ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 松本美和夫著 「構造災ー科学技術社会に潜む危機」 岩波新書

2013年06月08日 | 書評
為政者の国民に対する無責任体制の構造 第4回

1) 構造災とは何か (1)
 本書は安全性工学や信頼性工学、多重防御設計関係の本ではない。科学・技術側から事故を管理することが目的ではない。むしろそれがある見方によれば無力である事が今回の福島第1原発事故で立証されたようなものである。本書は社会学的に事故のヒューマンファクターあるいはソーシャルファクターを考察するリスク社会学(科学社会学)に属する。事故原因が科学・技術と社会の境界(インターフェイス)に存在する社会構造的欠陥(構造災)を問題とする。なぜ最近になって急に話題となるかといえば、科学技術の進展により、装置や構造が複雑で問題の相互依存性が単純でないため、なかなか科学・技術的に事故の本質がつかめないのである。事故の影響が広い範囲と時間にひろがり、規模が大きいため、巨大なシステムほど制御できないことがある事がわかってきたからである。その典型が核兵器競争・原子力発電、ゲノム治療・遺伝子操作、オゾン層破壊・地球環境問題がクローズアップされたことが「構造災」提起の背景にある。1975年に原発の事故確率を計算した「ラスムッセン報告」があるが、きわめてありえない事象として報告された。多重防御の考えは多くのバリアーの事故確率を掛け算して総合リスクを評価するもので、計算上はごく低い値で考慮に価しないし、まして対策をとる必要は無いという安全神話を生んだ。しかしのその4年後の1979年スリーマイル島原発2号炉で事故が発生した。日本では1970年代に始まった原発稼働以来、大事に至らなかった事故は数え切れず発生したし、数多くの事故は隠蔽されてきた。そして初期の原発が寿命を迎える前の2011年3月に、制御不能となった炉心のメルトダウンによる水素爆発というシビアアクシデント(深刻な事故)が発生した。水素爆発の可能性が予知されていなかったとすればそれは「知の失敗」であるが、すでにガルブランセンが1975年"bulletin of atomic sciense"誌に「原子炉材料としてジルコニウムは重大な欠点を有する。摂氏1100度で水と反応を起こすと炉と配管の損傷は食止められない」と発表していた。原子炉工学者らは使用実績からして問題とならないと一蹴したというが、それは通常運転の場合であって、事故の条件を無視するものであった。推進者側からして都合の悪い指摘は無視するという宿根が発揮されている。可能性が指摘されると有り得ないといって事故の根をないことにする。しかし事故は何重ものバリアーをかいくぐって起きるのである。工場での事故例では、事故は安全装置がすべて死んでいたから起きるのであって、安全装置が同じ質のものであれば時期が来れば安全装置は一斉にシャットダウンしているのである。
(つづく)

文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年06月08日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第29回

50) カラーの話
紳士の首を飾るカラーが靴下止めに恋をしてちょっかいを入れますが相手にされません。そしてカラーはアイロンや鋏や櫛に結婚を申し込みましたがどれも失敗です。カラーは高慢でほら吹きだったからです。とどのつまりは梳かれて白い紙になりました。白い紙には良くないことも印刷されて皆に知れてしまいました。カラーはとんだ「伊太公」でした。

51) アマの花
アマの花がきれいに咲いて、今に人の役に立つんだと元気いっぱいでした。それを聞いた生垣の杭は「ブルルン、ブルルン!ぐるぐる回る。楽しい歌もおしまいだ」と皮肉を言っています。アマの一生の変遷を見ましょう。成長したアマは繊維をとるため、裂かれて打たれてさんざんな目にあい、糸車にかけられて美しい大きなリンエルになりました。リンネルは反物になり切られて縫われて、下着が12枚も出来上がりました。下着も古くなるとつきつぶされ、ゆでられこうして白い上等の紙に梳かれました。その上に思想が印刷され1冊の本ができました。最後は紙は残らず焼かれて灰となりました。アマは「楽しい歌はおしまいじゃない、これこそすべての中で一番美しいものだ、だから自分は一番幸せ」といいましたとさ。

52) 不死鳥
アダムとイブのパラダイスの園のバラの花よりに一羽の鳥が生まれました。イブが禁断の美を食べパラダイスを追われた時、焼け落ちたパラダイスの巣にいた鳥がうまれました。これを不死鳥フェニックスといいます。フェニックスはアラビアの零鳥だけでありません。北欧のオーロラの中でもイギリスでもインドでも、フェニックスは輝いています。これは「詩」のことです。
(つづく)