(前回からの続き)
さて、イギリス経済と北海油田の関係について思うところを長々と書いてきましたが、これと似た考察ができそうなテーマがあります。それはアメリカの「シェール革命」です。
すでに多くの情報が伝えるように、シェール革命(シェールオイル・シェールガスの開発)がアメリカに多大な恩恵を与えることは間違いないでしょう。一部の予想にあるとおり、近い将来、アメリカは世界最大の石油・ガス産出国になり、エネルギー資源の対外依存度が大きく下がって、経常赤字の大幅な削減が可能となるかもしれません。
他方、これまたよく目にする「シェール革命でアメリカの製造業が復活する」という見方については個人的には懐疑的で「現時点では何ともいえない」といったところと考えています。上記イギリスのように、アメリカもまた、豊富な自国産エネルギーを直接、自国の製造業の再興に結び付けられない可能性がありそうだからです。その根拠となるのはアメリカ経済の金融化にともなう株主資本主義の進展です。
株式市場を見ればわかるとおり、現在のアメリカの企業経営では株主利益の極大化が重要な目標となっています。そのため企業の経営者も株主も短期的な利益追求に走りがち。その一方で、メーカーなどの製造業にとってはきわめて大切なはずの設備投資がおろそかにされてきたといわれます。
そもそもある意味で製造業は手間ひまのかかる産業です。新しい製品を開発・販売するためには研究開発や工場建設などの投資を行わなくてはなりません。専門の技術者やスキルを持った社員の育成も絶えず行わなくてはなりません。そしてそれらの努力が実を結び、新製品の売り上げや利益が伸びたとしても、競争相手がすぐに現れて同じような製品をもっと安い価格で市場に投入してくるでしょう。そうなれば売上高も利益率も低下してしまうから、さらに高品質で安価な製品開発のために設備投資を繰り返す・・・といった具合です。現在、日本企業と中韓両国の企業がまさにこうした厳しい環境でしのぎを削っているところです(そんな競争環境にさらされているからこそ日本企業の製品は世界の一級品の地位を保っているといえるわけですが・・・)。
このような製造業のスタイルは、できるだけ短い期間で可能な限り多くの配当が求められるイギリスやアメリカのような株主利益至上主義の国では、もはやスマートではないのでしょう。だから、シェール革命でいくら自国産のエネルギー資源が安価で手に入ったとしても、アメリカの大企業はそんな「かったるい」やり方(=利益が得られるまで長い期間と多額の設備投資を要するやり方)で自前の製造業再生に取り組むことはせず、もっと手っ取り早い方法で実益を得ようとするだろうとみています。その方法とはM&A、つまり高い技術を持った他の企業の買収です。
(続く)
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