山と溪を旅して

丹沢の溪でヤマメと遊び、風と戯れて心を解き放つ。林間の溪で料理を造り、お酒に酔いしれてまったり眠る。それが至福の時間。

魅惑の森に遊ぶ

2008-09-28 15:10:29 | フライフィッシング
またここに来てしまった。
まるで見えざる力によって導かれるようにまたここに立っていた。

綺麗に整えられた玄関を入ると上り框や立派な柱が黒光りするほどに磨き上げられている。
女将さんの泊まり客への思いや建物への愛着の深さが伺い知れる。

日釣り券を一枚もらう。
『もう最後だから沢山釣ってね』
僕がヤマトを探して森を彷徨っていることを女将さんはまだ知らない。



林道の峠から雄大な岩峰に見惚れる。
眼下には孤高の砦を守るかのように広大な森が広がる。
あの深い森の中に幾筋もの流れが走り、溪魚が棲み、小動物や熊たちが生かされている。

これからひととき、僕もあの森の住人になるのかと思うと荘厳な気持ちになる。



この森を歩くのはとても心地よい。
この森には人の侵入を拒むような重苦しさがない。

落ち葉が敷き詰められた木漏れ日の中を地形図だけを頼りに彷徨う。
小一時間で最初の沢に出逢った。ここから降り立とうか。



この小さい流れの中にヤマトは必ずいてくれると確信している。



美しい純血のヤマトだった。
このヤマトは黒くない。
方々のヤマトの溪で良く出逢う原種のようなヤマトと言えようか?

ここにこの種のヤマトが生息していたことに嬉しさと誇りを覚えた。
10尾ほどの出逢いに満たされてこの沢を後にした。



獣道のような樹間の踏み跡を辿って進む。



至る所に栃の実や山栗が落ちていた。そばには鹿の足跡がいくつも見える。
秋の山は動物たちへのご馳走をふんだんに振る舞うのだ。

小粒の山栗を20個ほどポケットに詰め込んだ。
今夜は一杯やりながら焼き栗を味わえる。



次に降り立った沢はまるでヤマトを守るかのように至る所に障害物が横たわる。
一体どうやって釣れと言うのか?



ボウ&アロ-で的確にキャストを決めてゆく。
フライに飛びついて来たのは目映いほどの黄金のヤマトだった。

この後も同じような黄金ヤマトが続いた。
この小さな魚体から発せられる神々しさに感動すら覚えてしまう。



溪畔の倒木には沢山のキノコが付いていた。
土地の人が何度も踏み入ったのであろうか、キノコの摘み跡が無数にあった。



この沢は登山地図にも地形図にも載っていなかった。しかもひどい藪沢である。
土地の人と出会ったら、こんな会話になるのだろうか?

『おめえ、そんなとこに頭突っ込んでナニやっとるずら?』
『貴重な黒いダイヤを探しているんですよ』
『そんなとこにダイヤなんて有る訳ねえずら』
『ほらね、これが黒いダイヤなんですよ』



この沢はすべて黒ヤマトだった。
ヤマトイワナは地域や生息する環境によって決して一様ではない。
完全な陸封型イワナの証左なのかもしれない。

今日だけで体色の違う3種類のヤマトと出逢った。
この森はまるで人種の坩堝のように思える。





本谷に下りてビ-ルをグビッとやって人心地ついた。
心地よい疲れと探釣の成果に十分満足していたが日没までにはもう少し時間がある。



リ-ゼンヒュッテからの林道を遡った。
全面舗装の林道をBK沢の支流へと高度を上げる。

標高1300メ-トルの出合いから1450メ-トルの源頭部までの間は可成りの高低差がある。
しかも幾つもの堰堤が築かれ、源頭部に至ると一転して平坦になることが地形図から読み取れる。

標高1460メ-トルの源頭部、白樺林を分け入って沢へと下りた。
そこには拍子抜けするほどの女性的な穏やかな流れがあった。



期待していたヤマトとは一尾も出会えなかった。
幾つもの堰堤で隔絶された源頭部からヤマトが消えたのは何故なのだろうか?

