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18.10.17 平成18年10月17日 最高裁判決

2006-10-17 19:14:23 | Weblog
平成18年10月17日 最高裁判決 特35条対価支払請求事件

主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

理由
第1事案の概要
1 本件は,被上告人が,職務発明について,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利を上告人に譲渡したことにつき,上告人に対し,特許法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項所定の相当の対価の支払を求める事案である。

2 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,電気関連製品の開発,製造,販売等を行う総合電器メーカーである。被上告人は,昭和44年11月から平成8年11月までの間,上告人に雇用され,上告人の中央研究所の主管研究員等として勤務していた。
(2)被上告人は,上告人の従業員であった当時,他の従業員と共同して,第1審判決別紙特許目録記載1~3の各特許に係る発明をした(以下,これらの発明をそれぞれ同目録の番号に従い「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」といい,「本件各発明」と総称する。)。本件各発明は,いずれも,レーザー光を利用して情報を記憶媒体(光ディスク)に記録再生する装置や方法に関するもので,その性質上,上告人の業務範囲に属し,かつ,発明をするに至った行為が上告人における被上告人の職務に属するものであって,特許法35条1項所定の職務発明に当たる。
(3)被上告人は,本件発明1につき昭和52年9月13日,同2につき昭和48年1月20日,同3につき昭和49年12月26日,上告人との間で,それぞれ特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。)を上告人に譲渡する旨の契約を締結した(以下,これらの契約を「本件譲渡契約」と総称する。)。
(4)上告人は,本件各発明について,我が国において特許出願をし,その設定登録を受けて,特許権を取得するとともに,本件発明1につきアメリカ合衆国,カナダ,イギリス,フランス及びオランダの各国において,本件発明2及び3につきアメリカ合衆国,ドイツ,イギリス,フランス及びオランダの各国において,それぞれ特許権を取得した。
(5)上告人は,本件譲渡契約を締結した当時,発明をした従業員に対し,特許出願時及び設定登録時において一定額の賞金を授与するとともに,実施効果の顕著なものについてその功績の区分に応じた賞金を授与するという内容の「発明,考案等に関する表彰規程」を定めていたが,さらに,平成3年6月までに,発明をした従業員に対し,我が国及び外国における特許出願時,我が国及び外国における特許権設定登録時,社内における実績成績が顕著であって業績に貢献したと認められたとき,第三者に実施権を許諾し実施料収入を得たときなどに所定の基準に従って算定された補償金を支払うという内容の「発明考案等取扱規則」,「発明考案等に関する補償規程」及び「発明考案等に関する補償基準」を定めた(以下,上告人において定められたこれらの表彰規程等を「本件規定」と総称する。)。
(6)上告人は,我が国及び外国において特許出願をし又は設定登録を得た本件各発明について,複数の企業との間で本件各発明の実施を許諾する契約を締結し,その実施料を収受するなどして利益を得た。
(7)上告人は,被上告人に対し,本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡の対価として,本件規定に基づき,本件発明1につき合計231万8000円,本件発明2につき合計5万1400円,本件発明3につき合計1万0700円の賞金又は補償金を支払った。

3 原審は,次のとおり判断して,被上告人が本件各発明の特許を受ける権利の譲渡に伴い上告人に対して請求し得る相当の対価の額(本件規定に基づいて支払を受けた分を差し引いた額)を,本件発明1につき1億6284万6300円,本件発明2につき13万1750円,本件発明3につき2万5666円であると認定し,合計1億6300万3716円の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。
(1)本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,その対象となる権利が我が国及び外国の特許を受ける権利である点において渉外的要素を含むため,その準拠法を決定する必要があるところ,本件譲渡契約は,日本法人である上告人と,我が国に在住して上告人の従業員として勤務していた日本人である被上告人とが,被上告人がした職務発明について我が国で締結したものであり,上告人と被上告人との間には,本件譲渡契約の成立及び効力の準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認められるから,法例7条1項の規定により,その準拠法は,外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題を含めて,我が国の法律である。
(2)特許法35条3項にいう「特許を受ける権利」には,我が国の特許を受ける権利のみならず,外国の特許を受ける権利が含まれるから,被上告人は,上告人に対し,外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができる。

