ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート サイモン・シン著 青木薫訳 「フェルマーの最終定理」 (新潮文庫2006年6月)

2019年01月21日 | 書評
楕円モジュラー複素関数の、クライン関数

17世紀フェルマーによって提示された数学界最大の難問 第9回

5) 背理法 谷山・志村予測(その1)

ここでフェルマーの最終定理の証明にカギを握ることになる日本人数学者、東京大学の谷山豊、志村五郎の業績(楕円方程式のモジュラー型式)について述べておかなければならない。谷山は127年の生まれ、志村はその2年下であった。この二人が数学史の流れを変えるパートナーシップを組むのである。1954年に初めてであった頃大学の数学科は立ち直っていなかった。だから自分たちで勉強をし、「モジュラー形式」のセミナーを開いた。数論研究者のマルティン・アイヒラ―は数学の基礎演算を、加法、減法、乗法、除法、モジュラー形式だと述べた。数学的対象に何らかの変換を施しても全く変化がない性質を対称性と呼ぶたとえば正方形は回転対称性、鏡面対称性、併進対称性を持つことは容易に理解できる。1970年イギリスの物理学者ベンローズは二つの複雑な形状を持つタイルを考案し、無限の平面に敷き詰めることができることを示した。また1984年アルミとマンガンの合金の準結晶がベンローズのタイル張りと同じ構造を持つことが分かった。モジュラー形式は無限の対称性を持つ。谷山と志村の研究したモジュラー形式は、併進、切り替え、交換、鏡映、回転に対して高い対称性を持つ。しかしモジュラー形式は抽象性の高い、二つの複素軸で定義される。モジュラー形式はこの複素空間の上半分に存在し、この空間が4次元(x1,x2,y1,y2)だということである。この4次元を空間を「双曲線空間」という.。双曲線空間に存在するモジュラー形式には、いろいろのものがあるがすべては同じ構成要素からなる。その構成要素の数によってモジュラー形式のつがいが生み出される。これをM系列、すなわちモジュラー系列で表される。モジュラー形式という領域は数学の中でも他の領域とのつながりが極めて弱い。モジュラー形式と楕円方程式は恐ろしくかけ離れた世界であったし、誰も少なくとも関連性があるとは考えなかった。ところが谷村と志村は楕円方程式とモジュラー形式とは実質的に同じではないかと言いだして数学界に衝撃を与えた。1955年日光で行われた数学国際シンポジウムにおいて谷山は、どの楕円方程式も何らかの方法で保型形式と関係づけられるのではないかという提議であった。谷山はドイリングやアイヒラ―ラの研究を調べることによって、2,3の楕円方程式のE系列は保型形式のM系列に対応していること発見した。この発見は直ちにすべての楕円方程式に関連するとは言い難かった。谷村は楕円方程式は皆モジュラー形式とつながっていると提案したのである。電磁気学における、アインシュタインの特殊相対性理論を生んだ電界と磁界の関係と似ている。ところが谷山は31才の1958年結婚をまじかにして自殺した。理論の完成を待たず惜しむべき日本の天才数学者を失った。はじめこの予想は「谷山・志村予想」と呼ばれた。谷山・志村の予想を西洋に紹介したのは20世紀数論の祖アンドレ・ヴェイユで「谷山・ヴェイユ予想」、或は「ヴェイユ予想」と呼ばれるようになった。谷山・志村予想は、「すべての有理数体上に定義された楕円曲線はモジュラーであろう」という数学の予想で後に証明されて定理となったので、モジュラー性定理またはモジュラリティ定理 と呼ばれることもある。

(つづく)



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