
■「オーケストラ!/Le Concert」(2009年・フランス)
監督=ラディ・ミヘイレアニュ
主演=アレクセイ・グシュコフ メラニー・ロラン フランソワ・ベルレアン ミュウ・ミュウ
誰しもが叶えたい夢に立ち向かうことは大切なことだ。映画にはそんな夢がこれまでも数多く描かれ、僕らを勇気づけてくれた。この映画「オーケストラ!」は、かつてボリショイ管弦楽団の名指揮者だった主人公とその仲間が、再起を目指すこの物語。ストーリーを読んでかなり期待が高まった。ダメ男が頑張る姿がきっと僕らに勇気をくれる・・・そう思ったのだ。ところが・・・である。映画をけなすことはしたくないのだが、もっと群像劇で楽団員それぞれの人生、音楽のもつ力を感じられる映画を期待したのだ。
主人公アンドレイはブレジネフ政権にたてついた人物として、現在は掃除夫をさせられている。彼は政府のユダヤ人迫害政策の折にユダヤ人楽団員とチャイコフスキーを演奏した。ところがその最中に演奏は中断させられてしまう屈辱的な仕打ちを受けた。以来チャイコフスキーに、音楽に対する強い思いにくすぶりつづけている。その一方で自信を失いかけている。彼はボリショイ楽団へのフランスからの出演依頼のファックスを見て、かつての仲間と正規の楽団員になりすましてパリに乗り込もうと決心する。ところがパリについたら楽団員はばらばらに・・・。
確かにこの映画は政治的な背景を見ると興味深いところはたくさんある。例えば共産党の細々とした活動の様子。ロシアでここまで不人気ってことはないだろう?とは思うが、これが現実なんだろうか。フランス共産党との関係も描かれる。紅い旗の下で夢を追う共産党員ガブリーロフの一途な姿は、この映画にはコメディ要素。でも「あの時代がよかった」という人々少なからずいるんだろうなという異国の現実を感じる部分ではある。ロシア人楽団員が、リハーサルにも出ずに商売やバイトと”出稼ぎ”に励んでいる姿にはロシアの経済状況が感じられる。またテレビ放送権をめぐる折衝場面では、フランス人がロシア人に「ガスを止められてもいいのか」と迫られる。西ヨーロッパにおいて資源供国であるロシアの存在の大きさを感じさせるじゃない。一方で、物語の上で重要な要素であるユダヤ人の受けた迫害については、あまり深くは語られない。主人公アンドレイが、ソリストだったユダヤ人バイオリニストのことを語る場面が出てくる。「彼女の遺志を継ごう」とばらばらになった楽団員に呼びかけるけれども、楽団員それぞれがその遺志の重さをどれだけ感じていたのかは、観ている僕らにはまったく感じられないのが残念だ。
アンドレイがソリストとして指名した美女アン・マリーの出生の秘密が明かされるのがクライマックスの見どころだけど、そこも主人公アンドレイの独りよがりな思いに周りが振り回されている気がしてどうもすっきりしなかった。ラストの演奏シーンは迫力があってよいのだが、そこにやたら説明くさい場面やナレーション、その後の成功を描いた場面が挿入されるのには正直がっかりした。古きよきヨーロッパ映画はそうした部分を、暗示させたりするだけで言葉を用いて説明したりはしなかったはずだ。30年も楽器を手にしていない楽団員までもがリハなしで名演奏?・・・都合がいいにも程があるんじゃない?。ご都合主義エンターテイメントを観たいならお勧めします。でも人間をきちんと描くヨーロッパ映画が観たいならお勧めできませんね。但し、あなたがメラニー・ロランがみたい!という理由でこの映画を選ぶなら・・・お勧めです!。見とれました。この映画の後半は彼女の存在感と、育ての親役ミュウ・ミュウの好助演あってのものですね。