第2上告代理人末吉亙ほかの上告受理申立て理由第3について
1 外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲渡の当事者がどのような債権債務を有するのかという問題にほかならず,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,法例7条1項の規定により,第1次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当である。
 なお,譲渡の対象となる特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱われ,どのような効力を有するのかという問題については,譲渡当事者間における譲渡の原因関係の問題と区別して考えるべきであり,その準拠法は,特許権についての属地主義の原則に照らし,当該特許を受ける権利に基づいて特許権が登録される国の法律であると解するのが相当である。
2 本件において,上告人と被上告人との間には,本件譲渡契約の成立及び効力につきその準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在するというのであるから,被上告人が上告人に対して外国の特許を受ける権利を含めてその譲渡の対価を請求できるかどうかなど,本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となるというべきである。
 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第3上告代理人末吉亙ほかの上告受理申立て理由第4について
1 我が国の特許法が外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するものではないことは明らかであり(1900年12月14日にブラッセルで,1911年6月2日にワシントンで,1925年11月6日にヘーグで,1934年6月2日にロンドンで,1958年10月31日にリスボンで及び1967年7月14日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約4条の2参照),特許法35条1項及び2項にいう「特許を受ける権利」が我が国の特許を受ける権利を指すものと解さざるを得ないことなどに照らし,同条3項にいう「特許を受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利が含まれると解することは,文理上困難であって,外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価の請求について同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないといわざるを得ない。
 しかしながら,同条3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたものであるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をすることが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした従業者等を保護し,もって発明を奨励し,産業の発展に寄与するという特許法の目的を実現することを趣旨とするものであると解するのが相当であるところ,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継について両当事者が対等の立場で取引をすることが困難であるという点は,その対象が我が国の特許を受ける権利である場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異なるものではない。そして,特許を受ける権利は,各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,さらに,職務発明とされる発明については,その基となる雇用関係等も同一であって,これに係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものであるということができる。また,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継については,実際上,その承継の時点において,どの国に特許出願をするのか,あるいは,そもそも特許出願をすることなく,いわゆるノウハウとして秘匿するのか,特許出願をした場合に特許が付与されるかどうかなどの点がいまだ確定していないことが多く,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくない。ここでいう外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける権利と必ずしも同一の概念とはいえないものもあり得るが,このようなものも含めて,当該発明については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解される。そうすると,同条3項及び4項の規定については,その趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼすべき状況が存在するというべきである。
 したがって,従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。

2 本件において,被上告人は,上告人との間の雇用関係に基づいて特許法35条1項所定の職務発明に該当する本件各発明をし,それによって生じたアメリカ合衆国,イギリス,フランス,オランダ等の各外国の特許を受ける権利を,我が国の特許を受ける権利と共に上告人に譲渡したというのである。したがって,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用され,被上告人は,上告人に対し,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができるというべきである。
 所論の点に関する原審の判断は,結論において正当であり,論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

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18.10.12 平成5年9月10日最高裁判決

2006-10-12 22:42:16 | Weblog
平成5年9月10日最高裁判決 平成3年(行ツ)103
「SEIKO EYE」事件

一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 上告人は、昭和五〇年六月一三日、別紙商標目録記載(一)に示す構成から成る商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前のもの)別表第二三類に属する商品として、商標登録出願をしたところ、昭和五五年九月二五日、別紙商標目録記載(二)に示す構成から成り、指定商品を同別表第二三類「時計、眼鏡、これらの部品及び附属品」とする登録第一〇六三四一三号の商標(昭和四六年八月一一日商標登録出願、同四九年四月二七日設定登録、以下「査定引用商標」といい、右商標権を「査定引用商標権」という。)を引用して拒絶査定がされたので、これを不服として審判請求(昭和五五年審判第二一六九三号)をした。

2 特許庁は、査定引用商標権の存続期間が、昭和五九年四月二七日に終了したため、別紙商標目録記載(三)に示す構成から成り、指定商品を前項記載別表第二三類「時計、眼鏡、これらの部品及び附属品」とする登録第一二〇四一七三号の商標(昭和四六年八月一一日商標登録出願、同五一年六月一〇日設定登録、同六一年商標権存続期間の更新登録、以下「審決引用商標」という。ちなみに、査定引用商標と審決引用商標とは、同一出願人が互いに独立の商標として商標登録出願し、いずれも商標登録されたものであることが記録上うかがわれる。)を引用して、上告人に対して拒絶理由を通知した上、平成二年五月三一日、右審判事件につき、上告人の審判請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)をした。本件審決の理由は、本願商標の構成中の「eye」の文字部分からは「アイ(目)」の称呼、観念が生ずるところ、審決引用商標の構成中の「EYE」の文字部分からも「アイ(目)」の称呼、観念が生ずるから、本願商標は商標法(平成三年法律第六五号による改正前のもの)四条一項一一号に該当し、商標登録を受けることができないとするものである。

