サルマン・ルシュディ、『ムーア人の最後のため息』

 兎に角好きそう!と思ったので、読んでみた。『ムーア人の最後のため息』の感想を少しばかり。

 ぴりっと辛いスパイスを求め、人々はインドにやってきた…“男が尻軽女を求めるようにね”――。 

 素晴らしい読み応えだった。カルダモン、クミン、ジンジャー、シナモン…と、暑苦しいほどに匂い立つスパイスの香り、それに包まれるのにこんなに相応しいこの一族っていったい…と、驚き呆れ恐れ入りつつも、芬々たる“胡椒の愛”に咽せながらも、ぐんぐん惹き込まれていってしまうのが快感だった。
 曾祖父フランシスコを始祖として連なるダ・ガマ=ゾゴイビー家の、絶対にまともとは言えないし尋常でもない人たちの凄惨な物語を、人の倍の早さで年老いていく主人公ムーアが語る。曾祖母エピファニアと大伯母カルメンの対立が招いた姻族の争いから始まり、一家は不和の泥沼へと転げ落ちていく。エピファニアの死を見守った、母オローラにかけられた呪いとは…? そして、この家族の物語が主題を与えたと言う、後に画家になったオローラの最も有名な絵画のシリーズ『ムーア人の最後のため息』は何故失われてしまったのか…? などなどなど、まだ導入の辺りからとても思わせ振りなのだが、いよいよムーア自身の話に入ってからもどんどん話は膨らんでいき、絡み縺れ合った糸はそう易々とは解けない…のであった。
 熱い飢えと狂気の欲情、胡椒の愛、弱い肺、芸術の誘惑、権力と金…をルーツに持つ一族。どろどろと連なっていく血の呪縛。その深い淵を覗き込んだならばきっと、寒々とした孤独や底知れない暗黒も隠されている。それが愛のためであろうと憎しみのためであろうと、悉く極端な方にばかり向かって行ってしまう彼らなのに、劇烈であり卑劣でもある彼らなのに、その姿からどうにも目が離せなかった。そんな風にしか生きられなかったのか…と思うと、それが哀しくもありながら、愛おしくも思えて。


 思いがけず意外な局面で日本人女性(その名もなんと、アオイ・ウエ)が出てくるので吃驚していたら、この人がムーアに向かって言った台詞がこれまた何とも日本人らしい言葉だったので、感心してしまった。“和”を大切にする人たちなら当然そう思うだろうなぁ…という一言があった。それでも私は、彼らの物語の凄まじさにこそ魅了されるが。
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3月4日(金)のつぶやき

07:31 from web
おはようございます。こーしーなう。今朝、スナップエンドウを茹でました。色といい形といい、愛らしい春野菜じゃのう…。あ、味も好きです。
07:56 from web
芬々たる“胡椒の愛”に生きた一族のお話『ムーア人の最後のため息』、大変面白うございました…。てゆか、めっちゃ私の好みだった。絶対にまともとは言えないし尋常でもない人たちが劇烈に生きる、愛と憎しみの年代記もの(て言うの?)って、どうしてこんなに私を惹きつけるのだろう?
08:00 from web
(続き)そしてこういう物語を読むと、「血って何だろう…?」って思ってしまう。やっぱり何かしらの呪縛なのだろうなぁ、血って。
13:34 from 読書メーター
【ムーア人の最後のため息/サルマン・ルシュディ】を読んだ本に追加 http://bit.ly/fGO3dl #bookmeter
14:47 from web (Re: @massirona
@massirona あ、読んでいただきありがとうございます♪ 実はちょっと地味?と思った作品なのですが(笑)、やっぱりよかったなぁ…と思い直しました^^
15:12 from web
この、いちじくチョコが最近のお気に入りなのだけれど、なかなか売っていない。冬季限定だからもう手に入らないかも。今うちにあるのは、ストロベリーだけ。http://bit.ly/hoCbjb
18:52 from web (Re: @massirona
@massirona 語り手たちの淡々とした程よい抑制、よかったなぁ…と私も思います。あくまでも普通の人たちの思い出話だから、作為的なところがなくって。でもちょっとずつ奇妙なのだけれど(笑)。あと、始めのところの、“朗読の合間、彼らは実によく笑っている。”という一文が好きです^^
19:02 from web
“もう一瞬で燃えつきて あとは灰になってもいい わがままだと叱らないで 今は…”(Woman~Wの悲劇より~)、昔から好きな曲。安藤裕子の「大人のまじめなカバーシリーズ」、昨日から何度も聴いている。「君は1000%」とか「春咲小紅」とか、アレンジが好きだわー。きゅん♪
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