つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

熊谷守一展

2019年09月20日 | おススメの展覧会、美術館訪問
ご報告が遅くなってしまいました。
日曜日に静岡県立美術館さんに伺い、熊谷守一展を拝見しました。







名古屋からは新幹線で静岡駅へ、そこからJR東海道線に乗り換え、更にバスかタクシーを利用しますので、伺うのに少し時間がかかってしまいますが、美術館さんの周りには緑が広がり、さぁ「絵を見ましょう!」という気持ちを高めてくれる素敵な環境が魅力的です。

タクシーの運転手さんは、桜の春と欅の紅葉の頃が1番おススメだと教えてくださいました。






エントランスにいくつか美術館所蔵の作品が並んでいました。

この中村岳陵の作品は季節感も動きもあり、面白いと思えました。岳陵は院展から日展に席を移動したと資料が添えられていましたが、「えっ本当?」。。知らないことがまだまだ沢山ある事に気づかされます。


守一についてはまず茄子です。





「うん、うん、茄子の美しさはここですね」と勝手に頷きながらの鑑賞です。
葉、お花、なすびそれぞれの形と余白(背景)とのバランス、洒脱な色遣い、守一様式にかかれば茄子のいのちの本質=美が一瞬に目に届きます。




私は守一の水色が好きなので、この紫陽花を描いた作品を守一様式の今回の1番に選びました。


またいつもお伝えするように、守一自身の内部の「どろどろ」が少し感じられるような気がして裸婦も好きです。





私達は展覧会場では決して並んで歩きません。
大体は私が早く出口に到着しますので、ショップなどで佐橋が来るのを待っていますが、
今回は出口の手前で少し佐橋を待ち、展覧会全体での「今日の1番」を確認してみようと思っていました。

すると、佐橋が「来て来て」と手招きをし、入り口に近いほうに私を連れて行きます。

「これ!今日はこれが一番よかったと思うけど、どう?」と言い出すので
私は笑ってしまい、「私もこれだと思っていたよ」と伝えました。





戦前の作品、守一が守一様式を模索している間の作品です。
金魚が水の中にいます。
この絵を見ている私の気持ちは、おうちで金魚鉢の中の金魚を一人でのぞいている、その気持ちと同じです。


守一という画家の絵のうまさは、若い頃の作品や、肖像画を見るとすぐにわかります。
この後ご紹介いたしますが、翌日伺った東京ステーションギャラリーの劉生展での劉生の肖像画は、どんな人を描いても「みな劉生の肖像画」ですが、守一は肖像画のモデル、その人自身を深く感じていることがわかります。

本来の自分の生命力=地の強さと、感じる力の鋭さ、守一はきっと若い頃には、この相反する自身の力に相当の迷いを感じていたのではないかと思います。そして、貧しさやなんといっても我が子を失うという苦労、経験を経て、とうとうあの守一様式に到達したのだろうと思っています。

佐橋と私は、どうしてもその守一の〝迷い〟を見てみたいと思ってしまうのです。
ですから、守一様式の成立する前の1940年代の作品群に魅力を感じてしまいます。









多分、この頃の作品でしたら、当店でほかの画家の作品と並べても親和性を発揮してくれるでしょう。



「守一様式」の作品は、例えば当店なら、応接室の床の間に一点だけを飾れば、もうこの部屋全体に何も飾らなくてもよくなってしまうだろうと思います。

守一様式の作品の魅力はその芸術性の高さ、作品の強さにあり、その分作品自体の「孤独」がとても深いのですね。簡単にいえば、他を寄せ付けません。孤高の画家守一はいつもひとり。作品もいつもひとりです。

作品を見る私は、守一の筆によってその対象の奥深くに潜む「美」「真理」を覗くことができ、
守一の対象への感動を味わうことができますが、さてそこに生温かい情動が伴うか?というと
守一はなぜがそれを全て断ち切ってしまうような印象を受けるのです。自己の消滅、「無」に近づくために、守一は情動を断ち切ったとも言えるかもしれません。

「わたしは裸婦に顔がないんで。。顔を描かないのは情が移るからで、そりゃ美しい人は美しいと思う。」守一



さて、この情動の問題は梅原龍三郎や安井曾太郎、香月泰男や山口薫、日本画でしたら、横山大観や速水御舟、小林古径や竹内栖鳳。。多くの画家の作品の魅力にもつながって行くことだろうと思います。



今回のこの展覧会は、ご自身のご所蔵作品を出品されていらっしゃるお客様よりご紹介を頂き、ご招待をいただきました。守一の展覧会に伺う度に、自分の眼の成長を確認させていただける気が致します。歳を重ねる度に、小さな額の中に、どんどん深く、広い世界が見えてくるのです。

出かけるのが遅くなってしまい、恐縮に存じますが、この機会をいただきましたお客様に心より
お礼を申し上げます。





同美術館さんの「ロダン館」も素敵です。

23日までとなりますが、もし、お近くにお住いでいらっしゃいましたら、ぜひこの連休中に守一展にお出かけくださいませ。(この後、岡山、久留米でも展覧会がございます)






















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