皆川博子さん、『聖女の島』

 『聖女の島』、皆川博子を読みました。

 “だって、何もかも、元のとおりにしたところから、やり直さなくてはいけませんもの。” 44頁
 
 一目表紙を見てかなりぶっ飛びました(しかもこれは誰…)。物語の舞台となる孤島は、軍艦島がモデルだそうです。
 廃墟の中の迷路のような道には、有刺鉄線をからませて作った通行止めがある。廃墟の中に閉じ込められ、大人たちに管理される少女たちの、狂い咲きを強いられて花開いたような早熟で不吉な美しさ。塩に侵され破壊された廃墟と、蕾をこじ開けられた少女たちという、取りあわせの妙とその美意識にしびれます。
 
 妖しく小昏い閉ざされた世界、しのびよりたたみかけてくる悪夢の幻影。なんて巧みに独特な世界をつくり上げてしまうことか…!と、思わず舌をぐるぐる巻く。そうして謎も、ぐるぐる…。大人対子供の水面下における対立。偽善と欺瞞の象徴のような偽家族の存在も、表面上は従順な少女たちの不気味な団結も、いつの間にかザラリとした不穏な感触を伴って、ピタリと読み手に寄り添い取り込んでしまおうとばかりに迫ってきます。おお。

 そして、衝撃のラストの素晴らしさと言ったら! 読みようによっては凄く怖くて、ぞうっと背筋が冷たくなります。読みようによってはとても哀しくて、やり切れない読後感に陥ってしまいます。しばし双方の間を揺らいでから、その哀しい…の方に傾いてしまった私は、廃墟の崖から突き落とされたような具合でした。そ、そんなぁ…と。
 でもやっぱり、ラストが凄い。もっかい頭に戻って、最初から読み直したくなるくらい。

 前半は園長に請われておとずれた修道女、後半は園長藍子の視点で語られています。タイトルの痛烈さが秀逸。
 (2007.5.23)

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