湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

天体観測ブームだった

2008-12-15 23:20:31 | 思い出日和


少年たちはいつだって、宇宙や科学といったものに憧れを抱いているものだ。
ある時、これにいきなり火がつくことがある。
『天文年鑑』などという、年鑑にしてはかなり小版で、もちろん大人向けなのに手頃な価格で手に入ってしまうものを目の前に差し出された日には、それは宇宙ロケットの搭乗口に見えたものだ。
これまで存在すら知らなかったその本を差し出したのは、東京からニュータウンに引っ越してきたお金持ちのお坊ちゃん。僕たちにとって好都合だったのは、その彼がやたら勉強ができたことだ。
単に「天体望遠鏡を買ってくれ」とねだっても取り合ってくれなかっただろう親たちも、これが紛れもなく学習の一環であると判断するのに時間はかからなかった。
天体望遠鏡ブームは、小学五年生の頃だったと記憶している。
僕たちは夕方になると、友達の親父さんの会社のビルの屋上に集まり、買ってもらったばかりの望遠鏡を並べ、その先を天に向けた。
子供だけで夜に集まるなんて許されない時代であったが、何しろあくまで学習の一環である。楽しい天体観測は、夜な夜な行われることになった。
アポロ11号の映像と同じだった月面のクレーターに感動し、米粒より小さいのにクッキリ見えた土星の輪にときめいた。
とはいっても、所詮にわか天文ファンである。ダイナミックなロケットほど魅力がないことに気づくと、天に向いていた望遠鏡の先はだんだん下りてきて、やがてあたりの民家に向けられた。
科学の力を借りた“のぞき”である(笑)。これはまた、僕たちの密かな楽しみになるはずだった。
ところが、丘の上の友だちの家に焦点が合うと、家族みんなで笑いながら夕飯の食卓を囲んでいる光景が逆さまになって飛び込んできた。電灯のせいで赤味がかったその光景は、星よりも月よりもずっと温かく見える。僕たちは急に切なくなってきて、望遠鏡を担いで家路を急ぐのだった。

写真は、平塚伊勢原線の豊田本郷交差点の病院。天文年鑑があるはず。

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