二 原審は、右事実関係の下において、本件審決の判断は正当であるとして、その取消しを求める上告人の請求を棄却した。その理由は、次のとおりである。

1 本願商標は、取引者、需要者に「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観念される。

2 審決引用商標の構成中の「SEIKO」は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであり、同構成中の「EYE」は、「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観念されるところ、株式会社服部セイコーでは、その販売する時計について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE(ドルチェ)」、「CADET(カデット)」、「CHARIOT(シャリオ)」、「MAJESTA(マジェスタ)」等のマークを使用していることが取引者、需要者に広く知られている。そうすると、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の商品を表示するものと認識するから、審決引用商標は、「セイコーアイ」のほか、「アイ」とも称呼され、「目」を意味するものとも観念されると認められる。
 「EYE」の文字が、その指定商品の品質、用途等を表示するものと認めるべき証拠は存しないから、これが一般性、普遍性のある文字であるからといって自他商品を識別する機能がないとはいえない。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 審決引用商標は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡について使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。一方、審決引用商標の構成中の「SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適法に確定するところである。
 そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。
 原審は、株式会社服部セイコーが、同社の販売する時計について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE」等のマークを使用していることから、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の商品を表示するものと認識すると判断しているが、株式会社服部セイコーが審決引用商標を使用した指定商品に属する商品を実際に販売しているとの事実は原審の認定していないところであり、また、前記認定のとおり取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有しない一般的、普遍的な文字である「EYE」が、そうではないこと明らかでありかつ実際に販売されている時計に使用されている「DOLCE」等の文字と同様に株式会社服部セイコーの販売する商品の出所識別標識となる、ということはできない。
 これを要するに、前記認定の事情に照らせば、審決引用商標の「EYE」の文字部分のみからは、称呼、観念は生じないというべきであるから、右部分に自他商品を識別する機能がないとはいえないとした原審の説示には、商標の類否に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

四 そして、前記の確定した事実関係の下においては、本願商標から、「SEIKO EYE」若しくは「SEIKO」の称呼、観念が生じないこと、本願商標と審決引用商標とが外観において類似していないことは明らかというべきであるから、本願商標が審決引用商標と類似するとした審決の判断は違法であり、右違法が審決の結論に影響を及ぼすこと明らかである。そこで、本件審決の取消しを求める上告人の請求は理由があるものとして、これを認容すべきである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

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18.10.12 平成17年7月22日最高裁判決

2006-10-12 22:40:19 | Weblog
平成17年7月22日最高裁判決 平成16年(行ヒ)第343号
国際自由学園事件

1 本件は,上告人が,被上告人を商標権者とする後記商標登録が商標法4条1項8号(以下,単に「8号」という。)の規定に違反してされたものではないとした特許庁の審決の取消しを求める訴訟である。

2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,「国際自由学園」の文字を横書きして成り,指定役務を商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のもの)別表第1の第41類の区分に属する「技芸・スポーツ又は知識の教授,研究用教材に関する情報の提供及びその仲介,セミナーの企画・運営又は開催」とする登録第4153893号の登録商標(平成8年4月26日商標登録出願,平成10年6月5日商標権の設定の登録。以下,この商標を「本件商標」といい,その商標登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である。
 被上告人は,神戸市に主たる事務所を置く学校法人であり,名称を「国際自由学園」とするビジネス専修学校の経営主体である。同学校は,昭和61年に技能教育のための施設として文部大臣の指定を受け,本校を兵庫県芦屋市に置き,開校時から平成4年までは東京都内の,それ以降は北海道内の通信制高等学校の技能連携校となって,高等学校の通信制課程に在籍する生徒に対してコンピュータ,経営,貿易関係等の授業を実施するなどしている。

