四条
1 特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない。
2 同一の者から承継した同一の特許を受ける権利について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた者以外の者の承継は、第三者に対抗することができない。
3 同一の者から承継した同一の発明及び考案についての特許を受ける権利及び実用新案登録を受ける権利について同日に特許出願及び実用新案登録出願があつたときも、前項と同様とする。
4 特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じない。
5 特許を受ける権利の相続その他の一般承継があつたときは、承継人は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
6 同一の者から承継した同一の特許を受ける権利の承継について同日に二以上の届出があつたときは、届出をした者の協議により定めた者以外の者の届出は、その効力を生じない。
7 第三十九条第六項及び第七項の規定は、第二項、第三項及び前項の場合に準用する。

〔解説〕
・1項(特許出願前における特許を受ける権利の承継の第三者対抗要件)
(1)34条1項は、特許出願前における特許を受ける権利の承継は特許出願により第三者に対抗することができるものになる旨を規定している。
 特許を受ける権利は、発明をすることにより発生するものであるから、特許を受ける権利の承継という行為は、特許出願前にされることもあり得る。しかし、その承継については適当な公示手段もないので特許出願をもって対抗要件とすることとしている。
 34条4項の場合においては届出をもって効力発生要件としているにもかかわらず、34条1項の場合は第三者対抗要件としたのは、もし34条1項の場合も34条4項の場合と同様に効力発生要件とすると、特許出願前においては特許を受ける権利の承継をすることができないということになり、そうなると社会の実情から考えて不便が多いということで、34条1項に規定する場合については旧法(大正10年法)と同様に第三者対抗要件とすることとしている。

(2)特許出願前に特許を受ける権利の二重譲渡があった場合において、異なった日に2以上の特許出願があったときは34条1項が適用され、同日に2以上の特許出願があったときは34条2項が適用される。
 すなわち、34条1項及び2項は、特許出願前に特許を受ける権利の二重譲渡があった場合の調整規定である。

(a)甲が発明イを独自に完成した後、甲が、発明イについての特許を受ける権利をX会社に譲渡し、さらに、発明イについての特許を受ける権利をY会社に譲渡したときは、特許を受ける権利の二重譲渡に該当し、34条1項が適用される。
 この場合は、X会社が先に発明イについて特許出願をしたときは、特許を受ける権利の承継について、X会社は、その後に発明イについて特許出願をしたY会社に対抗することができる。
 逆に、Y会社が先に発明イについて特許出願をしたときは、特許を受ける権利の承継について、Y会社は、その後に発明イについて特許出願をしたX会社に対抗することができる。
 特許を受ける権利の二重譲渡があった場合には、先に特許出願をした者が特許を受ける権利の承継について第三者に対抗することができる。

(b)X会社の従業員甲が職務発明イを独自に完成した後、甲が、発明イについての特許を受ける権利をX会社に譲渡したが、先に甲が発明イについて特許出願Aをし、その日後、X会社が発明イについて特許出願Bをしたときは、特許を受ける権利の二重譲渡に該当しないし、甲とX会社は第三者の関係にはあたらないので、34条1項は適用されない。
 この場合は、甲の特許出願Aは特許を受ける権利を有しない者の特許出願であるとして、49条7号の冒認の拒絶理由に該当する。
 X会社の特許出願Bは特許を受ける権利を有する者の特許出願であるとし、49条7号の冒認の拒絶理由に該当しない。
 ただし、甲の特許出願Aについて特許権の設定の登録がされたときは、冒認出願であっても、先願の地位が確定するので(39条5項反対解釈)、X会社の特許出願Bは、甲の特許出願Aを引用して39条1項違反であるとして、拒絶理由に該当する。
 この場合は、発明イについて特許を受ける権利を有するのはX会社であるので、74条1項により、X会社は、甲に対して、特許出願Aに係る特許権の移転を請求することができる。

(3)特許出願前に特許を受ける権利の二重譲渡があったときは、先に特許出願をした者が特許を受ける権利の承継について後に特許出願をした者に対し対抗でき、後に特許出願をした者は冒認者となる(49条7号)。

・2項(複数の承継人が同日に出願した場合には協議制を採用)
(1)34条2項は、34条1項の特別規定といえるものである。
 34条1項の規定によれば、同一の者から承継した同一の特許を受ける権利について2以上の特許出願があったときは、最先に特許出願をした者が優先し(たとえ承継が後になされた場合でも)、その他の者の特許を受ける権利の承継は無効なものとなるが、特許法においては、新規性又は進歩性の判断の場合を除き、特許出願の先後については、日の先後のみを問題とし、同日中の時間の先後は問題としないこととしているので(39条)、34条2項もその趣旨から同日に2人以上の者による2以上の特許出願があったときは、これらの特許出願人に協議を命じ、協議により定められた者のみが承継について第三者に対抗することができることとした。

(2)甲が発明イを独自に完成した後、甲が発明イについての特許を受ける権利をX会社に譲渡し、その後、さらに発明イについての特許を受ける権利をY会社にも譲渡した場合(二重譲渡)において、X会社とY会社がそれぞれ同日に発明イについて特許出願をした場合に、34条2項が適用される。

(3)協議により定めた者以外の者の特許出願は冒認出願となる(49条7号)。

(4)34条2項の場合は特許庁長官が協議命令をするので、34条2項の「第三者」には特許庁長官も含まれると解されている。
 これに対し、34条1項の場合は、特許庁長官が関与することはないので、34条1項の「第三者」には特許庁長官が含まれないと解されている。

