鹿島田真希さん、『黄金の猿』

 久しぶりに苦しかった一冊。 
 実際に頁を繰っている最中は、目の前の文章から全く目が離せなかった。 のめり込んだ、と言ってもいいだろう。 だからきっと私は、その間はとても面白く読んでいたのだ。 ややもすれば、興奮混じりに。 ただ、読み終えてからあれこれ反芻していると、胸の辺りがもやもやしてしまっていささか困る。 
 愛に渇いたふりで孤独に耽り、それでも誰かに執着している――。 自身を守る殻に対してのものであろうと他者に対してのものであろうと、こんな風に欺瞞に満ちてそれでいて狂おしい身勝手な執着など、理解出来ない。  

 それでもやっぱり、気になる作家さんである。
『黄金の猿』、鹿島田真希を読みました。

 ここには、5つの作品が収められていた。 その内の3作品が「黄金の猿」三部作となっている。 そして特に「ハネムーン」は、倉橋由美子『暗い旅』へのオマージュとあり、大変に興味深く読んだ。 “黄金の猿”とは、三部作に共通した舞台ともなるバーの名前である。
 特に「ブルーノート」と、三部作の中の「緑色のホテル」が忘れがたい。 思いやり深い男女が向かい合って(しかし、その視線が真実交わることは決してない)、ごくごく優しく真綿でくるむように互いの息の根を止め合うようだったから。

 例えば愛への不信と過信、飽きることと餓えることとの間で自家撞着に陥っているようにしか思えない思惟が、たらたらと徒に垂れ流されていく。 いやむしろ、どこへも流れ着かずに澱んでいくような印象すら受けた。 袋小路のような澱のような。 紡ぎだされていく言葉たちも、まるであらかじめ行き場を失っていたかのようで、呑みこもうとするたびに喉に詰まるのだった。 
 そしてまた女性として、“性”というテーマにかなり囚われているんだな…ということが、痛いほどに伝わってきて息苦しくなるほどだった。 研ぎ澄まされてひりひりとした作風には大いにひき込まれるのだけれど、呑みこみ切れない気持ちの悪さが残るのは如何ともしがたい。 …と言いつつ、反芻のし甲斐があるのだからこれまた困る。 
 苦しかった一冊――なのに、心をかき乱される楽しさがあったことは確か。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )