(前回からの続き)
それでは「良いインフレ」、つまり収入増をともなう物価上昇はどうしたら起きるのか。これはやはり景気が本来の回復のサイクルに入った結果として生じる現象でしょう。つまり、景気が徐々に回復→企業の設備投資が増加→企業収益が増加→企業従業員の収入が増加→消費が増加→モノやサービスに対する需要が増加→物価が上昇、ということです。
こうしたプロセスでは、物価が上昇しても、市民の所得も増えるので、生活レベルが落ちたりすることにはなりません。その一方で、「悪いインフレ」と比べると、この「良いインフレ」の発生には時間がかかりそうです。つまり、「悪いインフレ」は中央銀行が金融緩和を宣言すればすぐにでも発生するのに、「良いインフレ」はこの景気拡大の循環が始まってからかなり経たないと起きてこないと予想されるということです。
ではこの循環を起こすための起爆剤は何か。さらなる金融緩和では難しいでしょう。前にも書いたように、市場が「流動性のワナ」と呼ばれる状態にあるからです。日米欧経済ともにすでに十分な低金利状態にあるなかで、新規の低利マネーを市場に供給しても景気刺激効果はほとんど無いと考えられます。
ということは、やはり需要喚起でしょう。つまり、新たな需要を起こして景気を活性化し、市民の収入を増やしながら物価の緩やかな上昇を図るのです。もっとも現在、世界経済に不透明感が漂っていることなどから、民間側にはなかなか需要がありません。したがってここは政府の出番、つまり政府が公共事業等を行って需要を創出する財政政策が有効になってくると思います。
このあたりは先日の書き込み「2012年度予想「外貨動揺・円独歩高」でどうする日本」で書いたので詳細は省きますが、欧米諸国と違って、外国の資金に頼ったり金利上昇を招くことなく資金調達が可能なわが国は、現在、この財政政策を効果的に実施できる立場にあります。このアドバンテージを積極的に活用して景気を本格的に回復させ、国民所得の向上を図る、というのが政府に求められる政策の方向性と考えています。
現在は、そしてこれからは、ますます金融政策の効果が薄れ、逆にそのデメリット「悪いインフレ」がどんどん表面化してくるものと予想しています。そのネガティブな影響を最小限に止め、かつ震災復興などを着実に進めながら景気回復を進めるためには、タブー(財政出動など)を恐れない大胆な発想に立った政策の立案・実行が必要となるでしょう。
それほど、やがてやってくる海外発の「世界恐慌」のインパクトは強烈なはずです。
(「マネーの「バラマキ」のし過ぎが招く「悪いインフレ」」おわり)