(四日目 赤木沢へ)
天候の安定を待って最終日の今日の決行を決めたのだけれど晴れマ-クが消えて天気予報は曇り時々雨に変わった。
赤木沢までには3~4回の渡渉がある、豪雨になって増水したら小屋に帰れない可能性もあるけれど決行することに決めた。
午前8時にスタート、先ずは左岸を遡行して右岸に渡渉する、深くて水勢も強かったけれどストックを使って何とか突破できた。
ここまで2度3度と渡渉を繰り返したが、先行する寅さんのルーファイはまるでこの遡行を経験しているかのように的確であった。
午前9時過ぎ、ここで寅さんが淹れてくれたコ-ヒ-で小休止
午前9時半、肌を刺すような冷たい流れに胸まで浸かってのヘツリは辛いのでここから左岸を高巻く。
巻道や高巻と聞けば安易で安全かと思いがちであるがここの高巻は決して生易しいものではなかった。
きつくて危険で今までよくぞ転落死する者が出なかったものだと不思議にさえ思えるほどである。
(家を出てから5日目、寅さんの頬には無精ひげが浮かんでいる)
寅さんが先行して登って行くと途中で踏み跡が消えた、寅さんの的確なルーファイで5分ほど進んで踏み跡に復帰できた。
この先に僕が死を覚悟した箇所がある、雪のために熊笹が下向きに密生した垂直に近い壁を横向きに5~6m進む箇所である。
殆ど足場もなく熊笹でつるつるに滑る壁を両手に5~6本の熊笹の茎を鷲掴みにして
慎重に左向きに進んでいるとつま先が滑って両足が壁から離れて宙づりになってしまった。
必死の思いで交互に熊笹を持ち替えながら両腕の力だけで安全地帯に辿り着いて事なきを得たが
もし熊笹の茎が折れたら、熊笹の根が抜けてしまったら、自分の両腕で体重を支えられなかったら
確実に転落死していた筈であり、あの数分間は死の恐怖と必死で戦っていた数分間でもありました。
高巻のてっぺんから眺めるとゴルジュはまだもっと先にまで続いているように見えた。
ここからまた掴まる草木もなく足場も心もとない垂直に近い壁を固定された細いロープ1本で下る、濡れて滑る壁が怖かった~!
さて、この恐怖の高巻を突破して左岸を歩いていると、なんとまだ高巻が残っていた。
2度目を突破してもう終わったぞと一気に脱力して歩きはじめると、まだ残っていたんですわ高巻が。
しかも、この壁も垂直に近いわ、昨夜の雨でつるつるに滑るわ、掴まる草木が1本も生えていないわで
壁を攀じりながら、この壁マジで怖いわ~、帰りにこの壁下りるのイヤだな~、俺この壁で落ちて死ぬのか~
俺生きて帰れないかもな~、なんて本気で恐怖を感じていたら実は寅さんも同じように恐怖を感じていたことを後で知らされた。
恐怖の高巻を何とかやり過ごして進んでいくと、見えたぞ~ナイアガラの滝だ~!
左から黒部本流が、右から赤木沢が出合う正に息を飲むようなこの風景は僕にとっての憧れの地でもある訳で
67歳にしてようやく巡り会えた聖地のような雰囲気に浸って溜息を漏らしながらうっとりと眺め入っておりました(幸せ~!)
