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最近見た「DUNE」も音が効果的で迫力があって怖かったけど
「オッペンハイマー」も音!音が怖い!怖いですが、それこそが映画体験なので
音のいい映画館で、こわっ!と思いながら見るのがいいと思う。
映画は、良心と信条や愛国心とかの葛藤を描いてるんかな?と思って見たら、
倫理的な葛藤はあるにはあるけど、それ以上に男たちの政治を描いだ映画だった。
そういう映画が好きな人にはたまらないだろうなぁ。
俳優たちはとても豪華ね。男性陣も豪華な実力派オスカー俳優だらけな感じだけど、
女優ではフローレンス・ピューが凄い印象残してて、
「DUNE」にも出てたし、今まさに脂が乗ってる女優さんですね。
原子爆弾を作ったチームのリーダーがオッペンハイマー。
見る前は、コミュニケーションの苦手なタイプの内向的な天才を予想してたけど全然違った。
人に対して結構失礼で、相手の気持ちを思いやると言うようなことがあまりない。
空気を読まない男ですね。
でもだからこそ、何かをぐいぐい推進したい時には有能で、
優秀なチームを作り、原子爆弾開発のための街を丸ごと作って(酒場もある!)
原爆開発を進め、そしてとうとう完成させます。
それまでにプライベートでは恋愛や結婚などがあり、
偏った天才というのは何か魅力があってモテるのよねぇと改めて思う。
(個人的にも偏った天才に非常に弱いわたし…笑)
そこまでが前半の話。
後半は、原爆が落とされ戦争は終わり、その後原爆による被害の深刻さに対して
良心の呵責に悩み苦しむ日々・・・という話ではなく、
(もちろん良心の問題もあるけど、それは他の人生のさまざまな苦悩の中の一つって感じ)
戦後、ちょっとしたことで人の恨みをかって赤狩りの標的にされてしまい
それを明らかにするための聴聞会で悪意ある取り調べを受けることになる話と、
オッペンハイマーを追い詰めたその人物の権力への執着と敗北に至る裁判の話とかです。
登場人物が多くて、映画の中で誰々がどうしたとかいう会話が出るたびに、
誰だっけ?聞き覚えあるけど、誰だっけ???と思ってたし、
みんなこの映画を難しいと言うけど、原爆開発の話と、その後の政治的な話を分けて考えると
ざっくりとはわかると思う。分けて考えると言ってもそれぞれの話は無関係ではないけど。
クリストファー・ノーランの映画の中ではすごくわかりやすい方だと思います。
複雑な話などで人物造形も多面的に描かれているものでも、わたしは頭の中でなんとなく
人を「いいもん」と「わるもん」(あるいは赤組白組?)にぼんやりと分類しながら
人間関係と物語を整理する癖があるんだけど、
(単純な分類ができないものがあっても俯瞰するとどっちになるかと考えるし、
あるいはこの場面に限ってはどっちになるか暫定的にでもとりあえず分類してしまう)
この映画の中では、主人公のオッペンハイマーも
後半では主人公なみに重要な役のロバート・ダウニー・Jrも、中々分類できませんでしたね。
類型化をとことん避けて、じっくりと描かれているということでしょうか。
そういえばアインシュタインが少し出てくるけど、ここでははトム・コンティが演じてて、
アインシュタインと藤田嗣治は、どんなに似てない俳優が演じても
ちゃんと似るしよくわかる人物のツートップだなぁと改めて思った。
オッペンハイマーという人物の複雑さ、その真面目さも冷たさ傲慢さも、彼なりの倫理も
とても興味深く、むしろ好感を持つ部分も多いのだけど(偏った天才に弱いからね笑)
彼が自分の行状だったかを非難された時に「才能が補ってくれるさ」みたいに言うところで
最近読んだ
「オープンシティ」 という本に同じようなやりとりがあったのを思い出した。
ナチスを支援した詩人のポール・クローデルのことを
「時間がポール・クローデルを赦すだろう、優れた筆に免じて赦すだろう」と述べた人のくだり。
著者はその考えに対しては嫌な気持ちを持っている。
才能は罪を消してしまうのだろうか?そうだとしたらそれはどれくらいの才能でどこまでの罪だろうか?
ポール・クローデルとは逆に、反ナチスとして原爆を開発したオッペンハイマーの
罪のことを、わたしもまた考えました。