平成14年1月30日東京高裁判決・平成13年(行ケ)265
商標権 行政訴訟事件 角瓶事件
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成6年5月17日、別紙表示のとおり、「角瓶」の文字を左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令別表による第33類「ウイスキー」として商標登録出願をした(商願平6-48572号)が、平成8年10月1日に拒絶査定を受けたので、同年11月26日、これに対する不服の審判の請求をし、その後、指定商品を同類「角型瓶入りのウイスキー」と補正した。
特許庁は、同審判請求を平成8年審判第20067号事件として審理した上、平成13年4月18日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月14日、原告に送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標は、指定商品の品質、形状を表示するにすぎないので、商標法3条1項3号に該当し、また、同条2項所定の要件を具備していると認めることもできないから、原査定を取り消すべき限りではないとした。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1)出願に係る商標が、指定商品の品質、形状を表示するものとして商標法3条1項3号に該当する場合に、それが同条2項に該当し、登録が認められるかどうかは、使用に係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用をされた結果、需要者がなんぴとかの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり、その場合に、使用に係る商標及び商品は、原則として出願に係る商標及び指定商品と同一であることを要するものというべきである。
そして、同条1項3号により、指定商品の品質、形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標が、本来は商標登録を受けることができないとされている趣旨は、そのような商標が、商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによることにかんがみれば、上記の場合に、使用商標が出願商標と同一であるかどうかの判断は、両商標の外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的な考察の下に、商標としての同一性を損なわず、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められるかどうかを考慮して行うべきものと解するのが相当である。(途中省略)
(4)外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的に考察した場合には、上記のとおり本願商標と厳密には書体が同一ではない文字、縦書きで書された文字及び「角」と「瓶」の字間が本願商標よりも広い文字による表示に係る商標も、本願商標と商標としての同一性を損なうものではなく、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められるから、使用商標が出願商標と同一である場合に当たるものというべきである。
(5)「サントリー」が、出所表示機能を有する原告の代表的かつ著名なハウスマークであることは当事者間に争いがないところ、新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字中には、「サントリー」の文字に連続して表されていると認められるものが存在する。
そして、審決は、上記のような表示につき、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用されているということができない」と認定判断し、被告は、「角瓶」の文字よりなる本願商標が独立して取引の目的となり得るような態様で使用されてきたということはできない旨主張する。
しかしながら、上記新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標のうち、上記に挙げたもの以外は、表示の形態として、必ずしも「角瓶」の文字が「サントリー」の文字と連続し、又は一体の商標と認められる程度に近接して表されているわけではなく、したがって、それらの「角瓶」の文字は「サントリー」の文字と結びついて使用されているということはできない(なお、同一広告中の隔離した位置に「サントリー」等の文字があるからといって、それだけでこれらの文字と結びついて使用されているということができないことは明白である。)から、審決の上記「ハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されている」との説示はそれ自体誤りというべきであるが、その点はおくとしても、上記の「角瓶」の文字が「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表されていると認められる形態のものであっても、以下のとおり、「角瓶」の文字よりなる本願商標が使用されているものというべきである。
すなわち、一般に、それ自体で出所表示機能を有する商標であっても、具体的な使用の態様においては、他の文字と連続して表示されることがないとはいえず、当該他の文字が当該商標に係る商品又は役務の出所を示す著名なハウスマークである場合でも、そのようなことがしばしばあることは、例えば自家用車や家電製品等の場合を考えれば明らかである。そして、このような場合に、常に、ハウスマークと結合して一体化した商標が使用されているのであって、当該商標自体の使用に当たらないと見るのは不合理であることが明らかであり、結局、そのような態様における使用が、ハウスマークと結合して一体化した商標の使用に当たるか、当該商標自体の使用に当たるかは、当該商標がハウスマークと連続又は近接しないで表示されることも相当程度あるかどうか、あるいは、当該商標の使用者自身が、例えばハウスマークと結合して一体化した構成の商標について登録出願をする等、むしろ、ハウスマークと結合して一体化したものを一個の商標として扱うような積極的な行為に及んでいるかどうか等の事実に基づき、その点についての使用者及び取引者、需要者の認識いかんに従って、これを決するのが相当である。