赤木沢の奥を覗いて見ると深いゴルジュの奥に小さめだけど落差のあるナイアガラの滝がもう一つ架かり
更にその奥には人を魅了してやまないエメラルドグリ-ンの神秘的な流れがどこまでも続いているのでありました。
雲行きが怪しくなってきたのでのんびりしてもいられない。
慌ただしくロッドを繋ぎ思いっきりラインを延ばして対岸にフライをプレゼンテ-ションした。
何度目かで激しく水面を割って岩魚が食らいついてきた、久々のロングラインの釣りは実に爽快であった。
寅さんも一尾釣り上げたところで雨が落ちてきた、10センチの増水でも渡渉は難しくなる、急いで雨具を着けて帰路に就いた。
ここからまた3度の高巻が始まる、先行する寅さんに8ミリザイルを渡したのだけれど気が重くて足が進まない。
寅さんも同じ思いだったようで泳ぎも覚悟のうえでヘツルことにして少し上流に戻ってから対岸に渡った。
この対岸で流れに入ってみると気分爽快と感じる程度の水温で、胸まで浸かってヘツリを続けて難なくこの流れを突破できた。
みなさん、赤木沢に行くなら高巻は危険です、平水ならネオプレ-ンのタイツとジャケットを付けてヘツルことをお勧めしておきます。
豪雨の増水が恐ろしくてひたすら下り続けてようやく小屋まで辿り着けました。
今日は寅さんと何度手を握り合ったことでしょうか、赤木沢へ無事往復できたのも一重に寅さんのお蔭でした。
無事に小屋に帰還して飲るビールの旨かったこと
僕はちょっと下流に下って小屋の見える大岩に寝そべってビールを飲りながら昼寝
寅さんは薬師沢に入って最後の釣りを楽しみ15尾を釣り上げました(薬師沢に入る寅さんが小さく見えています)
3連泊目の食事も実に美味しゅうございました。
今日まで僕が釣ったのは正味7時間、寅さんが8時間半で110尾を優に超える釣果に大満足の旅となりました。
(五日目 下山)
名残惜しいけれど下山です。
下山の朝、小屋のスタッフの皆さんと一緒に写真を撮らせて頂きました。
皆さんのスマイルが実に素敵ですが、僕と寅さんはちょいと緊張気味でございます。
今回の旅の目的は勿論たくさんの岩魚に出逢うこと、そして赤木沢を眺めること
そしてミ-ハ-な僕たちのもう一つの願いが薬師沢のマドンナやまとけいこさんのサインをもらうことでした。
念願かなって、やまとけいこさんの著書のカバ-にこんな素敵なイラストとサインを頂くことができてもう思い残すことはありません。
帰路、最終日にしてようやく黒部ブル-の空の下を歩く幸せに浸れました。
これから始まる急登に備えてクロマメとクマイチゴ?でビタミンCを補給しましょう。
延々と登り続けて3時間、ようやく太郎平小屋が見えたときの安堵感といったら、、、、、
さぁここからはもう3時間ちょい下るだけ、ビールも安心してちょっとだけ頂きました。
旅の終わりに太郎平を仰ぎ見て、この5日間の旅を振り返りながらちょっとしんみりしてしまいました。
折立に辿り着いて寅さんと手を握り合って乾杯、冷たいファンタの美味しかったことといったらありゃしませんでした。
体の鈍り切った僕にとって今回の旅はとてもきつい旅ではありましたが
それを遥かに超える喜びと幸せと感動に満ちた旅になりました。
赤木沢に導いてくれた寅さんには感謝の言葉しかみつかりません。
来年はもう少し体を鍛えて山慣れし、高天原まで足を延ばしたいと考えています。
年を重ねて体力が衰えてきたからこそ来年も目指す夢の地があることの有りがたさに心から感謝している次第です。
天候の安定を待って最終日の今日の決行を決めたのだけれど晴れマ-クが消えて天気予報は曇り時々雨に変わった。
赤木沢までには3~4回の渡渉がある、豪雨になって増水したら小屋に帰れない可能性もあるけれど決行することに決めた。
午前8時にスタート、先ずは左岸を遡行して右岸に渡渉する、深くて水勢も強かったけれどストックを使って何とか突破できた。
ここまで2度3度と渡渉を繰り返したが、先行する寅さんのルーファイはまるでこの遡行を経験しているかのように的確であった。
午前9時過ぎ、ここで寅さんが淹れてくれたコ-ヒ-で小休止
午前9時半、肌を刺すような冷たい流れに胸まで浸かってのヘツリは辛いのでここから左岸を高巻く。
巻道や高巻と聞けば安易で安全かと思いがちであるがここの高巻は決して生易しいものではなかった。
きつくて危険で今までよくぞ転落死する者が出なかったものだと不思議にさえ思えるほどである。
(家を出てから5日目、寅さんの頬には無精ひげが浮かんでいる)
寅さんが先行して登って行くと途中で踏み跡が消えた、寅さんの的確なルーファイで5分ほど進んで踏み跡に復帰できた。
この先に僕が死を覚悟した箇所がある、雪のために熊笹が下向きに密生した垂直に近い壁を横向きに5~6m進む箇所である。
殆ど足場もなく熊笹でつるつるに滑る壁を両手に5~6本の熊笹の茎を鷲掴みにして
慎重に左向きに進んでいるとつま先が滑って両足が壁から離れて宙づりになってしまった。
必死の思いで交互に熊笹を持ち替えながら両腕の力だけで安全地帯に辿り着いて事なきを得たが
もし熊笹の茎が折れたら、熊笹の根が抜けてしまったら、自分の両腕で体重を支えられなかったら
確実に転落死していた筈であり、あの数分間は死の恐怖と必死で戦っていた数分間でもありました。
高巻のてっぺんから眺めるとゴルジュはまだもっと先にまで続いているように見えた。
ここからまた掴まる草木もなく足場も心もとない垂直に近い壁を固定された細いロープ1本で下る、濡れて滑る壁が怖かった~!
