津原泰水さん、『蘆屋家の崩壊』

  本の中で愛好の士に出会って、うひょっと反応してしまいました。旨い豆腐を食うためならば、どこにでも遠征する二人…とな。
 『蘆屋家の崩壊』、津原泰水を読みました。

 短篇集と言いますか、連作集でした。  
 冒頭からずいずいと引き込まれて(“隧道”だけに)読み進み、一話目の「反曲隧道」をラストまで読んで、しまったホラーだったのか…と少々腰が退けそうになりましたが、やっぱり面白くてそのままずいずい読んでいました。
 所謂ホラーではないのですね。幻想怪奇?ちょっと妖怪? 私には馴染みやすかったですが…。例えば女性が同性として残酷に女を描くのと、男性が異性として残酷に女を描くのとでは、やはり全然違うなぁ…と思い、なかなか興味深かったです。女は女を美化しませんから。 

 いやううむ、面白かった。程よいペダントリーが織り込まれた諧謔混じりな地の文には、時々くすっ…と笑いがこぼれました。とりわけ「猫背の女」の中の“カチカチ山考”なんて、個人的にはその場でバタ足をしてしまいそうなくらい愉快でした。  
 もちろんストーリーも堪能しましたし、伯爵と猿渡のとぼけたコンビぶりも可笑しくて、時間を忘れていました。どの話がお気に入りかな?としばし考えてみましたが、なかなか絞れません。「猫背の女」や 「カルキノス」の嗤い、「埋葬虫」の異様美、「水牛群」の幻想美…。「ケルベロス 」はラストが…何だか怖かったのですけれど。
 
 それにしても、豆腐竹輪とか豆腐羹なんて名前がずらずらと出てくる箇所を読むと、ついつい嬉しくて「私も食べたことある~」とか「私のお薦めは燻製豆腐だよ~」などと一人で呟いていたのでありました。
 (2007.5.24)

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