ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 柳澤桂子著 「日本人への祈り」  角川春樹事務所

2009年07月14日 | 書評
「神とともに、神なしに生きる」境地が心の成熟という絶対宗教感 第1回

 著者柳澤桂子氏のプロフィールを紹介する。1938年東京生まれ。60年お茶の水女子大学理学部を卒業し、アメリカに留学。分子生物学の勃興期に立ち会う。63年コロンビア大学大学院を修了。慶應義塾大学医学部助手を経て、三菱化成生命科学研究所主任研究員として、ハツカネズミの先天性異常の研究を始める。30代より激しい痛みと全身のしびれを伴う原因不明の病に苦しみ、83年に同研究所を退職。病床で多数の科学エッセーを執筆。99年、「慢性疼痛」の診断で抗鬱薬処方により劇的な効果があった。その後も脳脊髄液減少症、脳梗塞、狭心症などで入退院を繰り返している。本書も自身の体力がないので、編集者の電話インタビュー形式でなった。主な著書に「二重らせんの私」「お母さんが話してくれた生命の歴史」「遺伝子医療への警告」「癒されて生きる」「卵が私になるまで」「われわれはなぜ死ぬのか」「生と死が創るもの」「ふたたびの生」「生命の不思議」、「生きて死ぬ智慧」ほか。

 私はかって柳澤桂子氏の「生きて死ぬ智慧」を読んだ。そこに「般若心経」の「色即是空」の解釈が宇宙物理学として語られていた様に思う。インド仏教では輪廻の論理で桎梏から逃れるため輪廻を断ち切ることで永遠に生きられると説いた。「般若心経」の否定の論理の循環が言語上は同じ言葉の繰り返しとバリエーションとなって単調なリズムを生んでいる。「私も宇宙の塵に過ぎない。集まっては形をなし死んでは飛散する」という物質循環(不滅)の概念は生きている内は、心の安心には役に立つだろう。」と云う思想が述べられていた。人間が死んで分解すれば水と炭酸ガスと多少の無機物が残る。構成元素といっても炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、燐、カルシウム程度である。物質循環論では、これら元素は又別の無機物や生物を生むと説くのである。短歌「生きかわり死にかわりつつわが内に積もる星屑にいのち華やぐ」が著者の生命観である。
(続く)

読書ノート 浜田和幸著 「石油の支配者」 文春新書

2009年07月14日 | 書評
2008年石油価格急騰の仕掛け人は金融資本と産油国である 第7回

1.石油投機マネーの世界 (4)

 アメリカは約53兆ドルという天文学的な累積債務を抱て破綻しないのは、ドルが世界中から流れ込むからだ。キャッシュフローがあれば倒産しないという自転車操業、綱渡りである。だから投機マネーには一切規制しない態度を貫くのだ。世界の原油生産は日産85000000バレルで推移している。ところがWTIの原油先物取引量はその8倍近い量を取引している。ありえない需要を動かす。WTI原油先物市場総額は約1900億ドルで東証株式総額が4兆ドルである事に較べれば大きくはないから、動かしやすいとも言える。原油価格を動かしているのはアメリカの金融戦略である。第1次石油ショックの真相を知る人は少ない。1969年アメリカは深刻な景気後退局面に陥った。ドル売りから金融パニックとなった。1971年ニクソン大統領はドル・金の交換を停止し、1973年ドルの10%切り下げを断行した。ドルの信用が低下して世界の金は欧州と日本へ流れた。1973年10月第4次中東戦争が起きたので、原油価格は4倍に跳ね上がった。このオイルマネーはそっくりアメリカに還流し不動産や株式に吸収された。見ようによっては、アメリカの経済状態を救うために中東戦争が計画され、原油高から上がった金がアメリカに還流する事でアメリカは経済破綻から救われたといえる。この筋書きを書いたのがキッシンジャー国務長官であった。そして原油取引はドルに限ると云うペトロダラーが始まった。第1次石油危機は非産油国の原子力発電への傾斜を強めた。石油のみならずドルからの独立を目指す動きであった。1978年欧州ではEMSという欧州通貨制度へ向けた第1歩が始まった。世界中がアメリカに背を向け始めたのだ。まさに自業自得であろうが、さらに危機感を深めたアメリカは第2次石油危機を作り出した。1978年アメリカ政府のイラン政策が変更され、パーレビ国王に対する支援を打ち切りフランスにいたホメイニ師を呼び戻す事を決定した。これは中東を分断して混乱を常態化する植民地支配の王道である。ホメイニ師は原油削減を宣言し、原油価格は高騰した。このイラン政変で損をしたのがソ連と日本の石油利権である。撤退せざるを得なかった。また原子力発電で脱石油をはかる日本など非産油国をけん制するため、1979年スリーマイルズ島の原発事故を誘発した。9.11事件謀略と同じ手口である。結果としてアメリカは原子力発電から遅れ、いまだに原油に依存する経済システムから逃れられないのである。これも暴力の効果に酔いしれたアメリカは結果として経済が停滞しドルの信用を落とすので自業自得というべきであろう。何回やっても麻薬的効果でしかないことを自覚して正業にもどるべきではないか。1980年代に日本は今の中国のように、実業で世界一になったが、1990年バブル崩壊でアメリカから冷水を浴びせられた。浮かれた日本人と云う定評がたったが、実はこの日本のバブル崩壊を仕組んだのがアメリカであった。円高ドル安でアメリカの不動産投資と企業買収に走らせた。そして湾岸戦争で、第3次石油危機が演出された。イラクをクエートにけしかけたはアメリカ大使であった。アジア市場から日本を追い出すために仕組まれたヘッジファンドによるアジアの通貨危機、アメリカのドル依存から逃げ出そうとする途上国の債務取り立て、ソ連に近かづいて資源開発を進めた日本への報復がアメリカの本音であろう。
(続く)

月並み自作漢詩 「梅雨詩家」

2009年07月14日 | 漢詩・自由詩
連陰如霧雨肥梅     連陰霧の如く 雨梅を肥す

懶出蕭條欝不開     出ずるに懶く蕭條と 欝開かず

屋漏長菌書産蟲     屋漏菌を長じ 書蟲を産じ 

窓紗蒼翠剣生苔     窓紗蒼翠 剣は苔を生ず

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(韻:十灰 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 モーツアルト 「ディヴェルトメント 第10番、第7番」

2009年07月14日 | 音楽
モーツアルト 「ディヴェルトメント 第10番、第7番」
アカデミー室内アンサンブル
DDD 1985 PHILIPS

①「ディヴェルトメント 第10番」 k.247 1776年
②「ディヴェルトメント 第7番」 K.205 1773年
アカデミー室内アンサンブルとはネヴィル・マリナーの率いるロンドンのアカデミー室内管弦楽団を小編成したグループ。楽器編成は弦楽3重奏(チェロの替わりにコントラバスを)にホルン2本とファゴットを加えたいわゆる弦楽6重奏である。第7番はメスマー博士家のために、第10番はロードロン伯爵家のために作った機会音楽である。