ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ホーキング著 佐藤勝彦訳 「ホーキング、未来を語る」 (ソフトバンク文庫2006年7月)

2017年01月17日 | 書評
統一物理理論の展開と宇宙の未来を語る 第6回

3) クルミの殻の中の宇宙 (その2)

スティーヴン・ワインバーグ「宇宙創成はじめの3分間」に書かれているように、ビッグバンと特異点からはじまって、10^-43秒で物質と反物質が同じ量だけ存在し物質がわずかに多かった状態で、10^-35秒ではクオークと反クオークが存在する状態、10^-10秒ではハドロンとレプトン期にはいり、陽子、中性子、中間子、バリオンを構成しその中に閉じ込められた、1秒では陽子と中性子は結合して水素、ヘリウム、リチウムおよび重水素の原子核となった、3分で物質と電磁波は結合し、宇宙で最初の安定した原子核が出来上がった、30万年で物質と放射が切り離され、宇宙背景放射に対して透明になる、10億年で物質が集まりクェーサーや星、原始銀河を形成する。星は核融合によってもっと重い原子核を形成した、150億年で銀河が形成され太陽系や惑星ができ、原子は結合して分子となる。分子は複雑化して生命が形成された。宇宙は果たして複数の歴史を持つという考えは、リチャード・ファイマンによって定式化された。いまやアインシュタインの一般相対論とファイマンの宇宙が複数の歴史を持つという考えを結び付けて統一理論を作ることに取り組んでいる。統一理論は宇宙の初期状態(境界条件)を知る必要があります。ジムハートルとホーキングは、宇宙には時空の境界はなかったかもしれないと言い出しました。実時間の歴史と虚時間の歴史が大きく異なっていても構わない。虚時間は空間次元が増えたかのようにふるまい、虚時間の歴史は球やサドルのように曲がった平面かもしれません。この平面が閉曲面であるなら境界条件は必要ないのです。私達が住んでいる宇宙の歴史は極めてまれな、選ばれたものだということを意味している。知的生命体を生む歴史はどのような確率で達するかどうかは問題になりません。M理論では空間は9ないし10の次元を持っています。しかし大きくはほぼ平らになる3次元が主であるように見えます。余次元は小さく巻き上げられているようです。3つの広がった宇宙のみに知的生命体が生まれたとする考えは「人間原理」によります。虚時間での宇宙の歴史が完全に丸い球であれば、実時間でそれに相当する歴史はいつまでも続くインフレーション的に膨張する宇宙です。虚時間の歴史はわずかに両極が押しつぶされた形で、現在の宇宙を説明するのに適しています。1989年に宇宙背景放射探査衛星(COBE)が打ち上げられ、宇宙の温度分布揺らぎを撮影しました。宇宙は皺を持った揺らぎを持っていたことを示しました。この結果領域の膨張は周りよりもだんだん遅くなり、ついには膨張が止まって自分自身の重力で収縮し銀河や星を形成するのです。収縮の先はビッグクランチとなって宇宙の歴史は終わるかもしれません。物質と同様現在の宇宙は「真空エネルギー」に満ちているのです。真空エネルギーの重力効果は、物質の場合と異なり引力ではなく斥力なのです。この真空エネルギーはアインシュタインが加えた宇宙定数と同じ働きをするようです。真空といえども量子論的に考えると揺らぎのエネルギーで満たされ、そのエネルギーは無限大と計算されます。超対称性理論では粒子と反粒子が打ち消し合いますが、現在の宇宙は超対称性ではないと考えられるのでゼロではなく非常にゼロに近いエネルギーである。人間原理で考えると大きな真空エネルギーがある宇宙画は銀河は生まれなかったといえます。今ホーキングらは宇宙の物質量と真空エネルギーを計算しています。マイクロ波背景放射領域と超新星観測および銀河系からの要請条件の3つがオーバーラップするところがあるなら、宇宙の膨張は長い減速期間の後再び加速を始めると考えられます。

(つづく)