・3項(同日に特許出願と実用新案登録出願があった場合も協議制)
 34条3項は、34条2項とほぼ同じような問題について規定したものである。
 34条2項は、同一の者から2人以上の者に同一の特許を受ける権利が承継された場合に適用されるが、34条3項は、同一の技術的思想を一方では発明としてとらえ他方では考案としてとらえ、それぞれについて同日に特許出願及び実用新案登録出願があった場合に、34条2項の場合と同じように、これらの出願人の協議により定められた者のみが対抗することができる旨を規定している。
 旧法(大正10年法)においては、特許出願と実用新案登録出願との間の先後願関係を審査しないので、同一の技術的思想について一方では発明としてとらえ、他方では物品の型としてとらえれば、特許権と実用新案権が並存することもあり得たが、現行法(昭和34年法)においては、両者の先後願関係は審査の対象となる(39条3項及び4項)ので、34条3項はそれとの関連規定として新しくおかれたものである。

・4項(特許出願後の特許を受ける権利の特定承継は届出が効力発生要件)
(1)34条4項は、特許出願後における特許を受ける権利の承継について規定している。
 34条4項の場合は、旧法(大正10年法)と異なり、届出をもって効力発生要件としている。これは特許権の移転等についての改正と同じように権利の帰属関係を明確にするためである。
 なお、34条4項において、相続その他の一般承継については除外しているが、もし除外しない場合は、相続等の事実が発生した時点から承継の届出がされるまでの間は権利者はいないという事態が発生するので、それを防ぐためである。
 したがって、相続その他の一般承継の場合は、届出をしなくても承継の効力が生ずることになる。
 ただし、相続その他の一般承継の場合は、34条5項に規定するように、承継があった旨を特許庁長官に届け出なければならない義務が課せられている。

(2)特許出願後の特許を受ける権利の譲渡の場合は、届出、すなわち「出願人名義変更届」を提出するまでは、当事者間で譲渡の契約をしても、その譲渡の効力が生じないこととなる。

(3)特許出願後の特許を受ける権利の相続その他の一般承継の場合は、「出願人名義変更届」を提出しなくても、一般承継の効力が発生する。

(4)甲が発明イを独自に完成した後、甲が、発明イについて特許出願Aをした後、特許出願Aに係る発明イについての特許を受ける権利をX会社に譲渡し、その後、さらに特許出願Aに係る発明イについての特許を受ける権利をY会社に譲渡した場合(二重譲渡)において、先にY会社が出願人名義変更届を提出したときは、名義変更の効力が生ずるので、その後にX会社が出願人名義変更届を提出しても,甲とX会社との間の譲渡契約では名義変更届は不適法となり、却下の対象となる(18条の2)。

・5項(特許を受ける権利の相続その他の一般承継)
(1)特許出願後に特許を受ける権利の相続その他の一般承継があった場合には、遅滞なく届出をしなければならない。
 届出、すなほち「出願人名義変更届」を提出することは、義務的である。

(2)「相続その他の一般承継」には、相続のほかに、会社合併、包括遺贈が含まれる。

(a)「会社合併」には、設立合併と吸収合併がある。

(b)「包括遺贈」
「遺贈」は、生前に遺言書を作成して、自分の財産を無償又は一定の義務を果たす条件を付けて譲渡する相続の方法である。
 相続人が全員で話し合って遺産の分け方を決める「遺産分割協議」とは異なり、法定相続人ではない者にも財産を遺す(のこす)ことができる方法である。
 法定相続人には該当しない、孫や介護をしてくれた長男の嫁、ボランティア団体、会社などに財産を与えることも可能である。
 「遺贈」には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類あり、それぞれ権利や義務、受遺者が受け取る手続などが異なっている。
 「包括遺贈」は、財産全てや半分など財産の割合を指定する遺し(のこし)方で、相続人と同等の権利や義務を負うことが特徴である。
 すなわち、借金などマイナスの財産があれば合わせて相続し、他の相続人とともに「遺産分割協議」で財産の分け方を具体的に協議することになる。
 「特定遺贈」は、特定の財産を指定して与える遺し(のこし)方である。
 「包括遺贈」とは異なり、マイナスの財産があるとしてもそれを相続することにはならない。

・6項(同日に二以上の届出)
 34条6項は、同一の者から承継した同一の特許を受ける権利の承継について同日に2以上の届出があったときは、特許法においては同日中の時間の先後については問題にしないという趣旨から両当事者に協議を命じ、その協議によって定められた者の届出のみが効力を生ずべきことを規定している。
 協議で定めた者以外の者の届出は効力を生じない。

・7項(39条6項及び7項の準用)
 準用する39条6項は「特許庁長官は、相当の期間を指定して、協議をしてその結果を届け出るべき旨を命じなければならない。」と規定している。
 準用する39条7項は「特許庁長官は、指定期間内に届出がないときは、協議が成立しなかったものとみなすことができる。」と規定している。


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2023年1月24日 弁理士試験 代々木塾 特許法30条

2023-01-24 05:48:48 | Weblog
2023年1月24日 弁理士試験 代々木塾 特許法30条

(発明の新規性の喪失の例外)第三十条
1 特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項各号のいずれかに該当するに至らなかつたものとみなす。
2 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした特許出願に係る発明についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

