山と溪を旅して

丹沢の溪でヤマメと遊び、風と戯れて心を解き放つ。林間の溪で料理を造り、お酒に酔いしれてまったり眠る。それが至福の時間。

早春のセレモニ-

2010-03-14 22:59:26 | 自然薯 山菜
弥生、中旬、なごり雪
早春の溪は思わぬ雪に覆われていた。

今年はいつになく早い解禁を迎えることができた
体は澱のように重いのだが溪に舞う妖精に逢いたくて心ばかりが早る

幸い雪の林道に先行者の足跡はない
早春の溪には独特の澄んだ流れと凜とした空気が張りつめている。





水温はかなり低い、しかも気温が上がれば雪シロが出て水温は更に下がる
ドライフライにとって、この季節の溪が難しい所以である。





ヤマメの反応がないままに溪を遡行する。
ここ秋山川支流『王の入川』の溪畔にはあちこちに野草が群生している。

毎年のことなのだが僕の解禁日は少しだけヤマメと戯れたあとは野草を味わい心ゆくまで溪で眠ることにしている。
カンゾウの若芽を10本ほど摘んだ、真っ白な茎と淡い緑の若葉の何と美しいことか?茹でて酢みそ和えにしよう。






地表に頭を出して日の浅い蕗の薹、茹でて一味と醤油でキンピラにする。
ここにはミツバも群生しているのだが野生の鹿に食べられて1本も見つけられなかった。






ヤマメがフライにアタックするようになったのは午前10時を過ぎてからのこと
12~13センチのあどけない瞳に思わず笑みがこぼれてしまう。



フライは18番のメイフライ、プレゼンテ-ションしたのは右岸の淵尻の浅い淀み
黒い影がゆらゆらとライズしてゆっくりとフライを吸い込んだ、大物の食餌パタ-ンである。

まさか?
そう思った瞬間に大きく弧を描いたセブンハ-フのカ-ボンロッドが震え始めた
落ち込みへと遮二無二突進するヤマメの暴走を制しようと左手をバット部分に添えたそのとき
プスッという鈍い不気味な感触とともに虚しくヤマメのトルクが消え失せた。

咄嗟に折れたロッドを左手で掴んですぐに右手に持ち替え、左手に絡めたラインを大きく2度手繰るとロッドに躍動が蘇った。






短くなったロッドを手にヤマメの動きを追って水際を走り回る様は人が見たら滑稽に写ったことだろう。
それでも数分後、ロッドをへし折った主を手にした僕は悔しいほどの美しさに見惚れてしまった。

少しサビの残る濃い体色、幅広の体高に厳つい顔、鮮明なパ-マ-クに薄い紅を施した艶めかしい肢体
早春のこの時期としては完璧に近い泣き尺に、ロッドをへし折られた無念さも忘れてしばらくの間見入っていた。







あぁ無惨!
かくして今年の解禁は終わりを告げた。





林道に上がり、いつもの田んぼの畔道でヨメナと野蒜(のびる)を少し摘んで神の川へ向った。






神の川への道すがら、雪の中からアザミの若芽を摘む。






50Lのザックを担いで神の川の本流を遡りいつもの場所を目指した。
荒涼としたこの自然に身を置いて初めて心からの開放感を実感することができる。

かつて丹沢の黒部と呼ばれた神の川も今では見る影もないが、
父の世代には尺を優に越える大岩魚を育む豊かな水量を擁していた溪である。

今日はここで一夜を過ごす。
出合いの高台に幕営して野草の下ごしらえに取りかかった。






野草の下ごしらえが終わって振り向くと、、、、
むむむ? 信じられないことが起こっていた。
設営した筈の??、、、テントが??、、、、ない???

人間と言うものは不思議なものなんですね。
あり得ないことに直面すると、、、目の前の現象がにわかには受け入れられなくなるのです。

しばらくは茫然自失ののち頭をフル回転して今までのことを反芻し始めるのです。
ザックに食糧も入れた、酒も入れた、テントも、、、そう、確かにテントも入れたよなあ。
ここに辿り着いて、ザックを降ろして、タバコを一服して、あの高台にテントを張って、そうだよ確かにテントを張ったよなあ。

あっ、やっぱテントがないよ、大変だあ!
ペグダウンしてなかったから強風に吹き飛ばされたんだと、ここで初めて現実を受け入れる訳なんですな。

探し回ってようやく回収したテントは一箇所が破れ、ポ-ルが1本折れておりました。
これが冬山であったなら、もし回収できなかったら多分凍死していたでしょうね。
単独行では一つ一つのことを確実に完結させること、またひとつ教訓が増えてしまいました。