(2)上告人は,大正10年,東京府目白(現在の東京都豊島区西池袋)において,女子のための中等教育機関として設立され,その後,初等部を設立し,現在の東京都東久留米市に移転し,男子部,幼児生活団,最高学部が開設されるなどして一貫教育校となり,現在に至っている。上告人は,その名称である「学校法人自由学園」の略称「自由学園」(以下「上告人略称」という。)を,大正10年以来,教育(知識の教授)及びこれに関連する役務に使用している。
 上告人は,設立のころから本件商標の商標登録出願時に至るまで,各種の書籍,新聞,雑誌,テレビ等で度々取り上げられており,これらの記事等において,上告人を示す名称として上告人略称が用いられている。ただし,これらの記事等の多くは,上告人が,大正時代の日本を代表する先駆的な女性思想家である羽仁もと子及びその夫の吉一により,キリスト教精神,自由主義教育思想に基づく理想の教育を実現するために設立されたものであるという歴史的経緯や,上告人の独自の教育理念,教育内容に関するものであり,また,主として教育関係者等の知識人を対象とするものであって,学生,生徒,学校入学を志望する子女及びその者らの父母(以下「学生等」という。)に向けられたものではない。
 上告人略称は,上告人の設立の歴史的経緯,教育の独創性により,教育関係者を始めとする知識人の間ではよく知られているということができる。しかし,学生等との関係では,本件商標の商標登録出願の当時,東京都内及びその近郊において一定の知名度を有していたにすぎず,広範な地域において周知性を獲得するに至っていたと認めることはできない。

(3)上告人は,平成15年6月2日,本件商標は,上告人の名称の著名な略称である上告人略称を含むから,8号所定の商標に当たり,商標登録を受けることができないと主張して,本件商標登録を無効にすることについて審判を請求した。
 この審判請求につき,特許庁において無効2003-35230号事件として審理された結果,平成16年3月15日,審判請求を不成立とする審決がされた。
3 原審は,次のとおり判断して,上記審決の取消しを求める上告人の請求を棄却した。
 上告人略称「自由学園」が,本件商標の指定役務の需要者である学生等との関係では,周知性を獲得するに至っていたとは認められないこと,本件商標「国際自由学園」が学校の名称を表示する一体不可分の標章として称呼,観念されるものであることを考慮すると,本件商標に接する学生等が,本件商標中の「自由学園」に注意を引かれ,本件商標が上告人の一定の知名度を有する略称を含む商標であると認識するとは認めることができない。
 したがって,本件商標登録は,8号の規定に違反するものではない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件商標「国際自由学園」が上告人略称「自由学園」を含む商標であること,上告人が被上告人に承諾を与えていないことは明らかであるから,上告人略称が上告人の名称の「著名な略称」といえるならば,本件商標は,8号所定の商標に当たるものとして,商標登録を受けることができないこととなる。
 商標法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。
 そうすると,人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。
 本件においては,前記事実関係によれば,上告人は,上告人略称を教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用し続け,その間,書籍,新聞等で度々取り上げられており,上告人略称は,教育関係者を始めとする知識人の間で,よく知られているというのである。これによれば,上告人略称は,上告人を指し示すものとして一般に受け入れられていたと解する余地もあるということができる。そうであるとすれば,上告人略称が本件商標の指定役務の需要者である学生等の間で広く認識されていないことを主たる理由として本件商標登録が8号の規定に違反するものではないとした原審の判断には,8号の規定の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。

5 以上によれば,原審の前記判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。そして,本件商標登録が8号の規定に違反するものであるかどうかにつき上記のような観点から更に審理を尽くさせるため,本件を知的財産高等裁判所に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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18.10.10 平成16年6月8日最高裁判決

2006-10-10 11:28:31 | Weblog
平成16年6月8日最高裁判決 平成15年(行ヒ)265
商標法4条1項8号

1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成10年10月22日,「LEONARD KAMHOUT」の欧文字を横書きして成る商標(以下「本願商標」という。)につき,商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のもの)別表第1の第14類,第18類及び第25類のそれぞれ原判決別紙審決書記載の商品を指定商品として,商標登録出願(以下「本件出願」という。)をした。
(2)本願商標は,アメリカ合衆国の彫金師であり,銀製アクセサリーのデザイナーであるレナード・カムホート(以下「カムホート」という。)の氏名から成る商標である。
 本件出願時には,カムホートの承諾を示す書面の提出はなかったが,上告人は,平成11年1月26日,補正の内容を「同意書及びその訳文を別添のとおり提出する」とする手続補正書を特許庁に提出した。これに添付された平成10年12月1日付けのカムホート作成の同意書には,上告人が本件出願に基づき商標登録を受けることに同意する旨の記載がある。
 カムホートは,平成12年5月25日,提出刊行物を「同意書の撤回通知書の写し及びその訳文」とする刊行物等提出書を特許庁に提出した。この書面には,カムホートは上告人に対し同月24日付けの撤回通知書を送付して上記同意書による同意を撤回した旨の記載があり,同撤回通知書の写しが添付されている。
(3)本件出願については,本願商標が商標法4条1項8号(以下,単に「8号」という。)に該当することを理由として,拒絶をすべき旨の査定がされた。上告人は,これを不服として,拒絶査定に対する審判を請求した。この審判請求につき,特許庁において不服2000-20761号事件として審理された結果,平成15年3月14日,上告人の審判請求は成り立たない旨の審決がされた。

