ドリス・レッシング、『破壊者ベンの誕生』

 先日、近所の本やさんでこの本を見かけて、この表紙には見覚えがあるぞ…と、手に取っていました。そしてそこには、“祝!ノーベル文学賞受賞”の文字と、著者近影が。そうか、この作家の作品だったのか…(疎いな)。去年、ノーベル文学賞の話題で知り、いつか読んでみたいと思っていたのにころりと忘れていました。ま、結局こうやって出会えたからいっか…。

 『破壊者ベンの誕生』、ドリス・レッシングを読みました。
 

 な、なるほど黙示録か…。
 一体全体これはどういった寓話なの…?何か教訓はあるの…?と、途方に暮れそうになりながら読んでいました。いや、話そのものは面白かったです。荒々しい理不尽な力を持つ、まっ黒な童話のようでもありました。

 まず登場するのは、若きハリエットとデイヴィッドの二人です。ここで個人的に言わせてもらうと、“人の幸せは明るく賑やかな家庭を築くこと、これっきゃない!目指せ大家族!”的なこの二人、自分のそばにいたらその独善ぶりはかなりうざそうなので、お付き合いは遠慮させていただきたい…です。何か…融通のきかない野暮ったい真面目さを感じます。
 実直な二人は実直な恋に落ち、お互いの人生を重ね合わせた青写真を思い描くのですが、これが途中までは、本人たちがご満悦になるほど順調に現実のものとなっていくわけです。 

 でも。そんな順風満帆がいつまでも続くはずはなく。
 何だかそもそも、父親の援助を受けて分不相応な大きな家を手に入れておいて、あなたたちって無計画…?と呆れるほどの子作りをしているあたり、あまり同情の余地がないのですが、五人目に生まれてくる三男ベンの存在で、その絵に描いたような幸せ家族が、ずんずんと崩壊へ向いつきすすんで行くこととなるのであります。
 この、ベンという子供、母親の胎内にいる段階からすでに怪物のように描かれていて、さらに生まれてくるとまさに怪物そのもの!という、とことん容赦ない筆にも驚かされてしまいました。本当にシュールです。
 そして、そんなベンの異形とともに異様に浮かび上がってくるのが、母親であるハリエット自身の存在が、他の家族や親戚たちから、“怪物を産んだ女=諸悪の根源”のように見なされていく、ということです。これには流石に同性として、酷い…と思いつつ読んでいました。でも、ここからがこの作品の凄いところかも知れないです。ハリエットが、母親としての義務感に真面目過ぎて、愛してもいないベンの所為でだんだん孤立していくところとか、読んでいて何だかうそ寒い気持ちになります。 

 登場人物がまあまあ多かったわりに、その大半が夫婦を中心とした親戚関係で占められているところも、まるで昔の閉塞した村社会の縮図みたいで、読んでいて何となく息苦しかったです。階級社会のイギリスにおいて階級差のある結婚だったことも、皮肉がピリッと効いていましたし。

 それにしても、ベンって何者だったのでしょう…。と、途方に暮れちゃうこと請け合いの一冊です。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 皆川博子さん... 多和田葉子さ... »