マリオン・ジマー・ブラッドリー、『異教の女王』『宗主の妃』

 先日触れましたように、年末から読んでいます。
 日かずをかけているけれど、ずっと読んでいるわけではありません。その、現実のために物語から身を引き剥がすのが切なくなる日々です。うっすらとアヴァロンの霧をまとったまま、雑事をしぶしぶ…。そしてまたうきうきと、本の中へ戻っています。
 けれどもとうとう4巻までたどり着き、佳境にさしかかったところで少し記事を書いておこうと思い、こうしてPCの前に座りました。このまま読み終わってしまうのが、だんだん寂しくなってきたことですしね。

 初めて読んだのは高校生の頃ですから、どんなに昔のことか推して知るべし…です。なんてね、奥付によると88~89年に全四巻の初版が発行されている作品です。 

 今回私の手元にありますのは、二ヵ月ほど前に隣町のブックオフで見つけ出し、「ぎゃほ~ん!」と抱きしめてしまいそうだった古本です。そう、かつての私が読んだ本は、いつしか手放してしまったのでした。
 たぶん、ファンタジー系の小説を子供っぽいと感じるようになった時期があったことと、特にこの物語に関しては、当時の私には好きなのか嫌いなのか判然としない印象とがあって、その為に手放してしまったものと思います。の、ですが…。
 大人になり、ずっと時間が経ってから、何度も思い出すのです。とても強烈だった読み応えの記憶と、今の私ならば昔とは違う風に楽しめるのでは…?という思いが頭の片隅にいつまでも残って、いつか再読をしたいとひそかに念じ続けていたのでした。

 遥か遠いある日、手にしたそもそものきっかけはアーサー王物語への関心でした。
 でもこの作品は、妖姫モーガン・ル・フェイの視点から語り直されたもので、作者マリオン・ジマー・ブラッドリーの独特な味付けをほどこされ、従来のものとはまったく違う魅力をもった物語となっている、のだそうです(私は決定版を読んでいないので…)。
 でもちゃんとアーサー王物語の要所は踏まえてあって、有名なエピソードの数々も存分に堪能出来ます。

 こちらが第一巻の、『異教の女王』です。
 この表紙の人物は、〈湖の貴婦人〉のヴィヴィアンでしょうね。

 そしてこちらが第二巻の、『宗主の妃』。
 この人は、アーサーの王妃・グウェンフウィファル。

 モーガン・ル・フェイ(この作品ではモーゲン)だけに限らず登場する女性たちが、王や英雄たちの飾り物としてではなく、自分の考えや個性を持った一人の女性として息を吹き込まれて生き生きと描かれているのは、この作品の大きな魅力です。

 特に今回私は、モーゲンが大好きになりました。従来の物語では確かに悪役かもしれないし、この物語でも最後には、異母弟のアーサー王に敵対することになる魔女かもしれません。でも、誇り高いアヴァロンの巫女としても、本当は人一倍愛情に憧れ続けていた一途な一人の女性としても、好きにならずにいられませんでした。ううむ、初読のときにはそうは感じなかったような気がします…。
 それを言うなら王妃グウェンフウィファルも昔は嫌いだったのに、「本当は切ない女性だったんだなぁ…」なんて、同情的になっていましたわ。運命の恋に落ちた直後に、別の男(て、アーサーですが)との結婚。そして世継ぎが生めない辛さからどんどんキリスト教へのめり込んでいった、抜きん出た美貌と平凡な弱さを持ちながら王妃の座に居続けなければならなかったひと。

 そして、「今の私なら昔とは違う風に楽しめるのでは?」と感じていた理由の一つは、ある意味、自分が昔ほど潔癖症ではない…ということかも知れません。いや、ちょっと違うか…う~ん。
 例えば昔は本を読んでいるときに、作品内における世界と、自分自身が生まれ育った環境との間の線引きが、なかなか出来ていないところがあったような気がします。たとえ平安時代であろうと古代エジプトであろうと特異な事情があろうと、一夫多妻制とか不倫とか近親相姦なんかが出てくる度に、かなり納得のいかない気持ちで嫌悪感を持ちながら読んだりしていたことがありましたしね。 
 どうしても作品内の世界観を、自分のいる側に近寄せてしまうのですね。だからつい安易に「もしも私だったら許せない、これは酷いことだ…!」なんて、自分の身に付けたモラルだけで判断してしまう。その人物たちと自分との間に、どれほどの距離があるのかもよく考えずに。倫理観とか道徳とか、古今東西に唯一絶対のものなんて本当は決してないのに、自分のいる側で決めつけてしまう…。
 いつの間にか、そういう読み方をしなくなったと思います。その方が自由に読めるなぁ…と。 
 ブリテン土着の大らかで野蛮なドルイド教の儀式に〈大いなる婚姻〉というものがあって、女神に仕える巫女が女神の役割をして、その土地の王と文字通り結ばれる(しかも洞窟で)…とか、今回は「のびやかな信仰で、いいじゃ~ん」てな感じでしたけれども、初めて読んだ時は理解不能でしたもの。

 あ、あと、先日某所で「私のおぼろな記憶によれば、アーサー王とランスロットが腐…」ともとれる箇所があったことをチラッと書きましたが、初めて読んだ時はいまいちよくわからなくて読み流していたところで、微妙な描き方がされていました。ふふふ。
 …ではそろそろ、戻るとします。

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