【特許法29条の2】
1.後願の特許出願の査定時においては先願の特許出願について出願公開がされていないため、後願の特許出願について特許査定がされた。
その後、後願の特許出願について特許権の設定の登録がされた後に先願の特許出願について出願公開がされた。
この場合、後願の特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものであるとして、無効にすることができるか、という論点がある。
この点に関しては、特許庁及び知財高裁は、下記の裁判例のとおり、無効にすることができる、としている。
2.知財高裁判決平成18年1月25日(平成17年(行ケ)1043)
(1)事実関係
本件は、(a)先願発明の特許出願、(b)本件発明の特許出願、(c)本件発明についての特許査定、(d)先願発明につき出願公開、(e)本件特許の設定登録という順序でされたものである。
(2)審決の結論
本件発明は、先願発明と同一であると認められ、しかも、本件発明の発明者が先願明細書に記載された発明者と同一でなく、また本件発明の出願の時に、その出願人が先願明細書に記載された出願人と同一でもないので、本件発明は、特許法29条の2の規定に違反してなされたものであり、特許法123条1項2号の規定に該当するから、その特許は無効とすべきものである。
(3)知財高裁の判断
特許法29条の2における「出願公開」という要件は、後願の出願後(当該特許出願後)に先願(当該特許出願の日前の他の特許出願)についての「出願公開」がされれば足りるのであり、後願の査定時に未だ先願の出願公開がされていない場合には、担当の審査官が先願の存在をたまたま知り得たとしても、その時点で査定をする限り、特許査定をしなければならないが、その後にその先願の出願公開がされたときは、特許法29条の2所定の「出願公開」の要件を満たし、特許法123条1項2号に該当するものとして特許無効審判を請求することができるものと解するのが相当である。
(a)特許法29条の2は、その文言解釈上、先願の出願公開時期につき、「当該特許出願後」(後願の出願後)ということ以外に何ら限定していないことが明らかである。
(b)特許法29条の2が設けられた主たる趣旨を考察すると、当該特許出願の日前の他の特許出願(先願)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明は、一部の例外を除きすべて出願公開によって公開されるものである(特許法64条等)から、後願である当該特許出願は、先願について出願公開がされなかった例外的な場合を除き、社会に対して何ら新しい技術を提供するものではないという点にあるものと解される。
この趣旨に照らすと、上記のように解するのが相当である。後願である当該特許出願についての特許査定時期と先願の出願公開時期との先後関係がいかにあろうとも、すなわち、後願の特許査定後に先願の出願公開がされたとしても、後願である当該特許出願が社会に対して何ら新しい技術を提供するものではないことに変わりはないからである。
(c)実質的に考えても上記のように解釈するのが相当である。仮に、後願(当該特許出願)についての特許査定時までに先願の出願公開がされていない場合には、その後にその出願公開がされたとしても特許法29条の2の適用の余地はないと解するならば、不当な結果となる。
そもそも、特許査定の時期は、審査請求をどの時点でするか、審査手続がどのように進行するかなど、個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、出願公開の時期も、出願人が出願公開の請求をどの時点でするか、特許法64条1項前段の出願公開についても事務手続がどのように進むかなど、これも個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、両者の先後関係は、多分に偶然の要素に左右されることは、制度上自明のことである。
このような偶然の要素によって特許要件の充足性を左右させることは、特許制度を不安定かつ予測困難なものとするものであって、特許法の予定するものでないと解される。
また、そのような不安定かつ予測困難な制度として運用するならば、先願者の防衛的な観点からの手続を誘発することにもなり、特許法29条の2の企図するところとも背馳することになる。
1.後願の特許出願の査定時においては先願の特許出願について出願公開がされていないため、後願の特許出願について特許査定がされた。
その後、後願の特許出願について特許権の設定の登録がされた後に先願の特許出願について出願公開がされた。
この場合、後願の特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものであるとして、無効にすることができるか、という論点がある。
この点に関しては、特許庁及び知財高裁は、下記の裁判例のとおり、無効にすることができる、としている。
2.知財高裁判決平成18年1月25日(平成17年(行ケ)1043)
(1)事実関係
本件は、(a)先願発明の特許出願、(b)本件発明の特許出願、(c)本件発明についての特許査定、(d)先願発明につき出願公開、(e)本件特許の設定登録という順序でされたものである。
(2)審決の結論
本件発明は、先願発明と同一であると認められ、しかも、本件発明の発明者が先願明細書に記載された発明者と同一でなく、また本件発明の出願の時に、その出願人が先願明細書に記載された出願人と同一でもないので、本件発明は、特許法29条の2の規定に違反してなされたものであり、特許法123条1項2号の規定に該当するから、その特許は無効とすべきものである。
(3)知財高裁の判断
特許法29条の2における「出願公開」という要件は、後願の出願後(当該特許出願後)に先願(当該特許出願の日前の他の特許出願)についての「出願公開」がされれば足りるのであり、後願の査定時に未だ先願の出願公開がされていない場合には、担当の審査官が先願の存在をたまたま知り得たとしても、その時点で査定をする限り、特許査定をしなければならないが、その後にその先願の出願公開がされたときは、特許法29条の2所定の「出願公開」の要件を満たし、特許法123条1項2号に該当するものとして特許無効審判を請求することができるものと解するのが相当である。
(a)特許法29条の2は、その文言解釈上、先願の出願公開時期につき、「当該特許出願後」(後願の出願後)ということ以外に何ら限定していないことが明らかである。
(b)特許法29条の2が設けられた主たる趣旨を考察すると、当該特許出願の日前の他の特許出願(先願)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明は、一部の例外を除きすべて出願公開によって公開されるものである(特許法64条等)から、後願である当該特許出願は、先願について出願公開がされなかった例外的な場合を除き、社会に対して何ら新しい技術を提供するものではないという点にあるものと解される。
この趣旨に照らすと、上記のように解するのが相当である。後願である当該特許出願についての特許査定時期と先願の出願公開時期との先後関係がいかにあろうとも、すなわち、後願の特許査定後に先願の出願公開がされたとしても、後願である当該特許出願が社会に対して何ら新しい技術を提供するものではないことに変わりはないからである。
(c)実質的に考えても上記のように解釈するのが相当である。仮に、後願(当該特許出願)についての特許査定時までに先願の出願公開がされていない場合には、その後にその出願公開がされたとしても特許法29条の2の適用の余地はないと解するならば、不当な結果となる。
そもそも、特許査定の時期は、審査請求をどの時点でするか、審査手続がどのように進行するかなど、個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、出願公開の時期も、出願人が出願公開の請求をどの時点でするか、特許法64条1項前段の出願公開についても事務手続がどのように進むかなど、これも個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、両者の先後関係は、多分に偶然の要素に左右されることは、制度上自明のことである。
このような偶然の要素によって特許要件の充足性を左右させることは、特許制度を不安定かつ予測困難なものとするものであって、特許法の予定するものでないと解される。
また、そのような不安定かつ予測困難な制度として運用するならば、先願者の防衛的な観点からの手続を誘発することにもなり、特許法29条の2の企図するところとも背馳することになる。