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Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

007/ロシアより愛をこめて

2022-04-12 | 映画(た行)





◼️「007/ロシアより愛をこめて」「007危機一発」(1963年・イギリス)

監督=テレンス・ヤング
主演=ショーン・コネリー ロバート・ショウ ダニエラ・ビアンキ ロッテ・レニア

初めてテレビの映画番組で観て以来、もう何度観たかわからない。オールタイムベストを選べと言われたら、おそらく選出する大好きな第2作。

吹替版を繰り返し観てるもんだから、台詞丸暗記してた場面も多い。例えば、クレブ大佐がタチアナに任務を命ずる場面の会話。
「初めての相手はどう?」
「相手次第だと思います。女ですもの」
「利口な答えだね」
字幕で観るとけっこうキツい言葉が並ぶのに、日本語吹替版で選ばれている言葉はしっくりくる。字幕で観ていても、テレビで聞いた台詞が次々に脳内で再生される。
「赤をもらおう」
「せっかちな人ね」
「要所要所を息子で固めとるんだ」
「美女とご一緒だったんでしょ。ジェームズ。」
…いかんいかん。

対立する東西冷戦の構図に、イスタンブールでイギリスに協力するケリム一家、ソビエトに協力するブルガリア人グループ。その間で糸を引きボンドを罠にかけようとする悪の結社スペクターという、実はけっこう複雑な構図のストーリー。だけど、今何を目的に動いているのかが意外と分かりやすい。スパイ映画はただでさえ複雑な国際情勢と騙し合いが描かれるから、難解な映画も多いが、「ロシアより愛をこめて」は、そんな複雑な事情を全く感じさせない編集と演出。エンターテイメントとしても見事なのだ。

悪役に個性があるのもこの時期の007映画の魅力。クレブ大佐を演じたロッテ・レニアの憎たらしい表情もいいが、特に殺しのプロフェッショナルであるロバート・ショウが存在感。ダニエル・クレイグがボンド役になった頃に、金髪に青い眼のボンドなんて殺し屋みたいだ…とオールドファンがしきりに言っていたが、あれはこの映画のロバート・ショウのイメージが残っているからなのだ。

また後々のシリーズ作品へと受け継がれる要素が確立しつつある。Qから支給される装備は仕掛けだらけのアタッシュケースだが、これを手始めに、だんだんとギミック感が増してくることになる。クライマックスはベネチアが舞台となるが、この街もシリーズ中幾度も登場する。そして何と言っても猫を抱いたブロフェルドの不気味な存在。これは多くのパロディや模倣を生むことになる。映画館の看板から逃げる敵を射殺する場面が好き。

さて。僕に007映画を仕込んだ映画好きの父親は、歴代ボンドガールのベストはこの映画のダニエラ・ビアンキだと言う。大人になった息子はその気持ちがよーくわかるようになりました。この役柄については、美貌の添え物みたいに言われることもあるけれど、今観ると組織の下で道具としてしか扱われない立場の悲しさがにじみ出ているとも思えるのです。はい。





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007/ドクター・ノオ

2022-04-08 | 映画(た行)





◼️「007/ドクター・ノオ」「007は殺しの番号」(1962年・イギリス)

監督=テレンス・ヤング
主演=ショーン・コネリー ウルスラ・アンドレス ジョセフ・ワイズマン

007シリーズとの出会いは小学校高学年。父親(とその兄弟)が007映画大好きで、"男子の理想像はジェームズ・ボンド"との偏った思想を植え付けられて育った(笑)。中学時代にイアン・フレミングの原作は創元推理文庫で読み漁り(なんてオマセな)、第2作は日本語吹き替えの台詞を暗記するくらい観た。今でも家族の会話で、007シリーズの台詞が引用されることもしばしばである(恥)。

さて。第1作「ドクターノオ」をテレビの映画番組で観たのは中学生。テレビ放送版を繰り返し観てるので、今改めて観ると放送でカットされた部分(ゴルフに誘った女性が押しかける場面、放射能を洗い流す場面etc)がなーんか楽しい。