〔解説〕
・30条の規定の趣旨
 特許法29条は、特許出願前に29条1項各号に該当するに至った発明については、原則として、特許を受けることができない旨を規定している。
 しかし、自らの発明を公開した後に、その発明について特許出願をしても一切特許を受けることができないとすると、発明者にとって酷な場合がある。また、そのように一律に特許を受けることができないとすることは、産業の発達への寄与という特許法の趣旨にもそぐわない。
 そこで、特許法では、特定の条件のもとで発明が公開された後にその発明の特許を受ける権利を有する者が特許出願した場合には、先の公開によってその発明の新規性が喪失しないものとして取り扱う規定、いわゆる、発明の新規性の喪失の例外の規定(30条)を設けることとした。
 また、特許を受ける権利を有する者の意に反して公表された発明についても、同様に、発明の新規性の喪失の例外の規定の対象とすることとした。

・平成11年改正の趣旨
 平成11年改正前は、30条の適用を受けることができるのは、発表した発明と同一の発明を特許出願した場合に限られていた。
 しかし、学会発表では、発表時間が限られていることから、発表できる内容は限られたものとならざるを得ず、発明についての基本的な考え方、代表的な実施例、用途等を中心に発表されることとなる。一方、特許出願においては、発明の基本的な考え方のみではなく、詳細な考え方を記載することとなり、実施例等についても想定される用途等について幅広く記載し、特許請求の範囲の記載についても、それに対応した幅広いものとすることが、広い権利を取得するうえで必要となる。したがって、学会発表の内容のみに限定した特許出願は、その発明を保護するうえで不十分となってしまう場合がある。
 また、刊行物での発表においても、掲載スペースが限られている場合があるため、その発明について十分な記載ができるとは限らない。研究論文集に発表した場合も、学会発表と同様、内容が限られたものとなる場合があり、発表と同じ発明しか特許出願ができないとすると、発明が十分に保護できない場合があり得る。新聞等で発表された場合には、内容は概略等になる場合が多く、特許出願に際して発明の同一性を保持することが困難な場合が多い。
 そこで、平成11年改正において、発表した発明と相違する発明を特許出願した場合にも30条の適用を受けることができることとした。
 したがって、特許を受ける権利を有する者の意に反して公開された発明、及び特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明は、30条の適用を受ける場合、当該特許を受ける権利を有する者による出願に係る発明の新規性、進歩性の要件の判断において考慮されないこととなった。

・平成23年改正の趣旨
 平成23年改正前は、30条の適用を受けることができるのは、意に反して新規性を喪失した場合のほかは、改正前の30条1項及び3項に列挙した事由、すなわち、試験の場合、刊行物に発表した場合、電気通信回線を通じて発表した場合、特許庁長官の指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表した場合、又は特定の博覧会に出品した場合に限定されていた。
 しかし、対象を限定列挙する方式のもとでは、発明の公開態様の多様化に十分に対応できなくなっていたことや、インターネットを通じて動画配信された場合は対象とされる一方で、テレビ放送された場合は対象とされないといった不均衡が顕在化していた。
 そこで、平成23年改正において、限定列挙方式に代えて、発明が特許を受ける権利を有する者の行為に起因して29条1項各号のいずれかに該当することとなった場合を包括的に30条の対象とすることとした。
 ただし、特許を受ける権利を有する者による内外国特許庁への出願行為に起因して特許公報等に掲載されたことにより新規性を喪失した場合については、30条の趣旨に照らして対象とする必要がないと考えられること、及びかりにこれを対象とすると制度の悪用を招くおそれがあることから、平成23年改正において、30条の対象とならないことを明確化した。

・平成30年改正の趣旨
 平成30年改正においては、オープン・イノベーションによって共同研究や産学連携が活発化し、本人以外の者による公開によって新規性を喪失するリスクが高まっていたことを踏まえ、必ずしも特許制度に精通していない個人発明家、中小企業、大学研究者等を適切に救済できるよう、従前は「六月以内」であった新規性の喪失の例外の期間を「一年以内」に延長した。

・1項(意に反して新規性を喪失した場合の救済)
(1)「特許を受ける権利を有する者の意に反して」
 「意に反して」とは、特許を受ける権利を有する者がその発明を秘密にしようとしたにもかかわらずこれに反して公知になったこという。

・「意に反して」に該当する場合
 (a)特許を受ける権利を有する者と発明の公開者との間で、秘密保持に関する契約等によって守秘義務が課されていたにもかかわらず、発明の公開者が公開した場合
 (b)特許を受ける権利を有する者以外の者が窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段により公開した場合

(2)「その該当するに至つた日から一年以内に」
 30条1項の適用を受けることができるのは、発明を公開した日から1年以内に特許出願をした場合に限られる。
 「1年」の期間については、延長の対象とならず、不責事由による救済の対象にもならない。

・2項(特許を受ける権利を有する者の行為に起因する場合)
(1)「特許を受ける権利を有する者」
 (a)「特許受ける権利」は、原始的には、発明の完成と同時に発明者に帰属する(29条1項柱書)。

 (b)ただし、職務発明については、あらかじめ使用者等が特許を受ける権利を取得する旨の定めがあるときは、特許を受ける権利は、初めから使用者等に帰属する(35条3項)。

 (c)「特許を受ける権利を有する者」には、特許を受ける権利の承継人も含まれる。
 甲が発明イを独自に完成した後、甲から発明イについての特許を受ける権利を承継した乙が発明イを公表した場合にも、30条2項の適用を受けることができる。

