ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ホーキング著 佐藤勝彦訳 「ホーキング、未来を語る」 (ソフトバンク文庫2006年7月)

2017年01月13日 | 書評
統一物理理論の展開と宇宙の未来を語る 第2回

1) 相対論についてー重力効果

この章はアインシュタインの一般相対論のおさらいである。アインシュタインは1879年ドイツに生まれ、家業のためイタリアに移り、1900ねんスイスのチュウリッヒにあるETH連邦工科大学を卒業しましたが、権威を嫌悪する彼の性格から教授に嫌われ大学に残ることができず、何とかスイス特許庁に就職しました。そして1905年記念すべき3つの論文を発表し、世の中に認められることになりました。時間と空間に対する考えを根本的に変えるような革命が始まった。19世紀の終わりごろ物質世界は波動論で説明できると考えられ、空間はエーテルという連続媒体によって満たされているという仮説を信じる科学者が多かった。光は媒体の中を進む波動だとすると、もし光がある定まった速度で伝わるのなら、光と同じ方向で速度を測るとドップラー効果で遅く見えるし、光と反対方向で速度を測ると、早く見えるはずである。1987年マイケルソンとモーリーは互いに直角に交わる二本の光速を正確に測定しました。光はどの方向でも、その場所がどれほど早く移動しようとも同じ速さであることが分かりました。1905年の論文でアインシュタインはエーテルという概念は不要であると指摘し、観測者が静止していても、どんなに早く動いても光の速さは同じであると言いました。変わらないのは光の速度で、ローレンツ変換を行えば空間や時間は変わるのだという特殊相対性理論の誕生です。絶対的な時間というものはないのだと考える必要があります。かわりにすべての観測者はそれぞれの時計を持っていると考えます。これを「双子のパラドックス」といい、光速に近い速度の宇宙船で旅行をする人は、地球上に留まる人に比べて年を取らないというパラドックスのことです。自然の法則は自由に動くすべての観測者に対して同じでなければならないというアインンシュタインの仮説は、相対論の根本原理で相対運動だけが重要であることを示しています。絶対的、普遍的な時間の概念を取り払いました。相対論の非常に重要な点は、質量とエネルギーの関係です。粒子を光速近くまで加速するにはものすごいエネルギ―が必要で、質量とエネルギーはアインシュタインの有名な式 E=mc^2でまとめられました。質量とエネルギーは変換可能なのです。この考えが原子爆弾を生みました。マンハッタン計画によって熱中性子の連鎖反応によるウラン核分裂型原爆が生まれました。これはアインシュタインのせいだいうことにはなりません。科学は「両刃の刃」なのです。相対論は電磁気学の法則には相性がいいのですが、ニュートンの万有引力の法則とは両立できません。重力場は光よりも早く伝わることに疑問を抱いたアインシュタインが重力の問題に取り組みはじめたのは1911年からである。物質が重力の加速度を得て落下することは、丸い地球では成り立たない。そもそも時空の幾何学が平坦ではなく宇宙が曲がっていたらこの加速度と重量の等価性が成立するアインシュタインは考えた。質量とエネルギーが何らかの方法で時空を曲げているのではないかとした。物質は時空の中を真っすぐ直線的に進もうとするが、時空が曲がっているために経路が曲げられるという発想で、物体の軌道が重力つまり万有引力によって曲げられるとしたのです。リーマン空間という数学を使ってこの考えをアインシュタインとグロスマンは1913年に論文に書きました。1915年遂に「アインシュタイン方程式」を見つけました。20世紀最大の科学的成果でした。実はこの考えはドイツの数学者ヒルベルトも同時に発見していたのですが、重力を時空の歪みだとする栄誉はアインシュタインのものになりました。この理論は「一般相対性論」と呼ばれている。紀元前3世紀のユークリッドの「幾何学原論」以来の最大の革命でした。宇宙は物質で満ちており、そのエネルギーが宇宙の時空を曲げているのです。アインシュタインは静的宇宙を理想としていたので、収縮も膨張もしない宇宙のモデルに宇宙項を加えた。ところが1920年代のウイルソン天文台の100インチ望遠鏡によって、宇宙が膨張しており、銀河と銀河の距離は着実に増加していることが発見されました。アインシュタインは後に宇宙項は誤りであったことを認めましたが、最近宇宙定数はあるのではないかという説も出てきました。宇宙はおよそ150億年前にビッグバンと呼ばれる大爆発によって始まったという説をホーキングとベンローズは一般相対論から導きました。「3分で宇宙は創設された」とスティーブン・ワインバーグは述べています。膨張する宇宙は自分自身の重みで収縮を始めます。収縮すると圧力と温度が上昇し収縮に抑制的に働きますが、急激な収縮を避けることができない時には最終的な安定状態となって、時間は終わることを相対論は予測します。しかし太陽の2倍以上の質量を持つ星にとって安定的な最終状態はない、ブラックホールの成るまで収縮続けるとホーキングは予測します。一般相対論がビッグバンで綻びを見せるのは量子論と相対論の相性が悪いせいです。

(つづく)