あゝ、それにしても痛い、懐が。







まあ終わったことは仕方がない訳で
気分を変えて美味しく野草を味わいましょうかね。
それにしても自然の造形美とでも言いましょうか、この美しさは正に羨望のア-トです。






カンゾウと野蒜は酢みそ和えで、ヨメナはポン酢、アザミはマヨネ-ズ、野蒜の球根は生で
野草の味、実はクセがなくてとても優しい味がすることはあまり知られていないのですね。








溪で呑むひととき
友とならば語らい、ひとりならば今日一日を振り返り、これから始まる源流行に思いを馳せて

あゝ、やっぱり僕はこんなひとときがないと生きては行けないんだ。





ほろ酔って溪が暗闇に包まれるまで焚火のぬくもりで心ゆくまで眠ることができました。


これで早春の儀式は終わりました。
そしていよいよ心躍るシ-ズンが始まるのです!




コメント (28)
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師匠との別れ

2010-03-09 02:32:25 | 独り言
仕事は順調に運んでいるものの心身はもうヨレヨレの状態です

事務所に籠りっきりで外気に触れる機会もありませんでした
こういう事を巷では『缶詰』と言うのでしょうね

ちょうど1週間ぶりに外出したのは師匠である駒村貞先生のお通夜でした
世の中とは何と皮肉なものなのでしょうか

僕が最初に教えを乞うた師であり最も影響を受けた師のお一人でした
87才の最期まで燃焼し尽くした素晴らしい生涯だったと思います

師匠と最期にお会いしたのは2年前の出版記念パ-ティの席でした




                 



師匠の背中を見ながら僕が学び植え付けられたこと
学び続ける覚悟、誠心誠意、正直、一途、精力的、一生現役
これが師匠の仕事に対する姿勢でした


『おぉ、高崎君、元気でやってるか! 
 経営は生き物だ、精進し続けろよ!』

遺影になった師匠は微笑みながら僕にそう語りかけてくれました


僕は遺影の前で誓いました
『ありがとうございました。
 これからも弟子として恥ずかしくない生き方をして行きます』



人は皆、運命的な出会いを繰り返しています

良かれ悪しかれ自分に影響を与えてくれる人
少しだけ触れあって通り過ぎて行く人

良き師、良き友
運命的な出会いを大切に暖めて行きたいものだとつくづく思います。 


コメント (6)
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改めて気づかされたこと

2010-03-05 02:31:44 | 独り言
分かり合えないこと
心が通じ合えないこと
裏切られること

血を分けた息子との別れ、兄弟のようにしていた仲間との別れを前にしたら
そんなことなど取るに足らない些細なことのように思えてしまいます。

5日前、息子の親しい仲間が星になりました、10年前にも同じことがありました。

ご両親にとっては身を切られるような、生きる意味さえ失ってしまうような虚ろな思いでしょう
10年の間に2人の大切な仲間を失った息子の落胆を見ていると僕もまた心が痛みます。

そして何より、ここに至るまでの彼の辛さと『その時』の心境を思うと言葉がありません。
だから僕は、敢えて彼の選択を認めてあげたいと思っています。

強靱な肉体と剥き出しの闘争心を併せ持った彼らも実はとてもナイ-ブで心優しい男たちでもありました。
人はそれぞれに深い悩みや、やるせない辛さを抱えているものです
そしてそれは友や親にも理解し難く、立ち入ることのできないこともあるものです。

分かったような顔をしてありきたりの言葉で一括りにすることなど決してできるものでもありません。        


               



高校時代の息子はアメフトに明け暮れていました。
卒業してからも仲間との絆は強く、今でも兄弟のような関係が続いています。

陸上競技をやっていた僕は、団体競技をやっている仲間の絆の強さに嫉妬を覚えるほどでした。
同じ釜の飯を喰い、血反吐を吐くほどの厳しいトレ-ニングに耐えてきた仲間ならではのことなんですね。




               



僕は改めて、この世に生を受けてからの息子のアルバムを開いてみました。

小さなあくびをする生まれたばかりの幸せそうな顔
つかまり立ちが出来るようになったころの嬉しそうな表情
よちよちながらも自慢げに立ち歩きができるようになった頃
広場でキャッチボ-ルに興じる溌剌とした少年の動き

どれも皆、あの頃が鮮明に蘇ります

そして、見上げる程に成長した今もなお
この世で一番愛おしいかけがえのない存在であることに変わりはありません。
この悲しい出来事によって、改めてそのことに気づかされた思いです。




               



今もし息子を失ったら
やはり僕も生きる意味を失ってしまうだろうと思います。

だからこそ若者たちには生きていて欲しい

何があろうとも命までは取られやしないさ!


(申し訳ありませんが今回はコメントを入れないで頂ければ幸いです。 まだしばらくはレスできる心境にありませんのでどうぞご理解の程を)

コメント (4)
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