(2)30条2項の適用の対象となる行為
 (a)公表の態様を問わず、特許を受ける権利を有する者がその発明を公表した場合には、30条2項の適用の対象となる。

 (b)発明を学会発表した場合、発明を刊行物に発表した場合、発明を博覧会で発表した場合のみならず、発明に係る製品を自ら販売した場合も、適用の対象となる。

 (c)ただし、特許を受ける権利を有する者による内外国特許庁への出願行為に起因して特許公報等に掲載されたことにより新規性を喪失した場合については、30条の趣旨に照らして対象とする必要がないと考えられること、及びかりにこれを対象とすると制度の悪用を招くおそれがあることから、30条2項の適用の対象から除外することとした(30条2項かっこ書)。
 なお、30条2項かっこ書が設けられる前から、解釈として、自己の出願公開公報に掲載されたことは、自ら主体的に公表したとはいえない、として、30条の適用を受けることができないとされていた(最高裁判決)。

(3)「1年以内」とパリ条約の優先権との関係
 日本国の特許出願がパリ条約の優先権の主張(パリ条約4条A)を伴う場合であっても、優先権の主張の基礎とされた先の出願前にその発明が公開されたときは、発明の公開が優先期間内にされたものではないので、パリ条約4条Bの適用を受けることはできない。
 したがって、先の出願の日から「1年以内」に後の特許出願をしても、発明の公開日から「1年」を経過しているときは、後の特許出願において30条2項の適用を受けることはできない。
 30条1項の適用においても、同様である。

(4)「その者」
 (a)「その者」とは、 特許を受ける権利を有する者を意味する。
 「その者」には、特許を受ける権利を承継した承継人も含まれる。

 (b)発明イの発明者甲がその発明イを刊行物に発表した後、その発明イについての特許を受ける権利を甲から承継した乙が特許出願をした場合にも、30条2項の適用を受けることができる。

 (c)発明イの発明者甲からその発明イについての特許を受ける権利を承継した乙がその発明イを刊行物に発表し、その乙が特許出願をした場合にも、30条2項の適用を受けることができる。

(5)30条2項の適用の効果
 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して発明イが29条1項各号の1に該当するに至った場合において、その者が1年以内に特許出願をした場合は、その特許出願に係る発明についての新規性及び進歩性の判断においては、公知等になった発明イは、特許出願に係る発明の新規性又は進歩性を否定する引用例から除外される。

(6)特許出願に係る発明が公表された発明と同一であるかどうかは問わない。
 30条2項は、29条1項各号の1に該当するに至った発明について適用を受けるものであって、特許出願に係る発明について30条2項の適用を受けるものではない。
 したがって、甲が、発明イとその改良発明ロを独自に完成した後、発明イを公表した場合において、その後、発明イを公表した日から1年以内に、甲が、改良発明ロについて特許出願Aをしたときは、特許出願Aにおいて、公表した発明イについて30条2項の適用を受けることができる。
 その結果、特許出願Aに係る発明ロは、公表した発明イを引用して進歩性が否定されることはない。
 この事例は、発明ロについて30条2項の適用を受けるわけではない点に注意が必要である。新規性を喪失した発明イについて30条2項の適用を受けることが必要である。

・3項(新規性の喪失の例外の適用の手続)
(1)「前項の規定の適用を受けようとする者は」
 30条3項が適用されるのは、「前項」、すなわち、30条2項の規定の適用を受けようとする場合に限られる。
 30条1項の適用を受ける場合には、30条3項の手続をする必要はない。新規性又は進歩性がないとする拒絶理由の通知を受けた場合に、指定期間内に30条1項の適用を受けることができる証明書を添付した意見書を提出して反論することができる。

(2)「その旨を記載した書面」
 「その旨を記載した書面」とは、30条2項の適用を受けようとする旨を記載した書面をいう。
 ただし、特許法施行規則27条の4第1項により、特許出願の願書にその旨及び必要な事項を記載したときは、「その旨を記載した書面」の提出は省略することができる。

 特許法施行規則第二十七条の四
1 特許出願について特許法第三十条第二項の規定の適用を受けようとする者は、当該特許出願の願書にその旨及び必要な事項を記載して同法第三十条第三項に規定する同条第二項の規定の適用を受けたい旨を記載した書面の提出を省略することができる。

(3)「第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(証明書)」

 特許出願に係る発明と新規性を喪失した発明との同一性は問わないため、公表した発明が30条2項の適用を受けることができる発明であることを証明すれば足りる。
 すなわち、特許出願に係る発明について新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるのではなくて、公表した発明について新規性の喪失の例外の規定の適用を受けることになる。
 例えば、発明イを刊行物に発表した後、発明イの改良発明ロ(発明イからみて進歩性がない発明)について特許出願をする場合には、発明イについて30条2項の適用を受けることが必要であるが、発明ロについては新規性を失っていないので、30条2項の適用は受ける必要はない。

(4)「特許出願の日から三十日以内に」
 証明書は、原則として、特許出願日の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

(5)特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合に、証明書が提出されていなくても30条2項の規定の適用を受けることができる発明について(特許実用新案審査基準)

 特許を受ける権利を有する者が、発明を複数の異なる雑誌に掲載した場合等、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合において、30条2項の規定の適用を受けるためには、原則として、それぞれの「公開された発明」について「証明書」が提出されていなければならない。
 しかし、「公開された発明」が以下の条件(a)から(ⅽ)までの全てを満たすことが出願人によって証明された場合は、その「証明書」が提出されていなくても30条2項の規定の適用を受けることができる。

(a)「証明書」に基づいて30条2項の規定の適用が認められた発明と同一であるか、又は同一とみなすことができること。
(b)「30条2項の規定の適用が認められた発明」の公開行為と密接に関連する公開行為によって公開された発明であること、又は特許を受ける権利を有する者若しくは特許を受ける権利を有する者が公開を依頼した者のいずれでもない者によって公開された発明であること。
(ⅽ)「30条2項の規定の適用が認められた発明」の公開以降に公開された発明であること。

