村中孝次
・・・憲兵報告・公判状況 1 『 村中孝次 』 の続き
第三回公判狀況
一、日時
五月二日午前九時開廷、午前十時四十五分休憩。
午前十一時十三分再開、直に休憩 ( 村中孝次腹痛 ノ爲 ) 午後一時五分再開、午後一時三十五分休憩。
午後一時五十分再開、直ニ閉廷
二、場所
代々木練兵場仮兵舎内第一號法廷
三、被告人
香田元大尉以下二十三名 ( 反亂參加元將校及元士官候補生 )
四、審理進捗狀況
前回ニ引續キ、村中孝次ニ對スル事實調竝証據調 ( 二月二十六日ノ行動ニツキ )
五、審理内容中重ナル點
1、訊問開始ニ先ダチ、村中ハ次ノ要旨ノ意見ヲ開陳ス
裁判官ハ檢察官ノ陳述セル公訴事實竝ニ豫審ニ於ケル取調ヲ基礎トシテ訊問セラルルモ、
檢察官ノ陳述セル公訴事實ニハ前回迄ニ申述ベタル如ク蹶起ノ目的其ノ他ニ相違ノ點アリ、
又、豫審ニ於ケル取調ハ急ガレタル關係上我々ノ氣持ヲ十分述ブル餘裕ヲ与ヘラレザリシヲ以テ
我々ハ公判廷ニ於テ十分ナル陳述ヲ爲シ度キ考ナレバ、
白紙トナリテ十分陳述ノ餘裕ヲ与ヘラレ度、
殊ニ當軍法會議ニ於テハ辯護人ヲ許サレザルヲ以テ我々ハ自分デ弁護人ノ役目モ果タサネバナラズ、
而モ辯護人ト異リ身體ノ自由ヲ有セザルヲ以テ 辯護ノ資料ヲ得ルコト能ハザル不利ナル立場ニ在リ。
此等ノ點ヲ御諒察ノ上、陳述ノ機會及餘裕ヲ十分ニ与ヘラレ度シ。
( 右ニ對シ判士長ハ、第一回公判ニ於テ檢察官ノ陳述ニ先ダチ述ベタル如ク、
各被告ニ十分陳述セシムル考ナルヲ以テ心配ノ要ナカルベシト論シタリ )
2、陸相官邸ニ到リ陸相ニ面會ヲ求メタル際ノ訊問應答中、次ノ如キ問答アリ
法務官 「 陸相ニ面會シ蹶起ノ趣意竝襲撃ノ狀況ヲ述ベタルトキ、 陸相ハ被告等ニ行動ニ對シ何トモ言ハレザリシヤ 」
「 ソウカ、ソンナ考ヲ持ツテ居タナラ何故早ク言ハナカツタカ 」 ト言ハレマシタガ、
「 オ前等ノ行動ハイケナイ 」 ト云フ様ナコトハ言ハレマセンデシタ。
尚、檢察官ハ我々ガ陸相ニ面會ヲ鞏要シタ様ニ述ベラレマシタガ、我々ハ斷ジテ鞏要シタ覺ハナイ。
其ノコトハ面會ヲ申込ンデカラ一時間半モ黙ツテ待テ居タコトデモ證明サレルト思ヒマス。
3、陸相官邸ニ眞崎大將來リタル際ノ訊問應答中ニ於テモ、
眞崎大將ハ我々ノ行動ニ對シ、惡イト云フ様ナコトハ言ハレマセンデシタ。
ト陳述セリ
4、二十六日夜小藤部隊ニ編入セラレタル狀況ニツキ陳述セル際、次ノ如き陳述ヲ爲シタリ
小藤部隊ニ編入セラレタル後引上ゲ命令ヲ發セラレル様ニ聞イテ居マシタガ、
二十六日夜ニハ遂ニ其ノ命令ハ受ケマセンデシタ。
其ノ命令ヲ出サナカツタ事情ニツイテハ、其ノ翌日山口一太郎大尉カラ聞キマシタガ、
小藤大佐ガ自分ノ考デ出サナカツタモノダソウデス。
我々ハ小藤大佐ニ對シ命令ヲ出サナイ様ニ頼ンダコトモナケレバ、
又、鞏要シタコトモアリマセン。
多分、今引上命令ヲ出シテモ直チニ之ニ從ツテ引揚ゲル様ナコトハ期セラレヌトオ考ヘニナツタモノデセウ。
( 以上 )
憲兵報告・公判状況 3 『 村中孝次、對馬勝雄、渋川善助、磯部浅一 』 に続く
二 ・二六事件秘録 ( 三 ) から
