2023年2月28日 弁理士試験 代々木塾 意匠法3条の2
意匠法第三条の二
意匠登録出願に係る意匠が、当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であつて当該意匠登録出願後に第二十条第三項又は第六十六条第三項の規定により意匠公報に掲載されたもの(以下この条において「先の意匠登録出願」という。)の願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠の一部と同一又は類似であるときは、その意匠については、前条第一項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
ただし、当該意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であつて、第二十条第三項の規定により先の意匠登録出願が掲載された意匠公報(同条第四項の規定により同条第三項第四号に掲げる事項が掲載されたものを除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願があつたときは、この限りでない。
〔解説〕
(1)本文の規定の趣旨(平成10年改正の趣旨)
平成10年改正前は、先願意匠の一部と同一又は類似であっても、先願意匠の全体と同一又は類似でなければ、9条1項により拒絶されず、後願も登録されていた。しかし、後願の出願後に意匠公報に掲載された先願意匠の一部と同一又は類似の意匠に係る後願を登録することは、新しい意匠の創作でないものを保護することとなり、意匠制度の趣旨(1条)に反する。また、完成品の意匠について意匠権の設定の登録がされた場合、その出願後その意匠公報発行前に出願された部品の意匠については、平成10年改正前は拒絶理由に該当せず、意匠権の設定の登録がされることになるが、この場合は、権利関係の錯綜が生じていた。また、平成10年改正による部分意匠制度(2条1項)の導入と組物の意匠の登録要件(8条)の緩和により、先願の意匠の一部と同一又は類似の意匠が後願として出願されるケースが増大するおそれがある。そこで、平成10年改正により、後願の出願後に意匠公報に掲載された先願意匠の一部と同一又は類似の後願は、登録しないこととした(3条の2本文)。
(2)意匠登録出願に係る意匠
審査対象である後願の意匠登録出願に係る意匠を意味する。
(3)当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であって
(a)他の意匠登録出願が先願であることを意味する。
(b)「日前」→同日出願は含まない。
(c)出願日の解釈→分割、変更、パリ条約の優先権の場合は、要件を満たすときは、遡及した出願日を意味する。特44条2項ただし書では、特29条の2の適用については出願日が遡及しないが、意10条の2第2項ただし書ではそのような規定は存在しない。意匠法では、分割、変更、優先権の要件の判断が容易であるからである。
(d)出願人は同一人であっても本文は適用される。なお、ただし書(出願人同一の適用除外)が適用される場合は、本文は適用されない。
(4)20条3項又は66条3項の規定により意匠公報に掲載されたもの
(a)20条3項→意匠権の設定の登録後の意匠公報
(b)66条3項→9条2項後段の理由で拒絶が確定した出願の意匠公報
(c)意匠公報が発行されない場合には、3条の2は適用されない。
(d)秘密期間中は、最初の意匠公報が発行されても、登録意匠の内容は掲載されないので(20条4項)、この時点では3条の2の拒絶理由は通知できない。
(e)後願の意匠登録出願の審査において、将来意匠公報が掲載されたときは3条の2本文の先願に該当することとなる意匠登録出願が存在する場合において、当該先願が特許庁に係属しているときは、後願の出願人に待ち通知をする。待ち通知は拒絶理由通知ではない。
(5)かっこ書の「先の意匠登録出願」
3条の2の適用において、先願の意匠登録出願を「先の意匠登録出願」と定義している。この定義は、他の規定には適用されない。
(6)願書の記載及び願書に添付した図面等に現された意匠
(a)先願の意匠公報において創作された意匠として開示された意匠であることが必要である。
(b)先願において参考図(使用状態を示した図等)にのみ記載された意匠は、創作された意匠として保護されるべきものではないので、3条の2の引用意匠とはならない。
(c)部分意匠の出願の場合は、意匠登録を受けようとする部分以外の部分も創作されたものとして3条の2の引用例となり得る。意匠に係る物品を「自転車」とし、意匠登録を受けようとする部分を「ハンドル」とするする部分意匠について意匠公報が発行された場合には、図面に記載されているハンドル部分以外のサドル部分やペダル部分も3条の2の引用例となり得る。
(7)一部と同一又は類似であるときは