 例えば、先に公開された「30条2項の規定の適用が認められた発明」と、その発明の公開以降に特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された発明とが、以下のような関係(例1~例7)にある場合は、先に公開されたその発明の公開以降に公開された発明について「証明書」が提出されていなくても、30条2項の規定の適用が認められる。

 例1:特許を受ける権利を有する者が同一学会の巡回的講演で同一内容の講演を複数回行った場合における、最初の講演によって公開された発明と、2回目以降の講演によって公開された発明

 例2:出版社ウェブサイトに論文が先行掲載され、その後、その出版社発行の雑誌にその論文が掲載された場合における、ウェブサイトに掲載された発明と雑誌に掲載された発明

 例3:学会発表によって公開された発明と、その後の、学会発表内容の概略を記載した講演要旨集の発行によって公開された発明(注)
(注)学会発表内容の概略を記載した講演要旨集の発行によって公開された発明と、その後の、学会発表によって公開された発明という関係の場合には、上記条件(a)の「同一又は同一とみなすことができる」に該当しない場合が多い。したがって、講演要旨集の発行によって公開された発明について30条2項の規定の適用が認められても、通常、その後の学会発表によって公開された発明についても特許出願の日から30日以内に「証明書」を提出していなければ、30条2項の規定の適用は認められない。

 例4:特許を受ける権利を有する者が同一の取引先へ同一の商品を複数回納品した場合における、初回の納品によって公開された発明と、2回目以降の納品によって公開された発明

 例5:テレビ、ラジオ等での放送によって公開された発明と、その放送の再放送によって公開された発明

 例6:特許を受ける権利を有する者が商品を販売したことによって公開された発明と、その商品を入手した第三者がウェブサイトにその商品を掲載したことによって公開された発明

 例7:特許を受ける権利を有する者が記者会見したことによって公開された発明と、その記者会見内容が新聞に掲載されたことによって公開された発明

・4項(不責事由による救済)
 30条4項は、平成26年改正により、新設された規定である。

(1)30条4項の趣旨
 平成26年改正においては、改正前の特許法において所定の期間を定めた手続のうち、何ら救済規定を整備していないもの、及び、手続をする者からの請求がなければその期間を延長できず、権利の喪失又は重大な不利益につながってしまうものの2つについて、121条2項の規定に倣い、手続をする者の責めに帰すべきでない事由により当該期間内にその手続をすることができない場合には、その事由がなくなった日から一定の期間内においてはその手続をすることができる旨の規定を整備した。

(2)30条3項の証明書は、原則として特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならないが、不責事由があって提出できないときは、不責事由がなくなった日から14日(在外者は2月)以内で30日の期間の経過後6月以内に証明書を特許庁長官に提出することができる。

(3)30条4項の救済の対象となるのは、証明書の提出のみである。特許出願と同時に提出する「その旨を記載した書面」については、30条4項の救済の対象とならない。

(4)国際特許出願の特例
(発明の新規性の喪失の例外の特例)第百八十四条の十四
 第三十条第二項の規定の適用を受けようとする国際特許出願の出願人は、その旨を記載した書面及び第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が第三十条第二項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面を、同条第三項の規定にかかわらず、国内処理基準時の属する日後経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出することができる。

(a)国際特許出願について30条3項の手続をすることは、在外者にとっては困難な場合が多い。そこで、国際特許出願については、30条3項の手続を直接することができない場合であっても、184条の14によって所定の手続をすれば、30条2項の適用を受けることができることとした。

(b)経済産業省令(特施規38条の6の3)で定める期間は、原則として30日であるが、その責めに帰することができない理由により当該期間内に証明書を提出することができないときは、その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては2月)を経過する日までの期間(当該期間が7月を超えるときは7月)である。

(ⅽ)184条の14は、「することができる。」であって、「しなければならない。」ではない。選択肢を追加したものである。


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2023年1月23日 弁理士試験 代々木塾 特許法29条の2

2023-01-23 05:00:09 | Weblog
2023年1月23日 弁理士試験 代々木塾 特許法29条の2

(同前)第二十九条の二
 特許出願に係る発明が
 当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて
 当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの
 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面
(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)
 に記載された発明又は考案
(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)
 と同一であるときは、
 その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。

〔解説〕
(1)29条の2の規定の趣旨
 (a)先願の明細書等に記載されている発明は、特許請求の範囲以外の記載であっても、出願公開等により一般にその内容は公表される。したがって、たとえ先願が出願公開等をされる前に出願された後願であってもその内容が先願と同一内容の発明である以上さらに出願公開等をしても、新しい技術をなんら公開するものではない。このような発明に特許権を与えることは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨(1条)からみて妥当でない。

 (b)審査請求制度(48条の2)を採用したことに伴うものである。すなわち、審査は原則として出願審査請求順に行われることになる。
 そのためある出願を審査する段階において先願が出願審査の請求がされていなければその先願の特許請求の範囲は確定しない。審査の処理が終了するまで特許請求の範囲は補正により変動するからである。したがって、先願の範囲を特許請求の範囲に限定しておくと、先願の審査処理が確定するまで後願の審査ができないこととなる。
 そこで、補正により特許請求の範囲を増減変更することができる範囲の最大限である出願当初の明細書等に記載された範囲の全部に先願の地位を認めておけば先願の処理を待つことなく、後願を処理することができる。

(2)「特許出願に係る発明」
 「特許出願に係る発明」とは、特許付与を求める発明、すなわち、審査対象である特許出願の特許請求の範囲の請求項に記載された発明を意味する。
 特許請求の範囲について適法な補正がされたときは、補正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。