2 本件は,上告人が,上記審決には8号,商標法4条3項(以下,単に「3項」という。)の解釈適用の誤りがあるなどと主張して,その取消しを求める訴訟である。

3 8号は,その括弧書以外の部分(以下,便宜「8号本文」という。)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は,肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。したがって,8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は,他人の人格的利益を害することがないよう,自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。
 また,3項は,8号に該当する商標であっても,商標登録出願の時(以下「出願時」という。)に8号に該当しないものについては,8号の規定を適用しない旨を定めている。これは,商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時が,原則として商標登録査定又は拒絶査定の時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には,これに対する審決の時。以下「査定時」と総称する。)であることを前提として,出願時には,他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標に当たらず,8号本文に該当しなかった商標につき,その後,査定時までの間に,出願された商標と同一名称の他人が現れたり,他人の氏名の略称が著名となったりするなどの出願人の関与し得ない客観的事情の変化が生じたため,その商標が8号本文に該当することとなった場合に,当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないことから,このような場合には商標登録を認めるものとする趣旨の規定であると解される。
 8号及び3項の上記趣旨にかんがみると,3項にいう出願時に8号に該当しない商標とは,出願時に8号本文に該当しない商標をいうと解すべきものであって,出願時において8号本文に該当するが8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しないとされる商標については,3項の規定の適用はないというべきである。したがって,出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには,査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり,出願時に上記承諾があったとしても,査定時にこれを欠くときは,商標登録を受けることができないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本願商標は出願時に8号本文に該当するものであり,査定時において上告人が本願商標につき商標登録を受けることについてカムホートの承諾がなかったことは明らかであるから,本件出願は,本願商標が8号に該当することを理由として,拒絶されるべきものである。

4 以上によれば,原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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18.10.10 昭和57年11月12日最高裁判決

2006-10-10 10:53:22 | Weblog
昭和57年11月12日最高裁判決 昭和57年(行ツ)15
商標法4条1項8号

 株式会社の商号は商標法四条一項八号にいう「他人の名称」に該当し、株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた部分は同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきであつて、登録を受けようとする商標が他人たる株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた略称を含むものである場合には、その商標は、右略称が他人たる株式会社を表示するものとして「著名」であるときに限り登録を受けることができないものと解するのが相当である。
 ところで、被上告人が登録を受けた「月の友の会」なる商標は、上告人の商号である「株式会社月の友の会」から株式会社なる文字を除いた部分と同一のものであり、他人の名称の略称からなる商標にほかならないのであつて、被上告人がその登録を受けることができないのは、「月の友の会」が上告人を表示するものとして著名であるときに限られるものというべきである。
 以上と同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の大審院判例は、「他人ノ商号ヲ有スル商標」は登録を受けることができない旨規定するにとどまり、他人の商号の略称を含む商標についてはなんら規定していなかつた旧商標法(大正一〇年法律第九九号)のもとにおける判例であつて、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

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18.10.6 審査の進め方

2006-10-06 22:06:12 | Weblog
答案を採点していて気になりましたので、審査官の審査がどのようにして行なわれるかについて、掲示します。
下記は審査基準の内容です。

