アメリー・ノトン、『幽閉』

 アメリー・ノトンの小説を読むのは二作目。『幽閉』の感想を少しばかり。 

 “しかしあんたには愛の何たるかがわかっていないようだな。愛とは相手をだめにしてしまう一種の病気なんだ。” 79頁

 邪な愛執に満ち満ちた物語。人の美醜に捉われた男の妄執。おぞましく歪んだ独りよがりな愛が、身の毛がよだつ異端美を帯びる。やはり、おぞましいは美しいなのか…と、際どいところにまで連れていかれて足元が覚束なくなった。
 モルト=フロンチエール(“死の境界”の意)という名の淋しい孤島に住む、変わり者の老人オメール・ロンクール。 ヌー病院の看護婦フランソワーズは、その老人が依頼した仕事を引き受け、モルト=フロンチエールの屋敷へとやってくる。そしてそこで、看病をして欲しい相手は老紳士自身ではなく、面倒を見ているみなしごで若い娘のアゼルであると知らされる。アゼルは5年前、爆撃によって両親を失い、ひどい怪我を負っているところをロンクールに拾われたと言う。そしてアゼルの顔を見たフランソワーズは、激しい衝撃を受けるのだった。
 二人の娘はすぐに打ちとけあうが、老人と若い娘の間の奇妙な関係を感じ取り、アゼルの幽閉状態に憤ったフランソワーズは、常に聞き耳を立てているロンクールの裏をかこうと画策する。しかし、老獪な監視者であるロンクールの目を欺くことは困難であった。さらにフランソワーズは、20年前に自殺したアデルという女性の事を知る…。

 アゼルとフランソワーズとロンクールとの3人による、息が詰まりそうな心理劇の行き着く果て。ロンクールを決して責めようとはしないアゼルの言葉、倒錯した愛、彼女を挟んだ老人とフランソワーズとの攻防…。物語の最後まで読んでしまうと、3人が3様の怪物に見えてくる。
 ラストの仕掛けにこめられた皮肉は、とても面白いと思った。あえて並べて提示することによって、物語の毒がより効きやすくなる。おぞましくて、よい。 

 アゼルとフランソワーズが『パルムの僧院』のクレリアについて議論する件や、『吸血鬼カミーラ』の使われ方も興味深かった。あと、冒頭の一文を読み返してにやり…。

コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (ましろ)
2011-09-20 20:31:52
りなっこさん、こんばんは。
とうとう読まれたのですねー!
読み終えて5年経ちますが、この物語のおぞましさ、
息苦しさ、いまだに余韻として残っています。
でも冒頭を忘れてしまったので、
一緒ににやりとできぬのがもどかしいです。
ぜひ『愛執』も読んで感想聞かせてくださいませ。
 
 
 
Unknown (りなっこ)
2011-09-24 15:18:04
あ、ましろさんだ~♪
はい、とうとう読みましたよ。この話も病んでいるなぁ…と思いながら(ふふっ)。
ましろさんが読まれたのは5年も前でしたか。

冒頭はアゼルの日記で、
“この島に住むからには何かしら隠しごとがあるはずだ。あの老人にもきっと秘密があるのだ。だとしてもそれがいったい何なのかさっぱりわからない。”…と始まります。
君だよ、まさに君のこと!…って、突っ込みたくなりましたのよ(笑)。 
 
 
 
Unknown (ましろ)
2011-09-29 20:31:34
反応遅くてすみません!

おおお冒頭、そんなふうにはじまるのですね。
教えてくださりありがとうございます。
機会を見つけて再読してみたくなりました。
うずうずして手元にある『午後四時の男』を最近再読したので、
すっかりアメリーモードだったりします。
新刊待ち遠しいですよね。
 
 
 
Unknown (りなっこ)
2011-09-30 06:44:05
この話、真相を知っていて読むと違う味わいがありそうですねぇ。
そしてそう言えば私、『午後四時の男』も気になっているのでしたわ。面白そう~。
新刊も待ち遠しいですし、もう一冊くらい読んでおこうか…と思案中です^^
 
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