(3)「当該特許出願の日前」
 (a)特許出願の日を基準として先後を判断する。
 「日前」とは、「日以前」とは異なり、その日を含まずに、その日よりも前の日を意味する。
 したがって、同日出願には、29条の2は適用されない。

 (b)「当該特許出願の日」

(ア)特許出願が分割又は変更の特許出願である場合において、出願時遡及の要件を満たすときは、「当該特許出願の日」は、もとの出願の日である(44条2項本文、46条6項)

(イ)特許出願が実用新案登録に基づく特許出願である場合において、出願時遡及の要件を満たすときは、「当該特許出願の日」は、基礎とされた実用新案登録出願の日である(46条の2第2項)

(ウ)特許出願がパリ条約の優先権の主張を伴う特許出願である場合において、優先権の利益のある発明については、「当該特許出願の日」は、先の出願の日である(パリ条約4条B)。

(エ)特許出願が国内優先権の主張を伴う特許出願である場合において、国内優先権の利益のある発明については、「当該特許出願の日」は、先の出願の日である(41条2項)。

(オ)特許出願が国際特許出願であるときは、「当該特許出願の日」は、国際出願日である(184条の3第1項)。

(4)「他の特許出願又は実用新案登録出願」
 (a)「他の特許出願又は実用新案登録出願」とは、29条の2の引用例となる出願を意味する。

 (b)「他の特許出願又は実用新案登録出願」が分割又は変更の出願であるときは、出願時は遡及しないため、「他の特許出願又は実用新案登録出願」の出願日は、分割の日又は変更の日である(44条2項ただし書、46条6項)。
 分割又は変更に係る出願の明細書等にもとの出願に含まれていない新規事項が追加がされた場合に、分割又は変更の要件を判断しないで、29条の2の引用例とするために、出願日を遡及させないこととしたものである(44条2項ただし書、46条6項)。

 (c)「他の特許出願」が実用新案登録に基づく特許出願であるときは、出願時は遡及しないため、「他の特許出願」の出願日は、実用新案登録に基づく特許出願の願書を提出した日である(46条の2第2項ただし書)。
 出願時を遡及させないのは、分割等の場合と同様の趣旨である。

 (d)「他の特許出願又は実用新案登録出願」がパリ条約の優先権の主張を伴う出願であるときは、優先権の要件を満たす発明については、「他の特許出願又は実用新案登録出願」の出願日は、最初の出願の日である(パリ4条B)
 パリ条約4条Bにより、優先期間内にされた出願によっては、不利な取扱いを受けないこととされているからである。

 パリ条約の優先権の主張の効果として、出願日の遡及を認める見解もあるが、一般には消極的立場をとっている。
 昭和45年改正においても、パリ条約の優先権の主張があっても出願日は遡及しないものと解し、出願公開や補正制限の期間の起算点については第1国出願日であることを明定した。
 ところが、29条の2についてはなんら規定していない。そこで、48条の3と同様に、パリ条約の優先権の主張を伴う出願についても、現実の日本の出願日を基準とすべきではないかとの疑問が生ずる。
 しかし、パリ条約の優先権の主張の効果については、パリ条約4条Bの規定があることに留意しなければならない。
 すなわち、パリ条約4条Bによれば、パリ条約の優先権の主張の効果として、最初の出願の日からパリ条約の優先権の利益を享有している後の出願の日までの期間内に生じた事実によりその後の出願が不利な取扱いを受けることがないこと及びこの事実によっては第三者になんらの権利も発生させることができないことになっている。したがって、パリ条約の優先権の利益を享受している出願は、パリ条約の優先権の基礎となっている第1国出願の後に出願された願書に最初に添付した明細書又は図面に開示されていた発明であって出願公開等がされたものであることを理由として拒絶されたり、特許後においてその特許が無効とされることはない。
 また、パリ条約の優先権の利益を享受している出願が出願公開等がされた場合において、日本国におけるその出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されている発明であって、パリ条約の優先権の基礎となっている第1国出願の出願書類の全体中に記載されているものについて、第三者の出願が当該第1国出願後出願公開等がされるまでの間に提出されているものであるときは、その第三者の出願は優先期間中に生じた事実であるのでなんらの権利も取得できず、拒絶され、特許後においてはその特許が無効とされる。これらの関係は、39条の場合と同様である。

 (e)「他の特許出願又は実用新案登録出願」が国内優先権の主張を伴う出願である場合の取扱い
 甲が特許出願Aをした日後に、乙が特許出願Bをし、その日後に、甲が特許出願Aに基づく国内優先権の有効な主張を伴う特許出願Cをした場合における乙の特許出願Bの審査においては、29条の2の他の特許出願には、41条2項は適用されないため、甲の特許出願Cは乙の特許出願Bに対し後願となり、29条の2の先願とはならない。この場合は、41条3項により、甲の先の特許出願Aが29条の2の先願となる。
 41条2項は、特許出願に係る発明、すなわち、特許請求の範囲に記載された発明のみについて適用があり、明細書又は図面に記載された発明については適用がないので、29条の2の先願について41条2項を適用することは不合理である。なぜなら、29条の2の先願は、特許請求の範囲に記載された発明のみならず、明細書又は図面の記載された発明についても後願排除効を有するものであるのに対し、41条2項は、特許請求の範囲に記載された発明のみに適用され、明細書にのみ記載された発明には適用されないからである。

(5)「当該特許出願後」
 当該特許出願前に出願公開等されたときは、新規性がないとする拒絶理由に該当し(29条1項3号、49条2号)、29条の2を適用するまでもない。