さて、この恐怖の高巻を突破して左岸を歩いていると、なんとまだ高巻が残っていた。
2度目を突破してもう終わったぞと一気に脱力して歩きはじめると、まだ残っていたんですわ高巻が。
しかも、この壁も垂直に近いわ、昨夜の雨でつるつるに滑るわ、掴まる草木が1本も生えていないわで
壁を攀じりながら、この壁マジで怖いわ~、帰りにこの壁下りるのイヤだな~、俺この壁で落ちて死ぬのか~
俺生きて帰れないかもな~、なんて本気で恐怖を感じていたら実は寅さんも同じように恐怖を感じていたことを後で知らされた。
恐怖の高巻を何とかやり過ごして進んでいくと、見えたぞ~ナイアガラの滝だ~!
左から黒部本流が、右から赤木沢が出合う正に息を飲むようなこの風景は僕にとっての憧れの地でもある訳で
67歳にしてようやく巡り会えた聖地のような雰囲気に浸って溜息を漏らしながらうっとりと眺め入っておりました(幸せ~!)
赤木沢の奥を覗いて見ると深いゴルジュの奥に小さめだけど落差のあるナイアガラの滝がもう一つ架かり
更にその奥には人を魅了してやまないエメラルドグリ-ンの神秘的な流れがどこまでも続いているのでありました。
雲行きが怪しくなってきたのでのんびりしてもいられない。
慌ただしくロッドを繋ぎ思いっきりラインを延ばして対岸にフライをプレゼンテ-ションした。
何度目かで激しく水面を割って岩魚が食らいついてきた、久々のロングラインの釣りは実に爽快であった。
寅さんも一尾釣り上げたところで雨が落ちてきた、10センチの増水でも渡渉は難しくなる、急いで雨具を着けて帰路に就いた。
ここからまた3度の高巻が始まる、先行する寅さんに8ミリザイルを渡したのだけれど気が重くて足が進まない。
寅さんも同じ思いだったようで泳ぎも覚悟のうえでヘツルことにして少し上流に戻ってから対岸に渡った。
この対岸で流れに入ってみると気分爽快と感じる程度の水温で、胸まで浸かってヘツリを続けて難なくこの流れを突破できた。
みなさん、赤木沢に行くなら高巻は危険です、平水ならネオプレ-ンのタイツとジャケットを付けてヘツルことをお勧めしておきます。
豪雨の増水が恐ろしくてひたすら下り続けてようやく小屋まで辿り着けました。
今日は寅さんと何度手を握り合ったことでしょうか、赤木沢へ無事往復できたのも一重に寅さんのお蔭でした。
無事に小屋に帰還して飲るビールの旨かったこと
僕はちょっと下流に下って小屋の見える大岩に寝そべってビールを飲りながら昼寝
寅さんは薬師沢に入って最後の釣りを楽しみ15尾を釣り上げました(薬師沢に入る寅さんが小さく見えています)
3連泊目の食事も実に美味しゅうございました。
今日まで僕が釣ったのは正味7時間、寅さんが8時間半で110尾を優に超える釣果に大満足の旅となりました。
(五日目 下山)
名残惜しいけれど下山です。
下山の朝、小屋のスタッフの皆さんと一緒に写真を撮らせて頂きました。
皆さんのスマイルが実に素敵ですが、僕と寅さんはちょいと緊張気味でございます。
今回の旅の目的は勿論たくさんの岩魚に出逢うこと、そして赤木沢を眺めること
そしてミ-ハ-な僕たちのもう一つの願いが薬師沢のマドンナやまとけいこさんのサインをもらうことでした。
念願かなって、やまとけいこさんの著書のカバ-にこんな素敵なイラストとサインを頂くことができてもう思い残すことはありません。
帰路、最終日にしてようやく黒部ブル-の空の下を歩く幸せに浸れました。
これから始まる急登に備えてクロマメとクマイチゴ?でビタミンCを補給しましょう。
延々と登り続けて3時間、ようやく太郎平小屋が見えたときの安堵感といったら、、、、、
さぁここからはもう3時間ちょい下るだけ、ビールも安心してちょっとだけ頂きました。
旅の終わりに太郎平を仰ぎ見て、この5日間の旅を振り返りながらちょっとしんみりしてしまいました。
折立に辿り着いて寅さんと手を握り合って乾杯、冷たいファンタの美味しかったことといったらありゃしませんでした。
体の鈍り切った僕にとって今回の旅はとてもきつい旅ではありましたが
それを遥かに超える喜びと幸せと感動に満ちた旅になりました。
赤木沢に導いてくれた寅さんには感謝の言葉しかみつかりません。
来年はもう少し体を鍛えて山慣れし、高天原まで足を延ばしたいと考えています。
年を重ねて体力が衰えてきたからこそ来年も目指す夢の地があることの有りがたさに心から感謝している次第です。