そしてウルスラ・アンドレスの登場シーン、最初にボンドと名乗る場面などなど、語り継がれる名シーンたち。

失踪した諜報員の謎を追ってジャマイカに赴くジェームズ・ボンド。第1作らしく、殺しの許可証を持つスパイを紹介する場面がしばらく続くのだが、これが何とも魅力的。ボンドのプライベート、ウォッカマティーニへのこだわり(shaken, not stirred)、ワルサーPPKを嫌がる銃へのこだわり、スーツの着こなし、Mのオフィスでのマネーペニーとのやりとり、そしてカッコいい帽子投げ(真似してました・恥)。この数分間で美学のある男だとしっかり認識させてくれる。そしてその後の大活躍。カッコだけじゃない、スマートでしかもデキる男の魅力に、誰もが引き込まれた。ヤクザ映画観た後で肩を怒らせて歩く人と同じで、007を観ると背筋が伸びる気がするのだ。やっぱりショーン・コネリーは僕にとっては別格の存在。

ドクターノオの拠点である蟹ヶ島(吹替版育ちなもので😓)。施設のセットや原子炉の描写はチープに感じるけれど、そんなことが気にならない緊張感がたまらない。

うちの父と叔父は秘書(実はドクターノオ側の人)に迫る場面が好きなようで、「ここいいよな」と語り合ってた。お子ちゃまだった僕は二人のやり取りを冷ややかに見てた。だけど今の年齢で同じ場面を見ると、若山弦蔵の声で「手はここ」(吹替版育ちなもんで😅)と笑顔を見せながらベッドに押し倒すボンドの姿が勇姿にしか見えないww







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ドント・ルック・アップ

2021-12-24 | 映画(た行)


◼️「ドント・ルック・アップ/Don't Look Up」(2021年・アメリカ)

監督=アダム・マッケイ
主演=レオナルド・ディカプリオ ジェニファー・ローレンス ジョナ・ヒル メリル・ストリープ ロブ・モーガン

これは劇場で観られないのがもったいない。スクリーンで観られるなら観ておくべき。巨大彗星が地球に迫るという、70年代ならパニック映画になる題材を、現代アメリカを強烈に皮肉るコメディに仕上げていて面白い。大手メジャー映画会社の製作する一般劇映画では、政治をぶった斬り、風刺というスパイスたっぷりの映画は難しいだろう。ネトフリ作品だからこそ撮ることができた作品かもしれない。そう思ったら過剰な演出も毒を含んだ演技も、妙にノリノリに見える。

政治とマスコミに翻弄される主人公二人、ミンディ教授と大学院生ケイトを中心に、周囲がどんどん常軌を逸していく様子が面白い。だが、一方でとんでもない人間の欲望の怖さに笑いながらもヒヤリとするのだ。メリル・ストリープ大統領とジョナ・ヒル補佐官が、楽しそうに嫌な役をやっている。トランプ前大統領を意識しているキャラづくりで、地球規模の危機だというのに、中間選挙と支持率しか頭にない俗物ぶり。視聴者にウケる笑いのネタが欲しいだけのマスコミの酷さ。ケイト・ブランシェット演ずる司会者も、これまた人気者となったミンディ教授を手玉に取る手腕に驚く。現実に失望したケイトが出会うスケボー青年。彼を演じるシャラメ君が、他の映画と違って気取ってもナイーブでもなく、妙に等身大な役柄でこれまた好印象。

危機的な事態に向き合う他国や国連との関係はあまり描かれないので、現実味は薄い。しかし、人間のエゴこそ醜くくて滑稽だということを、この映画は笑い飛ばしながら教えてくれる。迫り来る彗星をめぐって、国家が二分される大激論に発展する様子は、勝つ為なら誹謗中傷も情報操作も辞さない大統領選挙のダーティな一面そのもの。救世主のようにアイディアをもって現れるIT企業主が、まるで国家を牛耳っているかのように描かれる。これは145分の現代風刺画。