審査基準 審査の進め方

2.審査手順の概要
 以下に、審査手順の概要を示す。それぞれの手順の詳細については、「第2節各論」を参照のこと。また、特許の実体審査の流れを図1に示す。
(1)本願発明の理解と認定
 審査は、本願の請求項に係る発明を認定するところから始まる。最初に明細書等を精読し、発明の内容を十分に理解したうえで、特許請求の範囲(請求項)の記載に基づき、請求項に係る発明を認定する。
(2)調査対象の決定(発明の単一性の要件、記載要件についての検討)
 発明の認定に続いて、発明の単一性の要件について検討する(37条)。同時に、明細書及び特許請求の範囲の記載要件について検討し(36条)、先行技術調査の対象とする発明を決定する。
 なお、発明の単一性がない場合でも、そのまま審査を続行するのが効率的と判断される場合には、審査を続行することができる。
(3)先行技術調査(新規性・進歩性等の特許要件に関する調査)
 調査対象とした請求項に係る発明について、新規性・進歩性等の特許要件に関する先行技術調査を行う(29条、29条の2、39条)。明細書中に出願人によって先行技術文献の情報が開示されている場合、又は調査機関(外国特許庁を含む。)が作成した調査報告書に先行技術文献が示されている場合には、まず、これらの文献の内容を検討する。
(4)新規性・進歩性等の特許要件の検討
 先行技術調査の結果を踏まえて、(2)で調査対象として決定した請求項に係る発明の新規性・進歩性等について検討する。
(5)拒絶理由通知
 検討の結果、拒絶の理由を発見した場合には、拒絶理由を通知する(50条)。拒絶理由は、できるだけ簡潔かつ平明な文章で、要点をわかりやすく記載する。その際、各請求項ごとの判断が明確に示されるようにする。

2.1 調査対象
(1)調査対象の決定
 特許請求の範囲に記載された発明のうち、最初に記載されている発明との間で発明の単一性の要件を満たしている各請求項に係る発明を調査対象とする(一の請求項内で発明の単一性の要件を満たさない場合は、請求項内の最初の選択肢との関係で単一性の要件を満たす範囲を調査対象とする。)。原則として、最も広い概念の発明を記載する請求項から最も狭い概念の発明を記載する請求項まで、すべての請求項に係る発明を調査対象とする。
 発明の単一性の要件を満たさない請求項であっても、まとめて審査を行うことが効率的であると認められる場合には、その請求項に係る発明も調査対象とすることができる。
(2)調査対象を決定する際に考慮すべき事項
①請求項に係る発明の実施例も、調査対象として考慮に入れる。
②迅速・的確な審査に資すると認められる場合は、補正により請求項に繰り入れられる蓋然性が高いと判断される開示事項も、過度に負担を増大させない限り、調査対象とすることができる。
(3)調査対象から除外してもよい発明
 以下に示すような発明については、調査対象から除外してもよい。
①新規事項が追加されていることが明らかな発明(17条の2第3項違反)
②不特許事由があることが明らかな発明(32条違反)
③第2条に規定する発明に該当しないことが明らかなもの、産業上利用することができる発明に該当しないことが明らかである発明(29条1項柱書違反)
④発明の詳細な説明及び図面を参酌しても発明を把握することができない程度に請求項の記載が明確でない発明(36条6項2号違反)
⑤請求項に係る発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない場合であって、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない部分(36条4項1号違反)
⑥請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に記載された範囲を超えている場合において、その「記載された範囲を超えている」部分(36条6項1号違反)

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18.10.6 平成15年7月16日 東京高裁判決

2006-10-06 16:24:14 | Weblog
論文合格発表後は、激務が続き、新規投稿がなかなかできない状態になっていま
す。
久しぶりの投稿ですが、商標法4条1項7号違反の無効理由の抗弁が成立する事案です。

平成15年7月16日 東京高裁判決 平成14年(ネ)1555
商標権 民事訴訟事件

第2 事案の概要
 控訴人Aは,原判決別紙商標目録記載の商標権(本件商標権、本件登録商標)の商標権者であり,被控訴人ワールドブランズは,本件標章を付したゴルフクラブを輸入,販売等している会社,被控訴人アダムスゴルフは,本件標章を付したゴルフクラブを我が国に輸出しているアメリカ合衆国(米国)の法人である。
 本件は,控訴人Aが,被控訴人ワールドブランズに対し,本件商標権に基づき,本件標章を付したゴルフクラブの輸入,販売等の差止めを請求するとともに,控訴人A及び本件商標権の前商標権者である訴訟承継前控訴人株式会社コトブキゴルフ(コトブキゴルフ)が,被控訴人ワールドブランズに対し,本件商標権の侵害を理由とする損害賠償を請求し,他方,被控訴人アダムスゴルフが,控訴人Aに対し,ADAMSの標章(以下,本件標章と同義ないしこれを含む標章として用いる。)を付したゴルフクラブの輸入,販売等につき,本件商標権に基づく差止請求権の不存在確認を求めた事案であり,控訴人A及びコトブキゴルフの請求をいずれも棄却し,被控訴人アダムスゴルフの請求を認容した原判決に対し,控訴人A及びコトブキゴルフがその取消しを求めて控訴し,控訴人寿商事が,吸収合併に伴い,コトブキゴルフを訴訟承継した。

