去年の→「恋人たち」くらい、いい映画。
原作もいいんだと思うけど、うまく映画になってるなぁと思う。
吉田修一原作、李相日監督。音楽坂本龍一。
とある、残忍な殺人事件があって、逃亡中の犯人に
似ているのではないかと思われる3人の男の話が、別々に展開する。
見ている方は、最後の最後まで誰が犯人なのか、犯人はそこにいるのか、
わからないままなので、サスペンス的な見方もできますが
そこは別に重要ではないような。
殺人現場の壁に、血で殴り書きされ残されていた「怒」の文字が
この「怒り」というタイトルになっているわけだけど、
映画自体は、怒りに関する映画という感じじゃないのです。
犯人の中にあったらしき「怒り」は具体的な人や物に対する怒りではなく、
漠然とした社会や世界、人生に対する怒りでさえない。
今の時代の若者の閉塞感とか、社会への憤りとかそういうことではないんです。
そうではなく、本人の中から沸き起こってくる
なにか個人的な衝動の発露のようなものだったので、
その怒りには誰でもわかる普遍性のあるようなものはないんですね。
だからこの「怒り」というタイトルはわかりにくい。
犯人を含めて3人の男の話はどれも、怒りがテーマにはなってないし、
この映画の中に描かれている共通するものって、怒りではなく、
むしろ信頼や愛と、その逆の疑心や不信の方かなと思う。
わたしはこの3つの話の中で、妻夫木聡と綾野剛のゲイカップルの話が好き。
愛し合う人の話は、いつも楽しい。
ラストは悲しいし、途中も悲しいけど、
まあこのラストは変えられなかったことだから仕方ない。
信じても信じなくても、裏切っても裏切らなくても、同じことになったので
仕方ないし、だからきれいに、悲しめる話。
調子に乗っててちゃらいエリートビジネスマンの妻夫木くんがすごくいいです。
イケメンでお金持ちでも、けっこう嫌な奴。でも本当は孤独で傷つきやすい、
きゅんとくる役ですね。
沖縄の話は、つらい。
死ぬよりつらい目にあう女の子のことを思うと、
それを助けられなかったやつは、何をやっても無駄なんだよ、
死んでも無駄なんだよ、くらいに思う。わたしは性犯罪には厳しいのです。
死刑制度反対の立場ですが、死ぬまで死ぬほど苦しみ続けろ、と呪いはする。
世の中の多くの物語の中では、信じるべき相手を疑ってしまったせいで、
何もかも失ってしまうような話が多くて、古典や昔話にもあるんじゃないかな。
でも、現実生活では疑うことがあっても、埋め合わせがされて信頼を取り戻し
やり直せることもあると思うし、そうあればいいと思う。
そういうエピソードも映画の中にひとつあります。
いい人たちだから幸せになるのがいいと思う。