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DUNE/デューン 砂の惑星

2021-10-27 | 映画(た行)


◼️「DUNE/デューン 砂の惑星/Dune」(2020年・アメリカ=イギリス=カナダ=ハンガリー)

監督=ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演=ティモシー・シャラメ レベッカ・ファーガソン オスカー・アイザック

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による「砂の惑星」の映画化は、スターキャストを集め、連作となる注目作。これまでデビッド・リーンで企画されて流れ、ホドロフスキー監督での企画は頓挫、1984年のデビッド・リンチ監督による映画化は商業的に惨敗となり、壮大な物語故に映画化の難しさが幾度も語られてきた。「ブレードランナー2049」は大好きなのだが、「複製された男」が理解不能で苦手意識しかないヴィルヌーヴ監督の手による「砂の惑星」。デビッド・リンチ版の不気味な映像の記憶が重なって、正直観るまで不安だった。

多くのレビューでも触れられている通り映像は美しい。ただ惑星アラキスの気候のせいだとは思うが、全体に薄暗い場面が多いのが気になる。そこがヴィルヌーヴSF映画の空気感。建物やメカのデザインが意外と古い感じで、僕にはそっちが魅力的に見えた。特に羽ばたき機(オーニソプター)が、ちょっとノスタルジックなSFテイストで好き。ワクワクしてしまう。

ちょっとだけ比較してみる。バージニア・マドセンのナレーションや各勢力の政治的な関係を図示するなど、説明が多い割りに分かりにくい印象だったデビッド・リンチ版。ヴィルヌーヴ版は尺が長い分だけそうした工夫はなく独特な固有名詞を理解するしかないのだが、スパイス貿易のギルド勢力が絡まないからなのか、意外とスッキリとした導入。教母様がシャラメ君を試す場面では、箱に突っ込んだ手をポールがどう感じているのかを、焼けただれた手のイメージで見せたくどいリンチ版とは違って、二人の演技だけで押し通すヴィルヌーヴの潔さ。特撮に金を使うのはここではない、ということか。

改めてリンチ版を観ると、確かに工夫してるけど、それが蛇足に感じられる場面が随所にある。ホドロフスキー監督が言う「ハリウッドのシステムに毒された」部分なのかも。されどあまり凝視したくないものをじっくり見せたがるのがデビッド・リンチ。男爵の吹出物治療なんて見たくない。それからすると、ヴィルヌーヴ版の男爵は、全身泥パックでお肌すべすべww。「地獄の黙示録」みたいに泥まみれで登場する場面、怖っ。

小出しに見せる未来がどうつながっていくのか。リンチ版を観てるから筋はわかっているのだけれど、あれはストーリー的にはダイジェストみたいなものだから、ヴィルヌーヴ版の続編がどれだけスペクタクル場面を見せつけることになるのかが楽しみだ。

蛇足ながら。予告編でピンクフロイドのEclipseのカバーバージョンが使われたことに大感激。ホドロフスキー版の音楽はピンクフロイドが担当するはずだった。これはハンス・ジマーとヴィルヌーヴによる、ホドロフスキーへの敬意なんだろう。




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007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

2021-10-02 | 映画(た行)

◼️「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ/No Time To Die」(2019年・イギリス=アメリカ)

監督=キャリー・ジョージ・フクナガ
主演=ダニエル・クレイグ ラミ・マレック レア・セドゥ アナ・デ・アルマス

ダニエル・クレイグがボンドを演ずる最後の作品。コロナ禍で公開延期に延期を重ね、やっと2021年10月公開。ファーストデーが公開初日、予告編はもう見飽きた。コロナの影響で消化しきれていない休日が残っていて、緊急事態宣言解除となった。これがじっとしていられるかよっ。