第3 当裁判所の判断
1 コトブキゴルフは,平成8年3月12日,「ADAMS」の英文字と「アダムス」の片仮名文字を上下2段に横書きしてなり,指定商品を別表第28類「運動用具」とする本件登録商標の商標登録出願をし,平成9年11月21日,設定登録を受けたこと,コトブキゴルフの代表取締役である控訴人Aは,コトブキゴルフから本件登録商標を譲り受け,平成11年3月1日,その登録を経たこと,控訴人寿商事は,平成14年9月2日,コトブキゴルフを吸収合併し,本件を含むその権利義務を包括承継したこと,一方,被控訴人アダムスゴルフは,ゴルフクラブの製造,販売を主たる業とする米国法人であり,米国等においてADAMSの標章(本件標章)を付したゴルフクラブを製造,販売していること,被控訴人ワールドブランズは,被控訴人アダムスゴルフから上記標章を付したゴルフクラブを輸入し,我が国において販売していること,以上の事実は当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる。
 また,ゴルフクラブは本件商標権の指定商品に含まれること,本件登録商標のうちの「ADAMS」の英文字部分とADAMSの標章(本件標章)は,その外観が類似し,「アダムス」という称呼が同一であることも当事者間に争いがなく,両者は「アダムス」という人の氏名若しくは団体の名称又はこれらの略称の観念を生ずる点でも同一であるから,ADAMSの標章(本件標章)は,本件登録商標と類似するというべきである。

2 本件商標権の商標権者である控訴人Aの被控訴人ワールドブランズ及び被控訴人アダムスゴルフに対する本件差止請求権の行使,並びに控訴人A及び本件商標権の前商標権者であるコトブキゴルフを包括承継した控訴人寿商事の被控訴人ワールドブランズに対する本件損害賠償請求権の行使が,権利の濫用に当たるか否か(争点1)について判断する。
(1)(省略)
(2)上記認定事実によれば,ADAMSの標章(本件標章)が,被控訴人アダムスゴルフの製造,販売するゴルフクラブを示すものとして,米国において注目されるようになったのは1996年(平成8年)1月のPGA展示会からであるところ,控訴人Aは,その展示会を視察し,ADAMSの標章(本件標章)を付したタイトライズ製品に注目し,将来,重要なゴルフクラブになるかもしれないとの認識を有するようになったこと,その後,控訴人Aが代表者であったコトブキゴルフは,上記展示会の終了後間もない同年3月12日,被控訴人アダムスゴルフの許諾を得ることなく,上記ADAMSの標章(本件標章)と類似する本件登録商標の登録出願をしていること,コトブキゴルフは,従前から,外国においてゴルフ用品製造業者又は販売業者を示すものとして使用されている商標につき,我が国において上記製造業者又は販売業者に無断で商標登録出願をすることを数多く繰り返しており,その件数は,昭和53年6月から平成8年9月までの間の主なものだけでも,原判決別表1,2記載の合計19件に上ることが認められる。
 以上によれば,本件登録商標の商標登録出願時における控訴人Aないしコトブキゴルフの目的は,当時,米国において,被控訴人アダムスゴルフの製造,販売するゴルフクラブを示すものとして,ADAMSの標章(本件標章)が注目されるようになっていたことに着目し,近い将来,我が国においても,同商標が注目されるようになる可能性が高いとの判断の下に,我が国で登録されていないことを幸い,あらかじめ,同商標に類似する本件登録商標につき商標登録を受けることにより,我が国内において,ADAMSの標章(本件標章)を付した商品の輸入総代理店等の有利な立場を得たり,あるいは,被控訴人アダムスゴルフの名声に便乗して不正な利益を得るために使用することにあったと推認するのが相当である。
 ところで,我が国おいて,外国における他人の氏名,名称又はこれらの略称からなる商標の使用を知りながら,それと無関係の者が,当該他人の許諾を得ることなく,当該商標又はこれに類似する商標の設定登録を受けることは,商標法4条1項8号,15号等によって商標登録を受けることができない場合があり得るのはもとより,その目的が,我が国で登録されていないことを幸い,当該他人の氏名,名称又はこれらの略称に便乗して不正な利益を得るなどの不正な意図をもって使用することにあるものと認められる限り,公正な商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,公序良俗を害するおそれがある商標というべきであるから,同項7号によって商標登録を受けることができないと解される(東京高裁平成11年3月24日判決・判例時報1683号138頁,同平成11年12月22日判決・判例時報1710号147頁参照)。
 本件において,本件登録商標の出願当時,被控訴人アダムスゴルフの名称あるいは同社が使用するADAMSの標章は,我が国おいてはいまだ周知著名であるとはいえなかったものの,上記認定のとおり,控訴人Aないしコトブキゴルフは,同標章が米国では注目されるようになっていたことを知った上で,近い将来,我が国においても同商標が注目されるようになる可能性が高いとの判断の下に,我が国で登録されていないことを幸い,被控訴人アダムスゴルフの名声に便乗して不正な利益を得るために使用する目的をもって,同被控訴人の許諾を得ることなく,本件登録商標の商標登録出願をしたものであると認められるから,本件登録商標は,公正な商取引の秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものとして,同項7号にいう公序良俗を害するおそれがある商標に該当するというほかはない。
(3)省略
(4)そうすると,本件商標権の商標権者である控訴人Aの被控訴人ワールドブランズ及び被控訴人アダムスゴルフに対する本件差止請求権の行使,並びに控訴人A及び本件商標権の前商標権者であるコトブキゴルフを包括承継した控訴人寿商事の被控訴人ワールドブランズに対する本件損害賠償請求権の行使は,商標法4条1項7号に該当する無効理由が存在することが明らかな商標権に基づくものであって,特段の事情がうかがわれない本件においては,権利の濫用に当たるというべきである。