林道に沿っているが故に入溪者の多いこの沢は漁協も積極的にニッコウを放流しているだろうことは想像に難くない。
ニッコウに罪は無いのだ。そう思って眺めるとニッコウイワナも美しい溪魚である。

25センチほどの魚体はまるで小宇宙のように映る。
天空に輝く満天の星が幾千もちりばめられていてうっとりするほど美しい。



この沢の源頭部は林道の大きなカ-ブを横切って更に上流にまで続いていた。
地形図では林道のカ-ブの300メ-トル手前で消えているというのにどういうことだろうか?

地形図は細部まで正確には表されていないと言うこと。
僕が歩いて出会った現実の方が正しいと言うことに確信が持てた瞬間である。
これでこの森の探索が益々おもしろくなりそうな気がする。



寒さを感じて溪から上がった。
1500メ-トルの高地はもうすっかり秋の気配を漂わせている。



今日で竿を仕舞おう。
少しの寂しさはあるが来年への期待の方が遙かに強い。



僕はこの森の探索をライフワ-クにしようかと思い始めている。
この森の底知れない奥深さに触れてみたい、そんな想いが沸々と沸き上がり始めている。

この森は僕の心を捕らえて離さない魅惑に満ちた存在になってしまった。
この秋はロットを持たずにのんびりと徘徊してみたいと思っている。
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『豊かの森』の黒ヤマト

2008-09-21 22:20:48 | フライフィッシング
是非とも訪ねて見たい沢があった。
原生林の中をひっそりと流れる名もない小さな沢である。

道は無い。地形図を頼りに鬱そうとした樹間を縫うようにして進んだ。
帰りに迷わぬようにと木枝に黄色のリボンを結びながらの探索である。

2時間ほどの道のりであろうか、ヤマトの棲む森には熊も棲む。
その不安よりも未知の沢へのワクワクするような期待の方が遙かに強かった。
中間型を併せて一体どれだけのヤマトに出会えるのだろうか。

ヤマトイワナの棲息域は山梨、静岡以西の太平洋に注ぐ河川に限られると言われる。
しかも今では山懐深く踏み入らなければ出会えない稀少種になってしまった。



樹上には小鳥がさえずり、樹間には風のざわめき、そして樹下には姿の違うキノコたちが生を謳歌している。



森の奥深くへと踏み入ると忽然と小さな沢が現れた。
どこかでこんな沢を見たことがある。人の踏み跡もある。地元の人たちの仕事道であろうか?
この沢は地形図に載ってもいないのに、この道はどこから続いているのであろうか?

春には山菜が芽吹き、秋には木の実やキノコであふれるであろうこの森は
ここに住む人たちにとって昔から豊穣をもたらす森だったに違いない。



ひどい藪沢にも出逢った。
もちろん地形図にも載ってはいない。

沢に出逢う都度、ザックをおろしてロッドを継ぎイワナの存在を確かめてみた。
どちらの沢からもヤマトが飛び出してきた。
まるで警戒心がないかのように一投ごとにフライを咥えてくる。
そして、おしなべて体色が黒いのがこの森のヤマトの特徴のように思える。



このイワナたちは太古の昔からここに棲み下流の大きな流れに
下ることもなくひっそりと穏やかに生きてきたのであろうか。
田舎に住む人たちが、愛するふる里を離れられない心境に似ているような気がしてならない。

単調で退屈でひもじい日々にも拘わらず、季節の移ろいを感じ仲間同士の絆を大切にし
よそ者の侵入を拒み続けてきたイワナたちの生き様を垣間見たような気がする。

それでも純血を保ち続けることの如何に難しいことか(これは中間型か?)