ダニエル=ボンドは嫌いではない。ただ僕は基本オールドファンなので、ボンド像とボンド映画には自分の思う型がある。前作「スペクター」は、国際的な犯罪組織とスパイの物語に私怨が過剰にからむ展開に正直冷めたクチだ。だからその続きに期待と不安が半々だった。「ノー・タイム・トゥ・ダイ」でいちばん嬉しかったのは、シリーズ全体への敬意をこれまで以上に保ちつつ、ダニエル=ボンドの最終作らしくこれまでの型をぶっ壊したことだ。それは期待と不安が的中したことでもあるが、長尺を感じさせない極上のエンターテイメントに仕上がっている。

まずはオールドファンのハートに触れる部分から。随所に過去作へのオマージュととれる部分がある。「ドクター・ノオ」の舞台で原作者フレミングも暮らしたジャマイカ、盟友であるCIAのフェリックス・レイター、色とりどりの円が点滅するオープニングや防護服のデザインが「ドクターノオ」ぽいし、あちこちに見られる和のテイストは「007は二度死ぬ」を思わせる。前作から復活したスパイ映画らしいギミック感は今回もボンドカーに満載。そしてマドレーヌとボンドの愛の物語を盛り上げるのは、「女王陛下の007」でトレイシーとの日々を彩ったあの名曲。サッチモの歌声が流れた瞬間は泣くかと思った。シリーズのファンでよかったと感激。

そして007映画の従来の型は今回もぶっ壊される。ダニエル=ボンドのシリーズは登場人物の過去やトラウマを掘り下げる。今回はマドレーヌの過去が事件に関係してくるし、そこに関係する今回の悪役も親を殺された私怨から世界を揺るがす事件を起こすに至る。(見方によっては都合の良い)狭い世間の因縁の絡みは前作同様。そしてクライマックス。スクリーンに向かって叫びそうになる。
まさか、まさか…えーっ!😫
そこには驚きしかない。スパイ映画の結末じゃない。映画館を出ながら満足した一方でちょっとモヤモヤした気持ちが晴れなかった。

でも忘れちゃいけない。確かに型はぶっ壊したけれど、それは偉大なる旧作たちの否定ではないのだ。

悪役サフィンの野望が見えにくい。ボンドと対峙する場面が少ないせいもあるだろう。フクナガ監督は、文学作品「ジェーン・エア」の映画化で、時系列を並べ替えてミステリアスな味付けをやった人。今回はマドレーヌの過去、ボンドが去ってから起こった出来事を少しずつ明らかにして、すれ違いの人間ドラマとして映画を味わい深くすることに成功している。その分悪役の動機は掘り下げきれなかったのかもしれない。

とは言え、エンターテイメントとしての満足度はやっぱり高い。そこはやっぱり007映画だ。「ブレードランナー2049」以来お気に入りのアナ・デ・アルマスが素晴らしい。アクションしづらいセクシーなドレスで二丁拳銃、華麗な蹴り。出番が少ないのがもったいないよ。




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ディア・アメリカ 戦場からの手紙

2021-09-04 | 映画(た行)


◼️「ディア・アメリカ 戦場からの手紙/Dear America:Letters Home From Vietnam」(1987年・アメリカ)

監督=ビル・コーチェリー

誰もがベトナム戦争に疑問を抱きながらも、兵士たちは勇敢に戦った。ロック、ポピュラーミュージックにのせて、兵士たちの苦悩、恐怖、家族への思いが本人たちが書いた手紙で綴られていくドキュメンタリー映画。

What's Goin' On
何が起こっているのか。


Change Is Gonna Come
いつかは流れが変わり、戦争が終わる



クリスマスの夜に起きた銃撃戦。暗闇に飛び散る火花が、キャンドルのように美しく見えたという場面がある。人殺しの道具が放った火花にさえ、そんな思いを抱く。なんて悲しいことだ。戦場の厳しさと悲惨さ。

命を散らした何十万人もの若者たち。彼らを戦場に送り込んだアメリカに生まれたことを彼らはどう思ったのか。兵士たちを取材する記者の言葉が重く響く。

Born In The USA が
いつも以上に切なく聞こえる。



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トットチャンネル

2021-08-30 | 映画(た行)





◼️「トットチャンネル」(1987年・日本)

