ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 堀坂浩太郎著 「ブラジルー跳躍の軌跡」 岩波新書

2013年06月25日 | 書評
民主化と市場・資源経済によって世界に躍り出たブラジル 第4回

1) 軍政から民主制へ、ブラジル経済の動き(2)
 1999年1月から変動為替相場制に移行したのに伴い、アンカー役を為替から消費者物価上昇率の数値目標「インフレ目標」に変え、年率8%と定め2006年から4.5%に切り替えた。当然金利も低下した。やはりハイパーインフレの恐怖から通貨の安定が最優先課題である。コロル大統領は1990年に1800項目の輸入禁止品目の廃止に踏み切り、市場開放政策に切り替えた。関税引き下げなど貿易自由化に着手し、2011年で平均関税率は14―32%の範囲にある。前期には何度もモラトリアムを繰り返したが、1992年政府と民間銀行で返済繰延べに合意し、債務の証券化が実施された。又国営企業の民営化に着手した。後期のカルドーゾ大統領の時代は(1994-2002年)は引き続き多難な期間で、1994年にはメキシコの通貨危機が、1997年にはアジア通貨危機が、1998年にロシアのルーブル危機となった。2001年からアルゼンチンで政治・経済危機が発生した。1999年にブラジルは変動為替相場制に移行した。結果的にはブラジル経済の市場経済化を一層進めることになった。1ドル=1.2レアルが2002年には1ドル=3.95レアルまで下落した。おりしも世界経済は21世紀に入って長期性長期を迎え、レアル安は輸出産業の飛躍をもたらした。とくにGDPの躍進が著しい中国への輸出が急速に拡大し、2011年では中国輸出比率は全体の17%を占めている。決済に必要な外貨準備高は2011年に3520億ドル(16か月分)となった。こうした中ルーラ大統領の時代(2003―2010年)は、社会底辺の所得引き上げによって、新たな国内消費市場形成に注力した時代であった。ルーラ大統領はマクロ経済の3つの軸である基礎的財政収支の黒字、変動相場制、インフレ目標の堅持に勤めた。こうして為替相場は1ドル=1-2レアルに落ち着いた。社会階層で中間層にあたる「Cクラス」の比重が過半数を超え、国内消費の拡大によって2004年から2008年の間の年平均成長率は4.5%となった。2008年米国投資銀行リーマンブラザーズが破綻した。そして2010年ギリシャの財政破綻が顕在化しユーロ危機を迎えた。世界金融危機直後はブラジル経済成長率もマイナスとなったが、2010年には7.5%に回復し、2011年は2.7%に止まった。それでも失業率は5%台と史上最低レベルにある。経済成長を担った輸出産業は、資源や食糧といった1次産品(コモディティ)であるため、外貨流入は為替高騰をまねき内需や製造業の成長を阻害する。2011年よりルセフ大統領は新産業政策「ブラジル成熟計画」を発表し「競争原理」を強調した。国内産業育成の絶好の機会と捉えている。
(つづく)

文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年06月25日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第46回

91) パンをふんだ娘
 貧しい家の娘で高慢でみえぼうでしたので、靴を汚すまいとしてパンを踏んづけて沼に沈んだ娘の話です。娘の名はインゲル、生まれつき性悪で親を心配させてばかりでした。娘は上品な家に奉公に出ました。その家ではインゲルをかわいがり身なりも良く良くしてくれました。インゲルは美しくなりましたが高慢な心も一層つのりました。インゲルがお里に帰る日、奥様はインゲルに新しい靴と大きなパンをお土産にしました。インゲルは沼のそばの道が水にあふれていましたので、靴を汚さないようにパンを投げ入れて足を置きました。するとパンと一緒に娘は沼の底へ沈み、沼女の魔女に捕まって、地獄の玄関に飾る立像に変えられました。インゲルのために泣いてくれるおかあさんお涙のしずくが立像のインゲルに落ちてきました。パンを踏んで地獄へ落ちた高慢なインゲルのうわさは世の中に広まりました。ご主人夫婦も心配してくれますが、インゲルの心はますます人間を恨むようになりました。インゲルのうわさを聞いた小さい少女は。「かわいそうなインゲル、御免なさいとあやまるといいんいね」とインゲルのために泣いてくれました。これを聞いてインゲルの心は深く反省しました。月日が流れお母さんがなくなるときインゲルに呼びかけました。またご主人夫婦もインゲルに呼びかけました。そしてインゲルのために泣いてくれた少女も老人となって死ぬ間際に、祈りの言葉を聞いたインゲルの心がにわかに解かれて、1羽の小鳥となって人間世界に飛び立ちました。こうしてインゲルは救われたのです。

92) 塔の番人オーレ
 塔に住むオーレは元はといえば学校を出た教師だったようですが、教区助監督のころ監督と靴墨のことで、けちんぼの防水油を使う監督と、艶出し油を使いたいオーレは仲たがいをして教区を離れました。オーレはいつも艶出し油を世間に要求して防水油しかもらえないので、ついに人間嫌いとなり隠者として教会の塔の上に住むようになったのです。しかしかれは人生の記録と自然界の不思議に興味をもって本を読んできました。オーレを訪問して聞いた話を2題お話ししましょう。一つは文士仲間が大晦日の夜に集まって、徹夜で放談会と作品を披露する「アマゲル島への魔王の行進」のことです。2つは元旦に飲み干す6つの杯の話です。第1番は健康の杯、2番目は小鳥の歌の杯、3番目は陽気な若者の杯、4番目は悟性の杯、5番目はカーニバルの杯、6番目は自我の杯で人間と悪魔が混ざり合うのだ。こんな話が童話になるのでしょうか?
(つづく)