(a)一部であるから、全部と同一又は類似であるときは、3条の2の引用例とはならない。この場合は、9条1項が適用される。
(b)一部とは、先願の意匠として開示された意匠の外観の中に含まれた1つの閉じられた領域をいう。先願に係る意匠が形状と模様の結合意匠である場合には、模様を除いた形状のみの意匠を一部として取り扱うことはできない。
(c)先願の開示意匠の中に、後願の意匠の全体の形状等が対比可能に開示されていることが必要である。
(d)先願の開示意匠の一部と、後願の意匠に係る物品とが、用途及び機能が同一又は類似であって、形状等が同一又は類似である場合には、一部と同一又は類似であるといえる。先願の意匠に係る物品と後願の意匠に係る物品とが、同一、類似、非類似のいずれであるかは問わない。全体における部分の位置、大きさ、範囲も考慮しない。
(e)後願が部分意匠の場合には、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能と形状等が、先願の開示意匠の一部と同一又は類似しているときは、後願は3条の2により拒絶される可能性がある。
例えば、先願が自転車を意匠に係る物品とする自転車のハンドル部分の部分意匠であり、後願が自転車を意匠に係る物品とする自転車のサドル部分の部分意匠である場合において、先願の自転車の意匠の中に後願のサドル部分の意匠と同一又は類似の意匠が対比可能に含まれている場合には、後願の自転車のサドル部分の部分意匠は3条の2により拒絶される。
(8)ただし書の規定の趣旨(平成18年改正の趣旨)
平成18年改正前は、出願人が同一であっても3条の2が適用されるため、自己の先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠については意匠登録を受けることはできなかった。しかし、デザイン開発においては、先に製品全体の外観デザインが完成し、その後個々の構成部品の詳細なデザインが決定されて製品全体の詳細なデザインが完了するという開発実態がある。また、市場において成功した商品については、模倣の対象となりやすいことから、最初の意匠の出願に遅れて、先の意匠の一部を部品意匠や部分意匠として出願し、独自性の高い自己の製品のデザインの保護を強化したいというニーズがある。そこで、平成18年改正により、出願人が同一の場合には、一定の時期的制限のもとで3条の2本文を適用しないこととした。
(9)ただし書の適用の要件
(a)当該意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であること。
出願人同一の要件は、当該意匠登録出願(後の出願)の査定時に判断する。当初別人の出願であっても、後の出願の査定時までに出願人が同一になれば、3条の2ただし書の規定により3条の2本文の適用が除外されることとなる。この点で、特29条の2ただし書とは異なる。
「先の意匠登録出願の出願人」とは、先の出願に係る意匠権の設定の登録時の願書に記載された出願人を意味する。先の出願に係る意匠権を譲り受けても、出願人を同一にすることはできない。意匠権の設定の登録後は、出願人名義変更届を提出することはできないので、出願人を変更することができない。
(b)当該意匠登録出願が、先の意匠登録出願について20条3項の意匠公報の発行の日前にされたこと。
意匠公報の発行の日前としたのは、出願可能期間をあまり長期にすると権利の錯綜等の弊害が生じる可能性が高くなること、先の出願について意匠公報が発行された後に出願を認めることは新たな創作を保護する趣旨に反するからである。
なお、66条3項の意匠公報が発行された場合には、本文が適用されるが、ただし書は適用されない。ただし書は、先願について意匠権の設定の登録がされることを前提としたものであるからである。
(c)20条4項の規定により20条3項4号に掲げる事項が掲載されたものを除く。
秘密意匠の場合の意匠公報の発行の日前とは、秘密意匠について最初の意匠公報の発行の日前を意味する。秘密期間経過後の意匠公報の発行の日前とした場合には、他人の出願意匠や公知意匠との間で権利関係が抵触する蓋然性が高くなること、秘密期間の最長3年の期間も出願が可能とすると実質的に権利期間を延長することにもつながること、から最初の意匠公報の発行の日前までとした。
(10)創作者が同一の場合
特29条の2では発明者が同一の場合には適用を除外することとしている。しかし、意3条の2では、創作者同一の場合には適用を除外しないこととしている。創作者が全体意匠についての意匠登録を受ける権利を他人に譲渡した後に、その全体意匠の一部について創作者に意匠登録を認めると、全体の意匠権と部分の意匠権とが異なる権利者に帰属することとなり、権利の錯綜を招くおそれがあるからである。
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