3 以上によれば,控訴人らの被控訴人ワールドブランズに対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却すべきであり,他方,控訴人Aに対し,ADAMSの標章を付したゴルフクラブの輸入,販売等につき,本件商標権に基づく差止請求権の不存在確認を求める被控訴人アダムスゴルフの請求は理由があるから,これを認容すべきである。

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18.10.1 平成17年1月31日東京高裁判決

2006-10-01 11:09:29 | Weblog
平成17年1月31日東京高裁判決 平成16(行ケ)219
商標権 行政訴訟事件

第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は,「COMEX」の欧文字を横書きしてなり,指定商品を第14類「時計,時計の部品及び付属品」とする登録第4145349号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,平成8年12月16日に登録出願され,平成10年3月10日に登録査定され,同年5月15日に設定登録がされた。
 被告らは,平成15年5月14日,原告を被請求人として,本件商標の登録無効審判を請求した。特許庁は,同請求を無効2003-35192号事件として審理し,平成16年4月5日,「登録第4145349号の登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。
2 審決の理由
 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標の登録を認めることは,著しく社会的妥当性を欠き,商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものであり,公正な競業秩序を乱し,ひいては国際信義に反するものであって,公の秩序を害するおそれがあり,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するから,その登録は無効とすべきであると判断した。

第5 当裁判所の判断
2 取消事由3(商標法4条1項7号の解釈適用の誤り)について
(4)以上のとおり,原告による本件商標「COMEX」の商標登録出願は,出願の経緯及び商標登録後の原告の行為に照らし,被告ロレックス社製の「ROLEX/comexダブルネーム」時計の人気及び「comex」,「COMEX」の商標が被告ロレックス社製ダイバーズウォッチの高い性能と信頼性の証とされていることを熟知しながら,我が国において「時計,時計の部品及び付属品」を指定商品とする「COMEX」の商標登録がされていなかったことを奇貨として,先取り的にされたものであり,その商標登録出願に基づいて登録された本件商標「COMEX」を原告の販売する時計に使用すれば,需要者の誤認を招くばかりでなく,そのただ乗り的使用によって,「comex」,「COMEX」の商標について形成された被告ロレックス社の信用が毀損され,また,本件商標「COMEX」が原告の販売する比較的廉価なダイバーズウォッチに使用されれば,ごく少数のサブマリーナ及びシードゥエラーにのみ使用されることによって希少性と名声を保っている「comex」,「COMEX」の商標が希釈化され,その価値が損なわれることになることは明らかである。
 加えて,原告は,「comex」の商標の付されていない被告ロレックス社製の時計に「COMEX」のロゴ入れ加工を独占的に行うことを正当化する理由として,本件商標「COMEX」が原告の登録商標であることをうたっている。以上のような諸事情を総合考慮すれば,本件商標の登録を容認することは,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」(商標法1条)という商標法の予定する秩序に反するものというべきであり,このような観点から見て,本件商標は,商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に当たるものとして,その登録が許されるべきものではない。
 したがって,本件商標が商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するとした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由3の主張は理由がない。

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