ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ホーキング著 林一訳 「ホーキング、宇宙を語る」(ハヤカワ文庫 1995年4月)

2017年01月05日 | 書評
宇宙の始まりと構造を問うービックバンとブラックホールの謎に迫る 第9回

6) ブラックホールー特異点の存在 (その1)

「ブラックホール」という言葉は、1969年にジョン・ホィーラーが言い出したらしい。18世紀中頃には光について波動と粒子説論争があった。1783年イギリスケンブリッジ大学のジョン・ミッチェルは、光が粒子であるならば、十分な質量と密度を持つ星なら光が脱出できないほど強い重力場を持つかもしれないと指摘した。そういう星は我々には見えないが、その重力は感じられる。フランスの科学者ラプラスも同じようなことを言っている。19世紀に入ると光の粒子説は影を潜め、波動説が主流となってこのブラックホール説は忘れ去られた。光がどのようにして重力に影響されるかは、1915年のアインシュタインの一般相対性理論の出現まで議論されることはなかった。ブラックホールを考えるにあたって、星のライフサイクルをおさらいしておこう。星は大量の気体(水素)が重力で凝集し崩壊(核融合してヘリウムになる)し始めるときに形成される。気体が収縮するにつれて衝突する気体は過熱される。熱によって輻射が激しくなり星は輝くのである。気体の圧力(反発力で膨張する)が高まり重力(引力で凝集する)と釣り合って、星は長い間安定する。太陽はあと50億年ほどの燃料を持っているが、いずれ燃え尽きれば収縮する。パウリの排他原理は粒子が非常にまちまちの速度を持つため粒子の間で斥力として働き、星を膨張させる。熱と斥力の合計が重力とバランスする間は星の安定期である。1928年ケンブリッジ大学のインド人チャンドラセカールは排他原理の斥力の限界について考察し、星の密度が十分高くなると、速度が光速以下に制限されている粒子の斥力は重力よりも小さくなり、太陽の1.5倍以上の質量を持つ星は自分自身の重力に抗しきれないと計算した。この質量を「チャンドラセカール限界」と呼んでいる。もし星が「チャンドラセカール限界」以下であれば、収縮は止み「白色矮星」に落ち着く。白色矮星が一定の大きさを保つ力は電子間に働く排他原理の斥力であるとされる。もう一つの最終状態はランダウがいう「中性子星」であるものすごい密度をもつ。破滅的な重力崩壊についてエディントンやアインシュタインらは反対した。星の最終段階について一般相対性理論から説く試みが、1939年ロバート・オッペンハイマーによってなされた。当時の望遠鏡では検出できないという結論であったが、第2次世界大戦中は重力崩壊は忘れられた。1960年代になって天文学的観測は進歩し宇宙論の大局的問題に興味が集中した。星の時空図(時間を縦軸、星の大きさを横軸とする光円錐)では、星がある臨界半径以下に縮むと重力場が極めて強くなり、光がもはや脱出できなくなるほど光円錐を内側に曲げてします。この領域がブラックホールである。その境界は事象地平と呼ばれるが、脱出に失敗した光の経路のことである。
(つづく)