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特許法94条(18.5.2)

2006-05-02 18:56:15 | Weblog
(通常実施権の移転等)
第94条
 本条は、通常実施権の移転等について規定しています。

第1項
 本項は、通常実施権を移転することができる場合を規定しています。
 ただし、本項に規定する通常実施権からは、裁定通常実施権は除かれています。裁定通常実施権の移転については、条件が異なりますので、3項、4項、5項に別途規定しています。
 裁定通常実施権を除く通常実施権は、次の場合に限り、移転することができます。
 第1に、実施の事業とともにする場合です。この場合に通常実施権の移転ができないとすると、事業設備を稼働できず、設備の荒廃をきたすことになるからです。
 第2に、特許権についての通常実施権については特許権者の承諾を得た場合、専用実施権についての通常実施権については特許権者及び専用実施権者の承諾を得た場合です。特許権者等の承諾があれば、特許権者等に不測の不利益を与えることもないからです。
 第3に、相続その他の一般承継の場合です。一般承継の場合は承継人の範囲が限定されており、特許権者が不測の不利益を受けることはないからです。
 本項の通常実施権から、法定通常実施権(35条1項、80条1項、176条等)が除かれていません。したがって、法定通常実施権であっても、本項が適用されると解釈することができます。短答式試験では条文のとおりが正解であるとして差し支えありません。

第2項
 本項は、通常実施権について質権を設定する場合の制限について規定しています。
 ただし、本項に規定する通常実施権からは裁定通常実施権は除かれています。通常実施権について質権を設定しますと、債務の弁済ができないときは、質権が実行されて通常実施権が質権者に譲渡されることになります。ところが、裁定通常実施権については自由に譲渡することができませんので(94条3項~5項)、裁定通常実施権のみについて質権を設定することはできないこととなります。
 裁定通常実施権を除く通常実施権について質権を設定することができるのは、特許権についての通常実施権については特許権者の承諾を得た場合、専用実施権についての通常実施権については特許権者及び専用実施権者の承諾を得た場合に限られます。
 なお、質権の実行によって通常実施権が質権者に譲渡されることになりますが、この場合は、あらためて94条1項に規定する特許権者の承諾は必要とされないと解されます。質権の設定について承諾したということは、質権の実行による譲渡についても承諾したものとみなすことができるからです。

第3項
 本項は、83条2項の裁定通常実施権と93条2項の裁定通常実施権の移転の制限について規定しています。
 すなわち、これらの裁定通常実施権(83条2項、93条2項)を移転することができるのは、実施の事業とともにする場合に限られることになります。強制的に設定された実施権が自由に移転できるのは適当でないからです。
 なお、TRIPS協定31条⒠によれば、裁定通常実施権は、その実施の事業とともに譲渡する場合を除き、譲渡することができないとされています。したがって、本項では、一般承継によっても移転することができないことを明確にしています。
 質権については、本項において規定していませんが、民法343条には、質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができないと規定されています。したがって、自由に譲渡することができない裁定通常実施権については質権の設定はすることができないこととなります。この点は、明文の規定を設けるまでもないとの解釈によります。

第4項
 本項は、92条3項の裁定通常実施権、実用新案法22条3項の裁定通常実施権、意匠法33条3項の裁定通常実施権についての移転・消滅について規定しています。
 これらの裁定通常実施権(92条3項、実22条3項、意33条3項)については、これらの通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業とともに移転したときは、これらに従って移転することになります。
 TRIPS協定31条⒠によれば、裁定通常実施権は実施の事業とともにであれば移転することができます。また、TRIPS協定31条⒧()によれば、後願権利者の裁定通常実施権は、後願権利とともに譲渡する場合に限り、譲渡することができるとされています。本項は、これらの規定に適合するように規定しています。
 実用新案法22条3項の裁定通常実施権とは、後願権利が実用新案権で先願権利が特許権の場合を意味します。後願の実用新案権を実施の事業とともに移転する場合には、自己の裁定通常実施権も同時に移転することになります。
 意匠法33条3項の裁定通常実施権とは、後願権利が意匠権で先願権利が特許権の場合を意味します。後願の意匠権を実施の事業とともに移転する場合には、自己の裁定通常実施権も同時に移転することになります。
 要するに、後願権利者の有する裁定通常実施権は、自己の後願権利を実施の事業とともに移転した場合には、同時に移転することになります。
 しかし、裁定通常実施権者の自己の特許権、実用新案権又は意匠権が実施の事業と分離して移転したとき、又は消滅したときは、自己の裁定通常実施権も消滅することになります。つまり、裁定通常実施権者が有する後願特許権や後願実用新案権や後願意匠権を実施の事業と分離して移転したときは、後願特許権、後願実用新案権、後願意匠権の移転は有効であるけれども、後願権利者の裁定通常実施権は消滅することになります。
 裁定通常実施権者の後願権利が消滅したときは、裁定通常実施権のみが存続することは適当ではありませんので、裁定通常実施権も同時に消滅させることとしています。

第5項
 本項は、クロス裁定通常実施権の移転と消滅について規定しています。
 92条4項の裁定通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権に従つて移転します。当該特許権等は実施の事業と分離して移転することもできますが、その場合は、裁定通常実施権も従属して移転することになります。
 92条4項の裁定通常実施権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権又は意匠権が消滅したときは、消滅します。裁定通常実施権者の先願権利が消滅したときは、92条4項の裁定通常実施権のみが存続することは適当ではありませんので、裁定通常実施権も同時に消滅させることとしています。

第6項
 73条1項の規定は、通常実施権に準用することとしています。
 本項の反対解釈により、73条2項及び3項は準用されないこととなります。
 もっとも、73条3項については、通常実施権について専用実施権を設定することはあり得ず、通常実施権についてさらに通常実施権を許諾することは、特許法上は想定していないことから、準用する余地はありません。
 73条2項については、準用しなかったという解釈をすれば、通常実施権が共有に係る場合には、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許発明の実施ができないことになります。
 なお、通常実施権についてさらに通常実施権を許諾することは、特許法上は禁止されているわけではありませんので、当事者間の契約自由の原則によって可能であるといえます。ただし、特許権についての通常実施権であれば、特許権者の承諾が必要となり、専用実施権についての通常実施権であれば、専用実施権者の承諾が必要となります。
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