そこで、本願商標についてこの点を検討するに、上記の新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字のうちには、上記のとおり、「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表示されているものが存在する反面、(途中省略)「角瓶」の文字が、特段、「サントリー」等の文字と連続又は近接することなく表されており、そのような使用の態様も少なくはないものと認められるのみならず、「サントリー」等の文字と連続して表されているものであっても、「角瓶」の文字部分が四角形の枠で囲まれ、また、「角瓶」の文字部分が括弧で囲まれていて、いずれも「角瓶」の文字部分と「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字部分とを区分し、一体化することを妨げるような表示態様とされている。
これに加え、一般の刊行物においても、本件製品を「サントリーウイスキー 角瓶」と指称するものもあるものの、前掲「ウイスキー戦争」及び「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」のように、単に「角瓶」との表記を用いて本件製品を指称するもの、あるいは「サントリー角瓶」との表記と単なる「角瓶」との表記を併用するものも存在する。
他方、原告において、「角瓶」の文字とハウスマークである「サントリー」等の文字とを結合して一体化した「サントリー角瓶」等の商標の登録出願をしたこと、その他、原告自身が、そのようなハウスマークと結合して一体化したものを一個の商標として扱うような積極的な行為に及んでいることを認めるに足りる証拠はない。
以上の各事実を総合して考慮すれば、原告自身においてはもとより、ウイスキーについての取引者、需要者においても、本願商標はそれ自体が単独で使用されるものと理解し、たとえハウスマークである「サントリー」等の文字と「角瓶」の文字とが連続して表示されている態様であっても、ハウスマークと結合して一体化した「サントリー角瓶」等の構成よりなる商標が使用されているのではなく、「角瓶」の文字からなる本願商標自体が使用されていると認識するものと認めるのが相当である。
したがって、上記の新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標は、「角瓶」の文字が「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表示されている態様のものも含めて、「角瓶」の文字よりなる本願商標が、標章として独立して指定商品「角型瓶入のウイスキー」に使用され、自他商品識別機能を備えるに至ったものと認められる。(途中省略)
(7)以上の各事実を総合すれば、本願商標と同一と認められる商標が、原告により、遅くとも昭和28年ころから審決時に至るまで、新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャル等において、相当量が販売されている本件製品につき我が国のほぼ全域にわたって多数回使用されており、その使用の結果、需要者において、上記商標が使用された本件製品が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至っているものと認めることができる。
このような事実に照らして、審決が、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用されているということができない」、「『角瓶』の文字についても・・・本願商標と使用に係る標章とは同一であることは、認められない」と認定判断したことは誤りというべきであり、この瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。
商標権 行政訴訟事件 角瓶事件
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成6年5月17日、別紙表示のとおり、「角瓶」の文字を左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令別表による第33類「ウイスキー」として商標登録出願をした(商願平6-48572号)が、平成8年10月1日に拒絶査定を受けたので、同年11月26日、これに対する不服の審判の請求をし、その後、指定商品を同類「角型瓶入りのウイスキー」と補正した。
特許庁は、同審判請求を平成8年審判第20067号事件として審理した上、平成13年4月18日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月14日、原告に送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標は、指定商品の品質、形状を表示するにすぎないので、商標法3条1項3号に該当し、また、同条2項所定の要件を具備していると認めることもできないから、原査定を取り消すべき限りではないとした。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1)出願に係る商標が、指定商品の品質、形状を表示するものとして商標法3条1項3号に該当する場合に、それが同条2項に該当し、登録が認められるかどうかは、使用に係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用をされた結果、需要者がなんぴとかの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり、その場合に、使用に係る商標及び商品は、原則として出願に係る商標及び指定商品と同一であることを要するものというべきである。
そして、同条1項3号により、指定商品の品質、形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標が、本来は商標登録を受けることができないとされている趣旨は、そのような商標が、商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによることにかんがみれば、上記の場合に、使用商標が出願商標と同一であるかどうかの判断は、両商標の外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的な考察の下に、商標としての同一性を損なわず、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められるかどうかを考慮して行うべきものと解するのが相当である。(途中省略)
(4)外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的に考察した場合には、上記のとおり本願商標と厳密には書体が同一ではない文字、縦書きで書された文字及び「角」と「瓶」の字間が本願商標よりも広い文字による表示に係る商標も、本願商標と商標としての同一性を損なうものではなく、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがないものと社会通念上認められるから、使用商標が出願商標と同一である場合に当たるものというべきである。
