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Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ベルサイユの子

2010-07-09 | 映画(は行)

■「ベルサイユの子/versailles」(2008年・フランス)

監督=ピエール・ショエール
主演=ギョーム・ドパルデュー マックス・ベセット・ドゥ・マルグレーヴ ジュディット・シュムラ

 カンヌ映画祭にも出品された映画だし、ベルサイユ宮殿の森にホームレスが住んでいるという格差厳しいフランス社会の現実を織り込んでいること、ギョーム・ドパルデューの遺作であること・・・何かと話題があるこの映画「ベルサイユの子」。確かにフランス国内での格差社会の現実は厳しいものがあるのだろう。でもね・・・この映画が結局何を焦点にして撮っているのかが、僕にはよくわからなかった。

 世を捨てて森で暮らす青年ダミアンのところに、子供と路上生活をしている女性がやってくる。ダミアンは父親との確執から家を捨ててホームレス生活をするようになった。彼は女性に生きるために福祉に頼れとアドバイスする。女性は翌朝、子供と手紙を残して去ってしまう。ダミアンは成り行きで少年エンゾの面倒を看ることになってしまった。そこからはベルサイユの森で暮らすホームレスの生活が描かれる。そこで暮らす人々でコミュニティみたいになっていること、衣食住の現実。スーパーかコンビニかのゴミ捨て場には、ホームレス対策のため忌避剤として漂白剤がまかれていること。そして次第に父性にも似た感覚が芽生えてきたダミアンは、長年離れていた父の元に子供を連れて訪れ、仕事にも就き、嫌っていた役所にも子供の為に出向く。しかし・・・。

 エンゾに初めてダミアンがキスする場面で「あーよかったなぁ」と安堵した。僕はそこでこの厳しい世の中でも、人のつながりが子供を、みんなを幸せにしてくれるのだ・・・という結末を期待したのだ。ところが映画の終わり近く、ダミアンは職場が人の扱いが悪いことを理由に仕事を辞めて、家を出て行ってしまう。おそらくはまたもとの生活に戻っていくのだろう。人間、その気になれば立ち直れるという気持ちをくれる映画だと思ってたのに・・・そこは完全に裏切られた。

 観ていて何よりも悲しいのが子供のエンゾ君。寝るときに手を握ってくれと必ず言う甘えん坊だが、母親が去った後もダミアンとの不安な暮らしの中でもぜんぜん泣かない。学校に行くようになり、これまで経験したことのない人間関係の中での泣かない。ダミアンが再び家を出て行くその場面でも後を追うこともないし、涙を見せない。
「どうしてみんないなくなってしまうの?」
声なき声がスクリーンから聞こえてくる気がした。そして迎えるラストでは、その後いろいろあったのだろう、ちょっとすねた少年になっていた。そこに「逢いたい」と現れる母親・・・。大人って何て無責任なんだろう。いろいろ事情はあるにせよ、子供の気持ちって・・・。抱き合う母親のアップでこの映画は終わる。だが、少年の心はどこに落ち着きを求めたらいのだろう。そう思うとやりきれない気持ちになった。社会問題を映画に持ち込むのはいい。かつてのイタリアン・ネオリアリズムで描かれた時代はもっと厳しい現実だったはずだ。でもあの「自転車泥棒」では親子の絆に涙できたのに、「ベルサイユの子」ではその最後の絆さえズタズタになっているように思う。すっごくやりきれない気持ちで映画館を後にした。こんな気持ちは・・・2時間の夢である映画では味わいたくない、できるなら。



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