(6)「特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行」
 先願の特許出願について、出願公開前に特許権の設定の登録がされ、特許掲載公報が発行された(66条3項)場合には、出願公開がされないため(64条1項)、出願公開されず、「特許掲載公報」が発行された場合にも、29条の2の適用の対象とすることとした。

(7)「出願公開」
 通常は、先願について特許掲載公報の発行前に出願公開(64条1項)がされる。
 (a)出願公開時に先願の特許出願が特許庁に係属していれば足り、その後に先願の特許出願が取下げ、放棄、却下になっても、29条の2の適用において影響を受けない。

 (b)先願の特許出願について出願公開の請求(64条の2)があったときは、その後に先願の特許出願を取下げても、必ず出願公開がされ、29条の2の引用適格を有する。

 (c)後願の特許出願について特許権の設定の登録があった後に、先願の特許出願について出願公開された場合は、29条の2違反であるとして、特許異議の申立ての理由となり(113条2号)、特許の無効の理由となる(123条1項2号)と解される(裁判例)。
 後願の特許出願について特許権の設定の登録があった後に、先願の特許出願について出願公開された場合にも、後願の特許発明は、新しい発明とはいえず、29条の2により拒絶すべきものと解されるからである。

(8)「実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行」
 実用新案登録出願については、出願公開制度がなく、実用新案掲載公報の発行(実14条3項)が唯一の開示手段である。

(9)[願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面]
 明細書等は、出願当初のもので、補正後の内容は含まない。
 訂正審判又は訂正の請求による訂正後の内容も含まない。
 願書に最初に添付した明細書等とは、まさに願書に最初に添付した明細書等を意味し、その後の明細書等は含まれない。

(10)「(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)」
 「他の特許出願」が外国語書面出願の場合には、外国語書面に記載した発明と同一発明についての後願を排除することができる。
 外国語書面の翻訳文に記載されていなくても、外国語書面に記載されている発明であれば、後願を排除することができる。

(11)「記載された発明又は考案」
 特許実用新案審査基準によれば、「記載された発明又は考案」とは、記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明又は考案(実質同一の発明)をいう。
 当該特許出願の請求項に係る発明と、先願の他の特許出願等の当初明細書等に記載された引用発明とを対比した結果、以下の(i)又は(ⅱ)の場合は、両発明は「同一」である。 
(i)当該特許出願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がない場合
(ⅱ)当該特許出願の請求項に係る発明と引用発明との間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合
 実質同一とは、当該特許出願の請求項に係る発明と引用発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合をいう。

(12)「(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)」
 当該特許出願の請求項に係る発明の発明者が、先願の他の特許出願等の当初明細書等に記載された引用発明の発明者又は引用考案の考案者と同一の場合は拒絶しない。自分が発明したものによって拒絶されることがないようにしたものである。

 以下の(i)及び(ⅱ)のいずれの場合にも該当しないときは、他の出願の発明者等と、当該特許出願の請求項に係る発明者とが同一とはいえない。
(i)各々の願書に記載された発明者の全員が表示上完全に一致している場合
(ⅱ)各々の願書に記載された発明者の全員が表示上完全に一致していない場合であっても、実質的に判断した結果、発明者全員が完全同一である場合

 原則として、その願書に記載された発明者を、当該特許出願の請求項に係る発明の発明者であると推認する。
 他の出願の発明者又は考案者についても同様に推認する。
 ただし、例えば、明細書中に別の発明者が記載されているような場合は、願書に記載された発明者以外の者について、発明者であると推認する。

 発明者が同一であるとの主張を裏付ける証拠(他の出願の発明者の宣誓書等)が出願人から提出された場合に、発明者が同一ではないとの推認が覆され得る。

(13)冒認出願
 真の発明者の出願に対しては、冒認出願は、発明者が同一であるため、29条の2の引用例にすることができないが、第三者の出願に対しては、発明者が同一ではないため、29条の2の引用例とすることができる。

 甲が、発明イを完成したが、乙が甲から発明イを盗用して特許出願Aをした。乙の特許出願Aの日後、甲が発明イについて特許出願Bをしたときは、甲の特許出願Bは、発明イの発明者は甲で同一であるので、乙の特許出願Aを引用して29条の2により拒絶されることはない。
 乙の特許出願Aの日後、丙が独自に完成した発明イについて特許出願Cをしたときは、発明者は、甲と丙で異なるため、丙の特許出願Cは、乙の特許出願Aを引用して29条の2により拒絶される。

(14)29条の2ただし書
 「当該特許出願」の時にその出願人と「他の特許出願又は実用新案登録出願」の出願人とが同一の者であるときは、29条の2により拒絶されることはない。

 自分が出願したものによって拒絶されることがないようにしたものである。
 一般的には、明細書の発明の詳細な説明の欄に記載したが、特許請求の範囲に記載しなかった発明については、出願人はその発明について特許を請求しない、いいかえれば公衆に開放するという意思であるとみられるが、中には必ずしもそういう場合だけでなく、その出願の特許請求の範囲に記載された発明の説明にどうしても必要なために明細書の発明の詳細な説明の欄に特定の技術を記載し、その特定の技術については後日別に出願して特許権を得たいというものがある。このような場合には、後に本人が出願すれば特許が受けられるようにしないと困るので、その旨を規定した。
 また、他人が発明したものを見てそれと関連のある技術を開発し、それを特許請求の範囲として出願し、他人の発明を自分の発明の説明のために明細書に記載している場合にも、その他人が後に出願した場合は、拒絶しないこととした。