(5)「サントリー」が、出所表示機能を有する原告の代表的かつ著名なハウスマークであることは当事者間に争いがないところ、新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字中には、「サントリー」の文字に連続して表されていると認められるものが存在する。
そして、審決は、上記のような表示につき、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用されているということができない」と認定判断し、被告は、「角瓶」の文字よりなる本願商標が独立して取引の目的となり得るような態様で使用されてきたということはできない旨主張する。
しかしながら、上記新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標のうち、上記に挙げたもの以外は、表示の形態として、必ずしも「角瓶」の文字が「サントリー」の文字と連続し、又は一体の商標と認められる程度に近接して表されているわけではなく、したがって、それらの「角瓶」の文字は「サントリー」の文字と結びついて使用されているということはできない(なお、同一広告中の隔離した位置に「サントリー」等の文字があるからといって、それだけでこれらの文字と結びついて使用されているということができないことは明白である。)から、審決の上記「ハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されている」との説示はそれ自体誤りというべきであるが、その点はおくとしても、上記の「角瓶」の文字が「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表されていると認められる形態のものであっても、以下のとおり、「角瓶」の文字よりなる本願商標が使用されているものというべきである。
すなわち、一般に、それ自体で出所表示機能を有する商標であっても、具体的な使用の態様においては、他の文字と連続して表示されることがないとはいえず、当該他の文字が当該商標に係る商品又は役務の出所を示す著名なハウスマークである場合でも、そのようなことがしばしばあることは、例えば自家用車や家電製品等の場合を考えれば明らかである。そして、このような場合に、常に、ハウスマークと結合して一体化した商標が使用されているのであって、当該商標自体の使用に当たらないと見るのは不合理であることが明らかであり、結局、そのような態様における使用が、ハウスマークと結合して一体化した商標の使用に当たるか、当該商標自体の使用に当たるかは、当該商標がハウスマークと連続又は近接しないで表示されることも相当程度あるかどうか、あるいは、当該商標の使用者自身が、例えばハウスマークと結合して一体化した構成の商標について登録出願をする等、むしろ、ハウスマークと結合して一体化したものを一個の商標として扱うような積極的な行為に及んでいるかどうか等の事実に基づき、その点についての使用者及び取引者、需要者の認識いかんに従って、これを決するのが相当である。
そこで、本願商標についてこの点を検討するに、上記の新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標に係る「角瓶」の文字のうちには、上記のとおり、「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表示されているものが存在する反面、(途中省略)「角瓶」の文字が、特段、「サントリー」等の文字と連続又は近接することなく表されており、そのような使用の態様も少なくはないものと認められるのみならず、「サントリー」等の文字と連続して表されているものであっても、「角瓶」の文字部分が四角形の枠で囲まれ、また、「角瓶」の文字部分が括弧で囲まれていて、いずれも「角瓶」の文字部分と「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字部分とを区分し、一体化することを妨げるような表示態様とされている。
これに加え、一般の刊行物においても、本件製品を「サントリーウイスキー 角瓶」と指称するものもあるものの、前掲「ウイスキー戦争」及び「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」のように、単に「角瓶」との表記を用いて本件製品を指称するもの、あるいは「サントリー角瓶」との表記と単なる「角瓶」との表記を併用するものも存在する。
他方、原告において、「角瓶」の文字とハウスマークである「サントリー」等の文字とを結合して一体化した「サントリー角瓶」等の商標の登録出願をしたこと、その他、原告自身が、そのようなハウスマークと結合して一体化したものを一個の商標として扱うような積極的な行為に及んでいることを認めるに足りる証拠はない。
以上の各事実を総合して考慮すれば、原告自身においてはもとより、ウイスキーについての取引者、需要者においても、本願商標はそれ自体が単独で使用されるものと理解し、たとえハウスマークである「サントリー」等の文字と「角瓶」の文字とが連続して表示されている態様であっても、ハウスマークと結合して一体化した「サントリー角瓶」等の構成よりなる商標が使用されているのではなく、「角瓶」の文字からなる本願商標自体が使用されていると認識するものと認めるのが相当である。
したがって、上記の新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャルにおいて使用された商標は、「角瓶」の文字が「サントリー」又は「サントリーウ井スキー」の文字に連続して表示されている態様のものも含めて、「角瓶」の文字よりなる本願商標が、標章として独立して指定商品「角型瓶入のウイスキー」に使用され、自他商品識別機能を備えるに至ったものと認められる。(途中省略)
(7)以上の各事実を総合すれば、本願商標と同一と認められる商標が、原告により、遅くとも昭和28年ころから審決時に至るまで、新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャル等において、相当量が販売されている本件製品につき我が国のほぼ全域にわたって多数回使用されており、その使用の結果、需要者において、上記商標が使用された本件製品が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至っているものと認めることができる。
このような事実に照らして、審決が、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びついて使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用されているということができない」、「『角瓶』の文字についても・・・本願商標と使用に係る標章とは同一であることは、認められない」と認定判断したことは誤りというべきであり、この瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。