錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『浪花の恋の物語』(その13)

2017-05-18 00:32:42 | 浪花の恋の物語
 錦之助と有馬は、会ってわずか数分で互いに好感を持ち合った。それから二人の対談は、和気あいあいに一時間ほど続いた。
 有馬の用意してきた質問に対し、錦之助は率直に答え、さらに面白い打ち明け話を次から次へと話した。根が真面目でどんな冗談でも真に受けてしまいそうな有馬は、人をかつぐことが大好きな錦之助にとって、恰好の相手であった。
 この対談が掲載された「近代映画」(昭和31年1月号)から、その一部を紹介しよう。ただし、(  )内のト書きは筆者の補足である。

(対談が始まって、なぜか急に話題が酒のことになって)
有馬:お酒、相当召し上がるんですってね。
(錦之助は、そんなこと誰から聞いたんだろうと思いながら、ここは一つ、有馬の気を引いてやろうと、わざと暗い表情をして)
錦之助:ぼくはこう見えてもとても神経質なんですよ。会社にいてイヤなことがあるでしょ。いろいろありますね。
有馬:うん、あるわね。
錦之助:それがたまらなくなります、考えちゃって。京都にいるときなんか一人だから、それで飲んじゃうんですよ。それにお酒は好きだし、飲んでいろんなことを忘れたいし……。
(錦之助が一人寂しくバーの止まり木に腰かけて、グラスを傾けている姿が有馬の頭に浮かぶ。人気スターの孤独――この気持ちがよく分かる有馬、つい同情的になって)
有馬:ナニ酒?
錦之助:ちょっと泣きが入るんですよ。
有馬:酔うと、からむの?
錦之助:それもありますよ。
(有馬、親身になって心配している様子。錦之助、ここで男っぽいところも誇示しておこうと思い)
錦之助:道を歩いているでしょ。「なんだ、錦之助か」と言われても、普段は平気なんですよ。それが酒を飲んでいると、「このヤロー!」なんて言って、つっかかっちゃう。この間もちょっとやっちゃったんだけど……。
(錦之助、ゲンコツを握り締める。有馬、それを見て)
有馬:喧嘩っぱやいほうね。そんな感じだわ。
(錦之助、ボクシングでパンチを繰り出す真似をして)
錦之助:喧嘩はぼくに任してください!
(有馬、のけぞる。二人とも大笑いする)
有馬:ウワー、うっかりからめないじゃない!
(錦之助、下腹部に手を当て)
錦之助:まだ、こんなところにあざが残ってるんだけど……。
有馬:まあ殴られたの?
錦之助:ちょっとやっちゃいましてね。バーで飲んでいたんですよ。車でバックするのに三人後ろにいてどいてくれない。わざとどかないんだな。それから降りていって、「なんだ!」というわけです。
有馬:あらっ!
錦之助:「このヤロー!」と言うので、殴ったり、殴られたりしましたね。おまわりさんが来てつかまっちゃったんだけど……。
(二人、大笑いする)

 話を聞きながら有馬が目を丸くして驚いたり、腹をかかえて笑うので、錦之助は余計調子が上がって、持ち前の演技力とエンターテイナーぶりを発揮したのである。(つづく)




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