2時間半を費やしてようやく目指す沢に辿り着いた。
地形図のとおりこの沢は浅い谷になっている。
思ったほどの水量はないが途中の2本の沢よりはましである。


野生のイワナは警戒心が極めて強い。
少しの足音で岩陰に潜り込み、驚いて小滝を越えようと飛び跳ねるものもいた。

足音を潜め、左肘で熊鈴をザックに押さえつけ音を立てないようにしながら注意深く遡行した。
それでもフライに対しての警戒心は薄く、ポイントごとに黒いヤマトが飛びついてきた。



体側にある橙色の朱点と腹びれに一筋の白線、そしてお腹のオレンジもみな鮮やかである。



徐々に高度が上がるほどに沢は細くなり森は深くなる。
あの木々の奥から今にも熊が飛び出して来そうな、そんな気配を感じる。



この沢の規模では決して大きくはなれない。
でも凜とした気高さは失ってはいない。



方々を旅して思うことがある。
人はどんな土地にも住んでいるし住むことができる。
そんなしたたかさを持ち合わせていると言うこと。
この森のイワナたちに出逢って同じことを感じた。
山深いこんな細流にまで棲みついているのだから。



このイワナの顔を見て思わず僕は心の中で掌を合わせ頭(こうべ)を垂れた。
この森の中でひっそりと、しかし強い意志を持って生きてきた
まるで役の行者のような風貌には畏敬の念を抱いてしまうほどの重みと深みがある。



原生林をさまよい歩いては釣り、また歩いては釣った8時間であった。
中間型を含めてヤマトの血を色濃く残すイワナたちと沢山出会えた。
今日の探釣の結果に満たされて帰路についた。



車に辿り着いてほっとした瞬間、急に空腹感に襲われた。
そうだ、今まで何も口にしていなかったんだ。
それほど夢中にさせてくれた一日であった。



午後3時過ぎ、車を飛ばしてここに来た。
小雨が上がり雲が晴れた見事な岩峰を眺めながら遅い昼食を取った。

肉離れの左足がちょっと痛む。それをかばって歩いた右足は痙攣を起こして痛い。
でもこんなに満たされた時間を持てたのはしばらくぶりのことである。

この豊穣の森に心から感謝したいと思う。
そして悠久の時を経て永遠に残れと強く願う。
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深森沢に生きるヤマト

2008-09-17 23:17:03 | フライフィッシング
次から次へと仕事が湧いて出て、結局3連休も仕事に明け暮れてしまった。
晴れた日の平日釣行、たまには自分へのご褒美も許されるよね。

ならばヤマトに逢いに行こうか。
不運な怪我で、予定していた南アルプスも中央アルプスへの釣行も流れてしまったから。

ここは僕の隠し沢の一つ『深森沢』
釣り人は入っているが、みな僕と同じようにこの沢を大切に思っている筈である。



この沢を荒らさないようにと数年に一度しか入らないが
小さい流れにヤマトイワナはしたたかに生きていてくれた。
鮮やかなオレンジ色のお腹は居着きの証である。



帰りに馴染みの民宿のご主人に写真を見てもらった。
体側にも背中にも白点が全く無い、純粋のヤマトイワナだと太鼓判を押してもらった。
今日釣れた20尾ほどの個体はすべてこれと同じものであった。
太古の昔から連綿として生き続ける日本古来の純粋のヤマト岩魚である。



今では人の手によって放たれたニッコウイワナに住み処を奪われ
或いは血が混ざり合って純粋のヤマトが生息する溪はホンの一部になってしまった。
この深森沢が、いつまでもヤマトイワナの聖域であってくれることを祈りたい。



沢山のヤマトに出逢い、元気であることが確認できた。
F沢に入って遅めの昼食、大満足のビ-ルであった。



このF沢もヤマトが居る。
しかしその殆どが放流されたニッコウとのハイブリッドになってしまった。
30分ほど釣り上がったがビ-ルのお陰で集中力が途切れて釣りにならず。