監督=大森一樹
主演=斉藤由貴 渡辺典子 高嶋政宏 網浜直子

黒柳徹子の自伝を映画化した、テレビジョン黎明期の物語。大森一樹監督の斬新な演出はとにかくテンポがよくて、気持ちがのせられる。時代考証が細かいところまで行き届いているのだろう、初めて知るテレビ局の裏側がとても楽しい。玉ねぎおばさんは、随分と型破りな人だったんだな、と再認識。

ラストの結婚披露宴シーンはちょっとできすぎと思えたけど好感。

斉藤由貴のアイドル映画としては、いろんな顔が見られる楽しさがある。



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ドライブ・マイ・カー

2021-08-22 | 映画(た行)






◼️「ドライブ・マイ・カー」(2021年・日本)

監督=濱口竜介
主演=西島秀俊 三浦透子 岡田将生 霧島れいか

原作が収められた村上春樹の作品集「女のいない男たち」には、ちょっと思い入れがある。文芸春秋社が本屋ポップに使うコピー文章を募集する企画があって、応募したら光栄にも選ばれた。本屋の店頭に平積みされた新刊と一緒に飾られた。書店員でもないのに、大好きな村上春樹作品に自分の文章が添えられて、めちゃくちゃ嬉しかった。

今回の映画化は、短編「ドライブ・マイ・カー」と、同じ作品集に収録された「シェエラザード」「木野」の2編のエピソードを付け加えて書かれた脚本である。舞台設定やドライバーを雇うことになるいきさつは改変されているが、原作にある台詞は丁寧に用いられていて好感。だが、それ以上に劇中演じられるチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の台詞が散りばめられて、それがストーリーとところどころ響き合うような効果をもたらす。3時間の長尺を耐えられるのか心配だった。だが、この映画の言葉を大切にする姿勢と、込められた文学へのリスペクトに、ひと言ひと言を噛み締めようと聴き入っている自分がいる。ここまで構築するにはかなり考えに考えを重ねて脚本を仕上げたんだろう。カンヌの脚本賞、個人的には納得できる。

音声がすごくクリアで、西島秀俊のボソボソしたしゃべりや三浦透子の淡々とした口調もきちんと聴き取れる。

村上文学に登場する人物はみんな喪失感を抱えた人ばかり。この原作も然りで、現実とうまく向き合うことができなくて不安を抱えた主人公だ。西島秀俊は、大河ドラマ「八重の桜」以降、筋肉質で好印象な男優となり、自信にあふれる役柄も多い。だけどひと昔前はどこか頼りないヤサ男の役柄が多かった人でもある。「ドライブ・マイ・カー」では、その両面が生きている。演出家としての自信と裏腹に、亡き妻へのくすぶる思いに揺れる弱い自分を抱えている。クライマックスの感情が昂る表情は、昔の彼を見るようだった。それは村上文学の男をちゃんと表現できているのだと感じられた。

他言語で舞台劇を創り上げる主人公。その手法も、人と人のコミュニケーションの難しさを僕らに投げかけている。だからこそ手話が用いられる場面は、視線を惹きつけて離さない力がある。また広島市を舞台にしたことで加味されたメッセージ。そして原作では踏み込まなかったところにも、本作は深入りする。原作に思い入れがあるだけに「そこ行っちゃう!?」と不安に思ったが、付け加えられたパートが深く考えぬかれたものだと感じられた。

「ノルウェイの森」の映画化に激怒して以来、村上春樹作品の映画化は観るのをためらってしまう。でもこれは観てよかった。個人の感想です。劇伴も地味だし、徹底した会話劇だけに、きっと長尺に耐えられない人もいるとは思う。




映画『ドライブ・マイ・カー』90秒予告
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TANNKA 短歌

2021-07-23 | 映画(た行)






◼️「TANNKA 短歌」(2006年・日本)

