つれづれ

名古屋市内の画廊・佐橋美術店のブログ

秋に

2019年09月15日 | 日記・エッセイ・コラム
先週は二つ良い事がありました。

一つは、佐橋の母がお正月に腰の圧迫骨折をして以来、毎月お世話になった整形外科さんへの通院を卒業させていただいたことです。

2017年のお正月に父が亡くなり一人になってしまってから、母は足腰の力を失って、よく転んでしまうようになりました。自宅に一人でいて貰うのも不安になり、今も施設にお世話になっていますが、このお正月に自宅に帰宅した際に「いつのまにか骨折」をしてしまったのです。

一時は寝たきりになってしまうのではないかと心配しましたが、リハビリや施設内のお仲間の支えもあり見事復活を果たしました。腰は曲がり、歩行器が無いと歩くこともままなりませんが、それでも母は「自分でしっかり立てている!」息子として嫁として今はそう感じ安心しています。


配偶者を喪うと、残された妻や夫のストレスは最も高まると言われているそうです。

以前講演会に伺った京都大学のカール ベッカーさんのお話はとても印象的でした。

以下インタビュー記事の抜粋です。(関西弁を使われます)




ベッカー:西洋東洋を問わず―東西を問わず、大事な人に死なれてしまうと、一、二年も経たないうちに、いろんな不幸が襲ってきます。例えば事故だの、病気だの、精神異常だの、最悪の場合は鬱や自殺まで起こりやすいんです。
 
品田:  残された方に?
 
ベッカー:  そうです。遺族に、残された方に、これが起こりやすいんです。で、今我々がそれを例えば免疫力の低下とか、精神統一不足で交通事故の原因となったとかという理解もできるんですが、昔の日本人がそれを「祟(たたり)」と言っていたんです。あの世から鬼がやって来て、十分なお供えとか、十分な儀法をやっていない人たちに対して、何か悪いことを起こしてしまう。祟りなどを信じていなくても、実は欧米においても最近日本人の慣習が真似をさせています。どういうふうにか、と言うと、ある病院で本人患者自身が長くないとわかった時点で、毎月のようにパーティーを行います。そのパーティーに、どうせ死ぬんだから何を飲もうが食べようが自由で、持ち寄せの物を飲んだり食べたりして、一緒に泣いたり笑ったり黙り込んだり握手したりして、そして本人がいなくなってからも、同じ仲間や家族を呼び寄せて、毎月数回ほどその儀式を続けます。その慣習がどこからきているかというと、日本の宗派によって呼び名などが違ったりするんですが、例えば初七日、四十九日、初盆、一周忌など定期的に親戚や友人などを集めて、一緒に話し合ったり、笑ったり、泣いたり、亡き故人のことを思い出したりすることによって、心の整理、精神統一ができて、それによって昔でいう「祟(たたり)」―今でいう「免疫低下」や、あるいは「鬱」などを避けられて、日本が上手くできていたんですね。だからその儀式は単なる儀式ではなくて、非常に機能的な意味があったわけでして、お墓やお仏壇などを通じて、ご先祖さまの知恵を借りることが、日本人の知恵の一つであって、また繰り返し集まって、亡くなった人のことを話して納得するまで冥福を祈ることも、それなりの日本の知恵だったのと違いますか。



父を喪った当初の母はひとりでに涙を零したり、今まで見たこともない姿を見せていましたが、2年半を過ごして、今は随分精神的な安定を得てきたと思えます。



先日の通院卒業の日は、敬老の日も近いので、佐橋と3人で母の好物のひつまぶしを食べに行きました。

「うまい!うまい!」(美味しいの母の最上級です)と母はとうとう一人前、お茶碗3杯分のひつまぶしを完食!89歳の食欲にびっくりいたしました。

母は後からこう言ったのです。

「こんなに美味しい物を食べてわし死なんだろうか?死んだらお父さんに会えるかしらん?優しい人だったから、違う彼女が出来ておらんだろうか?」


「お母さん、あんなに喧嘩していたのに、お父さんに会いたいの?それならきっと会えるよ。会って彼女がいたらどうするの?」

「そりゃ、ぶっ倒したるわさ」

「お父さんを?」

「相手の女だわ」


大笑い。

「またひつまぶし食べに来ようね!」

自宅に帰りたい気持ちをグッと抑えながら、今施設で生活をしてくれている母に感謝をする気持ちが生まれ、母と私達に良い距離感が保てる様になってきたようにも思えます。

愛別離苦。

人は悲しいものですが、生き続けるという事だけに、何か価値があるように思えます。

可哀想になったり、我儘に腹を立てたりしながら、母の「ひとり」にこれからも寄り添いたいと思っています。

もう一つのお話はまた後日書かせて頂きます。







コメント
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