 以下の(i)及び(ⅱ)のいずれの場合にも該当しないときは、出願人が同一であるとはいえない。
(i)各々の願書に記載された出願人の全員が表示上完全に一致している場合
(ⅱ)各々の願書に記載された出願人の全員が表示上完全に一致していない場合であっても、実質的に判断した結果、出願人全員が完全同一である場合
(例:出願人の改称、相続又は合併があって、当該特許出願の出願人と、「他の特許出願」の出願人とが表示上は一致しなくなった場合)

(15)事例問題1
【問題】
 外国語書面出願Bが、外国語書面出願Aを引用して特許法第29条の2により拒絶されるのは、どのような場合であるか。
 ただし、外国語書面出願Bについて適式に出願審査の請求がされているものとする。また、外国語書面出願A及び外国語書面出願Bは、分割又は変更に係るものでもなく、実用新案登録に基づく特許出願でもなく、いかなる優先権の主張も伴わないものとする。
【解答】
 外国語書面出願Bが外国語書面出願Aを引用して29条の2により拒絶されるのは、以下の要件を満たす場合である。
 第1に、出願Bが出願Aの後願であること(29条の2)。
 第2に、出願Bの後に出願Aについて出願公開又は特許掲載公報の発行がされたこと(29条の2)。
 第3に、出願Bに係る発明が、出願Aの外国語書面に記載された発明と同一であること(29条の2)。
 第4に、出願Bに係る発明の発明者が、出願Aの外国語書面に記載された同一発明の発明者と異なること(29条の2かっこ書)。
 第5に、出願Bの時に、出願Bの出願人が出願Aの出願人と異なること(29条の2ただし書)。

(16)事例問題2
【問題】
 甲は、靴の発明イを独自に完成したので、靴の発明イについて特許出願Aをした。
 その日後、乙は、靴の発明イを独自に完成したので、靴の発明イについて特許出願Bをした。
 その日後、甲は、特許出願Aに基づく国内優先権の有効な主張を伴う特許出願Cをした。特許出願Cの願書に最初に添付した明細書には靴の発明イと靴の発明ロが記載されている。
 特許出願Cの日後、特許出願Aは出願公開されることなく取り下げられたものとみなされた。その後、特許出願Cについて出願公開がされた。
 乙の特許出願Bの審査において、甲の特許出願Aを引用して特許法第29条の2の規定により拒絶されることがあるか。
 ただし、特に文中に明示した場合を除き、出願は、分割又は変更に係るものでもなく、実用新案登録に基づく特許出願でもなく、外国語書面出願でもなく、国際出願でもなく、いかなる優先権の主張も伴わないものとする。
【解答】
 甲の出願Aは出願公開がされることなく取り下げられたものとみなされているので(42条1項)、甲の出願Aが直接29条の2の先願となることはない。
 しかし、甲は出願Aに基づく国内優先権(41条1項)の有効な主張を伴う出願Cをし、後の出願Cの最初の明細書に記載された発明イは先の出願Aの最初の明細書にも記載されているので、発明イについては、後の出願Cが出願公開(64条1項)されたときに先の出願Aについて出願公開されたものとみなして、先の出願Aが、その日後の乙の出願Bに対して、29条の2の先願となる(41条3項)。
 出願Aの当初明細書等に記載された発明イの発明者は甲であり、出願Bに係る発明イの発明者は乙であり、発明者は異なる(29条の2かっこ書)。出願Bの時に、出願Bの出願人は乙であり、出願Aの出願人は甲であり、出願人は異なる(29条の2ただし書)。
 よって、乙の出願Bに係る発明イは、甲の出願Aを引用して29条の2により拒絶される(41条3項)。

(17)29条の2と39条の差異
 (a)第1に、規定の趣旨の面からの差異は次のとおりである。
 すなわち、29条の2は、後願の出願後に出願公開された先願の当初明細書等に記載された発明と同一発明の後願に特許を与えることは不合理であること及び出願審査請求制度(48条の2)の採用等による要請に基づくものである。
 これに対し、39条は、36条5項、37条、70条1項に従い、しかも後願の出願時点においては先願に開示されている発明は秘密状態にあったことを重視する観点から二重特許を排除するという要請に基づいている。

 (b)後願を排除することができる範囲はどこまでかという観点からの差異がある。
 29条の2は、「出願の日前」と規定していて、同日出願には適用がない。29条の2が適用になるのは、先願の最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている発明に対してである。
 39条は、同日出願についても適用され(39条2項)、先願の特許請求の範囲に記載されている発明についてのみ適用がある。

 (c)後願を排除することができない場合は何かという観点からの差異がある。
(ア)29条の2は、先願が特許掲載公報の発行も出願公開等もされていない場合については、後願を排除することができない。
 39条は、先願が出願公開等がされなくとも後願を排除することができる。

(イ)29条の2は、先願が出願公開等がされている以上、その後に先願が放棄されたり、取り下げられたり、却下になっても、後願を排除することができる。
 39条は、特許出願が取り下げられたり、放棄されたり、却下されたり、特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、後願を排除することができない(39条5項)。

(ウ)29条の2は、後願の出願時において後願と先願の出願人が同じ場合は、適用がない(29条の2ただし書)。
 39条は、先願と後願との出願人が同じでも、適用がある。

(エ)29条の2は、先願と後願の発明者が同じ場合には、適用がない(29条の2かっこ書)。
 39条は、先願と後願の発明者が同じでも、適用がある。

 なお、29条の2と39条は、後願を排除するという機能について見れば、同一事件に重複して適用することができる場合があり得るが、いずれを用いて後願を拒絶するかは、審査官の自由である。


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