今シ-ズン中に、もう一度だけ行ってみようか。

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緑陰の溪

2008-09-07 22:54:19 | フライフィッシング
木曜日、午後の時間がポッカリと空いた。
週末は仕事が入っている、3週間ぶりに溪に出てみようか。

中央高速を西に向かい須玉ICで降りた。
良く訪れる溪なのに今年はまだ初めてである。

釣り券を買いにいつもの民宿に立ち寄ると釣りから帰ったご主人が迎えてくれた。
本流は増水だから支流の枝沢が良いと教えてくれた。
朝からアマゴと岩魚を40尾ほど上げていた。

午後2時、木々や草花が小雨に濡れている。



支流の出会いを覗いた。
かなりの増水で肉離れの足では遡行できそうもない。



入ってみたものの、ここを遡行するのもまだ辛かった。



良いポイントが沢山あるのにここもまだ無理だ。



結局、小さな枝沢におちついた。
チビイワナしか居ないが緑陰のこんな溪も大好きである。



こんなポイントはボウ&アロ-で狙う。
ボウキャストにはスロ-アクションのグラスロッドがちょうど良い。



あの落ち込みの左の岩陰から緑陰の住人が出迎えてくれた。



今日は君に会えただけでいいんだ。



足を引きずりながらも来て良かったよ、アリガトネ。



溪畔に腰をおろしコ-ヒ-を入れてタバコをくゆらす。
こんな穏やかな空気の中で一人のんびり暮らしてみるのも良いかな。
そんな風にいつも思わせてくれるのです。



山にはひたひたと秋の気配。
この山も艶やかな衣替えの季節を迎えます。



あとひと月、どんな出会いが待っているのだろうか?
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お坊ちゃまのなれの果て

2008-09-01 23:38:25 | 独り言
安倍坊ちゃまに続いて福ちゃんもってか。
内閣を改造したばかりなのに、やっぱりねって感じですな。

『ボクちゃん、ヤンなっちゃったからもうヤ-メた』
育ちのよろしい坊ちゃまのやりそうなことですな。

私なんぞも幼少の頃からずっと良家で育って、爺やと婆やが何でもしてくれて、
人も羨むような坊ちゃまとして育ったんだけどね(嘘)。
でもね、物事を簡単に投げ出すような男ではありませんぜ。

首相と言えば日本国の経営者でしょ。
我らも小さいながらも経営者の端くれですわな。

ひとたび経営者となったら、うまく行かないから、辛いからと言って
安易に会社を投げ出すことは許されない訳ですわね。
それに比べたら、一国の首相の覚悟なんぞチョロイものですな。
国民からなめられる人種だと言うこと、これでやっと理解出来ましたわ。

これはやっぱり、貧しい家に産んでくれて、頑張ること、耐えること、
諦めないこと、やり遂げることを教えてくれた両親に感謝しなければなりませんな。


しかしまあ政界というものは軽薄な人間の集団なのかいな?

先だっては自民党一派にそそのかされたお姫さまが
民主党離党騒ぎを起こしたと思ったら舌の根も乾かぬうちに撤回だとさ。

信念のかけらも感じませんな。
そもそも決断というものは熟慮に熟慮を重ね不退転の決意をもってするものでしょ。

あのお姫様だって小泉チルドレンと一緒で、社会保険庁問題のお陰で当選したようなもんだからね。
いっそ政治家なんか辞めてまた不倫でもしている方がよほど似合っている訳ですわ。

自民党にすり寄って生きるコバンザメ政党も同じじゃい。
選挙のたびに減税名目で国民に小遣いばらまいてからに。

こんなもの政策でもなんでもないわい。
票欲しさのコザカシイ魂胆が見え見えで片腹痛いぜ。

自民党に議席を売った代償に閣僚ポスト一つとちっぽけな減税?
生き残るためとは言え安売りにも程があるっての。


福ちゃんが辞任する前に、我らが国民を辞任したいっての。
でもね、こればっかりはできない宿命にある訳でね。
アホで未成熟な政治のもとで国民をやり続けなければならない我らの悲哀を
政治家はもう少し理解すべきだよね、、、、、無理か?







コメント (4)
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