ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ホーキング著 林一訳 「ホーキング、宇宙を語る」(ハヤカワ文庫 1995年4月)

2017年01月06日 | 書評
宇宙の始まりと構造を問うービックバンとブラックホールの謎に迫る 第10回

6)ブラックホールー特異点の存在 (その2)

1965年から1970年にかけてホーキングとロジャー・ベンローズが行った一連の研究(ホーキングの第Ⅰ期研究 一般相対理論の研究)では、ブラックホールの中には無限大の密度と無限大の時空湾曲率をもつ特異点が存在するはずだということを主張した。特異点はビッグバンと対照的にビッグクランチと呼ばれる。消滅点といってもいい。ベンローズはこれを「宇宙検閲仮説」と呼んだ。運動している重い物体は重力波つまり光速で伝わる空間の湾曲の波を放出すると相対論は予測している。また重量波は光とおなじように放出した物体からエネルギーを運び去る。最後には変化にない定常状態に落ち着くことになる。地球が太陽に螺旋運動で落ち込み定常状態になるということであるが、当面心配する時間ではない。1967年ワーナー・イズレイアルは一般相対論によるとブラックホールは完全な球形でその大きさは質量だけに関係すると説明した。ホーキングらもそれを支持した。急速に運動する物体は放出される重力波のために完全な球形になるのである。1970年ブランドン・カーターは回転ブラックホールが独楽のような対称軸を持つならば、その大きさと形は質量と回転速度だけで決まると予測し、1971年ホーキングがブラックホールに回転対称軸があることを証明した。1973年デ―ヴィッド・ロビンソンはブラックホールの大きさと形はその質量と回転の速さだけで決まることそして元の物体の性質にはかかわりがないことを「無毛定理」と呼んだ。1963年マーティン・シュミットが発見した3c273の非常に遠方の星座が赤方偏移をしてみえることから、宇宙の膨張によって赤方偏移し膨大なエネルギーを放出する。銀河の中心部全体の重力崩壊である。これに似た「準星状天体 クエーサー」はいくつか発見されているが、これをブラックホールと言えるかどうか証拠は難しい。1967年ジョスリン・ベルは電波パルスを規則的に発する天体と発見した。これは回転する中性子星でその磁場が周囲と複雑な相互作用を越して電波パルスを放射する。臨界半径の数倍の大きさを持つ中性子星が初めて発見されたのであるが、さらに小さなブラックホールになり得ると考えてもおかしくはない。光を発しないことがブラックホールの定義だとすると、どうすればブラックホールを検出できるのだろうか。見える星が一つだけあって見えない相手の星の周りを廻っている点体系も観測されている。白鳥座X-1に強いX線源であるものが存在する。見えない天体が白色矮星、中性子星、あるいはブラックホールの可能性がある。質量計算からしてこれがブラックホールの可能性が高い。ホーキングはその確率は95%だと確信している。ブラックホールが存在する証拠は、わが銀河とマゼラン星雲の中にいくつか見つかっている。多数のブラックホールが存在するなら、わが銀河系が今見られるような速さで回転していることを説明できるかもしれない。見える星の質量だけでは説明がつかないからである。太陽の一億倍の質量を持つブラックホールがクエーサーの中心にあると考えられる。銀河の中心に非常に密集した電波源や赤外線源があるからである。チャンドラー限界以下の太陽よりはるかに小さい質量を持つブラックホールも存在する可能性もある。この「軽量ブラックホール」は物質が巨大な圧力で高密度に圧縮された場合にだけ生じる。

(つづく)