モスクワから640kmほど東、ヴォルガ川沿いのマリ・エル共和国が舞台。
ロシア連邦内の共和国。面積2万3400km2,人口約69万人。
>ロシア連邦に属するが、独自の言語、文化、風習を持つ。宗教、世界観もまた独特で、自然崇拝に近いし、さまざまな民間伝承がいまなお残っている。
>監督は、本作を「エロティック・コメディ」というが、こういった枠をはるかに超えて、これは、民族学に裏打ちされた「人間讃歌」というべきだろう。”
>ロシア版「遠野物語」や「アイヌ民話」のような、優しくて哀しい不思議な世界が広がる。
上映期間が短く、回数も少なかったので見逃しかけたところ最終日に鑑賞。
このチラシのかわいさがツボで、何が何でもみたかったのです。
でも、少女たちの不思議かわいい映画が見たいと思ったわけではないのです。
ここに出てくるのはロシアの少数民族ということだけど、
白っぽい人もいればアジア人っぽい人もいる。
そういう辺境の国や場所の、キリスト教化されていない独自の文化というものに
いつも惹かれる。とても興味深い。

ここには24人のOで始まる名前の女性が出てきます。
なんでO?「O嬢の物語」が何か関係あるのかな?と思ったけど
監督は「だって美しいだろう」としか言ってないみたい。
一貫して流れる物語はなく、それぞれの女性のスケッチというか
人生の一場面というかエピソードというかが、ほんの数分ずつ描かれます。
基本的におおらかな性について描かれているエピソードが多いけど、
死者が蘇って一晩だけパーティをする話など、女性の性に関係ない話もあります。
いろんなキノコの大きさや形を見比べながら選び、こんな夫が欲しいと呟く女性。
痩せている姪を裸にして、太って魅力が増すようにと、布で体を拭いてやるまじない。
夫の浮気を疑っていると、股間の匂いをかぐのよ、とそそのかされる妻。
人の夫に横恋慕し、デートをさせないと呪いをかける森の怖い精霊。
男性の亡霊にそそのかされたのか、なぜか裸で恍惚と踊る女性たちのパーティ。
風と交わり、風にさらわれる女性・・・
映画自体はフィクションだろうけど、出演者はマリ・エル共和国の女性たちで、
そこの民間伝承や説話に基づいて作られたもので、
不思議なドキュメンタリーを見た気分になります。
原案・脚本のでニス・オソーキンは公式サイトで
僕は、様々な程度はあれ、全ての著書に「全人類に共通する事」と「国家と地方の問題」をはらませている。この作品でも、牧地マリ人たちの姿を通して、全人類に共通の問題を浮かび上がらせる。と書いていますが
常々、グローバルというのは新しい均一性のことではなく
独自のローカリティの中にこそあるのではと考えているので、
この女性たちの素朴でおおらかなエピソードも、そういうことのように思います。
知らない国の映画を見ると、見慣れないその風俗と同じように
聞きなれないそこの言葉も興味深いのですが、ここで話されているのは、
フィンランド語やハンガリー語と同系統のフィン・ウゴル系のマリ語だそうです。
そういわれれば「白夜のタンゴ」やトーベ・ヤンソンの映像の中のフィンランド語と
響きが似ている気がするかな。