監督=阿木燿子
主演=黒谷友香 黄川田将也 村上弘明 中山忍

「結婚願望ないんですよね。人生楽しんで、変化していきたい」
と黒谷友香は最近のインタビューで答えている。昔から「凛とした」って言葉が似合いそうなカッコいい女の人だなー、と思ってた。自分に素直なスタイルを貫いてるイメージだったから、そのインタビューは答えの一つ一つに納得できた。

そんな彼女の映画初主演作。男と女を短歌で詠んできた俵万智の恋愛小説を原作に、これまた男と女を歌詞の世界で描いてきた阿木燿子が監督。映画としての物足りなさは多々あるけれど、絵になる構図や工夫が見られて好感。例えば葬儀の後で列席した同級生たちが、同世代女性の本音を語り合う場面。初めは5人がまっすぐカメラを見据えていたのが、斜めに5人の顔が並んだ構図で、長回しで撮りながら喋る一人一人にピントを合わせていく。それぞれが主張してる感じが伝わって面白い。

尊敬できる歳上男性と、頼りないけど自分にまっすぐ気持ちを向けてくる歳下男性。二股だと言われたらダーティに響くけれど、どうしても相手に惹かれてしまうこと、一緒にいることが楽しいと思える気持ち、そしてそれが変わっていく様子が、俵万智が詠んだ短歌と共に描かれる。二人の間で揺れるヒロインが物語の主軸だが、そこに中山忍演ずる妊活中の友人など同世代の女性の意見が絡んでくる。「男にゃわからん」映画だと言われたら確かにそうかも。

おそらく大多数の世の殿方は、黒谷友香を裸にするための文芸作品を東映が撮りました、程度にしか思わない。劇中登場するベリーダンスも同じく、ダンスで美を示そうと踊る女性たちに対して、露出が多い衣装に殿方はついついドキドキしてしまう。でも、これは女性をターゲットにした作品。俵万智の短歌に詠み込まれた心情を、阿木燿子が映像で示そうとする試み。べったりくっつかれた歳下男性は、自分にとって「荷物」なのか「翼」なのか。二人の表現者が言葉を大切にしているのが伝わってくる。言葉を大切にする人の仕事って素敵だ。



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トゥモロー・ウォー

2021-07-19 | 映画(た行)



◼️「トゥモロー・ウォー/The Tomorrow War」(2021年・アメリカ)

監督=クリス・マッケイ
主演=クリス・プラット イヴォンヌ・ストラホフスキー ベティ・ギルビン J・K・シモンズ

大手パラマウントも製作に加わった作品だが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で劇場公開できず、Amazonに売り渡されたと聞く。クリス・プラットにJ・K・シモンズ共演のお得感もあり、こんな新作が配信で観られるのか、とアピールする材料にはなっただろう。それに配信になったせいで、日頃こういうのを劇場で観ないが手を出してみた人もいるだろう。あ、僕もその一人です。

サッカーの試合中、2051年の未来からやって来た人々が「未来でエイリアンが襲来して人類が危機に瀕している。」と助けを求めて現れた。各国は徴兵制度を始め、未来へ送り込むが苦戦を強いられる。このままでは人類は…。

絶望的未来観と怒涛のスペクタクル。いやー、「スターシップ・トゥルーパーズ」を苦手とする虫嫌いの僕は、エイリアンの大群が押し寄せる場面に似たような感覚に陥った。あー、やっぱりこういう捕食系エイリアンは苦手。階段や狭い通路を使った緊張感あるアクション場面、その後でワイドな視野から押し寄せる大群。いかに世界がやばいことになってるのかを印象付ける。だけど、多くの人が言うように絵ヅラに既視感があるのは確か。海底油田みたいな巨大プラントの基地に「メタルギア」を思い浮かべたのは僕だけだろか。

父と娘の物語が語られる前半、未来を救おうと奮闘する後半は父と息子の物語。その対比がなかなかいい構成。特にJ・K・シモンズ演ずるワイルドな父親が最後の最後まで好助演。それでも、ギャオー、ドドドド、ダダダダ、グオオオ、グシャッ…が延々続くのはやっぱり苦手💧


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